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日本の障害者雇用政策と米国ADAとの比較―合理的配慮義務と今後の課題

2026年7月施行の障害者雇用促進法改正により、民間企業の法定雇用率は2.7%へ引き上げられ、障害者雇用義務の対象企業も拡大されます。これにより、多くの企業で障害者雇用への対応強化が求められることになります。本記事では、法改正を契機として日本の障害者雇用政策の変遷を振り返るとともに、「合理的配慮」を中心とした現行制度の課題について、米国ADA(障害を持つアメリカ人法)との比較を通じて検討します。

日本の障害者雇用政策と米国ADAとの比較―合理的配慮義務と今後の課題
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PROFILE

2016年東京大学法学部卒業。2018年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年長島・大野・常松法律事務所入所。2025年Harvard Law School (LL.M.)修了。主な取扱分野は、訴訟/紛争解決、ジェネラルコーポレート、M&A、人事労務、スタートアップ/ベンチャー法務など。

2026年施行の障害者雇用促進法改正と法定雇用率引上げ

2026年7月1日(令和8年7月1日)施行の障害者雇用の改正は、主に「法定雇用率の引上げ」が柱です。民間企業の法定雇用率は、これまでの2.5%から2.7%に引き上げられます。あわせて、民間企業で障害者雇用義務が生じる事業主の範囲も広がり、従来の常用労働者40.0人以上から、算定上37.5人以上へ拡大されます。

このため、これまで義務対象外だった規模の企業が新たに対象になったり、すでに義務対象の企業でも必要雇用人数が増えて追加対応が必要になったりする可能性があります。

本記事では、今回の法改正を契機に、今一度、日本の障害者雇用政策について、その歴史を振り返るとともに、今後の課題について、米国法との比較を通して検討します。

日本の障害者雇用政策の転換と課題

日本の障害者雇用の根幹は、障害者雇用促進法に基づく雇用率制度です。1976年に導入されたこの制度は、企業に一定割合の障害者雇用を義務付け、未達成企業には納付金、超過達成企業には助成金を付与する枠組みです。制度導入後、障害者雇用数と実雇用率は年々増加したものの、達成できていない企業が半数近くを占める状況が続いていました。

そして、2016年4月、障害者差別解消法の施行および障害者雇用促進法の改正により、事業主に「合理的配慮の提供義務」が課されました。これにより、日本の障害者雇用政策は、従来の量的拡大から、質的改善へと少しずつ転換してきました。

この転換の背景には障害者権利条約の批准があり、とりわけ「障害の社会モデル」の理念が重要です。社会モデルとは、障害を個人の属性(医療モデル)としてではなく、社会が作り出した環境的・態度的障壁の産物として捉える考え方であり、条約前文もこの立場を明確に採用しています。

ただし、この政策転換は三つの重要な課題を残しています。それは、①合理的配慮を提供すべき障害者の範囲の問題、②合理的配慮の内容・決定手続きの不明確さ、③合理的配慮義務の実効性の欠如、です。

合理的配慮の対象となる障害者の範囲

日本の現状

日本では合理的配慮の対象となる障害者の範囲は、障害者手帳保持者を中心に定義されており、精神障害者(手帳未所持)や発達障害・難病の者も一定の要件のもとで含まれます。

しかし手帳の有無を基準とすること自体、社会モデルではなく医療モデルの発想を引きずっています。また、合理的配慮の対象者と雇用率制度の対象者が一致しないことで、手帳のない障害者を雇用しても雇用率にカウントされないという矛盾が生じ、企業が雇用に消極的になるという問題があります。

ADA(障害を持つアメリカ人法)との比較

アメリカのADA(障害を持つアメリカ人法)における「障害者」の定義は、①主要な生活活動を実質的に制限する身体的・精神的機能障害、②かかる障害の記録、③障害があるとみなされること、の三類型です。

さらに、合理的配慮の対象は「適格個人」(qualified individual)、すなわち合理的配慮の提供の有無を問わず職務の本質的機能を遂行できる者に限定されます。

これにより、障害が職務遂行の「周辺事情」に起因する場合に合理的配慮を提供し、社会的障壁を除去するという社会モデルの理念と整合することになります。

日本への示唆

日本においても、手帳制度に依存した定義を見直し、「職務の本質的機能を合理的配慮の提供により遂行できるか否か」を基準とした新たな認定制度を設けることが有益であると考えます。

また、日本では職種・職務が明確に定義されないメンバーシップ型雇用が一般的ですが、後述のインタラクティブ・プロセス(対話義務)を法制化することで、配転のたびに対話を通じて職務内容を明確化し、この問題に対処することができます。

