INDONESIA: ISSUANCE OF ELECTRONIC DOCUMENTS IN LAND REGISTRATION
インドネシア法弁護士
フィエスタ ヴィクトリア
インドネシア進出を検討する日本企業にとって、駐在員事務所(Representative Office)は、市場調査や現地パートナーとの関係構築、本格進出に向けた準備拠点として活用できる選択肢です。一方で、駐在員事務所には営業活動が認められず、活動範囲を誤ると恒久的施設(PE)認定などの税務リスクを招くおそれがあります。連載の第4回となる本記事では、駐在員事務所の基本事項、KPPA・KP3Aなどの類型と現地法人(PT PMA)との違い、設置手続の流れとスケジュールなど、日本企業が特に注意すべき実務上のポイントを解説します。
2006年ペリタ・ハラパン大学卒業。2019年法律事務所ZeLo参画。 主な取扱分野はM&A、ジェネラルコーポレート、人事労務、フィンテックなど。 インドネシア統一弁護士会PERADIのプロフェッショナル会員であり、執筆も数多く手掛けている。ALB Women in Law Awards 2021 - Business Development Lawyer of the Year を受賞。
前回の記事「現地法人(PT PMA)の設立手続と実務上の留意点」では、インドネシアで営業活動を行うための器であるPT PMAを取り上げました。
もっとも、進出を検討する日本企業のすべてが、初期段階から営業主体となる現地法人を必要とするわけではありません。「まずは市場を調査したい」「現地のパートナー候補と関係を構築したい」「本格進出に向けた準備拠点が欲しい」といった段階では、営業活動を伴わない駐在員事務所が有力な選択肢となります。
本記事では、連載「インドネシア進出を目指す日本企業のための法務ポイント解説」の第4回目として、インドネシアの駐在員事務所とは何か、その類型と現地法人との違い、設置手続の流れと想定スケジュール、そして実務上問題となりやすい点と日本企業が特に注意すべき事項を整理します。
なお、2025年10月施行の投資・下流化大臣/投資調整庁(BKPM)長官規定2025年第5号により、駐在員事務所についても事業基本番号(NIB)の取得が求められるなど、手続面に重要な変更が加えられている点には特に留意が必要です。
駐在員事務所は、外国企業(日本本社)がインドネシア国内に置く「連絡・調整拠点」であり、それ自体は独立した法人格を持ちません。あくまで日本本社の出先機関という位置づけであり、現地法人(PT PMA)のように独立した責任主体や株式を有するわけではありません。
この性質から、駐在員事務所には次のような特徴があります。
- 原則として営業活動(インドネシア国内での売買契約の締結や収益の獲得)を行うことができない
- PT PMAで求められる払込資本金25億ルピア・最低総投資額100億ルピア超といった資本金・投資額要件は課されない
- 設置手続が現地法人に比べて簡素で、立ち上げまでの期間も相対的に短くなる傾向がある
そのため、駐在員事務所は、「インドネシア市場の調査やプロモーション」「本格進出(現地法人設立)に向けた準備」「グループ会社間の連絡・調整」といった、収益を伴わない活動に適した進出形態といえます。逆に、現地で売上を計上して事業を営むのであれば、駐在員事務所では足りず、PT PMAの設立が必要になります。
インドネシアの駐在員事務所は、目的に応じて主に次の類型に分かれます。
| 類型 | 主な目的・できること | 主な特徴・規制 | 所管官庁 |
|---|---|---|---|
| 外国企業駐在員事務所(KPPA) | 外国投資企業の設立・事業開発の準備、グループ会社間の監督・調整 | 営業活動は不可。州都のオフィスに設置。低リスクに分類され、活動を続ける限り許可が有効。 | 投資調整庁(BKPM) |
| 外国商事駐在員事務所(KP3A) | マーケットリサーチ、プロモーション等の商事関連の連絡活動。なお、Eコマース分野に関しては、外国商事駐在員事務所の設置が求められる場合があります。 | 営業活動は不可。所長のビザ取得のために外国人1名につきインドネシア人3名の雇用義務。州都・県都・市に設置可。許可は最長3年で更新可。 | 商業省 |
| 外国建設駐在員事務所(BUJKA) | 建設分野で、現地建設会社とのジョイント・オペレーション等を条件とする入札参加・契約締結・工事の実施 | 事業体認証(SBU)等の取得が必要。大規模事業体としての要件を満たすことが求められる。 | 公共事業省 |
| 外国電力支援サービス駐在員事務所(KPJPTLA) | 外資の電力支援サービスを提供する企業によるインドネシアで電力設備に関する調査・設計・計画等 | 原則として、インドネシア国内の電力サポート企業(100%内資)との協働を通じてプロジェクトを行う必要がある。 | エネルギー鉱物資源省 |
