2025年医療法等改正の概要―オンライン診療・美容医療規制のポイントと実務への影響
弁護士、ヘルスケア部門統括
早乙女 明弘
兼坂 俊之介
医薬品や医療機器は国民の生命・健康に直結する製品であり、その製造販売業者、製造業者、販売業者等には極めて高い倫理観が求められます。しかし、医薬品・医療機器業界では、品質不正や医療関係者との癒着などが繰り返し問題となってきました。これを受けて、令和元年(2019年)の薬機法改正により、令和3年(2021年)から法令順守体制の整備義務が課されるなど、業界における規制が強化されています。しかし、直近においても品質不正や贈収賄等の不祥事が繰り返し報道されており、業界全体として事業者のガバナンス不全が問われる事態となっています。本記事では、令和元年の薬機法改正で「法令遵守体制の整備」が定められた経緯とそのポイントを改めて振り返り、執行状況についても解説します。
目次
投書を契機に行われたPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)の立入調査により、血液製剤やワクチン等が承認書と異なる方法で製造されていること、これを隠ぺいするために査察対応として虚偽の製造記録を別途作成していることなど、組織的不正が20年にもわたって行われていたことが判明しました。
これを受け、異例の長期となる業務停止命令が出され、ワクチンの流通不足により日本脳炎等の小児のワクチン接種やインフルエンザワクチン接種に支障が出る等、医療体制に大きな支障が生じました。
抗真菌剤に睡眠導入剤が混入し、ふらつき、めまい、意識消失等による事故や転倒の発生、221人から健康被害の報告がありました。
実態調査の結果、当該抗真菌剤以外の製造工程でも、人員不足から2人態勢で実施すべき作業を1人で実施、承認された製造方法を検証や再承認なく変更、立入検査用に虚偽の記録を作成、一部項目につき製品試験を実施せず結果を捏造等の違反実態が明らかになりました。
富山第一工場への県・PMDAの合同による無通告査察を契機に、製造管理・品質管理に関する重大な違反が判明しました。
本来廃棄すべき、品質試験で不適合となった製品を承認書と異なる方法で処理(打錠・乾燥)、試験不合格後、原因究明せず合格するまで再試験を実施するなどしており、会社全体で品質管理を考慮した体制整備が必要とされました。
品質試験において、承認書と異なる試験方法(別のカプセルに薬剤を詰め替えた上で溶出性試験を行っていた。)が実施されていました。
当該不正行為については、2011年に九州工場から品質に関する情報の提供があったのに対し、品質、有効性、安全性に与える影響などを適切に評価せず、原因究明等の措置を講じなかったとされています。管理者として不適当であるとされ、初の総括製造販売責任者(総責)の変更命令が出ています。
同社のサービス技術者が、医療機関に設置されたX線装置の保守点検等を実施する際に、構成部品が消耗や経年劣化で故障したと見せかけるための仕掛け(外付けタイマーで電力の供給を停止させる)を施し、当該構成部品を有償で交換するという不正行為を行っていました。
これを受け、熊本営業所が、医療機器修理業の許可に係る修理業務に対する業務改善命令を受けました。2023年9月、業界団体である一般社団法人 日本画像医療システム工業会(JIRA)は、同社への厳重注意を公表するとともに、同社社長等が務めていた理事2名の辞任を公表しています。
自社で製造販売する「インスリンポンプ 注入セット」について、副作用等報告義務の対象となる症例を含む外国医療機器の未入手の情報が相当数存在することを認識していました。しかし、これらの症例に係る副作用等報告に必要な更なる情報の入手を怠った結果、1,783件の外国不具合症例を、定められた期限内に報告しなかったことが指摘されています。
有効性・安全性への影響や健康被害が発生するおそれはないものとされましたが、併せて、安全確保業務を適正かつ円滑に遂行しうる能力を有する人員を十分に確保しなかったことが指摘されています。
化血研の件を受けて、2016年以降、医薬品の製造所等に対して無通告(抜き打ち)での査察を実施することになり、査察体制も強化されることになりました。
このような無通告査察により日医工の件も判明したと言え、特に問題の多発していたジェネリック医薬品等の製造に関する監視は相当に強化・改善されてきているとも言えます。
それでも、製薬業界においては、直近に至るまで同様な違反が断続的に発覚しています。その中でも、沢井製薬の事案では、初めて責任者の変更命令が出される事態となりました。
査察強化等に関しては、2021年の令和元年改正施行のタイミングで厚生労働省が対応を強化しています。概要は以下のとおりです[1]。なお、無通告査察は、医薬品に限らず医療機器についても行われています。
- 通知により、製造所への立入検査時に、製造規模に応じた品質管理体制が確保されているか確認を依頼
- 通知により、都道府県に対し無通告立入検査の回数増加を依頼
- 2021年7月上旬に後発医薬品製造所への一斉無通告立入検査を実施[2]
- 無通告立入検査ガイドラインの作成・周知
- 都道府県とPMDAの合同立入調査により都道府県の検査手法等の向上
- 行政処分基準の改正及び全国統一化
いわゆる「ディオバン事件」を背景に、日本の臨床研究に対する信頼が大きく損なわれたことを受け、臨床研究法が制定(2017年制定・翌年施行)されました。これにより、臨床研究における利益相反の管理が強化されました。
