【2026年6月成立】自動運転レベル4の国連規則はいつ発効?保安基準への反映と開発企業の備え
弁護士
真下 敬太
自動運転で注目を集めているのが、センサーが捉えた情報から運転操作までをニューラルネットワーク(AIの一種)で一体的に学習・最適化する「E2E(エンド・ツー・エンド)型」です。E2E型には、判断の根拠を外部から追跡しにくい「ブラックボックス性」が指摘されており、安全性の評価や責任の立証に新たな課題を生じさせています。本記事では、国土交通省自動車局への出向経験を有する弁護士が、E2E自動運転の法規制と事故時の責任、実務上の留意点を2回に分けて解説します。前編では、E2E型の特徴と保安基準・型式指定の課題、2026年6月に国連で合意された国際基準を取り上げます。
米Teslaは2023年末から2024年にかけて、運転支援システムFSDにE2E型を段階的に導入しました。また、E2E型の自動運転技術の開発を進める英Wayveは、日産やUberと覚書(MOU)を締結し、2026年後半にも東京でロボタクシーの試験運行を始める計画を公表しています[1]。
国内でも、スタートアップのTuring社がE2E型自動運転の開発を加速させており、2026年7月には、シリーズA全体で278.9億円(融資を含む)の資金調達を完了したと発表しています[2]。トヨタも、E2E型にルールベースの安全機構を組み合わせた自動運転を2028年に実用化し、まず量販車に搭載する方針を示したと報じられています[3]。
E2E型とは、カメラ等のセンサーが捉えた情報から、走行軌道やハンドル・アクセル操作の指示までを、ニューラルネットワークで一体的に学習・最適化する方式です。「認知→予測→判断→制御」と機能を分けて作り込む従来方式(モジュール型)とは、設計思想が異なります。もっとも、E2E型にも、内部に認知・予測・計画などの中間的な構造や出力を持つものがあり、必ずしも「一つのブラックボックス」を意味するわけではありません[4]。
モジュール型は、機能ごとに部品を分けて設計・接続します(各部品にAIが使われることもあります)。機能の境界が比較的明確で、部品ごとに検証しやすく、事故の際も「どの部品が誤ったか」を特定しやすいため、法的にも、原因と結果のつながり(因果関係)を立証しやすい傾向があります。他方で、機能間で誤差が積み重なると「誤差の伝播」が生じるなど、課題もあります。
E2E型は、入力から出力までを一体的に最適化するため、誤差の伝播を抑えて運転タスク全体を最適化できることや、学習データと計算資源を増やすことで性能の向上を図りやすいことが利点として挙げられます。また、モジュール型では、判断の部分を、人が定めたルールで作り込む設計(ルールベース)が多く用いられてきましたが、E2E型はデータから学習するため、人がルールとして書き切れない多様な状況にも対応しやすいと期待されています[5]。
他方、E2E型にも課題はあります。入力から出力までを一体的に最適化するため、判断の根拠が多数のパラメータ(モデル内部の数値)に分散し、事後に「なぜその判断に至ったか」や、どの機能に原因があったかを追跡することが難しくなる場合があります。こうした判断の根拠を人が理解できる形で示せるか(解釈可能性)といった点や、地域・天候・センサーなどが学習データと大きく異なる環境でも性能を保てるか(汎化)、めったに起きない危険な場面でも誤った判断をせずに安全に振る舞えるか(頑健性)といった点が、E2E型の主要な課題とされています[6]。
| モジュール型 | E2E型 | |
|---|---|---|
| 処理構造 | 機能を分けて設計・接続 | 入力から出力までを一体的に学習・最適化(中間構造を持つものもある) |
| 原因分析 | 機能別に追跡しやすい傾向 | 判断根拠や機能間の影響の分析が難しい場合がある |
| 主な技術課題 | モジュール間の誤差の伝播等 | 解釈可能性・汎化・頑健性等 |
| 安全性評価 | 個別機能とシステム全体を評価 | システム全体の評価がより重要 |
なお、E2Eはソフトウェアの作り方の話であり、自動運転の「レベル」とは別の概念です。一般消費者向けのTesla FSD(Supervised)はE2E型を採用しつつも、レベル2(運転者の監視が必須)[7]にとどまっています。Wayveも、2026年9月にロンドンでUberと始めた自動運転の配車サービスでは、訓練を受けたドライバーが同乗して監督しています。量産車への搭載も、日産の次世代「プロパイロット」(2027年度予定)など、運転支援の領域から段階的に始める計画です[8]。
近年は、レベル2の範囲内で、運転操作の自動化をE2Eなどにより高度化した運転支援システムを「レベル2++(L2プラスプラス)」と呼ぶ例も出てきています[9][10]。もっとも、これは新たな自動運転レベルではなく、高度なレベル2を指す呼び方であり、運転者による周辺監視が不要になるわけではありません。
このように、技術方式の新しさと自動運転のレベルの高さは、切り分けて理解する必要があります。現在の市販車向けの導入は運転支援が中心ですが、本記事では、同様の技術がレベル3・4(一定の条件下でシステムが運転を担うもの)の自動運行装置に採用される場合も含めて検討します。