日本企業が「本格進出前の準備拠点」「市場調査拠点」として用いるのは、多くの場合KPPAまたはKP3Aです。
本記事では、最も利用されるKPPAを中心に、KP3Aとの違いにも触れながら説明します。
KPPAは、規定上、おおむね次の役割を担うものとされています。
他方で、KPPAには明確な禁止事項があります。最も重要なのは、インドネシア国内に源泉のある所得を求めてはならない、すなわち国内の企業や個人と物品・サービスの売買契約を締結したり、売買活動を行ったりすることは認められない、という点です。
また、特定の会社・子会社・支店の運営に関与することもできません。これらに反する活動は、駐在員事務所として認められた範囲を超えるものとして問題となります。
つまり、KPPAは「情報収集・調整・準備」までは行えるが、「契約・販売・収益化」は行えない、という線引きを正確に理解しておくことが重要です。この線引きは、後述する税務上のリスク(恒久的施設の認定)とも密接に関係します。
KPPAには、設置場所・所長・人員に関して、いくつかの要件があります。
設置場所については、KPPAは州都(Ibukota Provinsi)のオフィスビルに設置する必要があります。チカランやカラワンといった工業団地など、州都以外の地域に設置することは原則として想定されていない点に注意が必要です(市場調査・プロモーションを目的とするKP3Aについては、近時、州都に加えて県都・市での設置も認められています)。
所長(駐在員事務所長)については、インドネシアに居住し、事務所の円滑な運営に責任を負うことが求められます。また、本社の代表者を兼任すること、あるいは2つ以上の外国企業駐在員事務所の所長を兼任することは認められていません。所長が外国人である場合には、経験知の移転の必要性の観点から、法令に従ってインドネシア人労働者を雇用することが求められます。
ここでは、最も利用されるKPPAを念頭に、設置手続の流れを説明します。大きく分けて、本社側での必要書類の準備、在外インドネシア公館による認証、オフィス(所在地)の確保、OSSを通じたNIB(事業基本番号)の取得、税務番号その他の登録、駐在員のビザ取得、という段階を踏みます。
KPPAの設置申請にあたっては、日本本社側で次のような書類を準備します。
これらに加え、事業活動データや、安全・保健・環境保護に関する誓約書なども求められます。
上記のうち、任命状(Letter of Appointment)・趣意書(Letter of Intent)・宣誓書(Letter of Statement)については、在外インドネシア公館(在京インドネシア大使館等)の認証が必要とされています。また、現地公館が発行する紹介状(Letter of Reference)も必要書類とされています。
ここで実務上注意したいのは、認証の方法です。インドネシアは2022年6月にアポスティーユ条約(ハーグ条約)の締約国となり、多くの公文書については、従来の領事認証に代えてアポスティーユによる証明で足りるようになりました。前回の記事で触れたPT PMA設立時の委任状も、このアポスティーユを利用する場面の典型です。
もっとも、アポスティーユ条約は、外交官・領事が署名した文書や、商業活動・税関活動に直接関連する文書などを適用対象から除外しています。駐在員事務所の設置に用いるこれらの書類は、その性質上アポスティーユになじまない、あるいは公館自身が発行・認証する書類であるため、引き続き在外インドネシア公館の関与(領事認証等)が必要となる場合が多いと考えられます。
どの書類について、どの方法(アポスティーユか領事認証か)で対応すべきかは、申請時点の運用に従って個別に確認する必要があります。
KPPAは州都のオフィスビルに設置する必要があり、申請書類としても、オフィスビルの管理者または所有者との間の賃貸借契約書が求められます。
駐在員事務所の場合、契約の主体は法人格を有する日本本社(またはその名で行動する所長予定者)となるため、賃借人の名義は日本本社とすることが可能です。もっとも、本社名義での海外賃貸借契約に関する社内手続や、所長予定者の権限の手当ては、事前に整理しておく必要があります。
2025年第5号規定により、KPPAについても事業基本番号(NIB)の取得が義務付けられました。オンライン・シングル・サブミッション(OSS)システムに必要情報を入力し、上記の書類をアップロードすることでNIBが発行されます。KPPAのリスクベースの事業許認可は「低リスク」に分類され、NIBの取得をもって、駐在員事務所が活動を続ける限り有効な許可として機能します。
これに対し、商事駐在員事務所(KP3A)については、NIBの取得に加えて外国商事会社駐在員事務所許可の取得が必要であり、申請はOSSから商業省の許認可システムへ送られ、商業省が要件の充足状況を検証します(検証には数日程度を要するとされます)。