ノバルティスファーマ株式会社の高血圧症治療薬ディオバンに係る臨床試験において、データ解析等の業務を担当していた社員が、当該論文を広告に用いる目的でデータ操作等を行い、論文に掲載させていたことが判明しました。この問題は、試験結果の信頼性や研究者の利益相反行為等の観点から、2013年に社会問題化しました。
その結果、東京慈恵会医科大学、京都府立医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学が関連する論文が撤回されるという重大な結果となりました。
なお、ノバルティスファーマ株式会社は薬事法の誇大広告禁止規定違反の疑いで刑事告発されましたが、虚偽データを学術論文に記載させたこと自体は薬機法66条の虚偽誇大広告の違反には該当しない(66条に該当するためには特定の医薬品等の購入・処方等を促すための手段としてされたものであることが必要である)ものとして無罪が確定しています(最判令和3年6月28日刑集75巻7号666頁)。
武田薬品工業の高血圧症治療薬ブロプレスについて、既存の高血圧治療薬との比較において、心血管系疾患の発生に統計学的な有意差は認められていませんでした。しかし、一定期間経過後には差があるかのような誤解を招きかねない広告が行われたとして、薬機法66条の虚偽誇大広告に該当するものとされ、業務改善命令を受けました。
薬機法の虚偽誇大広告が問題となったディオバン事件・ブロプレス事件を受け、令和元年薬機法改正において課徴金制度が導入されました。未承認医薬品の広告(医薬品的効能効果を標榜して未承認薬の広告および販売を行い、警察に検挙されるケース)が多く問題となっていたこともその背景にあります。課徴金制度は、不正をした事業者からは収益を取り上げるべきという趣旨で設けられたものです。
さらに、厚生労働省により医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインが作成されました。
同ガイドラインでは、販売情報提供活動の資材等や販売情報提供活動自体の適切性等をモニタリングする部門(販売情報提供活動監督部門)を、販売情報提供活動の担当部門から独立した形で社内に設け、必要なモニタリングや監督指導を行うことが求められています。
また、自社から独立した社外者が含まれる審査・監督委員会を設け、必要な助言を行わせることを求めています。さらに、業務記録の作成として、営業社員が口頭で行った医療機関等への説明を含め、記録を残すことが求められています。
医療機器や体外診断用医薬品については、厚生労働省の定める「販売情報提供活動に関するガイドライン」の対象ではありません。しかし、上記の動きを受けて、各業界団体では、医療機器や体外診断用医薬品特有の事情等を踏まえ、自主ガイドラインを策定したり、プロモーションコードを改定したりしています。
近年、特に医療機器業界における贈収賄事案が頻発しています。直近でも東大病院の医師が株式会社日本エム・ディ・エムからの収賄容疑で逮捕されており、機器選定の見返りとしての奨学寄付や、研究費の私的流用が問題となっています。
近年の主な案件は以下のとおりです。
- 日本光電株式会社(2021年・医療機器業公正取引協議会から「厳重警告」・社員が贈賄罪で起訴)
- 小野薬品工業株式会社(2021年・日本製薬工業協会から「会員資格停止」・社員が贈賄罪で起訴)
- スター・ジャパン合同会社(2022年・医療機器業公正取引協議会から「厳重警告」)
- HOYA Technosurgical株式会社(2025年・医療機器業公正取引協議会から「厳重警告」・社員が贈賄罪で起訴)
- ゼオンメディカル株式会社(2024年・医療機器業公正取引協議会から「厳重警告」・元社長が贈賄罪で起訴)
それぞれの事例の詳細は、以下の記事をご覧ください。
こうした一連の不祥事を背景に、令和元年の薬機法改正では、許可等業者に対する法令遵守体制の整備が明確に義務付けられました。
法改正に至った背景には、近年の不正事例において、役員の法令遵守意識の欠如や、法令遵守に対する体制が構築されていないことが要因となっているものが散見されたことがあります。
特に、以下の類型が問題視されました。
また、薬機法上の責任者(総括製造販売責任者など)と、会社の経営陣(役員)との責任分担が曖昧で、「現場の責任者に任せきり」にする実態や、現場からの「意見が経営陣に通らない」という問題がありました。特に、必要な能力・経験を有する者を含む人員配置や、適切な予算・経営目標の設定は、経営陣(役員)が主導しなくては実現が難しいものです。
これらを解消するため、令和元年改正では、法令遵守を重視する統制環境の構築が求められました。そのうえで、許可等業者が策定し周知徹底した規範に基づいて業務を遂行し、業務の監督を通じて把握した問題点を踏まえて改善措置を行うという、法令遵守のためのプロセスを機能させることを求めています。
その一環として、「役員が自ら責任を持って法令遵守を主導する義務」や「総括製造販売責任者等(いわゆる三役)の意見を尊重し、必要な措置を行う義務(責任者の意見申述義務/会社の意見尊重・措置義務)」が法律上の義務として明記されました。
薬機法(第23条の2の15の2)および関連ガイドラインに基づき、薬事に関する業務(製造、販売、安全管理、コンプライアンス等を含む)を担当する「責任役員」は、法令を遵守して適正に業務が行われるための仕組み(法令遵守体制)の構築と、その適切な運用のためにリーダーシップを発揮することが求められます。法令遵守体制の構築に関する措置が不十分であると認められる場合は、改善命令(第72条の2の2)の対象となりえます。