2019年の道路運送車両法改正(2020年4月施行)により、「自動運行装置」が保安基準の対象に位置付けられました(同法41条1項20号。定義は同条2項)。
「自動運行装置」の主な保安基準は、次のとおりです。
なお、これらの保安基準とは別に、もう一つ重要な制度があります。OTA(通信によるソフトウェア更新)のうち、保安基準に適合しなくなるおそれのあるものとして省令で定める改造に当たるもの(「特定改造等」)を行うには、あらかじめ国土交通大臣の許可を受けなければなりません(道路運送車両法99条の3)。保安基準が「車両の性能」を定めるルールであるのに対し、こちらは「更新という行為」を管理するルールです。
E2E型では、機能の境界が明確でなかったり中間出力が限られていたりすると、「認知の精度」のように機能を切り出して評価する手法だけでは、安全性を確かめにくくなります。そのため、システム全体の挙動を評価する手法が一層重要になります。
型式指定制度(同法75条。装置単位の指定は75条の3)は、型式ごとに保安基準への適合性等をあらかじめ審査する制度で、認証時点の仕様を基礎としています。これに対し、E2E型では、データを追加して学習し直したモデルをOTAで配信し、性能を高めていくことが想定されます。
このように学習済みモデルを更新する場合には、更新が認証済みの安全性能や走行環境条件に与える影響を評価し、必要な手続(特定改造等の許可等)と更新後の安全性の確認を行う必要があります。
事故率等の統計だけでは、稀な重大事故のリスクを十分に評価しにくいため、危険場面を対象とするシナリオ試験、シミュレーション、安全分析等を組み合わせて安全性を説明する必要があります。
こうした課題に対応するため、国際的には、複数の手法を組み合わせて安全性を立証する「マルチピラー・アプローチ」が標準になりつつあります。設計段階のリスク評価と監査、シミュレーション、テストコース・実道での走行試験、そして運用開始後の継続監視(インサービスモニタリング)を束ねる考え方です。
国土交通省「自動運転車の安全性能確保策に関する検討会」報告書(2025年3月)も、この国際的な流れを踏まえ、シミュレーション・試験路・実交通環境での試験を組み合わせたシナリオベースの評価と、使用過程でのモニタリングを導入する方向を示しています[12]。
そして、2026年6月、国際基準づくりが一つの到達点を迎えました。国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)は、6月23〜26日の第199回会合で、一般道を含む多様な道路環境やレベル4にも対応する、包括的な自動運転システム(ADS)の国際基準として、国連規則(UN Regulation No.185)と世界技術規則(UN GTR No.26)[13]について合意しました(高速道路等でのレベル3については、2020年に国際基準が合意されていました)[14]。
日本は、米国・欧州などとともに専門家会議の共同議長として議論を主導しました。このうち国連規則は、2027年1月頃に発効する見込みです[15]。
新基準は、混在交通の中で「有能で注意深い人間ドライバー」と同等以上の安全水準を確保することを前提に、詳細な試験方法を一律に定めるのではなく、次の三つの要件を組み合わせています。
第一に、交通ルールの順守や衝突回避、不具合時の安全な停止、作動状態の記録、サイバーセキュリティ等に関する、システム自体の要件です。
第二に、メーカーの体制とプロセスに関する要件です。メーカーは、ライフサイクル全体にわたる安全管理システム(SMS)を構築し、システムが要件を満たし不合理なリスクがないことを「主張・論証・証拠」で構造的に示す「セーフティ・ケース」を作成しなければなりません。また、シミュレーション・試験路・実道という各試験環境の信頼性も示す必要があります。
第三に、市場投入後も作動状況を監視して安全上の問題を特定・改善するとともに、重大な事案の報告や定期的な報告を当局に行うことが求められます。当局は、SMSの監査、セーフティ・ケースと試験環境の評価、確認試験を通じてこれらを審査します[16]。
E2E型との関係で見逃せないのが、AIの扱いです。新基準は、走行中に車両上で自らの挙動を書き換える「オンライン車載学習」をADSが用いないことを前提に、要件を組み立てています[17]。すなわち、学習は開発環境の側で行い、安全性を検証したうえでアップデートとして車両に配信することが想定されています。E2E型の利点である継続的な学習・改善は、上記の規律、すなわち配信前に安全性を検証することを前提として活用されることになります。
国際基準は、特定のアーキテクチャ(システムの構成)を求めているわけではありません。どのような構成が必要かは走行環境条件やリスク分析等によって異なりますが、安全性の根拠を示すための設計上の選択肢として、E2Eに独立した安全監視機構(ルールベースのものを含む)を組み合わせる方法も考えられます。
また、上記の国際基準に係る国内基準への反映は、国連規則の発効(2027年1月頃の見込み)以降に本格化するとみられます。今後、ADSの認証取得等を検討している企業においては、新基準が求める安全管理システムの構築やセーフティ・ケースの作成に係る体制の整備を国内基準への反映に先立って開始し、当局との事前協議にも早期に着手することが望ましいと考えられます。