さらに、関連する商業大臣規則の下では、まず仮許可を取得し、所長が外国人の場合はその労働許可を取得したうえで本許可を申請する、という段階を踏む運用も示されています。このように、類型によって手続の重さが異なる点に注意が必要です。
なお、近年、OSSのシステム障害等により手続が想定どおり進まない事例も報告されています。NIBがなかなか発行されないことも想定したうえで、余裕をもったスケジュールを組むことが望まれます。
駐在員事務所であっても、インドネシア国内に拠点を構える以上、税務番号(NPWP)の取得をはじめとする各種登録・届出が必要となります。
後述するとおり、駐在員事務所は「営業をしないから税務とは無関係」というわけではなく、源泉徴収義務や、活動内容によっては課税上の論点が生じ得るため、設置の初期段階から税務専門家を関与させておくことが安全です。
所長や駐在員としてインドネシアに居住・就労する外国人については、外国人労働者雇用計画(RPTKA)の承認を経て、就労・滞在許可(KITAS等)を取得する必要があります。所長はインドネシアに居住することが求められるため、ビザ・在留資格の取得は設置スケジュールの重要な構成要素となります。
以上の手続のうち、書類の準備と在外公館での認証に要する期間が、全体のスケジュールに大きく影響します。本社側の意思決定、翻訳、公館認証が滞りなく進めば、KPPAについては、現地法人(PT PMA)の設立よりも比較的短期間で立ち上げに至るケースも見られます。
もっとも、書類の不備や公館・OSSの処理状況によって所要期間は変動するため、確実な完了時期を見通すことができない点には留意が必要です。所長のビザ取得まで含める場合には、全体で数か月程度の期間を見込んでおくことが望ましいでしょう。
最も注意を要するのが、「営業活動の禁止」がどこまで及ぶかという問題です。駐在員事務所は収益活動を行えないのが原則ですが、実態として、本社の製品輸入を実質的に支援したり、現地での受注・販売活動を補助したりしていると評価されると、税務上「恒久的施設(Permanent Establishment:PE)」とみなされ、課税対象とされるリスクがあります。
インドネシアの税務当局によるこうした論点の追及は近年厳しくなっているとの指摘もあり、「単独での法人格がないから税務は関係ない」という油断は禁物です。活動範囲が、許可された連絡・調整・準備の枠内にとどまっているかを、継続的に確認する必要があります。
前述のとおり、任命状等の書類は在外インドネシア公館の認証が必要となるため、この工程に想定以上の時間を要する場合があります。アポスティーユで足りるのか、領事認証が必要なのかは書類ごとに異なる場合があるため、申請実務に精通した専門家に早期に確認することが、手戻りを防ぐうえで重要となります。
KPPAの所長はインドネシアに居住することが求められ、本社代表者や他の駐在員事務所所長との兼任は認められません。「日本の役員が名目上の所長を兼ねる」といった設計はできないため、誰を所長に据えるかは早い段階で具体的に検討する必要があります。
KP3Aでは、インドネシア人の雇用義務が発生します。市場調査目的で小規模に立ち上げるつもりであっても、この比率を満たす必要が生じる場合があるため、想定する人員構成と整合するかを確認しておくことが重要です。
駐在員事務所はあくまで準備・調査の段階に適した形態であり、実際に営業を開始する段階では、改めてPT PMAを設立する必要があります。駐在員事務所がそのままPT PMAに「変更」されるわけではなく、別途新たに法人を設立することが基本です。
将来的な本格進出を見据える場合には、駐在員事務所の活動と、その後のPT PMA設立とを連続したロードマップとして設計しておくと、その後の移行をスムーズに進めやすくなります。
駐在員事務所は、資本金要件が課されず、比較的簡素な手続で立ち上げられることから、本格進出の前段階として有用な選択肢です。
一方で、「営業活動はできない」という本質的な制約があり、その射程を誤ると、税務上のリスクや規制違反につながりかねません。また、2025年の規定改正によりNIBの取得が求められるなど、手続面も継続的に変化しています。
重要なのは、駐在員事務所を「ゴール」ではなく、市場調査・関係構築・本格進出準備のための「ステップ」として位置づけ、その先のPT PMA設立までを見据えて設計することです。自社の目的に最も適した進出形態の選択、許可類型の見極め、そして設置後の活動範囲の管理について、早い段階で専門家とともに方針を固めておくことが、円滑な進出と安定した事業展開への近道となります。
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