公認会計士から弁護士へ。法務・会計の垣根を越えた支援を目指して
「個性豊かな法律事務所ZeLoの新人弁護士を、先輩弁護士から紹介したいーー。」そんな想いでスタートした本シリーズ企画。第2回は、公認会計士の資格を取得後、上場会社監査・IPO準備会社監査等に従事しながら、司法予備試験に合格、2022年より弁護士としてのキャリアをスタートさせた緒方文彦弁護士(74期)を紹介いたします。紹介者は、緒方弁護士のメンターで、リクルートチームの責任者でもある官澤康平弁護士(67期)です。
2011年東京大学法学部卒業、2013年東京大学法科大学院修了、同年司法試験合格。2014年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年長島・大野・常松法律事務所入所。2019年8月法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、M&A、ルールメイキング/パブリック・アフェアーズ、ジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争、危機管理・コンプライアンスなど。執筆に「総会IT化を可能とするシステム・技術への理解」(ビジネス法務2020年12月号)、『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務)、『実践 ゼロから法務!―立ち上げから組織づくりまで―』(中央経済社)など。
2013年東京大学文学部卒業、2014年公認会計士試験合格。2015年より有限責任監査法人トーマツで勤務し、ベンチャー支援に軸足を置く旧トータルサービス事業部に所属。2021年2月まで上場会社監査、IPO準備会社監査、国内籍・海外籍を含むファンド監査等に従事。並行して司法試験予備試験・司法試験に合格。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、同年法律事務所ZeLo参画。法務分野では、IPO、コーポレート・ファイナンス、開示規制(金商法・上場規程)、ベンチャー/スタートアップ法務、ジェネラル・コーポレート、M&A、税務、訴訟/紛争解決など。会計分野では、IPOを前提とした収益認識会計基準の導入サポートを含む会計基準の適用に関するコンサルティング業務、価値算定業務、上場会社における開示書類作成サポートを実施。
官澤:新人弁護士紹介企画の第2回は、緒方文彦弁護士です。緒方さんは、公認会計士として監査法人で約6年間勤務した後に弁護士となった、ダブルライセンスの持ち主です。働きながら予備試験に合格した経験に基づき、共著で体験記を執筆した『司法試験・予備試験 社会人合格者のリアル』が2022年6月に中央経済社から出版されました。
司法試験・予備試験 社会人合格者のリアル
- 著者
- 緒方 文彦ほか(共著)
- 発売日
- 2022年6月9日
- 編
- 中央経済社
- 定価
- 2,090円(税抜価格1,900円)
- ページ数
- 172ページ
- サイズ
- A5判
- ISBN
- 978-4-502-43101-2
今回は、緒方さんが弁護士として働くことに決めた思いや、社会人受験生としてどのように仕事と勉強を両立させたのかを聞いていきたいと思います。
経歴紹介
官澤:では、改めて緒方さんの経歴をもう少し詳しく教えていただけますか?
緒方:私は、公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツに入所し、2015年から2021年までの約6年間勤務していました。所属部署はIPO支援をメインとする旧トータル・サービス事業部であり、私は一貫して監査業務を対応しておりました。
前職の監査法人はとても大きな組織で、同期だけでも300人ほどおり、入所後それぞれの希望に応じ各部署に配属されます。IPO支援の部署は、監査業務の全体をすぐに任されるようになること、クライアントの成長とともに監査業務に従事できること、公認会計士としての成長も早く達成できることからとても人気がありました。今でも、自分の配属希望が通り、IPO支援の部署に配属されたときの嬉しさは鮮明に覚えています。
官澤:入所時点からIPO支援の部署を希望していたのですね。具体的にはどのような業務を行っていたのですか?
緒方:具体的な業務内容は、東証1部(現在のプライム市場)上場企業やマザーズ(現在のグロース市場)上場企業の法定監査業務、IPO準備会社の上場準備段階での課題調査や監査業務、ファンド監査や外債発行に伴う英文財務諸表監査業務等になります。
入所後は本当に様々な業務を経験しました。クライアントの変化が激しいので、常に新しい業務の繰り返しでした。机上で学ぶより現場で実践、というのがIPO支援部署の特徴でした。明確な答えがない会計・監査判断について、現場での判断に大きな責任がある場面も多かったです。
キャリアの“積み上げ”として弁護士に
官澤:公認会計士の業務もとても充実したものだったのですね。よく聞かれる質問だと思いますが、なぜ弁護士を目指そうと思ったのでしょうか?
