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PIP実施後の退職勧奨の留意点―解雇との違いと企業が確認すべきポイント

近年、業績不良や勤務態度に課題のある従業員への対応として、PIP(Performance Improvement Plan)を導入する企業が増えています。しかし、PIPを実施したからといって、その後の解雇が当然に有効となるわけではありません。実務上は、PIPの運用状況や改善機会の付与、雇用継続の可能性の検討などが重要な論点となります。本記事では、PIP実施後に退職勧奨を検討する場面を中心に、解雇との違いや企業が確認すべき事項、退職勧奨を行う際の留意点について解説します。

PIP実施後の退職勧奨の留意点―解雇との違いと企業が確認すべきポイント
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PROFILE

2007年東京大学法科大学院修了、2009年森・濱田松本法律事務所入所、2011年国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会勤務(出向)、2013年International Labour Organization駐日事務所勤務 (非常勤)(インターン)、2015年Stanford Law School LL.M. 、2015年World Resources Institute、2016年株式会社三菱総合研究所入社、2021年法律事務所ZeLo参画。これまで、人事労務分野を中心とする企業法務全般、環境エネルギー・サステナビリティ分野や先端的な科学技術分野を中心とする法政策上の課題分析調査、パブリックアフェアーズ等に従事。

2006年早稲田大学法学部卒業、2008年中央大学法科大学院卒業、2009年弁護士登録(東京弁護士会所属)。虎ノ門法律経済事務所、原子力規制庁(主に訟務)、岩田合同法律事務所、香港上海銀行などを経て、2025年より法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ジェネラルコーポレート、訴訟/紛争対応、人事労務、景品表示法、不動産、個人情報保護法、金融(銀行・保険等)その他の規制法対応など。国内案件のほか、海外案件(英文契約等)についても、多数対応している。『民事証拠収集(勁草法律実務シリーズ)』等の執筆や訴訟分野の弁護士会活動に積極的に取り組むなど、訴訟分野に強み。

業績不良者への対応とPIP・退職勧奨

期待された業績を十分に上げられない従業員や勤務態度に問題がある従業員への対応は、実務上しばしば問題となります。人員に余裕がない組織では、特定の従業員の業績不振が、事業運営や他の従業員の負担に直結することも少なくありません。

このような場面で、会社が用いる手法の一つに、PIPがあります。PIPとは、一般に「Performance Improvement Plan」の略であり、業績や勤務態度に課題がある従業員に対して、一定期間内に改善すべき事項や期待される水準を示し、改善の機会を与えるための取組みをいいます。

もっとも、「PIPを実施したのだから、その後に解雇しても問題ない」と考えることは、日本の労働法上、適切ではありません。日本法では、解雇が有効とされるためには、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であることが必要です。これを欠く解雇は、権利濫用として無効となります(労働契約法16条)。

PIPを実施したことは、解雇の有効性を判断する際の一事情にはなり得ます。しかし、PIPを実施したという事実だけで、当然に解雇が有効となるわけではありません。また、特定の上司による恣意的で濫用的な人事評価が行われていた場合には、解雇の合理性や相当性の判断に悪影響を与えかねません。

裁判所は、PIPの名称や形式的な実施ではなく、労働者に対して実質的な改善の機会が与えられていたか、目標や指導内容が具体的であったか、会社が改善可能性を真摯に検討していたかを重視します(ブルームバーグ事件・東京地裁平成24年10月5日判決、華為技術日本事件・東京地裁令和6年3月18日判決等)。

なお、PIPをどのように設計・運用すべきかについては、それ自体が実務上重要なテーマで、業種・部門や役職ごとに個別の検討が必要になります。そのため、本記事では、PIPの具体的な進め方には立ち入らず、PIPを実施した後に会社が退職勧奨を検討する場合の留意点を中心に説明します。

解雇と退職勧奨の違い

PIP実施後に十分な改善が見られない場合であっても、会社としては、直ちに解雇を選択するのではなく、退職勧奨を含む対応を検討することがあります。解雇と退職勧奨は、いずれも雇用関係の終了に関わるものですが、法的性質は異なります。

解雇は、使用者による一方的な労働契約の終了です。そのため、労働契約法16条に基づき、客観的合理性と社会的相当性が求められます。解雇が無効と判断された場合、労働契約は終了していなかったことになり、会社は解雇後の未払賃金相当額、いわゆるバックペイの支払義務を負うことになりかねません(労働契約法16条)。

これに対し、退職勧奨は、会社が従業員に対して自発的な退職を促す行為です。従業員がこれに応じ、退職届の提出や退職合意書の締結により退職に合意した場合、労働契約は合意退職として終了します。

ただし、退職勧奨であれば常に安全というわけではありません。退職勧奨は、従業員の自由な意思決定を前提とするものです。長時間の面談、執拗な説得、威圧的な言動、退職しなければ解雇するといった発言などにより、従業員の自由な意思形成を妨げた場合には、違法な退職強要と評価される可能性があります(下関商業高校事件・最高裁昭和55年7月10日判決)。

