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【速報】改正公益通報者保護法が成立:背景・改正ポイントと企業への影響

2025年6月4日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」が国会で可決・成立しました。内部通報制度の中核を成す本法律は、通報者の保護と企業の法令遵守体制の確保を目的として2004年に制定され、これまでに複数回の改正を経てきました。今回の改正は、前回(2020年改正・2022年施行)後も依然として続いていた制度運用上の課題に対応するものであり、国内外の動向を踏まえて制度の実効性強化を目的とした内容となっています。本記事では、同法の改正概要や要点を解説しつつ、企業に求められる対応について解説します。

【速報】改正公益通報者保護法が成立:背景・改正ポイントと企業への影響
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PROFILE
野村 諭

弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括

野村 諭

1997年東京大学法学部卒業、2000年弁護士登録(東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLoに参画。主な取扱分野は、ジェネラルコーポレート、投資案件、スタートアップ支援、ファイナンス、不動産、金融その他の規制法対応など。国内案件のほか、海外案件・英文契約の案件などについても、多数対応している。

澤田 雄介

弁護士、危機管理・不祥事統括

澤田 雄介

2011年京都大学法学部卒業、2013年慶應義塾大学法科大学院修了。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2021年9月法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、訴訟・紛争解決、危機管理、M&A・組織再編、ジェネラルコーポレート・ガバナンス、人事労務、ベンチャー・スタートアップなど。

改正公益通報者保護法の概要

2025年6月4日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」が国会で可決・成立しました。公益通報者保護法(いわゆる内部通報制度に関する法律)は、2004年に制定され、直近では2020年6月に行われた大きな改正が2022年6月に施行されています。しかし、その施行後も、同法に基づく従業者指定義務を負う非上場の事業者の中には、義務を認識していながら義務を履行していない事業者が一定数存在するなど義務を履行する意識が低い事業者が存在していました。また、内部通報制度の実効性にも課題が残っていました。例えば「社内の法令違反を認識しつつ通報しない」「せっかく有益な通報があっても会社側が適切な調査を行わない」「通報者に対して報復的な不利益取扱いをする」といった事例が見られました。実際、企業から公表された不祥事に関する第三者委員会等の調査報告書でも、内部通報窓口の認知率の低さや通報件数の少なさが内部通報制度の実効性を阻害する課題として指摘されていました。

こうした国内での課題や欧米における内部通報保護強化の動きを踏まえ、2024年には有識者検討会が設置されて制度の見直しが議論されました。その報告書を基に今回の改正が立案されており、改正法の内容は既存制度の実効性を高めることに主眼が置かれています。これは公益通報者保護法の目的である「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護」に資する企業法令遵守の実現やそもそもの内部通報制度の目的である不正行為その他コンプライアンスに反する又はそのおそれのある行為を早期に発見することにつながる一方、企業の事業運営にも大きな影響を及ぼします。

改正の主なポイント

今回の改正は、大きく分けて「①内部通報体制の整備徹底と実効性向上」「②公益通報者の範囲拡大」「③通報を阻害する行為への対処」「④不利益取扱いの抑止・救済強化」の4点が柱となっています。企業の法務・コンプライアンス担当者が特に注目すべき主要改正ポイントを以下にまとめます。

内部通報対応体制の強化(従事者指定義務違反への措置強化)

改正法は、従業員300人超の事業者に課されている内部通報対応体制の整備義務について、その履行確保のための行政権限を大幅に強化しました。具体的には、各社は、内部通報対応業務を担当する「公益通報対応従事者」を選任・指定する義務(従事者指定義務)がありますが、違反企業に対して消費者庁長官が是正を命令できる権限(改正法第15条の2)が新設されました。命令に従わない場合は30万円以下の罰金(法人と責任者双方が処罰対象となる両罰規定)が科されます。また消費者庁に対しては、企業に対する報告徴収や立入検査権限が新たに付与され(改正法第16条)、報告拒否・虚偽報告や検査拒否に対しても30万円以下の罰金(両罰規定)が科されることになりました。さらに改正法は、内部通報制度の実効性を高めるため従業員等への通報制度の周知義務を法律上に明記しています(改正法第11条第2項)。周知徹底自体に直接の罰則はありませんが、これも体制整備義務の一環として重要です。

