【2026年6月成立】自動運転レベル4の国連規則はいつ発効?保安基準への反映と開発企業の備え
弁護士
真下 敬太
前編では、E2E(エンド・ツー・エンド)型の特徴と、保安基準・型式指定をめぐる課題、2026年6月に国連で合意された国際基準を解説しました。後編では、E2E型の自動運転で事故が起きたとき、誰がどのような責任を負うのかを取り上げます。自賠法と製造物責任法による民事責任、特定自動運行で「運転者」がいなくなることによる刑事責任の課題、そして実務上の留意点を、国土交通省自動車局への出向経験を有する弁護士が解説します。なお、以下では、E2Eに固有の問題に加え、E2Eの普及で重要性が増す自動運転一般の論点も扱います。
自動車損害賠償保障法(自賠法)3条は、自動車の運行によって他人の生命・身体を害した場合(人身損害)について、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に賠償責任を負わせています。運行供用者は、免責要件をすべて立証しない限り責任を免れないため、事実上の無過失責任とされています(物損は民法等によります)。
国土交通省「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」報告書(2018年3月)は、この枠組みを維持しつつ、保険会社等から自動車メーカー等への求償(支払った賠償金の負担を、責任のある者に求めること)の実効性を確保する仕組みを検討する方針を示しました[1]。
さらに、国土交通省の検討会は、2025年4月の報告書で、自動運転タクシー等の旅客運送のビジネスモデルを念頭に、この整理を維持することが妥当と結論づけました[2]。同報告書は、旅客運送事業者等の運送主体が運行供用者に当たり、自動車の操作に直接関与しない通常の乗客は当たらないとしています。
レベル4の旅客運送では、典型的には、運送事業者等が運行供用者として賠償・保険対応を行い、メーカー等に責任があれば保険会社から求償することが想定されます(被害者がメーカーに直接、製造物責任を追及することもできます)。もっとも、現状、保険会社からメーカーへの求償はほとんど行われておらず、欠陥や因果関係の立証の難しさ等がその理由と指摘されています[3]。E2E型の普及で事故原因の分析が難しくなれば、メーカーと保険会社の協力体制(事故データの提供や欠陥の検証)が一層重要となります。2025年の報告書も、この点を今後の課題に挙げています[4]。
メーカーに製造物責任法(PL法)上の責任を追及するには、被害者側が「欠陥」(通常有すべき安全性を欠くこと。同法2条2項)の存在と、欠陥・損害の間の因果関係を立証しなければなりません。E2E起因の事故では、次のように整理できます。
| 欠陥の類型 | 内容 | E2Eへの当てはめ |
|---|---|---|
| 製造上の欠陥 | 製造過程の個体差による不具合 | モデルに共通する問題は設計上の欠陥として検討されることが多いが、部品の製造やソフトウェアの搭載の誤り等による個体ごとの不具合も問題となり得る |
| 設計上の欠陥 | 設計どおり動いても安全性が不十分 | 中心的な類型。ODD(運行設計領域)内で合理的に想定すべき危険場面に対し、通常求められる安全性を欠く設計であった場合等 |
| 指示・警告上の欠陥 | 使用条件や限界の説明不足 | ODD外での使用への警告義務等が問題となり得る |
設計上の欠陥の判断基準をめぐっては、消費者が通常期待する安全性を重視する考え方(消費者期待基準)や、製品の効用と危険性を比較衡量する考え方(危険効用基準)が議論されており、自動運転については、平均的な運転者との比較で判断する見解もあります[5]。
もっとも、PL法がいずれかを単独の基準として採用しているわけではなく、欠陥は製造物の特性や通常予見される使用形態等を考慮して判断されます(同法2条2項)。自動運転車が統計的に人間より安全であっても、それだけで個別の危険場面に対する設計上の欠陥が否定されるとは限らない点に留意が必要です。
PL法の「製造物」は、製造又は加工された動産(有体物)に限られると解されています[6]。そのため、ソフトウェアのみを提供するAIモデル開発者は直接のPL責任を負いません(不法行為責任や契約上の責任を負う可能性はあります)。
他方、その不具合が車両の欠陥と評価され、損害との因果関係が認められれば、車両の製造業者等がPL法上の責任を負い得ます。これに対し、EUの新製造物責任指令(2026年12月9日までに国内法化)は、ソフトウェアを「製品」に含め、証拠開示や一定の場合の欠陥・因果関係の推定まで定めました[7]。
日本でも、デジタル庁のサブワーキンググループ報告書(2024年5月)が製造物責任の在り方を中長期的な検討課題とし[8]、消費者庁が海外制度の調査を進めているようですが[9]、本記事執筆時点で確認した公表資料では、法改正案は示されていません。