また、従業員の退職の意思表示が、会社側の強迫によってなされたと評価される場合には、その意思表示が取り消される可能性もあります(民法96条)。

PIP実施後に会社が確認すべき事項

PIP実施後に退職勧奨を検討する場合であっても、会社としては、PIPがどのように実施されたかを慎重に確認する必要があります。

PIPは、解雇を目的として形式的に行うものではなく、従業員に対して業績改善の機会を与えるための取組みです。そのため、PIPが実質的な改善機会として行われていたか、従業員に改善すべき事項が伝えられていたか、一定期間にわたり評価やフィードバックが行われていたかが重要になります。

また、PIPにおける評価やフィードバックが、特定の上司の主観的・一方的な判断に偏っていなかったか、評価の根拠となる事実が客観的に整理されていたかについても確認しておく必要があります。特に、チームの心理的安全性が十分に確保されていない場合には、従業員が評価内容や改善指導に対して十分に意見や弁明を述べられないまま手続が進んでしまうこともあり得るため、会社としては、PIPの過程が公平かつ適切に運用されていたかを確認することが望ましいといえます。

そして、PIPの具体的な目標設定や面談の方法、記録化の在り方については、別途詳細な検討を要します。本記事では詳述しませんが、少なくとも、PIPの実施経緯、会社が伝えた改善事項、本人の対応、会社が提供した支援などについては、後に確認できる形で整理しておくことが望ましいといえます(前掲ブルームバーグ事件、華為技術日本事件等)。

PIP後の雇用継続の可能性の検討

PIPを実施しても十分な改善が見られない場合、会社としては、今後の雇用継続が可能かどうかを検討することになります。

業績不良や能力不足が認められる場合であっても、配置転換、職務内容の変更、役割の見直し、降格等により雇用を継続できる可能性があるかを検討する必要があります。裁判例においても、解雇に先立ち、配置転換や降格等の可能性を検討したかどうかが問題とされることがあります(ノキアソリューションズ&ネットワークス事件・東京地裁平成31年2月27日判決等)。

したがって、会社としては、PIPの結果として改善が不十分であったという点だけでなく、他の職務や役割での継続可能性を検討したこと、そのうえで雇用継続が困難であると判断した理由を整理しておくことが望ましいといえます。そのような検討を経たうえで、雇用継続が難しいと判断される場合には、退職勧奨を行うことが考えられます。

PIP実施退職後に退職勧奨を行う際の留意点

退職勧奨は、会社が従業員に対して退職を提案するものであり、従業員の自由な意思決定を前提とするものです。そのため、会社として退職が望ましいと考える場合であっても、従業員に退職を強制するような形で進めることはできません。

退職勧奨を行う際には、PIPの経緯や業績評価の結果など、会社の判断の基礎となる事情を整理したうえで、冷静かつ慎重に対応する必要があります。

また、退職に関する条件を提示する場合にも、従業員が内容を理解し、検討できる状況を確保することが重要です。特に、退職を拒否している従業員に対して長時間または多数回にわたり説得を続けたり、退職しなければ解雇するなどと告げたりすることは、違法な退職強要と評価され、退職の効力が争われる可能性があります(下関商業高校事件・最高裁昭和55年7月10日判決、民法96条)。

退職条件について合意に至った場合には、後日の紛争を避けるため、合意内容を書面で確認しておくことが望ましいといえます。ただし、退職合意の有効性を確保するためには、従業員が任意に合意したといえる状況を整えておくことが重要です。

なお、退職勧奨の具体的な進め方、面談時の説明内容、提示条件、合意書の作成方法や締結時の留意点は、事案ごとに慎重な検討が必要です。

PIP実施後の企業対応で押さえるべきポイント

PIPを実施したことは、業績不良者や勤務態度不良者への対応において重要な事情の一つです。しかし、PIPを実施したからといって、その後の解雇が当然に有効となるわけではありません。

会社としては、あくまで改善をPIPの目的とするべきであり、PIPが実質的な改善機会として行われていたか、目標や指導内容が具体的であったか、その過程が記録されているか、配置転換等の可能性を検討したかを確認する必要があります。

そのうえで、雇用継続が困難であると判断される場合には、解雇ではなく、退職勧奨を行うことが考えられます。ただし、退職勧奨も、従業員の自由な意思決定を前提として行われなければなりません。強引な進め方をすれば、退職合意の有効性が争われたり、会社が損害賠償責任を負ったりする可能性があります。

業績不良者や勤務態度不良者への対応は、法的リスクを踏まえて慎重に進める必要があります。実際にPIP、退職勧奨、解雇を検討する場合には、雇用契約書、就業規則、評価資料、指導記録、会社の組織状況等を踏まえ、人事労務分野の実務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

法律事務所ZeLoでは、PIPの設計・運用支援をはじめ、問題社員対応、ハラスメント対応、配置転換、退職勧奨、労働紛争対応まで、人事労務上の課題に対して一貫した支援を提供しています。PIPの導入や運用方法にお悩みの場合や、将来的な紛争リスクを見据えて適切な対応を検討したい場合は、お気軽にご相談ください。

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