緒方:「なぜ弁護士に転身したのですか?」という質問を受けることもあるのですが、実は私としては「転身した」という感覚はあまり持っていないです。あくまで公認会計士時代の延長線として今の弁護士としての仕事をしている、という感覚を持っています。
もともとスタートアップ支援・IPO支援の業務に軸足があったことから、公認会計士であっても業務の前提として法律の知識が必要とされる場面が随所にありました。スタートアップ支援・IPO支援を行っていると、まだ管理部門全体の分業体制が成熟していないからか、その境界線が曖昧になることが多いのだと思います。例えば、上場に向けての審査に耐えうる内部統制構築の検討はその典型例だと思います。
このようなことが背景にあり、一人のスタートアップ支援・IPO支援業務を行うプロとして、公認会計士の資格にプラスして、弁護士の資格を得たい、という感覚が自然に芽生えました。自分にとっては、転身というよりも“積み上げ“という感覚になります。
官澤:弁護士はご自分が歩んできたキャリアの延長線上に自然と現れたのですね。
M&Aやファイナンス、IPO支援など、様々な場面で公認会計士の方と一緒に仕事をすることはありますが、弁護士と公認会計士の仕事内容はわりと別物、という印象を持っていました。 これまでのキャリアに積み上げる形で、延長線上に弁護士という資格があるという観点は自分にとっては新しい発見です。
社会人受験生としての勉強方法
官澤:公認会計士としての業務はとても大変ですよね。働きながら予備試験、司法試験を合格したというのは並大抵ではない努力があったのだろうと思います。
冒頭で紹介した『司法試験・予備試験 社会人合格者のリアル』の緒方さんのパートでは、目次の分量に驚きました。ご自身の体験記として様々なことが記載されていますが、社会人ではない受験生と比べて、社会人受験生としての勉強方法にはどういったポイントがあるのでしょうか。
緒方:書籍にもいろいろと書かせていただいたのですが、このあたりは社会人というハンデがありながら、どうやって優秀な学生たちと互角に戦うか、という視点が重要になるかと思います。社会人のハンデには、情報と勉強時間の不足があります。
よく言われることとして、「ゴールからの逆算」という考え方があります。受験勉強における試験合格というゴールは一見明確なようで、そこに至るまでのプロセスは、意外とあいまいであると気づかされることが多いです。
社会人受験生は、周りの人が勉強しているのが当たり前、という環境にはないので、そもそも情報不足に陥っていて、「ゴール」がとてもぼやけている、という状況にあるかと思います。たとえ予備校に通っていたとしても、です。現実に周りに勉強する人がいない中では、情報不足に陥り、自分一人で戦うのは至難の業です。情報不足のハンデは勉強時間の不足のハンデよりも圧倒的に大きいものだと思います。
それでも何とか食らいつき「ゴール」がどこにあるのか、自分が勉強している中でわかったこと、読者の方々が自分で勉強している中で「ゴール」がどこにあるのか腑に落ちる方法を書籍に書かせていただいたつもりです。ちなみに時間の使い方については、気合と根性で捻出する、としか言いようがないです(笑)
官澤:「ゴール」がどこにあるのか、そこから逆算して何をすべきか、という考え方は弁護士としての業務にも通じるところはあると思います。弁護士自身のタスク管理もそうですし、クライアントへの質問のタイミング、用意してもらう資料の準備など、ゴールから逆算していかないと案件をスムーズに進めることは難しいです。
書籍には5人の共著者それぞれの勉強方法が書かれており、勉強方法は十人十色でしたが、家族や仕事がある中で、どのように勉強時間を捻出していくのかという点は共通の課題であるように感じました。また、勉強の調査には有用なスマホも、付き合い方を間違えると時間の浪費につながるため、ほとんどの人が使用ルールを決めているのも興味深かったです。緒方さんのタイムロッキングコンテナにスマホを閉じ込める方法は衝撃的でした(笑)
官澤:公認会計士としての仕事が大変な中で、司法試験の勉強をそこまで頑張れたことには何か理由があるのでしょうか?
