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外国法事務弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法の改正 ―仲裁関連規定について―

2020年8月29日、「外国弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法」(外国法事務弁護士法)の改正が施行されました。近年、日本政府は国際仲裁の活性化のために様々な対応を行っており、本改正はそのための大きな一歩です。本記事では、本改正の意義にとどまらず、日本の国際仲裁のレベルを高めるためにはどうしていけばよいのかという今後の展望も含めて解説します。

外国法事務弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法の改正 ―仲裁関連規定について―
DISPUTE-RESOLUTION
PROFILE
野村 諭

弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括

野村 諭

1997年東京大学法学部卒業、2000年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLoに参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、投資案件、スタートアップ支援、ファイナンス、不動産、金融その他の規制法対応など。国内案件のほか、海外案件・英文契約の案件などについても、多数対応している。

ジョエル グリアー

外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)

ジョエル グリアー

2000年イェール・ロー・スクール卒業(J.D.)。2001年米国マサチューセッツ州弁護士登録。2007年外国法事務弁護士登録。2019年9月、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画。主な取扱分野はジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争対応、宇宙法など。The Legal 500、Chambers Asia Pacific、Chambers Globalと多くの受賞歴があり、執筆も数多く手掛けている。

最近、日本は国際仲裁に関して知名度を高めるために、いくつかの前向きな措置を講じてきました。

例えば、2019年の日本商事仲裁センターの規則の更新、2018年の大阪における日本国際紛争解決センター(JIDRC)の設立、2020年3月の東京におけるJIDRC事務所の開設などです(https://zelojapan.com/9010を参照)。

直近では、2020年8月29日に「外国弁護士による法律業務の取扱いに関する特別措置法」(外国法事務弁護士法)の改正が施行されました。これには、登録外国法事務弁護士が「国際」仲裁において当事者を代理できる範囲の拡大も含まれています(外国法事務弁護士は、弁護士資格を取得した法域の法律および法務省が指定した特定の法域の法律に関する法律業務を取り扱うことができます)。

今回の改正は、時間がかかったとはいえ、歓迎すべきものです。しかし、今回の改正で「日本における国際仲裁の活性化」[1] を達成するために十分なものか否かは検討を要します。国際仲裁の活性化は、政府主催の委員会が目的として掲げていたもので、後に同委員会の勧告が改正に反映されました。 

仲裁においては、当事者が自ら希望する弁護士を選択できるということが極めて重要です。仲裁の第一人者でありコメンテーターでもあるゲイリー・ボーンが指摘するように、仲裁手続において当事者が代理人を選択する権利は、「根本的に重要なものです。代理人の質と活力によって、当事者の主張や、仲裁手続の結果、当該手続の公平性に関する当事者の認識が大きく左右される可能性があります」[2]

外国法事務弁護士法によれば、登録外国法事務弁護士は、日本の裁判所で依頼者を代理したり、弁護士資格を取得した法域の法律以外の法律について法的助言をしたりすることは原則としてできないとされています。

しかし、外国法事務弁護士法では、登録外国法事務弁護士が「国際仲裁事件」を取り扱うことができるとされています。国際仲裁事件とは、今回の改正前は、「日本国内で行われる民事仲裁事件であって、当事者の全部又は一部が外国の管轄区域(すなわち、日本国外)[3]に住所又は主たる事務所若しくは本店を有する者であるもの」と定義されていました。

この従来の定義によれば、外国法事務弁護士が日本で行われる仲裁に参加することができるのは、当事者の一方または双方が日本企業でない場合に限定されていました。外

国法事務弁護士は、当事者がすべて日本企業である限り、日本での仲裁には関与することはできませんでした。このことは、当事者が外資系企業の関連会社として日本に本拠を置いている場合であっても、また、問題となっている契約の準拠法が日本法でない場合であっても同様でした。

今回の改正により、「国際仲裁事件」の定義が拡大され、国際仲裁事件とは、

①当事者の一方または双方について外国資本の比率が50%を超えている場合
②問題となっている契約の準拠法が日本法ではない場合
③仲裁地が日本ではない場合

の仲裁事件を指すようになっています[4]

③は、外国法事務弁護士の権利に大きな影響を与えることはないと考えられます。

というのも、日本以外を仲裁地とする仲裁は、外国法事務弁護士法の適用を受けず、仲裁手続が仲裁地以外で行われることは稀であるからです(ただし、COVID-19のパンデミックの影響で、遠隔地での審問が増加しているため、この状況は変化しつつあるといえるかもしれません)。

②も大きな意味を持つことはないでしょう。日本の当事者が日本法以外を契約書の準拠法として選択することは、前例がないとはいえないものの、めずらしいことであるからです。日本に関連会社を持つ多国籍企業の数を考えると、①の点は、外国法事務弁護士が日本を拠点とする仲裁に代理人として出頭することに関して、より多くの影響を与える可能性があります。

