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迅速仲裁手続に関する日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁規則の改正

日本商事仲裁協会(JCAA)は、迅速仲裁手続に関する仲裁規則を改正しました。2021年7月1日以降に申し立てられた仲裁案件では、紛争の総額が3億円以下の場合に適用されます。記事では本改正の重要な点について解説しております。

迅速仲裁手続に関する日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁規則の改正
DISPUTE-RESOLUTION
PROFILE
野村 諭

弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括

野村 諭

1997年東京大学法学部卒業、2000年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLoに参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、投資案件、スタートアップ支援、ファイナンス、不動産、金融その他の規制法対応など。国内案件のほか、海外案件・英文契約の案件などについても、多数対応している。

ジョエル グリアー

外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)

ジョエル グリアー

2000年イェール・ロー・スクール卒業(J.D.)。2001年米国マサチューセッツ州弁護士登録。2007年外国法事務弁護士登録。2019年9月、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画。主な取扱分野はジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争対応、宇宙法など。The Legal 500、Chambers Asia Pacific、Chambers Globalと多くの受賞歴があり、執筆も数多く手掛けている。

はじめに

多くの仲裁機関が、仲裁を迅速に行う手続を用意していることは知られています。これらの迅速仲裁手続は、国際的なビジネスコミュニティの仲裁スピードに対する懸念に応えるべく制度化されたものです。最近、日本商事仲裁協会(JCAA)は、迅速仲裁手続に関する仲裁規則を改正しました(国際商事仲裁協会「仲裁規則の改正及び仲裁人選任規則の制定について(2021年7月1日施行)」(2021年6月10日公表))。

ここで、2021年7月1日以降に申し立てられた仲裁案件に適用される、本改正の重要な点について説明します。

改正前のJCAA迅速仲裁手続

改正前のJCAA仲裁規則では、請求や反訴(または相殺の抗弁)の額が5,000万円以下の場合、当事者が迅速仲裁手続によらないと合意しない限り、迅速仲裁手続が適用されていました。仲裁人1名で構成される仲裁廷は、任命されてから3か月以内に仲裁判断を下すよう合理的な努力をする義務がありました。しかし、仲裁廷はこの期限を延長する権限を有していました。

改正後のJCAA迅速仲裁手続

JCAA仲裁規則の最近の改正により、紛争の総額(請求と反訴・相殺の抗弁を含む)が3億円以下の場合、迅速仲裁手続が適用されるようになりました。この3億円という金額は、従来のルールに比べて大幅に増額されています。この増額の一つの理由は、JCAAの仲裁案件の実態によるもので、JCAAによれば、2011年から2020年までの期間で紛争額が3億円以下の案件が約半数を占めていました。また、もう一つの理由として、シンガポール国際仲裁センターや香港国際仲裁センターなど、アジアの他の仲裁機関がこの金額を増額したことに追随しようとしたことが挙げられます。

また、新しいJCAAの迅速仲裁手続では、紛争の総額に応じて、裁判所が仲裁判断を出すまでの期限が異なります。新しい制度では、仲裁廷が仲裁判断を出すまでの期間は、原則、仲裁廷の任命から6か月ですが、紛争の総額が5,000万円以下の場合には、従来の3か月以内という期限がなお適用されます。さらに、迅速仲裁手続が適用された場合、仲裁廷ではなくJCAAがこの期限を延長するかを決定します。当事者は、従前通り、迅速仲裁手続を利用しない合意をすることができますが、迅速手続を利用することが「明らかに不適切である」ような場合には、JCAAとして、迅速仲裁手続を用いないと決定することができるようになりました。

その他の変更点としては、以下などが挙げられます。

  1. 被申立人が反訴や相殺の抗弁を行うための期間を2週間から4週間に延長したこと
  2. 当事者が、仲裁廷の許可を得て、請求や反訴を修正することを認めたこと
  3. 当事者双方の合意により、単独の仲裁人ではなく3人の仲裁人で構成する仲裁廷とすることを認めたこと

これらの変更は、紛争額の上限の増加と、仲裁判断が出されるまでの期限が延長されたことに対応して行われたものです。仲裁廷が6か月や3か月の期間制限を遵守することを促すために、新しい迅速仲裁手続では、仲裁廷は、任命されてから2週間以内に仲裁の審理予定表を準備することが義務付けられています(従来の規則では「できる限り速やかに」とされていました)。

新しい迅速仲裁手続を利用すべきか

JCAAの迅速仲裁手続は改正されましたが、この手続を利用すべきかどうかは、具体的な案件に即して検討することをお勧めします。一般に、迅速仲裁手続は、事実上や法律上の問題が特に複雑でなく、責任や損害についての仲裁廷の審理の多くの部分が、完全にではないにしても、書面上の記録に基づいて行うことができる案件に適しています。実際、JCAAの新しい迅速仲裁手続でも変更されなかったポイントの1つは、(仲裁廷の決定や、当事者の異なる合意がない限り)手続は「書面のみ」で行われ、証人の証言や尋問といった口頭審理を行わないという原則です。

迅速仲裁手続を利用するかを検討する際には、当事者やその代理人弁護士は、以下などを検討すべきことになります。

  1. 書面の分量はどのくらいか
  2. 重要な事実関係に関する証人は何人いるか
  3. 専門家の証人を必要とする専門的・技術的な論点が含まれているか

一般に、事件が複雑であればあるほど(例えば、大量の書面があり、多数の事実証人がおり、技術的問題について専門家の意見を必要とする場合)、迅速仲裁手続を利用することは適切でなくなります。また、紛争の総額が小さいときは、その紛争は複雑ではないことも多いですが、常にそうとは限りません。

したがって、当事者は、具体的な紛争がJCAAや他の仲裁機関の迅速仲裁手続を利用することが最善かどうかを慎重に検討する必要があります。


本記事は原文記事である“Recent Amendments to the JCAA Expedited Procedures”の翻訳であり、記事及び解釈はすべて原文が優先いたします。

本記事の情報は、法的助言を構成するものではなく、そのような助言をする意図もないものであって、一般的な情報提供のみを目的とするものです。読者におかれましては、特定の法的事項に関して助言を得たい場合、弁護士にご連絡をお願い申し上げます。

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