緒方:淡々と日々の生活の中に勉強を組み込むことが、いつの間にか当たり前になっていました。業務が山場を迎えているときは、勉強を控え、逆に業務の閑散期には、勉強の比重を高めていました。かなりメリハリがあったので、勉強が監査業務にとっての息抜きになり、監査業務が勉強にとっての息抜きになっていました。同じことをおっしゃる社会人受験生からの合格者がとても多いらしいので、おそらく真理なのだと思います。
加えて、当時の自分自身がやったことのおかげで、今ZeLoで弁護士業務ができていたり、あるいは司法修習中にいろいろ相談しあえる仲間ができたり、弁護修習先の先生から修習が終わった今でも飲み会に誘われたりと、人間関係の幅がとても広がりました。監査法人時代の人間関係にプラスして、関わる人の幅が急激に増えたことは、とても大きな財産になっています。そのような未来を考えて生活していたからこそ、最後までやり抜くことができたのだと思います。
公認会計士の立場から感じる弁護士業務の魅力
官澤:緒方さんが弁護士として働き始めて数か月が経過しました。ダブルライセンスを持つ立場から見て、弁護士業務の魅力はどういった点にあると思いますか?
緒方:やはりプロとして非常事態への対処ができることではないかと思います。
ZeLoでは訴訟業務も多く、私自身も既に何件か訴訟案件に関わっています。これまでの仕事とは異なる頭の使い方ができ、大変ながらもとてもやりがいを感じています。ただ、実際に弁護士として訴訟対応という非常事態の相談を受ける中で、意外と公認会計士としての業務で培った能力がそのまま使われる場面があります。たとえば、公認会計士は、監査業務の中で、財務諸表の適正性について意見表明するための監査証拠を入手するため、様々な規模・業種のクライアントに日常的にヒアリングをし、資料依頼をしています。企業の日常をずっと公認会計士として見続けてきたので、日常的な企業間のやり取りでどのようなものが蓄積されているかというのが感覚的にイメージとして湧いてくるのですが、これがそのまま訴訟対応の証拠収集活動に役立っています。訴訟活動における証拠の重要性を考えると、このような意外な共通点が出てきたのは面白い発見でした。
このようなところも、公認会計士からの延長線上に今の業務があると感じる一つの要素になっています。弁護士になったことで、共通の能力を、そのまま発展・応用させることができるようになったイメージです。
ファイナンス業務やIPO支援業務にも少しずつ関わり始めていて、これらの業務に公認会計士としての知見を活かしていけるのも楽しみです。
官澤:ZeLoでは、ファイナンス業務やIPO支援業務も数多く取り扱っています。これらの業務については、これまでも、グループファームであるZeLo FASとの間で連携して対応してきました。税務・会計の知識が豊富な緒方さんが法律事務所内部にいることで、ZeLo FASとの連携もよりスムーズにできるようになり、ファイナンス業務やIPO支援業務の幅が広がっていくのではないかと感じています。
ZeLoに参画した理由
官澤:社会人受験生としては、就職活動でどの事務所に応募をするかという点も迷われるのではないかと思います。緒方さんは、どうしてZeLoに入ろうと思ったのでしょうか?
緒方:公認会計士の業務の延長線、という言葉をかなり繰り返し使っておりますが、ZeLoを選んだ決め手も、これまでの延長にある、というイメージが湧いたからです。
ZeLoが監査法人時代の業務と同じくスタートアップ支援を行っているという外見的な共通点だけではなく、若手の方が年次に関わらず活躍しているカルチャー、さまざまな新しいことにチャレンジしている様子は、ZeLoのウェブサイトを見ただけでも直感的にわかりました。
また、私がZeLoに入所すると決意したのは2020年10月頃だったのですが、当時監査法人の中でLegalForceがとても有名になっていました。ZeLoの創業者が、同時にリーガルテック企業を盛り上げていることにとても感銘を受けたのを今でも覚えています。そのため、事務所もほぼ即決でZeLoにしました。
官澤:ウェブサイトの内容から見てイメージできたことと、LegalForceの知名度が決め手だったのですね。
社会人受験生の方とお話しすると、どういう事務所があるのか分からない、ウェブサイトを見ても業務内容がよく分からない、という声をよく聞きます。学校に通っていると入ってくる事務所の情報へのアクセスも、なかなか難しいところがあるように思います。緒方さんはZeLoのイメージをつかんでジョインしていただいた形ですが、受験生の皆さんに事務所の概要や雰囲気が届くよう、法律事務所からももっと情報発信をしていく必要性を感じます。
実際に入所してみて、ZeLoはどうでしょうか?元々持っていたイメージと変わった点などはありますか?