「会社を代表する取締役」と「薬事に関する法令に関する業務を担当する取締役」が責任役員となります。指名・選任は必要なく、職務分掌に含まれていれば該当します。社長は必ず責任役員になるという点がポイントです。
なお、令和7年(2025年)の薬機法改正により、責任役員の変更命令が可能となりました。同時に、品質保証責任者・安全管理責任者の設置が法定化され、両責任者も変更命令の対象となっています(いずれも2年以内に施行)。
「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」(厚生労働省 令和3年1月29日)等の各種ガイドラインにより、法令遵守体制の整備を求める薬機法の規定の解釈、基本的考え方、検討すべき観点や体制の具体例が示されています。
しかし、「具体的に何をすればよいか」「何をすれば十分なのか」は示されていません。端的に言えば、製造販売業者等は、自社の業態や規模に応じて、自ら考え、必要な社内体制を決めて実行しなければならないのです。
この点について、「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」(厚生労働省 令和3年2月8日)Q1-3は、次のように述べています。
「各製造販売業者等が、薬事に関する法令を遵守して業務を行うために、どのような社内体制を構築すべきかについては、各製造販売業者等の業務内容、事業規模、役職員の状況、社内組織の状況等の様々な個別の事情により異なるものです。各製造販売業者等は、自社において法令等の違反が生じるリスクを評価し、そのような違反が生じないためにどのような対策を行うべきかを検討し、不断の改善を行うことが重要です。」
ガイドラインは、「法令遵守体制の基礎となるのは、製造販売業者等の全ての役職員に法令遵守を最優先して業務を行うという意識が根付いていることであり、こうした意識を浸透させるためには、責任役員が、あらゆる機会をとらえて、法令遵守を最優先した経営を行うというメッセージを発信するとともに、自ら法令遵守を徹底する姿勢を示すことが重要」というように基本となる考え方を示しています。
プロセスとしては以下の四つを示しており、これを実行し、絶えず見直し・改善することを求めています。
1.ルールの策定(法改正や監査結果に応じ、随時見直しが必要)
役職員が遵守すべきルールの社内規程による明確化
適正に業務を遂行するための意思決定の仕組みの決定
指揮命令権限を有する者、権限の範囲、業務手順等の明確化
2.周知徹底
1で策定した社内規程の内容周知、遵守の徹底
研修の実施、相談部署・窓口の設置など
人事評価の仕組みに反映(法令を遵守して業務を行うことを評価して動機づけ)
3.業務記録の作成(意思決定及び業務遂行が適正に行われたかを事後的に確認できるようにする)
業務記録が適時・正確に記録される体制の整備
情報セキュリティ対策の構築(事後的な記録の改変防止など)
4.モニタリング
重要会議体に業務遂行の状況が報告される仕組みの構築
独立性のある内部監査部門による監査
内部通報制度の整備
総括製造販売責任者等の専門的な責任者や品質管理部門だけでなく、役員(取締役)主導で、広告・宣伝を行う部門を含む会社全体で法令遵守を行う仕組みを構築し、運用することが求められています。
同時に、役員が「責任部署に任せている」として関与しないことを許さず、従業員だけでなく役員への教育研修の実施や、役員に対する監視・監督を行うことができる仕組みの構築も求められます。
従来の業法遵守と異なる難しさは、自社において法令等の違反が生じるリスクを評価し、そのような違反が生じないためにどのような対策を行うべきか、自ら考え、実行しなければならないことです。
コンプライアンス部門・管理部門が主導してルールを策定しようにも、「具体的にそこまでやるべきだという法規制があるのか」「他社はそこまでやっていないのではないか」などと反対を受けることもあるものと思います。
しかしながら、客観的に見れば、また他社の不祥事事例を参照すれば、自社のリスクとして認識すべきことや対策すべきことが明らかである場合は少なくありません。これを看過し、同様の不祥事が発覚した場合、会社は社会からの信用を失い、取り返しのつかないダメージを受けるおそれがあります。令和7年の薬機法改正により、責任役員の変更命令が可能となるなど、形式的ではなく実効的な統制の強化がますます求められています。
法律事務所ZeLoでは、法令遵守体制の整備のための実務的な法務対応を幅広くサポートしています。昨今の業界におけるリスクの高まりをふまえ、体制見直しをお考えの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
[1]厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課「後発医薬品等の製造管理及び品質管理について」(令和3年12月21日)
[2]厚生労働省 結果の概要の公表
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20779.htm(令和3年8月31日)
[3]厚生労働省 医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課「課徴金制度の導入について」(最終閲覧日:2026年3月5日)
[4]厚生労働省「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(平成30年(2018年)9月25日)
[5]厚生労働省「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について」(令和3年1月29日)