「日本では当たり前のことを外から見つめ直したい」ZeLoからの留学第一号が語る、実現への想いとアメリカ生活
法律事務所ZeLo・外国法共同事業では、海外で学びを深め、より良いリーガルサービスのあり方を追求したい弁護士を積極的に応援するために「留学支援制度」を創設しました。「From Zero to Legal Innovation」という創業理念のもと、海外での勉学や生活を通して得られた知見を活かし、さらに革新的なリーガルサービスを提供することを目指して作られたものです。留学第一号として2021年8月、南知果弁護士(現在は有資格者)が米国ペンシルベニア大学ロースクール(LLM)へ旅立ちました。本記事では、留学を決意した理由や、現地で感じた想いについて聞きました。
2012年京都大学法学部卒業。2014年京都大学法科大学院修了、同年司法試験合格。2016年西村あさひ法律事務所入所。2018年法律事務所ZeLo参画。2022年ペンシルベニア大学ロースクール修了(LL.M., Wharton Business and Law Certificate)。主な取扱分野は、スタートアップ支援、ルールメイキング/パブリックアフェアーズ、フィンテック、M&A、ジェネラル・コーポレート、危機管理・コンプライアンスなど。一般社団法人Public Meets Innovation 理事。消費者庁「消費者のデジタル化への対応に関する検討会AIワーキンググループ」委員(2020年)。著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)など。ALB Women in Law Awards 2021 - Innovator of the Yearを受賞。現在、経済産業省大臣官房スタートアップ創出推進室に任期付公務員として赴任中(総括企画調整官)。
ZeLoでの仕事をきっかけに、再燃した留学への想い
留学に行こうと思ったきっかけを教えてください。
もともと、前職の法律事務所で働き始めたときは、近い将来当然留学に行くものだと思っていました。大手の企業法務を専門にする事務所は留学支援制度が整っており、先輩方が海外のロースクールでキャリアを積む姿を当たり前のように見ていたからです。
しかし、2018年にZeLoへ移ったタイミングで、留学への想いは一度、自分の中でリセットしていました。ZeLoは2017年に創設されたばかりでまだ留学支援制度もなかったことや、日本でも刺激的で面白い経験が出来ると感じていたからです。留学にいくと自分のキャリアがいったん途切れてしまうというデメリットもあったので、「留学に行かない人生」を選択するのもアリかなと思っていました。
一度は留学を諦めたとのことですが、どのような経緯で再び留学を決意したのですか?
実際、ZeLoでの仕事は非常に刺激的で楽しく、このままここでキャリアを重ねていくのもいいかなという気持ちを抱いていたこともありました。しかし、ルールメイキングの仕事に携わり、『ルールメイキングの戦略と実務 』の執筆を進めるうちに、やはり留学に行きたいという想いが次第に強くなっていきました。
日本でもっとイノベーションが起きるようにするためには、どのようなルール作りが必要か?という観点から検討を重ねる中で、必ずと言っていいほど話題にあがるのが、海外のビジネス環境や法制度についてでした。その度に、より高度な英語スキルを身につけ、海外で生の情報を得られる環境に身を置きたい、日本を外から見て学びたいと思い、海外で腰を据えて勉強するという選択肢を再び意識するようになりました。
ちょうど30歳になった2020年1月、これからのキャリアをどうしようか、このタイミングを逃せばもう留学には行かないのではないかと考えていました。所内で相談したところ、みんな応援するよと背中を押していただき、留学に行くことを決めました。本当にありがたかったし、心強かったです。2020年に出願、2021年8月にペンシルベニア大学へ入学し、無事ZeLoからの留学第一号になれてほっとしています。 ZeLoでは、今回の留学にあたり、留学支援制度が導入され、学費や生活費などの一部をサポートいただいています。
広く美しいキャンパスで、刺激的な留学生活
アメリカのロースクールの仕組みを教えてください。
アメリカの大学には「法学部」はなく、学部で法学以外の分野を学んだ後に、ロースクールで法学を学ぶ流れとなっています。ロースクールは主に、JD(Juris Doctor)コースとLLM(Master of Laws)コースの2つの課程があります。JDコースは、基本的に現地の学生などが3年間通います。LLMコースは、私のようなアメリカ以外の国で法曹資格を持っている実務家などが現地でアメリカの法律を学ぶことのできる課程となります。
ペンシルベニア大学のLLMは、8月にアメリカ法の基礎を学ぶPre Termがあった後、9月から12月が秋学期、1月から5月が春学期、5月半ばに卒業となり、実質10カ月弱のプログラムとなります。
ペンシルベニア大学ロースクールには、どのような特徴があるのでしょうか?
