2025年薬機法改正の概要―薬局機能の強化等と改正の背景・ポイント
弁護士、ヘルスケア部門統括
早乙女 明弘
令和7年(2025年)12月26日、厚生労働省医政局医事課長、同健康・生活衛生局生活衛生課長および経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課長の連名で、「美容所等におけるアートメイク施術について」と題する通知(以下「本通知」といいます。)が発出されました。アートメイク施術の適法性や無資格者による施術の問題については、これまでも厚生労働省から通知が出されてきました。本通知は、その内容から、国が無資格者によるアートメイク施術等に対し、従来の注意喚起を超え、警察とも連携した実質的な取締り強化へ舵を切ったものと考えられます。本記事では、これまでの通知等の内容を踏まえつつ、本通知の法的な位置づけと意義、医療機関等に求められる実務上の対応について解説します。
目次
アートメイクとは、本通知および令和7年8月15日付厚生労働省医政局長「美容医療に関する取扱いについて」によれば、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為のうち、施術箇所に本来存在しうる人体の構造物(眉毛、毛髪、乳輪・乳頭等)を描く行為及び化粧に代替しうる装飾(アイライン、チーク、リップ等)を描く行為」と定義されています。
アートメイクは、通常のメイクと異なり、施術後、新陳代謝、ターンオーバーにより数年かけて徐々に色が薄くなっていく点が特徴です。汗や洗顔で「落ちないメイク」と評されることもあります。
デザイン性が求められることもあり、医師の指示・監督等のもと、看護師が施術者となることが一般的です。
医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。
ここでいう「医業」とは、「医行為」を「業として」行うことを意味しますので、アートメイクが「医行為」に該当する場合、医師免許を持たない者がこれを業として行えば、医師法第17条違反となり、刑事罰の対象となります(医師法第31条第1項1号)。また、実際に患者に健康被害等が生じた場合は、業務上過失致死傷罪(刑法第211条)が成立する可能性があります。
ここで「医行為」の意義が問題となりますが、最高裁令和2年(2020年)9月16 日決定(最高裁判所刑事判例集74巻6号581頁、以下「令和2年最高裁決定」といいます。)は、医行為を、「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と定義づけています。
令和2年最高裁決定で医行為該当性が問題とされたのは、彫り師によるタトゥー施術行為であり、タトゥー施術行為は医行為に該当しないと結論付けられました。
令和2年最高裁決定を受け、タトゥー施術と同様、針で皮膚に色素を入れるアートメイクも医行為には該当せず、医師免許不要でできるのではないか、という解釈が生じることとなりました。
しかし、厚生労働科学特別研究事業分担研究報告書「タトゥー行為をめぐる最高裁判決を踏まえた医師法17条の運用等に関する検討」(分担代表者 佐伯 仁志、分担研究者 米村 滋人)による整理によれば、令和2年最高裁決定において、タトゥー施術行為が「医行為」でないと判示された根拠事情のうち、最も重要かつ本質的な点は、「タトゥーは、歴史的に、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があること」にあるとしました。そのうえで、「すなわち、タトゥーの担い手は歴史的に医療の外に置かれてきたものであり、そのこと自体が、タトゥーの社会的な位置づけを示すものとして理解されうる」としています。
一方、アートメイクについては、医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態があり、「一定の侵襲性が認められることや、医療従事者による安全性水準の確保がきわめて重要と考えられること」から、医行為該当性が肯定できるものと考えられる、と示されています。そこから、厚生労働省等は、アートメイクは実務上、医行為該当性が認められるということを前提に取締りを行っています。
なお、これにより、タトゥー施術行為とアートメイクの違いを明確にしておく必要が生じます。
タトゥー施術行為の定義については、一般社団法人日本タトゥーイスト協会が示しています。これによれば、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為のうち、美術的な目的で、絵画、文字、記号、文様等を描く行為(施術箇所に本来存在しうる人体の構造物(眉毛、毛髪、乳輪・乳頭等)を描く行為及び化粧に代替しうる装飾(アイライン、チーク、リップ等)を描く行為を除く。)をいう。」とされています。
これは、①タトゥーが美術的な目的でなされることを施術されるものであることを明らかにするとともに、②前述の「アートメイクの定義と実態」で述べたアートメイクの定義を除き、アートメイクがタトゥー施術に該当しないことを明確にする形で整理されたものとなっていますが、実際には両者の境界は必ずしも明確でなく、判断が微妙となる場面も生じうると考えられます。
アートメイクに関して、これまで厚生労働省が発出してきた主な通知は以下のとおりです。
1. 令和5年(2023年)7月3日「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」(以下「令和5年通知」といいます。)
令和5年通知は、厚生労働科学特別研究事業における検討を踏まえ、医師免許を有しない者が、針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れて、
(1) 眉毛を描く行為
(2) アイラインを描く行為
については、医行為に該当し、医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反するものと思料する、との判断を示しています。
2.令和7年(2025年)8月15日「美容医療に関する取扱いについて」(以下「令和7年8月通知」といいます。)
令和7年8月通知は、アートメイクに限らず、ハイフ(HIFU)や脱毛なども含めた美容医療全般に関する違法事例への対処方針を示したものです。アートメイクに関しても以下のように具体的に記載されています。
第1 医師法等の関係法令の解釈について
1.いわゆるカウンセラー等の無資格者による診断等
(1)(2)略