PL法上の「欠陥」の有無は、製造業者等が製品を引き渡した時点を基準に判断されます。しかし、自動運転車では、販売後にOTAでソフトウェアを更新することが当然に想定されるため、更新によって生じた不具合をPL法上どう扱うかが問題となります。
政府の2018年の「自動運転に係る制度整備大綱」も、引渡し時を基準としつつ、ソフトウェアの更新の問題を継続検討課題としました。オンラインでの更新では、更新の時点で新たに引き渡される製造物(動産)がないため、更新時を基準に欠陥の有無を判断することは解釈上難しいと考えられています(更新時を基準とすべきとする見解もあります)。
そのため、引渡し時には欠陥がなく、更新によって初めて安全性を欠いた場合には、PL法上の責任は問いにくい一方、不法行為責任や契約上の責任(債務不履行責任)が問われる可能性は十分あります[10]。
このように、引渡し時の欠陥の有無や更新の内容によって、問題となる責任が異なり得ます。事業者としては、事後に検証できるよう、事故時のソフトウェアのバージョン、更新の内容と時期、更新前後の検証結果を記録・保存しておくことが重要です。
また、安全上の不具合を認識しながら必要な対策を講じずに放置した場合には、リコール等の規律に加え、不法行為上の責任が問題となる可能性があります。
自動運転のサービスには、完成車メーカー・部品サプライヤー・ソフトウェア開発者のほか、運行事業者(タクシー・バス事業者等)、運行管理や遠隔監視の受託者、地図・通信等の提供者、保険会社、道路管理者など、多くの関係者が関わります[11]。
運行事業者が業務を委託する場合も、その責任の下で関係者の役割分担を明確にすることが求められ[12]、運行供用者は、ソフトウェア・地図の更新や遠隔監視について受託者を指導・監督する立場にあるとされています[13]。
例えば、通信の遮断に起因する事故でも、車両に「構造上の欠陥又は機能の障害」があるとして運行供用者が免責されない可能性が指摘されており[14]、事故の原因をつくった関係者と、被害者に賠償する者とが一致するとは限りません。
そこで、こうした関係者の間で、事故時の責任の所在、データの保全・提供、求償の枠組み等を契約で明確にしておくことが必要です。
2022年の道路交通法改正により、レベル4の「特定自動運行」は同法上の「運転」の定義から明示的に除外されました(同法2条1項17号。特定自動運行の定義は同項17号の2)。つまり、レベル4に相当する特定自動運行として走行している間は、法律上の「運転者」が存在しません。そのため、自動車運転処罰法の過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪は、基本的に適用されないと考えられています[15]。
一方、特定自動運行では、運行時の監視や事故対応を担う「特定自動運行主任者」が置かれます。特定自動運行実施者には主任者の指定が義務付けられ、主任者を遠隔に配置する場合には現場措置業務実施者の指定も必要になります(道路交通法75条の19第2項、第3項)[16]。
主任者は、遠隔監視装置の監視や、異常時に特定自動運行を終了させる措置、事故時の措置を講じる義務を負います(同法75条の21、75条の23)。システムの設計そのものの責任は負いませんが、これらの義務を怠れば責任が問題となります。
では、開発メーカー側はどうでしょうか。技術者・経営者個人には業務上過失致死傷罪(刑法211条)の適用が考えられますが、過失犯の成立には、事故の予見可能性と回避可能性の立証が必要です。
判断過程がブラックボックスであると、設計や製造過程のどこに問題があったのかを特定できず、設計者らが事故を予見・回避できたかを確定することは困難だと指摘されています[17]。もっとも、危険・不具合への対応状況等から、設計や製造過程のどこに問題があったのかわからなかったとしても、過失の存在を検討できる場合もあり、ブラックボックス性だけで刑事責任が否定されるわけではありません。
実際に、従来型の車両の事故では、既知の危険への対応を怠ったとして、メーカー関係者の刑事責任が認められた先例があります。三菱自動車のハブ脱落事故では、同種の事故が相次いでいたのにリコール等の改善措置を採らなかった(いわゆる「リコール隠し」)品質保証部門の責任者らに、業務上過失致死傷罪の成立が認められました[18]。
この事案では、過去の類似事故等からハブの強度不足のおそれが客観的に認められ、担当者の職責や会社が把握していた事故情報等を踏まえて、リコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき注意義務が認められました。AIの判断ミスが問題となる場合にも、同種事象の発生歴や試験結果等から、どの程度具体的に危険を認識し、対策を講じるべきであったかが問題となります。
なお、自動運転事故に限った話ではありませんが、刑法211条には法人を処罰する規定(両罰規定)がないため、法人そのものが業務上過失致死傷罪で処罰されることはありません(処罰の対象は役職員個人です)。もっとも、道路運送車両法には両罰規定があり、リコールに関する届出・報告義務の違反等には法人にも罰金が科されます(同法106条の4・111条)。