公益通報者の範囲拡大(フリーランス等の保護対象化)

改正法では、内部通報制度の保護対象となる「公益通報者」の範囲が拡大されました。現行法でも労働者や派遣社員、役員、退職後1年以内の元従業員などが保護対象でしたが、新たにフリーランス(個人事業主)が追加されています。具体的には、事業者と業務委託契約を結んで業務を行う個人(フリーランス)と、契約終了後1年以内のフリーランスが公益通報者として法律上明記されました(改正法第2条第1項第4号)。これにより、企業はフリーランスから内部通報や行政通報を受けた場合にも、その人物を正社員同様に保護対象として扱わなければならないことになります。例えばフリーランスと締結した業務委託契約について、当該フリーランスが公益通報を行ったことを理由に一方的に契約解除したり報酬支払いを止めたり、といった不利益取扱いは禁止されます。今回の拡大は、2023年制定のフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)で定義されるフリーランスを引用しており、近年増加する個人事業主等の保護を図ったものです。

通報を妨げる行為の禁止(通報妨害・通報者探索禁止の明文化)

内部通報制度が機能不全に陥る一因として、通報しづらい職場環境の問題が指摘されてきました。今回の改正では、従業員等が公益通報を行うことを事前に抑制・妨害する行為自体を禁止する規定が新設されています。例えば会社が労働者に対し「社外に通報しない」との約束をさせたり、就業規則で内部通報を制限したりするような措置は「通報妨害行為」として無効になります(改正法第11条の2)。この規定に違反して締結された合意は法律上無効とされ、たとえ秘密保持契約の形を取っていても公益通報を妨げる内容であれば効力を持ちません。また、事業者が正当な理由なく通報者を特定しようと調査する行為も禁止されました(改正法第11条の3)。「通報者探し」をして報告者を割り出そうとすることは、新たに明確に禁じられることになり、従来ガイドラインで求められていた配慮事項が法的義務に格上げされた形です。これらの規定に直接の罰則は設けられていませんが、万一違反が発覚した場合には行政当局から是正指導・勧告等を受ける可能性があり、企業として遵守すべき重要なポイントです。

不利益取扱いに対する抑止・救済措置の強化

改正法は、内部通報者に対する解雇・懲戒などの報復的な不利益取扱いを防止し、救済するための規定も強化しています。まず民事上の救済強化として、通報後1年以内(事業者が外部通報を認知した場合は認知日から1年以内)に行われた解雇・懲戒処分については、「公益通報を理由とするもの」と法律上推定されることになりました(改正法第3条第3項)。つまり、通報者が解雇無効等を訴えた際には会社側が「その解雇・懲戒は通報と無関係である」ことを立証しなければならず、従来よりも企業側に不利な立証責任が課されることになります。さらに刑事上の制裁として、公益通報を理由に労働者を解雇または懲戒した場合に科罰を与える直罰規定が新設されました。具体的には、違反行為者(責任者個人)は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処せられ、法人に対しても最大3,000万円以下の罰金刑が科されます(改正法第21条第1項、第23条)。行政手続きを経ずに直接刑事罰を科すという強い抑止策であり、企業にとってコンプライアンス上見逃せない変更点です。また、一般職の国家公務員等についても同様に公益通報を理由とする不利益取扱い禁止と直罰規定の適用が定められており、公務部門も含めた社会全体で内部通報者保護を徹底する姿勢が示されています。

企業に求められる対応と実務上の留意点

改正公益通報者保護法は公布日である2025年6月11日から1年6か月以内に施行されることとされ、遅くとも2026年末までには新たな規律が実際に適用され始めます。企業の法務・コンプライアンス担当者は、このリードタイムを活用して自社の内部通報制度を総点検し、必要な対応策を講じることが求められます。以下、実務対応上の主なポイントを整理します。

内部通報制度の整備・見直し

自社の内部通報対応規程やフローを改めて確認し、法定指針(内部通報制度のガイドライン)の要求事項を満たしているか点検しましょう。特に従業員300人を超える企業では、公益通報対応従事者の選任義務を確実に履行し、その氏名や連絡先を含めて社内外に周知しているか再確認が必要です。300人以下の中小企業でも努力義務とはいえ、内部通報窓口の整備はリスク管理上欠かせません。内部通報対応者が形だけの存在になっていないか、通報受付から調査・是正措置まで適切に機能する体制となっているかを点検し、不備があれば早期に補強します。

