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国際仲裁や国際調停に関する法制(改正仲裁法・調停国連条約実施法)の見直し内容を弁護士が解説

国際紛争の解決手段として、日本でも国際仲裁や国際調停が用いられることが増えており、日本政府もこれらの制度を用いやすくするための対応を進めています。本記事では、国際仲裁や国際調停に関する法制の見直し内容として、2023年改正仲裁法と調停国連条約実施法の規定内容について説明します。

国際仲裁や国際調停に関する法制(改正仲裁法・調停国連条約実施法)の見直し内容を弁護士が解説
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PROFILE
野村 諭

弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括

野村 諭

1997年東京大学法学部卒業、2000年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLoに参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、投資案件、スタートアップ支援、ファイナンス、不動産、金融その他の規制法対応など。国内案件のほか、海外案件・英文契約の案件などについても、多数対応している。

外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)

ジョエル グリアー

2017年東京大学法学部在学中、司法試験合格。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年森・濱田松本法律事務所入所。2021年法律事務所ZeLo参画。訴訟紛争対応、知的財産法、AI・IT法務を中心的に取り扱う一方で、コーポレート、人事労務などの分野からもスタートアップの支援を行う。

仲裁法改正の背景

近年、我が国において、国際仲裁・国際調停の活用に向けた以下の動きがありました。

  • 2017年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)において、「国際仲裁の活性化に向けた基盤整備」が政策課題として掲げられました。
  • 2018年5月、日本初の国際仲裁・ADR専用審問施設である「日本国際紛争解決センター(JIDRC大阪)」が、2020年3月には、「日本国際紛争解決センター(JIDRC東京)」が設立されました(詳細は以下の記事をご参照ください)。なお、JIDRC東京は、2023年5月に運用を終了しています。

日本国際紛争解決センター(JIDRC):オンライン仲裁のためのハイテク施設が大阪と東京に

日本国際紛争解決センター(JIDRC):オンライン仲裁のためのハイテク施設が大阪と東京に

  • 2020年5月に外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(外国法事務弁護士法)が改正され、当該改正により、日本の外国法事務弁護士が代理できる国際仲裁事件の範囲が拡大されました(詳細は以下の記事をご参照ください)。

外国法事務弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法の改正 ―仲裁関連規定について―

外国法事務弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法の改正 ―仲裁関連規定について―

  • 2021年、日本商事仲裁協会(JCAA)は、迅速仲裁手続の改正等を含む仲裁規則の改正を行いました(詳細は以下の記事をご参照ください)。

迅速仲裁手続に関する日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁規則の改正

迅速仲裁手続に関する日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁規則の改正

このような潮流の下、2023年4月21日、仲裁法の一部を改正する法律(以下「改正仲裁法」)・調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律(以下「調停国連条約実施法」)が、参議院本会議において全会一致で可決され、成立しました。仲裁法の改正は、同法の制定以来20年ぶりとなります。

仲裁法の改正内容

日本の現行の仲裁法は、2003年、国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)が規定する国際商事仲裁法モデル法(以下「モデル法」)に準拠して制定されました。モデル法は1985年に策定され、その後2006年に一部改正されましたが、日本の仲裁法では当該改正が反映されていませんでした。

2023年4月の改正法では、最新の国際水準に見合った法制度を整備することで、国際仲裁の利用が促進されることが期待されており、主な改正内容は以下の4点です。なお、改正仲裁法の施行日は、公布の日から1年を越えない範囲において政令で定める日とされています。

暫定保全措置の整備

現行の仲裁法においては、仲裁合意に基づき、その対象となる民事上の紛争について審理し、仲裁判断を行う仲裁廷が必要と認める暫定措置や保全措置を講ずることができる旨が規定されているものの、かかる措置について裁判所を通じて強制執行するための制度が整備されていませんでした。

2023年4月の改正法では、仲裁判断があるまでの間に、仲裁廷が発する権利、証拠を保全するための命令(暫定保全措置命令)の類型及び発令要件等に関する規定が整備され、暫定保全措置命令に基づく強制執行等を許す決定(執行等認可決定)の制度が創設されました。

導入された暫定保全措置命令は、以下の5類型に整備されています。

  1. 金銭の支払を目的とする債権について、その支払をするために必要な財産を保全する措置
  2. 財産上の給付を求める権利について、当該給付の目的である財産を保全する措置
  3. 紛争の対象となる物又は権利関係について、損害・危険の発生防止措置及び原状回復措置
  4. 仲裁手続における審理の妨害を禁止する措置
  5. 仲裁手続の審理に必要な証拠を保全する措置

仲裁合意の方式

現行の仲裁法においては、仲裁に服することの前提となる仲裁合意は、書面により行うことが必要とされています。

2023年4月の改正法において、口頭の契約においても、仲裁条項を含む文書又は電磁的記録が引用されているときは、仲裁合意が書面性を満たすものとされました。

仲裁関係事件の手続

現行の仲裁法においては、仲裁関係事件手続の管轄は、当事者が合意により定めた地方裁判所や被申立人の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所等とされていました。

2023年4月の改正法により、仲裁地が日本国内にある場合には、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所にも管轄が認められるようになりました。当該改正は、これらの裁判所による国際仲裁等の専門的な事件処理態勢の構築を促進することを目的としています。

翻訳文の添付の省略

2023年4月の改正法により、仲裁判断に基づき民事執行を裁判所に申し立てる際、一定の要件を満たす場合には、外国語で作成された仲裁判断書等について日本語による翻訳文の添付を省略することが可能になりました。

国際調停に関する新法

改正仲裁法の可決と同時に、国際調停に関する新法である調停国連条約実施法についても可決・成立しました。これは、国際調停によって行われた和解合意の執行等に関する国際的な枠組みであるシンガポール条約(調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約。2020年9月発効。)の締結・批准を見据え、同条約に基づく日本での強制執行を可能とする制度を設けることが目的です。シンガポール条約の具体的な内容については、以下の記事をご参照ください。

「調停による国際的な紛争解決契約に関する国連条約(シンガポール条約)」クロスボーダー紛争解決の新しいツール

「調停による国際的な紛争解決契約に関する国連条約(シンガポール条約)」クロスボーダー紛争解決の新しいツール

2023年10月1日に日本はシンガポール条約への加入手続をとりました。日本は12番目の締結国で、効力発生日は2024年4月1日です。

最新の動向を踏まえた対応を

今回の改正により、国際仲裁及び国際調停が日本でより活用されることが期待されます。

法律事務所ZeLoでは、所属する日本法弁護士や米国資格を有する外国法事務弁護士などにより、チームを編成するほか、緊密に連携する現地法律事務所とも連携し、世界の法域を問わずリーガルサービスを提供しています。実際、国際仲裁・調停、海外訴訟対応などの国際紛争に関する案件を多く取り扱っています。紛争問題についてはとりわけ初期段階での対応も重要です。随時、ご相談も承っていますので、お気軽にお問い合わせください。

本記事は、原文である"Amendments to Japan’s Arbitration Act and New Legislation on International Mediation"の翻訳であり、英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。

本記事の情報は、法的助言を構成するものではなく、そのような助言をする意図もないものであって、一般的な情報提供のみを目的とするものです。読者におかれましては、特定の法的事項に関して助言を得たい場合、弁護士にご連絡をお願い申し上げます。

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