緒方:実際に、公認会計士として働いてきたことの延長線として、弁護士業務を行っています。
服装自由であることや、オープンな執務スペース、Nintendo Switchが置いてあるフリースペースによる開放的な雰囲気は、業務をしていてとても居心地が良いです。先輩弁護士からも、私自身の弁護士としての仕事ぶりについては率直に、丁寧にご指摘をいただける環境にある一方、過去の公認会計士としての経験が関わることについては私が相談を受けることもあります。事務所の雰囲気は、上下関係があるというより、様々なバックグラウンドをもつ弁護士が横に並んでチームを組んでいる、というイメージです。これは入所前から持っていたZeLoの雰囲気そのままでした。
他方で、先輩弁護士からの要求水準はやはりとても高いところにあると思います。クライアントに送る文章は、法的な結論が妥当であることは当然、一言一句まで意図を込めた成果物でないといけないものでなければならない、というのは官澤先生から教わったことです。このため、成果物を提供する時点では、1年目であるかどうかは全く関係なく、とても緊張感があります。
クライアントとの距離がとても近い、と感じるのもZeLoの特徴です。クライアントの皆さまがZeLoを信頼してくださっているのは、これまで、高い水準で業務を積み重ねてきた結果なのだと思います。
官澤:ZeLoでは、メンターという形で先輩弁護士が1年目の弁護士をサポートする制度を導入しています。
私は緒方さんのメンターなのでお話しすることが多いですが、こういう形で自分の指導した内容を聞くと照れ臭いですね(笑)
今後への意気込み
官澤:最後に、今後どのような業務をしたい、どのような弁護士になっていきたいなど、緒方さんの考えを聞かせてもらえますか?
緒方:私が今後行いたいのは、法務・会計の垣根を越えた、シームレスな管理業務全般のスタートアップ支援・IPO支援業務です。まだまだ弁護士としては若手なので、今後の経験の積み重ねの中で模索しつつも、できるだけ早い段階で、新たな業務パッケージの提案ができるようになれればと考えております。
官澤:ありがとうございました。緒方さんがジョインしたことで、ZeLoの既存業務に厚みが増し、新たな業務の可能性も出てきているように感じます。
また、リクルート担当としては、社会人経験者にも興味を持ってもらえる事務所になってきているのが嬉しいです。引き続き、社会人経験者の採用もしていきたいと考えているので、興味のある方はぜひご応募いただければと思います。
最後に、関連記事のご紹介
ZeLo Intern's Story「司法修習前に実務へ飛び込んで気づけた、公認会計士経験という武器」
今回紹介した緒方文彦弁護士は、入所前にZeLoの長期インターンに参加していました。インターン生時代に印象に残った業務・取り組む中で感じたやりがいなどについて書かれたこちらの記事も、ぜひご覧ください。
夏季特別インターンシップ・プログラム「ZeLo Legal Camp 2022」開催のお知らせ
大学生・大学院生の皆様を対象に、ルールメイキング×ビジネスコンテスト型夏季特別インターンシップ・プログラム「ZeLo Legal Camp 2022」を開催します。
締切は 【8月5日(金)】 となりますので、興味のある方はぜひ応募くださいませ!
※今年度のお申込み受付は終了いたしました。たくさんのご応募をいただきありがとうございました。
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※記事の内容は掲載当時のものです(掲載日:2022年8月2日)
(編集:渡辺 桃、田中 沙羅、ZeLo LAW SQUARE 編集部 写真:根津佐和子)