就業規則・契約類のチェック

改正法への適合性について、自社の就業規則、誓約書、労働契約書、業務委託契約書などを総点検しましょう。例えば、従業員や外部委託先との契約において公益通報を制限するような条項が含まれていないか確認が必要です(仮に含まれていても改正法施行後は無効になります)。また、取引先のフリーランスとの契約条件も見直し、契約解除条項等が通報者への不利益取扱いとみなされる恐れがないか点検してください。必要に応じて契約書のひな型修正や就業規則への内部通報制度に関する明記などの対応を検討しましょう。

従業員・関係者への教育と周知

改正内容を踏まえ、社内研修や通知を通じて経営層や管理職、従業員全体に対し内部通報制度の趣旨と具体的運用を再周知することが重要です。特に、報復的な不利益取扱いは禁止され刑事罰のリスクがあることを管理職に認識させ、通報者への適切な対応(例えば人事考課で不利益を与えない等)を徹底しましょう。また、内部通報窓口の存在や利用方法、通報者の保護内容については新入社員や従業員に定期的に案内し、心理的安全性の高い職場風土を醸成することが望まれます。フリーランス等の外部協力者にも必要に応じて通報窓口を開放したり、契約時に通報制度の案内資料を共有したりするなど、誰もが安心して声を上げられる環境づくりを心がけましょう。

行政対応への備え

改正法施行後は消費者庁による立入検査や報告徴収が実施される可能性があります。日頃から内部通報に関する社内記録や対応状況を適切に整理・保存し、万一当局から問い合わせや立入検査があっても迅速に対応できるよう準備しておくことが大切です。内部通報対応者やコンプライアンス責任者は、行政勧告や命令への対応手順もあらかじめ検討しておきましょう。仮に消費者庁から是正勧告を受けた場合は真摯に受け止め、改善計画を速やかに策定・実行することで刑事罰のリスク回避に努める必要があります。日頃から自主点検を行い、行政措置を受ける事態そのものを未然防止するのが理想です。

施行までのスケジュール管理

改正法の施行日までに、消費者庁は法定指針の見直し作業を速やかに進める方針であり、経済団体からの意見聴取やパブリックコメントを経て、具体的な運用指針の改訂が行われる予定です。現時点では大幅な指針改定は予定されていないものの、周知義務の具体例や不利益取扱い禁止の留意事項など、実務に影響するポイントの明確化が図られる見通しです。企業担当者は最新情報のアップデートに留意し、改訂指針の内容も踏まえて2026年までに万全の体制整備を完了できるよう逆算したスケジュールで準備を進めましょう。

自社の内部通報制度の運用は専門家にご相談を

改正公益通報者保護法は、日本企業の内部通報制度に対する法的要請を一段と引き上げるものであり、企業にとってチャレンジであると同時にコンプライアンス経営を強化する好機でもあります。社内の不正や法令違反をいち早く是正するためには、従業員や業務委託先などが安心して声を上げられる環境づくりが不可欠です。

今回の改正を前向きに捉え、内部通報制度の整備・運用を見直すことは、法令遵守のみならず企業の信用力向上にもつながるでしょう。施行までの準備期間を有効に使い、必要な社内体制の強化と意識改革に取り組むことで、「違反を見逃さない企業文化」を醸成することが期待されます。改正法の施行後も継続的に制度の運用状況をチェックし、必要に応じて専門家の助言も得ながら、自社のコンプライアンス水準を高めていきましょう。改正公益通報者保護法への的確な対応を通じて、企業にとっても従業員にとっても安全・健全な職場環境を実現する一助となることが望まれます。

法律事務所ZeLoでは、法律事務所ZeLoでは、内部通報制度の社外窓口を受任し、一貫しての通報対応・事実確認などを行っています。また、導入前のご相談や、社内研修を実施しています。

内部通報制度の整備・運用に関してお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。


参考資料:

【速報】改正公益通報者保護法が成立:背景・改正ポイントと企業への影響

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