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インドネシア政府系投資ファンド「ダナンタラ(Danantara)」について

2025年2月、インドネシアでは国営企業法(SOE法)の画期的な改正が施行され、同国の国営企業のガバナンスと今後の方向性において重要な転機を迎えました。今回の改革では、国営企業の定義、規制、運営方法に大幅な変更が導入され、その中でも最も注目される成果の一つが、国家が全額出資しているインドネシアの新たな政府系ファンド「ダナンタラ(Danantara)」の設立です。改正法は、国営企業の役割を時代にあったものとし、透明性と効率性を向上させ、各事業活動と国家によるコントロールの分離を図りつつ、国の資産を、より戦略的な投資の枠組みの下に集約することを目的としています。

インドネシア政府系投資ファンド「ダナンタラ(Danantara)」について
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PROFILE
フィエスタ ヴィクトリア

インドネシア法弁護士

フィエスタ ヴィクトリア

2006年ペリタ・ハラパン大学卒業。2019年法律事務所ZeLo参画。 主な取扱分野はM&A、ジェネラルコーポレート、人事労務、フィンテックなど。 インドネシア統一弁護士会PERADIのプロフェッショナル会員であり、執筆も数多く手掛けている。ALB Women in Law Awards 2021 - Business Development Lawyer of the Year を受賞。

2012年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2014年弁護士登録(東京弁護士会所属)。都内の企業法務系法律事務所において勤務後、2023年1月、シンガポールの大手法律事務所であるRajah&Tann Singapore LLP.へ出向。2024年6月ZeLo参画。主な取扱分野は、M&A(国内・クロスボーダー)、ジェネラルコーポレート、コーポレート・ファイナンス、不動産ファイナンスなど。スタートアップ企業から上場企業まで幅広くアドバイスを行う。

ダナンタラ(Danantara)とは何か?

2025年2月、インドネシアでは国営企業法の改正法(2003年法19号国営企業法の第三改正にかかる2025年法第1号、以下「改正国営企業法」といいます。)が施行され、国営企業の規制や将来のあり方に大きな転換がなされました。

改正国営企業法の最も大きなポイントが、インドネシアのソブリン・ウェルス・ファンド(投資運用機関)である「ダナンタラ(Danantara)」の導入です。ダナンタラは 2025年2月24日に発足しました。名前の「Danantara」とは、Daya Anagata Nusantara の略で、Daya は「力、パワー、エネルギー」、Anagata は「未来」、Nusantara は「インドネシア群島」を意味します。すなわち、インドネシアの強さや将来の可能性を表した名称となっています。

ダナンタラは、シンガポールの政府系投資会社であるTemasekをモデルにしていると報道されています。シンガポールのTemasekは、DBS銀行、シンガポール航空やMedia Corp.といった名だたる大企業の株式を保有し、その配当を原資に、シンガポール内外の産業に投資することで著しい経済成長を支えてきました。ダナンタラも同様に、国営企業の資産のマネジメントと最適化を行いつつ、国営企業の株式配当を原資として、様々な国家プロジェクトに投資することが見込まれています。ジョコ・ウィドド前大統領が設立した、既存のソブリン・ウェルス・ファンドであるインドネシア投資庁(INA)と類似の役割を担いますが、ダナンタラはさらに幅広い権限を有し、特定の資産をマネジメントするだけでなく、各省庁に分散している政府資産を統合し、効率的かつ一体的に運用することを目指しています。

ダナンタラの役割と機能

ダナンタラは「ソブリン・ウェルス・ファンド」「開発投資」「資産運用」という三本柱を持ち、国家予算外の国営企業やその他の資産のマネジメント・最適化を行います。

プラボウォ・スビアント大統領は、緊縮財政策の一環として、各省庁・機関の予算を削減した分のうち200億米ドルを、当初の資産としてダナンタラに配分するとしています。再生可能エネルギー、人工知能(AI)開発、先端製造業、川下産業、食料生産や食料安全保障など、持続可能かつ高い影響力を持つプロジェクトへの投資を、ダナンタラは計画しています。

ダナンタラによりもたらされる変化

  • 投資マネジメントの一元化:国営企業の資産をマネジメント・最適化
  • 国営企業管理の再編:2025年3月までにすべての国営企業の管理を引き継ぐ
  • 国営企業省の政策対応へのシフト:国営企業省は国営企業資産に関する政策や規制機能に注力し、ダナンタラが国営企業資産への投資管理を行う

最初の段階では、ダナンタラは、以下の7つの国営企業の管理を引き継ぐ計画です:

  • PT Bank Mandiri (Persero) Tbk:インドネシア最大の銀行
  • PT Bank Rakyat Indonesia (Persero) Tbk:マイクロファイナンスや中小零細企業(MSME)向けに注力する大手銀行
  • PT PLN (Persero):国営電力会社
  • PT Pertamina (Persero):国営石油・ガス会社
  • PT Bank Negara Indonesia (Persero) Tbk:国営商業銀行
  • PT Telkom Indonesia (Persero) Tbk:国営通信コングロマリット
  • PT Mineral Industri Indonesia (Persero) / MIND ID:アルミニウム、金、石炭、ボーキサイト、ニッケル鉱石、銅などに事業を展開する完全国営鉱業会社

これにより、ダナンタラの総資産ポートフォリオは、約9,000億米ドルに達し、世界最大級のソブリン・ウェルス・ファンドとなる見込みです。

また、財務省傘下のINAや、その他の特別目的会社も、広範な統合戦略の一環としてダナンタラに統合される予定であり、主要な関係者と調整が進められています。

透明性と効果的なガバナンスを確保するため、ダナンタラは上場企業に類似した構造で運営されることとなっており、投資戦略・運営を指導するために、レイ・ダリオやジェフリー・サックスといった著名な国際顧問を招聘しています。

まとめ:インドネシア国営企業における変革

改正国営企業法は、国営企業を再定義し、それを国家から法的に切り離し、ダナンタラを通じて資産マネジメントを効率化するという、大規模な構造的変化をもたらすこととなりました。しかし、そのガバナンスや、政治的介入の可能性については懸念も示されています。例えば、マレーシアの1MDBファンドの問題を引き合いに、透明性や不正管理のリスクを指摘する者もいます。ダナンタラの成功は、厳格なガバナンス基準を維持し、政治的圧力に屈することなく、実質的な経済的利益をもたらせるか、にかかっているといえます。

インドネシアの国営企業と取引を行う企業は、以下を考慮する必要があります:

  • 取引先が、改正国営企業法で拡張された「国営企業」の定義に該当するかの確認
  • 「国営企業」に該当する場合、当該取引先が新たなコンプライアンス要件(政府への報告義務など)への対応が必要かを考慮
  • ダナンタラの役割や投資戦略の変化を注視

法律事務所ZeLoでは、日本企業のインドネシア進出や、外国企業の日本市場参入を支援するリーガルサービスを提供しています。本件に関しご質問やご支援が必要な場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


免責事項

本記事は、原文である英語記事「Indonesia’s State-Owned Enterprise (SOE) Reform and the Launch of Danantara: What You Need to Know」の翻訳であり、英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。本記事の情報は、法的助言を構成するものではなく、そのような助言をする意図もないものであって、一般的な情報提供のみを目的とするものです。読者におかれましては、特定の法的事項に関して助言を得たい場合、弁護士にご連絡をお願い申し上げます。

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