| 対象 | 根拠法令 | 自動運転事故での問題点 |
|---|---|---|
| 運転者 | 自動車運転処罰法 | 特定自動運行中は「運転者」不在のため、基本的に適用されない |
| 特定自動運行主任者 | 道路交通法 | 監視・終了措置や事故対応の義務違反は問われ得るが、システム設計そのものは対象外 |
| 開発者個人 | 刑法211条(業務上過失致死傷罪) | 予見可能性等の立証が難しくなる場合がある |
| メーカー法人 | 刑法211条(業務上過失致死傷罪)/道路運送車両法 | 業務上過失致死傷罪に法人処罰規定はないが、道路運送車両法の義務違反には法人への罰金がある |
デジタル庁のサブワーキンググループ報告書(2024年5月)は、具体化された保安基準等が整備されることを想定し、それに適合する性能を発揮していた場合には、事故を予見・回避できなかったと「原則として評価し得る」とし、刑事処分の判断でも保安基準等への依拠が「適切に考慮される」としました。
ただし、技術の進展等によっては、基準に適合していても過失が問われ得るとの留保があり、基準への適合だけで責任が免除されるわけではありません。このように、基準への適合と責任との関係には不明確な部分が残るため、事業者としては、責任の範囲や判断基準の明確化に向けて、当局との対話等に積極的に取り組むことが望ましいと考えられます[19]。
E2E型自動運転の普及によっても、事故が完全になくなるわけではありません。既存の法的枠組みの下で、被害者への賠償、関係者間の責任分担、個人・法人の刑事責任を分けて検討し、それぞれを支える証拠と体制を整えることが重要です。前編で解説した国際基準も、システム全体の安全性を多様な証拠と継続的な管理によって示すことを求めています。
そしてその準備は、事故が起きてからでは間に合いません。どのアーキテクチャを選ぶか、契約で責任をどう配分するか等について、開発の初期段階から法務の観点で検討しておくことが重要です。
法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務に加え、AI・Web3などの最先端領域や新しいビジネスモデルの支援に強みを持っています。
自動車・モビリティ分野については、国土交通省自動車局への出向経験を有する弁護士が、個社のニーズに応じた専門的なアドバイスを提供しています。お気軽にお問い合わせください。
[1] 国土交通省自動車局「自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書」(2018年3月20日)
[2] 国土交通省物流・自動車局「ロボットタクシー導入等に向けた自動運転における自賠法上の損害賠償責任に関する検討会報告書」(2025年4月30日)
[3] 岡本満喜子『自動運転事故の責任は誰にあるのか──新技術をめぐる過失割合の検証』(法律文化社、2024年)54頁、友近直寛『自動運転・運転支援と交通事故賠償責任』(新日本法規出版、2021年)120頁
[4] 前掲注2の報告書「今後に向けて」
[5] 岡本・前掲注3・100-101頁
[6] 消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」Q3・Q5
[7] 欧州連合「Directive (EU) 2024/2853」(2024年11月18日官報掲載)4条1項・9条・10条・22条1項
[8] デジタル庁「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ報告書」(2024年5月31日)1.3.2.4
[9]消費者庁「我が国と海外の製造物責任を巡る有識者・実務家ヒアリング(令和6年度~)」 (第493回消費者委員会資料1-1、2026年6月22日)
[10] 高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「自動運転に係る制度整備大綱」(2018年4月17日)19頁、岡本・前掲注3・103頁、戸嶋浩二=佐藤典仁=秋田顕精編著『自動運転・MaaSビジネスの法務〔第2版〕』(中央経済社、2024年)73-74頁
[11] 国土交通省「自動運転移動サービス社会実装・事業化の手引き(第1版)」(2024年6月)3頁
[12] 前掲注11・99頁
[13] 前掲注2の報告書7頁・9頁
[14] 前掲注2の報告書10頁
[15] 前掲注8の報告書13頁注27
[16] 戸嶋ほか・前掲注10・57-58頁
[17] 福岡真之介編著『AIの法律』(商事法務、2020年)180-181頁
[18] 最決平成24年2月8日刑集66巻4号200頁(平成21年(あ)第359号)
[19] 前掲注8の報告書1.3.2(24頁)・1.3.2.3(25頁)