さらに雇用率制度については、重度障害者など社会モデルのアプローチのみでは対応が困難な者を対象に限定し、合理的配慮の義務と制度的に切り分けることが必要であると考えます。

合理的配慮の内容と決定手続き

日本の現状

厚生労働省のガイドラインには合理的配慮の事例が示されていますが、抽象的な記載にとどまり、個別ケースへの具体的対応指針が不十分です。また配慮内容の決定手続きも明確でなく、企業も労働者も対応に苦慮しています。

ADAとの比較

米国では、EEOC(Equal Employment Opportunity Commission/雇用機会均等委員会)のガイダンスとJAN(Job Accommodation Network)が詳細かつ実践的な情報を提供しています。

とりわけ重要なのが「インタラクティブ・プロセス」です。これは、使用者と障害者が対話を通じて合理的配慮の内容を協議・決定する手続きであり、以下の4段階で構成されます。

  1. 職務の本質的機能の分析
  2. 障害者本人の制約と必要な配慮の確認
  3. 配慮の選択肢の検討・有効性の評価
  4. 本人の希望を踏まえた最適な配慮の選択

多くの裁判所がこのプロセスへの参加をADAの義務として認定しています。

日本への示唆

日本のガイドラインにも対話の必要性は記載されていますが、具体的手続きが明示されておらず、法的義務として位置づけられてもいません。

インタラクティブ・プロセスを法的義務として明文化し、EEOCやJANに倣って具体的事例と手順を充実させることが重要だと考えられます。

また、障害者雇用の経験が乏しい事業主のために、地域障害者職業センター等の専門機関が仲介役を担う仕組みの整備も期待されます。

合理的配慮義務の実効性

日本の現状

日本では合理的配慮義務は行政規制に過ぎず、私法上の効力はないと解されており、障害者が配慮の提供を直接裁判所に請求することはできません。

都道府県労働局長による助言・指導・勧告の制度はありますが、勧告に従わなくてもペナルティがなく、実効性には課題があると指摘されています。紛争調整委員会によるあっせん制度も存在しますが、政府から独立した専門機関ではないという問題があります。

ADAとの比較

米国では障害者は合理的配慮の提供を具体的に請求する権利を有し、拒否された場合は差止救済を求めて訴訟提起できます。また、EEOCは訴訟提起権限を持つ独立の連邦機関として、調査・和解交渉・訴訟という三段階の救済を提供しています。さらに各州の人権委員会(ニューヨーク州・カリフォルニア州等)がローカルレベルでの補完的救済を担っています。

日本への示唆

日本においても以下のような改革が必要であると考えます。

合理的配慮の具体的請求権の法制化

育児・介護休業法が労働者に申請権を明示しているのと同様に、障害者が合理的配慮を使用者に直接請求できる権利を法律上明確に規定し、拒否された場合の司法救済を認めることが考えられます。これにより情報の非対称性の解消や使用者負担の適正化につながることが期待されます。

EEOCに相当する独立機関の設立

現行の紛争処理体制では不十分であり、指導・監督・あっせん・(場合によっては)訴訟提起を担う独立した専門機関の創設が必要であると考えられます。公正取引委員会が一部の事案で検察への刑事告発を行う仕組みを参考に、日本の法体系に適合した形での制度設計が求められます。

公表制度の活用

雇用率未達成企業への公表制度や、男女雇用機会均等法の改正において勧告不遵守企業の公表制度が導入された経緯を踏まえ、合理的配慮義務の不履行に対しても同様の公表制度を設けることが考えられます。

IPO準備企業にも求められる障害者雇用対応

今回の記事では、障害者雇用促進法における直近の改正を契機として、日本の障害者雇用政策の歴史を振り返るとともに、現状の課題について検討しました。

障害者雇用制度は今後も新たな法改正が予測されます。今回の法定雇用率の引き上げもその一環です。特に、IPOを目指す企業においては、法定基準を満たし、法律を遵守することは喫緊の課題となります。

法律事務所ZeLoでは、障害者雇用に関する法令対応をはじめ、合理的配慮の実務運用、社内体制の整備、就業規則・関連規程の見直し、行政対応、労働紛争対応まで、人事労務上の課題に対して一貫した支援を提供しています。

障害者雇用促進法への対応や法定雇用率の引上げへの備え、合理的配慮の運用にお悩みの場合や、将来的な法改正も見据えて適切な対応を検討したい場合は、お気軽にご相談ください。

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