疑問が残るのは、今回の改正によって、外国法事務弁護士法の見直しを担当した委員会が言うところの「より多くの人が日本の国際仲裁手続を利用する動機付けとすること、および日本の国際仲裁を活性化させること」[5] が達成できるのかという点です。

おそらく、近年日本で行われている他の仲裁促進施策とあいまって達成されていくのでしょう。しかし、委員会自体が、アジアで最も定着して頻繁に利用されている2つの仲裁センターとの競争上の課題に日本が直面していることを認識しているのです。

諸外国の制度を見てみると、、、アジアで国際仲裁申立件数の多いシンガポールや香港において顕著なのですが、仲裁における代理について資格制限が課されていないことがわかります[6]。(太線は筆者)

シンガポールおよび香港では、仲裁における代理人資格に関して国内仲裁と国際仲裁とが区別されることはありません。したがって、シンガポールおよび香港では、当事者は、問題となっている契約の準拠法がシンガポール法であると香港法であるとを問わず、いかなる仲裁においても、シンガポール人弁護士でなく香港人弁護士でもない弁護士を代理人として自由に選択することができます[7]

これとは対照的に、日本においては、今回の外国法事務弁護士法の改正にも反映されているように、仲裁当事者の日本資本比率が50%を超えており、仲裁地が日本であって、契約の準拠法が日本法である場合、代理人資格を決定するという観点からすると、当該仲裁は「国際仲裁事件」とはみなされません。つまり、「国内」仲裁事件ということになります。

シンガポールや香港では、当事者が代理人弁護士を選択する際に、国内仲裁と国際仲裁とが区別されないのに、なぜ日本では国内仲裁と国際仲裁とがなお区別されているのでしょうか。

はっきりしたことは分かりませんが、外国法事務弁護士法の見直しを担当した委員会での議論がヒントにはなります。同委員会によれば、「外国企業は、国際仲裁において、当該外国の法律に詳しい外国法事務弁護士等を代理人として採用することが多い」ため、シンガポールや香港のように代理人資格に制限が少ない仲裁地を好むとのことです[8]

このような議論は、前提として、企業は問題となっている契約の準拠法が何かということを主な判断基準として仲裁の代理人弁護士を選択している、と想定しているように思われます。

ただ、このような想定はおそらく間違っています。その理由として2点だけ指摘します。第一に、ある国の法律に通暁しているということは仲裁弁護士を選択する際の一基準ではありますが、それが主要因ではないということです。

仲裁は、特徴的な紛争解決方法であり、ある点では訴訟に似ていますが、他の点では全く異なります。例えば、訴訟の場合と比べてみても、仲裁弁護士は、仲裁人の選定や仲裁手続のスケジュール作成などといった重要事項において中心的な役割を果たします。

事情に詳しい企業は、このことを理解しており、仲裁弁護士を選択する際には、仲裁に関する知識と経験が決定的な基準となることを知っています。

第二に、紛争解決を専門とする弁護士の間では、訴訟というよりも仲裁に関連性のある格言が存在します。「紛争の勝敗は9割方が事実で決まり、法律の出番は1割しかない」。この格言は、額面通りに受け取ることはできませんが、紛争を取り巻く事実的状況にこそ弁護士が意を用いるべき場合は多いとはいえます。これに比べれば、特定法域の法的原則に払う注意は少なくて済む場合が多いでしょう(契約違反を例に挙げれば、関連する法的原則が法域間で劇的に異なることはないと思われます)。

これは法的原則が重要ではないという意味でしょうか。もちろんそうではありません。法的原則を知って適切に適用する能力は、自己の請求を通したり、相手方の請求に反論したりするために必要です。

とはいえ、いずれかの法域で弁護士資格を取得していれば、このような法的能力を持っているのが通常です。この点は、必ずしも仲裁に関する知識の有無とは関係がないのです。

では、いま論じたところを踏まえますと、今回の改正法はどのように評価するべきでしょうか。述上したように、改正法では、「国内」仲裁、すなわち、

①全仲裁当事者の日本資本比率が50%を超えており、
②仲裁地が日本であって、
③準拠法が日本法である仲裁において、

外国法事務弁護士が当事者を代理することは依然として禁止されています。

このうち③の準拠法が代理人選択に関して最も大事な点であると考えるべきでしょうか。

仮にそうであるとすると、日本としては、なぜシンガポールや香港では、準拠法がシンガポール法や香港法であると思われる仲裁において、シンガポールや香港以外の弁護士資格しかない者を平然と代理人に選任しているのだろうかと疑問に思うかもしれません。

その答えは考え方の違いにあります。つまり、シンガポールや香港では、このような外国法の弁護士は、有能かつ良心的な代理人であり、シンガポールまたは香港の弁護士と連携して現地法に関する法的知見を得るものと考えられています。