E2E型の自動運転では、機能ごとに切り分けて検証する手法だけでは安全性を確かめにくい場面が増えます。
2026年6月に国連で合意された国際基準は、システムの要件、メーカーの体制(SMS・セーフティ・ケース・試験環境の信頼性)、市場投入後の監視・改善・報告を組み合わせて、システム全体の安全性を多様な証拠と継続的な管理によって示すための枠組みを定めました。
認証の判断基準が明確になりつつある中、開発の初期段階から体制整備を開始し、当局との対話を進めておくことが、円滑な認証取得の鍵となると考えられます。
後編では、E2E型の自動運転で事故が起きたとき、誰がどのような責任を負うのかを取り上げます。自賠法と製造物責任法による民事責任、特定自動運行で「運転者」がいなくなることによる刑事責任の課題、そして実務上の留意点を解説します。
法律事務所ZeLoは、訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務に加え、AI・Web3などの最先端領域や新しいビジネスモデルの支援に強みを持っています。
自動車・モビリティ分野については、国土交通省自動車局への出向経験を有する弁護士が、個社のニーズに応じた専門的なアドバイスを提供しています。お気軽にお問い合わせください。
[1] 日産自動車「Wayve、Uber、日産がロボタクシーでの協業を発表」(2026年3月12日)
[2] チューリング株式会社「チューリング、シリーズAラウンド全体で278.9億円の資金調達を完了、エクステンションラウンドで126.2億円の資金調達を実施」(2026年7月6日)
[3] 産経新聞「トヨタ、28年にAI自動運転車を投入 「E2E」と事前ルール規定を組み合わせるハイブリッド方式」(ITmedia NEWS掲載、2026年8月27日)
[4] Li Chen et al.「End-to-end Autonomous Driving: Challenges and Frontiers」(IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence採録。arXiv:2306.16927)
[5] 例えば、Not a Tesla App「Update 2023.44.30.10 (FSD 12.1) - Release Notes」(2023年12月24日)において、Teslaでは、FSD v12で一般道の走行系を単一のE2Eニューラルネットワークに置き換え、30万行を超えるC++のコードを置き換えたと説明しています。原文は第三者サイトに転載されたものによります。
[6] 前掲注4。
[7] Tesla, Inc. 「Q2 2026 Update」(2026年第2四半期株主向け資料。米SEC提出書類 Exhibit 99.1)は、FSD (Supervised) について「does not make the vehicle autonomous」としています。自動運転のレベル分けについては、以下の記事「【弁護士が解説】自動運転に関する現状と法規制の全体像」をご参照ください。
[8] Wayve「Wayve and Uber Launch First-Ever Autonomous Rides in the UK」(2026年9月3日)、日産自動車「日産自動車、2027年度に次世代の運転支援技術を導入予定」(2025年4月10日)
[9] 国土交通省「【令和8年6月8日】第3回 国土交通省自動運転社会実現本部を開催」によれば、国土交通省は、こうしたシステムを搭載した自家用車について「優良車認定制度」の具体化を進めています。
[10] 国土交通省「自動運転の普及・拡大に関する取組」(2026年1月29日)では、前述の日産の次世代プロパイロットも、この水準での市販化(2027年度中)が予定されています。
[11] 国土交通省「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」別添123「作動状態記録装置の技術基準」3.3.1
[12] 国土交通省「自動運転車の安全性能確保策に関する検討会報告書」(2025年3月)
[13] UNECE「ECE/TRANS/WP.29/2026/137」(国連規則案。規則番号の185は暫定)、「ECE/TRANS/180/Add.26」(UN GTR No.26。2026年10月2日)
[14] 国土交通省「日本が主導した世界初の自動運転システムの国際基準が合意 ~安全な自動運転車の開発が加速~」(2026年6月26日)
[15] 国際連合事務総長寄託通知「C.N.288.2026」(2026年7月30日)によれば、 国連規則は、1958年協定に基づき、同通知から6か月以内に所定数を超える締約国の反対がなければ採択され、発効します。
[16] 前掲注13の国連規則案 序文1項〜5項、6章(ADSの要件)、7章(7.1 SMS、7.2 試験環境、7.3 セーフティ・ケース、7.4 市場投入後の安全)、8章(適合性評価)。前掲注14の報道発表の別添1も参照。
[17] 前掲注13の国連規則案 序文6項、UN GTR No.26 第I部(技術的根拠)。