ペンシルベニア大学のロースクールは、会社法などのビジネス分野や金融分野が特に強いです。LLMコースは少人数であることが特徴の一つですが、2021年は例年より人数が多く、30カ国から156人の学生が来ています。中国からの学生が一番多く、その次はなんと日本人で19人います。他にはブラジル、インド、メキシコ、イギリス、台湾、タイなど様々な国から優秀な法律家が集まってきていて、とても刺激的な環境です。
ロースクールも有名ですが、「ペンシルベニア大学といえばウォートン」というくらいMBA(ビジネススクール)のウォートン校が有名です。構内のBookstoreにもウォートングッズがたくさんあり、ブランドのひとつになっています。他にも、医学やエンジニアリングなどの理系も強い総合大学です。アイビー・リーグというアメリカ東海岸の名門大学群の一つでもあります。
キャンパスのある街の様子が知りたいです!
フィラデルフィアという街にキャンパスがあり、とても広くて美しいです。フィラデルフィアはアメリカ独立宣言が採決された歴史的な街で、私が大学時代を過ごした京都を連想させます。立地としても、ニューヨークまでは電車で1時間半、ワシントンDCまでは電車で2時間と、生活や移動にとって非常に便利な場所です。フィラデルフィアは長くてちょっと言いにくいので、アメリカではみんな「Philly(フィリー)」という愛称で呼んでいます。
アメリカの大学で実務を見つめ直し、新たな発見をしたい
秋学期は、どのような講義を受けていますか。
ロースクールは多種多様な講義があり、履修登録には悩みました。
秋学期は、Corporations(会社法)、AI and the Law、Policy Lab: Online Gender-Based Violence and Harassmentの3つを受けています。いずれも自分の興味関心に沿った内容で面白いです。
ペンシルベニア大学では、Wharton Business and Law Certificateというプログラムがあり、LLM生向けにMBAの講義が開講されています。私はこのプログラムに参加して、Corporate FinanceとGlobal Strategic Managementの2つの講義を受講し、法律以外のビジネス分野も学んでいます。
渡米されて3カ月程度経ちましたね。当初抱いていた目標は叶えられていますか。
ロースクールでは友人に恵まれ、学びたいことを学ぶことができ、非常に有意義な時間を過ごせています。
たとえば現在受講している、「AI and the Law」というセミナーでは、アメリカ、ヨーロッパ、中国それぞれのAIに対するアプローチ方法や、テック企業のAIガバナンス、自動運転、AIと刑事司法などの幅広い内容について、最新の議論を学んでいます。国境を越えてルールが適用される可能性のあるテーマについて、実際にアメリカの実務家や、各国の法律家であるクラスメイトと議論できるところは、留学したからこそ得られる環境だと感じています。
弁護士としてM&Aやファイナンス、国際仲裁などのクロスボーダー案件に携わる場合に限らず、私のようにスタートアップやルールメイキングの観点から留学をする意義も大きいと思います。日本のスタートアップの海外進出や、海外投資家からの資金調達なども、今後サポートできるように勉強したいと考えています。
パワーアップした南先生の活躍が楽しみですね!残りの学生生活では、どのようなことを学んでいきたいですか?
日本では当たり前のこととして受け入れられている実務や実態を、外から見つめ直すことで、新たな発見があればいいなと思っています。
現在受けている講義の他にも、スタートアップファイナンスを含むスタートアップのエコシステム全般、テクノロジーと法と倫理、ダイバーシティー&インクルージョンなど、学びたいテーマはたくさんあります。好きなことを学べるという学生の特権をフルに活かして、実り多く楽しい留学生活にしたいです。
▼記事内でご紹介した、パブリック・アフェアーズ領域・スタートアップファイナンス領域をサポートいただく、長期インターンの方を募集しております。詳細はこちら
(文・写真:南知果、編集:高田侑子、ZeLo LAW SQUARE 編集部)
※記事の内容は掲載当時のものです(掲載日:2021年11月12日)