現地の弁護士と提携する背景には、仲裁人のうち少なくとも1人はシンガポールまたは香港の法曹資格を有する実務家であるという事情があります。日本の登録外国法事務弁護士についても、これと同様に考えていくべきです。

その際、外国法事務弁護士法上の「国内」仲裁では、日本語が使用されることが予想されますが、仲裁を専門とする外国法事務弁護士で日本語に堪能な弁護士は比較的少ないため、日本の弁護士と連携して、日本法上の論点を分析し、書類検討、および証人尋問その他の証拠収集を行うことも必要になると考えられます。

また、仲裁地が日本である場合、日本の仲裁法の適用を受けることになるという点にも注意が必要です。

同法によれば、一定の要件を満たす場合、日本の裁判所に訴え出ることが可能です。しかし、仲裁法自体は、国際的によく知られたテンプレートである国際商事仲裁に関するUNCITRALモデル法に基づいており、日本と他の160カ国以上が署名している「外国仲裁判断の承認及び執行に関する国連条約」から仲裁判断が執行力を持つために必要な文言を取り入れています。

このように、日本の仲裁法は、実質的に見れば、世界の多くの国内仲裁法と同様に、経験豊富な実務家にとって非常に馴染み深い国際法から派生しています。もちろん、仲裁の当事者が仲裁法に基づいて日本の裁判所に支援を求めなければならない場合には、日本の弁護士が代理人となるでしょう。

このことからも、外国法事務弁護士は日本の弁護士と提携すべきということになります。

最後に、全仲裁当事者に関して日本資本の比率が50%を超えている場合の仲裁について考察します。

この点について、外国法事務弁護士法の見直しを担当した委員会は、企業の意思決定者(および証人)の所在地(海外にいるか日本国内にいるかという点)について検討をしましたが、所在地と代理人選択との関連性は明らかにされていません[9]

仲裁弁護士は、世界中の異なる国籍の意思決定者を常に代理しています。日本語に限らず言語の問題が生じるかもしれませんが、会社の日本資本比率が50%を超えていることを根拠に代理人資格を制限することについて、説得力のある議論はほとんどありません。企業が仲裁弁護士を選定する際には、弁護士のスキル、経験、仲裁案件の取り扱い実績を重視すべきです。

要約しますと、日本が国際仲裁に関して知名度を高め、より多くの仲裁手続を日本国内に誘致しようと努力する中で、外国法事務弁護士の仲裁当事者を代理する権利を拡大するための法改正は、ポジティブな一歩であります。

将来的には、シンガポールや香港の例に倣って、国際仲裁と国内仲裁の区別をなくし、外国法事務弁護士が日本国内の仲裁においてクライアントを代理することができるように、外国法事務弁護士法をさらに改正するなどの追加的な措置をとることが期待されています。


[1] Report of the Review Committee for Representation in International Arbitration, etc. by Registered Foreign Lawyers or Foreign Lawyers (Report), September 25, 2018, p. 2.

[2] G. Born, International Arbitration: Law and Practice (2012), p. 261.

[3] Act on Special Measures concerning the Handling of Legal Services by Foreign Lawyers (Act No. 66 of May 23, 1986), Art. 2(xi).

[4] http://www.moj.go.jp/content/001331477.pdf を参照。以前の記事( https://zelojapan.com/7104 )で説明したように、仲裁「廷」とは、仲裁の法的な場所を意味し、国を指す。(i) 外国仲裁判断の承認および執行可能性に関する条約に基づき仲裁判断が出されたとみなされる国、(ii) その国の仲裁法が仲裁に適用される国、および(iii) その裁判所が仲裁に対する監督権限を有する国を指す。

[5] Report, p. 2.

[6] Born, p. 263; “International arbitration – the use of Hong Kong arbitration for international commercial disputes,” August 13, 2019, http://csj.hkics.org.hk/site/2019/08/13/international-arbitration-the-use-of-hong-kong-arbitration-for-international-commercial-disputes/. を参照。

[7] Born, p. 263; “International arbitration – the use of Hong Kong arbitration for international commercial disputes,” August 13, 2019, http://csj.hkics.org.hk/site/2019/08/13/international-arbitration-the-use-of-hong-kong-arbitration-for-international-commercial-disputes/.を参照。

[8] Report, p. 1.

[9] Report, pp. 2-3.

本記事は、当事務所外国法事務弁護士のJoel Greerによる英語記事“Arbitration-Related Amendment to Act on Special Measures Concerning the Handling of Legal Services by Foreign Lawyers”の和訳記事です。英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。

この記事で提供されている情報は、法律上のアドバイスを構成するものではなく、一般的な情報提供のみを目的としています。特定の法的問題に関してアドバイスを求める場合は、弁護士にお問い合わせください。

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