「調停による国際的な紛争解決契約に関する国連条約(シンガポール条約)」クロスボーダー紛争解決の新しいツール
弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括
野村 諭
外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)
ジョエル グリアー
日本政府は2017年以降、国際仲裁及び裁判外紛争解決手続(ADR)が日本で普及するよう努力してきました。一例を挙げますと、2018年には審問施設である日本国際紛争解決センター・大阪(JIDRC-Osaka)が設立されました。また、JIDRCの東京オフィスである日本国際紛争解決センター・東京(JIDRC-Tokyo)も2020年3月に開設されました。両施設は共にアジアで第一級のADR施設であり、アジアにはこの他に、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)を擁するマックスウェル・チェンバーズや、香港国際仲裁センター(HKIAC)等の施設があります。
JIDRC-Osakaと同様、JIDRC-Tokyoは、国際仲裁の審問期日のみならず、国際調停等のADR手続に使用することもできます。日本には現在、国際仲裁機関が複数あり、また国際調停機関も1つありますが、JIDRC-Osaka及びJIDRC-Tokyoは、外国の仲裁規則・調停規則に従って仲裁・調停が実施される場合に加え、常設の専門仲裁機関を用いない「アドホック仲裁」の場合にも利用できます。最近開設されたJIDRC-Tokyoには、大型の審問室が2室あるほか、当事者や仲裁人がそれぞれ内部的な会議等に使えるよう様々な規模の会議室が設けられており、いずれもADR関連のセミナーや大型会議に使用することができます。JIDRC-Tokyoはテクノロジー面でも優れており、高速Wi-Fi、主要な会議プラットフォーム(Zoom、Microsoft Teams、Google Meet等)を用いたビデオ会議システム、同時通訳室及び機器、同時的な音声文字起こしの機器等が整っています。ビデオ会議システムでは、複数個所に設置したカメラの映像を大型スクリーンと小型モニターで見ることができるようになっています。JIDRC-OsakaにもJIDRC-Tokyoと同様のハイテク設備があります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により安全性に係る懸念が生じ、また、移動が制限される事態となっているため、仲裁審問期日がオンラインで開催される機会が増えてきています。国際商業会議所(ICC)等の主だった仲裁機関は、オンライン審問期日の手引きを発行しています。また、英国仲裁人協会(CIArb)も同様の手引きを発行しています。当該手引きでは、期日手続の秘密を守り、データ・プライバシーに係る関連規定を遵守するべく、サイバーセキュリティのために適切な手続を踏むことが特に必要であると指摘されています。COVID-19の感染拡大を受けて、対面による仲裁審問期日の実施が制約されていますが、当該制約が近い将来に解除される可能性は低いでしょう。このような状況の中、大阪と東京に開設されたJIDRCは、ハイテク設備が整っており、オンライン期日の開催に適しているといえます。
本記事は、弊所弁護士のJoel Greerによる英語記事“Japan International Dispute Resolution Center: Advanced Facilities in Osaka and Tokyo for Virtual Arbitration Hearings”の和訳記事です。英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。
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