(3)違法な例
以下に示す各行為は、無資格者が業として行えば医師法第17条に違反する。ア (略)いわゆるアートメイク(略)等の医行為。
なお、いわゆるアートメイクに関して、針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為のうち、施術箇所に本来存在しうる人体の構造物(眉毛、毛髪、乳輪・乳頭等)を描く行為及び化粧に代替しうる装飾(アイライン、チーク、リップ等)を描く行為は、医行為に該当するものである。そのため、例えば、「○○メイク」「○○タトゥー」といった「アートメイク」以外の名称で提供されていたとしても、かかる行為に該当するものは医行為に該当する。
2.看護師等のみによる治療行為等
(1)略
(2)医師法第17条、保助看法第37条との関係
看護師等が、診察等を行い、これにより得られた患者の様々な情報から、治療方針等について、主体的に判断を行い、これを伝達したり、医師の指示なく診療の補助や治療行為を行った場合には、医師法第17条や保助看法第37条に違反する可能性がある。
(3)違法な例
以下に示すものは、医師法第17条や保助看法第37条に違反する。
ア 看護師等が、医師の指示なく、脱毛行為等、いわゆるアートメイク、HIFU施術等の医行為を行うこと。
イ 看護師等が、医学的判断を伴う行為である診察を行うこと。
ウ 看護師等が、具体的な治療方法を選択して患者に対して提案し、又は決定するなど、患者の個別の状況に応じて医学的な判断を行い、これを伝達すること。
令和2年最高裁決定後、医行為該当性が否定される「タトゥー施術」であると称しながらも、実際はアートメイクの施術であるといった行為が散見されていました。これに対して、令和7年8月通知は、名称の如何にかかわらず、実態としてアートメイクと同等の行為であれば医行為に該当するという点を明確にしています。
加えて、上記のとおり、医師の診察や指示がなく、看護師の関与のみで施術が完結するような事例に対しても注意を促しています。
また、上記に違反する疑いがあると認められる場合、以下のとおり保健所等が病院等に対する立入検査を行うことや、警察等捜査機関への相談告発を行うことを促しています。
第2 病院等に対する対応について
1.保健所等による立入検査等
(1)医師法や保助看法違反について
患者等からの情報提供に基づき、病院等において、第1の1から4までに記載した医師法違反や保助看法違反に該当する行為が行われ、病院等の管理者が医療法第15条に基づく監督義務を果たせていない疑いがあると認めるときは、保健所等は同法第25条第2項に基づき立入検査等を行うことが可能である。2.(略)
3.警察等捜査機関への相談告発
上記1の立入検査等を行った場合も含め、上述の医師法や保助看法違反に該当する行為や、医療法上の刑事罰に該当する行為を確認し、犯罪があると思料するときは、刑事訴訟法第239条の規定等を踏まえ、当該事実について、警察等捜査機関に相談・告発することとされたい。
本通知は、以下のとおり、アートメイクが医行為に該当する旨の従来の解釈を変更するものではありません。
アートメイクの施術については、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であり、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反するものであることは既に示しているところである。
他方、令和7年8月通知と比較して、エステサロンや美容院等、医療機関以外の場所で実施されているアートメイクについて、取締りを強化していくメッセージを打ち出した内容となっています。
また、以下のとおり、警察庁と連携していることを明記しているなど、特に刑事告発を念頭に置いた通知内容となっています。
違反行為に関する情報に接した際には、実態を調査した上、当該行為の速やかな停止を勧告する等必要な指導を行うほか、指導を行っても改善がみられないなど、悪質な場合においては、刑事訴訟法第239条の規定に基づく告発を念頭に置きつつ、警察と適切な連携を図られたい。
なお、本通知については、警察庁へ図り、内容について承知された上でお示ししているものであること、犯罪の成否は捜査機関によって収集された証拠に基づいて、裁判所が最終的に判断するものであることを申し添える。
なお、刑事訴訟法第239条は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めています。
本通知により、違法なアートメイクを行っている事業者等に対して、行政機関(保健所等)が警察へ告発する現実的可能性が一層高まっています。また、利用者(患者)や競合他社、従業員等から警察への告発がなされる可能性もあります。
本通知は、アートメイク施術におけるコンプライアンスの重要性を決定づけるものといえます。現在アートメイクに関与している医療機関および美容サロン等の事業者は、この機会に、上記の各通知の内容を踏まえて自社の運営体制を見直す必要があります。
アートメイク施術に限らず、美容医療業界は現在、全体として規制強化の方向に進んでいます。
令和6年(2024年)11月22日付「美容医療の適切な実施に関する検討会報告書」において、現状の美容医療の運営には、医療安全の確保、不適切な契約、誇大広告などの問題点があることが指摘されました。
当該報告書を踏まえて令和7年(2025年)12月5日に成立した改正医療法では、美容医療を行う医療機関に対する定期報告義務などが新たに課せられることとなります。
上記から明らかなとおり、美容医療は、単に「医師が施術すればよい」といった医行為の論点にとどまりません。
例えば、集客のための広告は医療法、医療広告ガイドライン等に定める広告規制を遵守しているか、契約締結のプロセスは説明義務、特定商取引法、消費者契約法等に違反していないか、看護師等のスタッフへの指示体制は適切か(保助看法違反のリスク)、医療法上の報告体制は整っているかといった問題があります。
そのほか、SNS等での炎上対応、医療事故時の対応を含めた危機管理に関する問題など、複合的な法的課題が存在します。加えて、最新の法改正や通知をキャッチアップしていくことも重要です。
法律事務所ZeLoでは、ビジネスモデルの設計支援、医療法人の業務運営、医療広告をはじめとした規制対応、各種契約書・同意書等の作成、労務対応および医療訴訟など、各種法律問題をワンストップで対応します。
アートメイクや美容医療の事業に関する法律面でのご相談や、当該医療機関との協業・提携を検討している方は、どうぞお気軽にご連絡ください。