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【速報】公正取引委員会、ライバー事務所4社に注意:契約終了後の活動制限は独禁法違反のおそれ

公正取引委員会(公取委)は、2025年12月9日、ライバー事務所4社に対して独占禁止法(独禁法)第19条(不公正な取引方法第12項(拘束条件付取引)又は第14項(競争者に対する取引妨害))の規定の違反につながるおそれがあるものとして注意を行いました。本記事では、本件の概要と実務への影響を、過去に公表されている実態調査報告書や指針も踏まえて解説します。

【速報】公正取引委員会、ライバー事務所4社に注意:契約終了後の活動制限は独禁法違反のおそれ
GENERAL-CORPORATE
PROFILE

2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験合格。2018年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年西村あさひ法律事務所入所。2022年7月、法律事務所ZeLo参画。スタートアップファイナンスやストックオプションの設計・発行を含む、スタートアップ企業に対する包括的な支援を強みとしつつ、M&A案件、競争法が問題となる案件などにも携わる。また、地球温暖化・気候変動といった環境問題に対する取組み、ビジネスと人権の理解促進といったテーマに関心を有する。

概要:ライブ配信業界における競業避止義務等の問題

公取委は、2025年12月9日、ライブ配信プラットフォーム「Pococha」において取引額が上位のライバー事務所である株式会社AEGIS GROUP、株式会社Colors、株式会社321及び株式会社WASABIの4社に対し、独禁法に違反するおそれがある行為について注意を行いました。(参考:(令和7年12月9日)ライバー事務所を運営する事業者に対する注意について

問題とされた行為

4社は所属ライバーとのマネジメント契約において、合理的な理由がないにもかかわらず、ライバーの移籍や独立を牽制する目的で、契約終了後一定期間の事業活動を制限する規定を設けていました。具体的な制限は以下の全部又は一部とされています。

  1. ライブ配信活動を行うことの禁止
  2. 他のライバー事務所との間でマネジメント契約を締結することの禁止
  3. 自社と同種の事業を営むことの禁止

独禁法上の問題点

これらの制限は、営業秘密等の漏えい防止に必要な合理的な必要性かつ手段の相当性が認められないにもかかわらず、契約終了後の活動を制限するものであり、他のライバー事務所や新たに立ち上げるライバー事務所の取引機会を減少させ、ライバー事務所間の公正かつ自由な競争に影響を与えるおそれがあるとされています。

以上より、不公正な取引方法のうち、拘束条件付取引又は競争者に対する取引妨害の規定の違反につながるおそれがあるとして、このような状態を未然に防止する観点から注意が行われ、4社は、本件審査の過程で制限内容を見直す旨を申し出たとされています。

公取委の競争政策:芸能分野の取引適正化

今回の注意は、公取委がクリエイター個人の創造性発揮を支援するために進めてきた、芸能分野の取引適正化に向けた継続的な取組みの一環として位置づけられます。

「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」(2024年12月公表)

公取委は、アニメ・音楽・放送番組・映画・ゲーム・漫画といったコンテンツの競争力の源泉がクリエイター個人に移りつつあるという認識に基づき、2024年12月に「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」を公表しました(参考:(令和6年12月26日)音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査 (クリエイター支援のための取引適正化に向けた実態調査)について)。

この報告書では、実演家と芸能事務所の取引をはじめとして、独禁法上又は競争政策上問題となり得る行為が整理されました。

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(2025年9月策定)

公取委は、上記実態調査の結果を踏まえ、2025年9月に内閣官房との連名で「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を策定しました(参考:(令和7年9月30日)「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」の公表について)。

この指針は、以下の点に鑑み、原則として、契約上、競業避止義務等を規定しないこと(既存の契約で定められている場合は競業避止義務等を定める条項を削除すること)を求めています。

  • 不利益の大きさ:競業避止義務等は実演家の事業活動を直接制約し、その自由かつ自主的な判断による取引・活動を阻害するため、不利益の程度は相当に大きい
  • 目的:営業秘密等の漏えい防止という目的の達成のために合理的な必要性かつ手段の相当性が認められる範囲であれば競争促進効果を有し得るが、芸能分野においては、基本的に実演家は実演のみを行い、芸能事務所の運営そのものに関わることがないため、実演家が営業秘密等を知ることは例外的であり、そもそも競業避止義務等を課す必要性・相当性が認められない可能性が高い
  • 代替手段:実演家が営業秘密等を知っている例外的な場合においては、営業秘密等の漏えいを直接的に禁止することができる秘密保持契約の締結を検討すべきである

実務への影響と対応策

今回の注意は、報告書や指針において問題となり得るとされていた行為に対してなされたものであり、公取委が具体的な事案に積極的に対処していく姿勢の表れと考えられます。
今回問題視された行為にとどまらず、その他の問題となり得る行為に対しても、今後、注意等がされる可能性は否定できません。以上を踏まえ、芸能事務所等は、以下のような点に留意して対応する必要があるといえます。

  • 競業避止義務等の契約条項の見直し
    • ライバー事務所を含む芸能事務所は、今回問題となった契約終了後の競業避止義務等を定めている場合には、速やかに削除・見直しを行う必要があります。
  • 幅広な現状整理と必要な対応の検討:
    • 報告書や指針を参照し、問題となり得る類型の行為をしていないか、現状を整理する
    • 万一、当該行為があった場合には、中止する又は契約内容の削除・見直しを行う等の是正をする
    • 社内研修による周知・徹底を含め、社内のコンプライアンス意識を深化させる

法律事務所ZeLoでは、独占禁止法に関する経験豊富な弁護士が、貴社のご状況や近時の動向に鑑み、適切にご支援いたします。弁護士による社内研修の実施等も可能ですので、下記ページのお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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