【東証出身弁護士×危機管理専門の弁護士が解説】オルツ社の会計不正に伴う上場廃止に関する考察
弁護士、IPO部門統括
伊東 祐介
弁護士、危機管理・不祥事統括
澤田 雄介
企業不祥事の早期発見と再発防止に不可欠な「内部通報制度(内部通報体制)」は、近年、上場審査やコーポレートガバナンスの観点からも重要性が急速に高まっています。しかし、「制度はあるが機能していない」「何から整備すべきかわからない」という企業も少なくありません。本記事では、内部通報導入の意義を押さえたうえで、関連する法規制と体制構築の流れ、運用上の課題と対応例、弁護士などの外部専門家を活用するポイントまで、初心者向けにわかりやすく解説します。
目次
2025年7月28日付で、株式会社オルツ(以下「オルツ社」といいます。)が「第三者委員会の調査報告書(公表版)公表に関するお知らせ」を公表しました。これにより、資金循環取引スキームを構築した実質的な架空売上の計上をオルツ社が行っていたことが明らかになりました。
上記調査報告書では、オルツ社において内部通報制度は存在するものの、実績がなかったことが指摘されました。このような指摘はオルツ社の事象だけではありません。様々な企業の不祥事に関する第三者委員会の調査報告書で、不祥事発生の原因として、内部通報制度の形骸化、不全が指摘されてきました。
また、2025年12月、東京証券取引所および日本取引所自主規制法人は、「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」を公表しました。本資料の中でも、内部通報体制の適切な整備に向けた審査及び不正情報の収集・連携強化を行うとの方針が明らかになっています。
つまり、内部通報制度は、
という機能を通じて、早期に調査・原因の究明を行い、再発防止策を講じてリスクを管理することを可能にし、ひいては企業の利益の最大化に資するものと言えます。
内部通報制度に関する法令としては、公益通報者保護法があります。
公益通報者保護法は、
を目的として定められたものです。
公益通報者保護法は、公益通報者が保護されるための要件を定めるとともに、事業者の体制整備義務を課しています。体制整備義務を課される事業者は、常時使用する労働者の数[1]が300人を超える事業者に課され、その概要は以下となります。
- 公益通報対応業務を行う従事者の指定
- 部門横断的な体制の整備
- 公益通報者保護の体制の整備
- 実効的機能確保のための措置
これらの措置の具体的内容を定めるのが法定指針、すなわち「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」であり、この指針の具体的内容がその解説(公益通報者保護法に基づく指針の解説)で明らかにされています。
上記の体制整備義務を負っていない、つまり、努力義務の対象となっている事業者も、内部通報制度を整備する場合には、上記法定指針及びその解説を踏まえて体制整備を行っていくこととなります。また、上記1のとおり、上場準備企業は上場審査の過程で内部通報制度の整備状況を確認されることから、同様に体制整備を行う必要があるといえます。
公益通報者保護法は2025年に改正され、①公益通報の範囲拡大、②不利益取扱いからの保護強化、③事業者がとるべき措置の強化(公益通報者を阻害する要因への対処を含む)の三つが改正項目となっています。施行は2026年12月1日であり、上記の法定指針及びその解説の改訂も見込まれますので、その内容もキャッチアップする必要があります。
改正法の概要については、以下の記事もご参照ください。
以下で内部通報制度構築のための基本的な流れとポイントを解説していきます。
上記のとおり、法定指針及びその解説で、公益通報者保護法に基づいて事業者が整備しなければならない体制について明らかになっています。その概要は以下のとおりです。
内部公益通報受付窓口で内部公益通報対応業務を行い、かつ、公益通報者を特定させる事項を伝達される者を従事者として定め、書面により指定するなど本人に明らかとなる方法で定める
なお、冒頭のとおり、特に上場を目指している事業者においては、公益通報者保護法に基づく体制整備義務を負わない事業者であっても、体制整備つまり内部通報制度を設ける際には、上記の概要で言及されている点について十分対応できているか確認する必要があります。
また、法定指針およびその解説は、改正法の施行に向けて改訂が行われる見込みです。改訂がなされた場合には、その内容も踏まえて対応する必要があります。
ここまでの内容をふまえ、実際の設計などにおいて留意する主なポイントは以下のとおりです。
不利益取扱いなどを受けることを通じた通報阻害要因を排除するため、人事評価を行う部門とは別のコンプライアンス担当部門等を設定することが考えられます。
また、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる必要があります。そのため、このような場合には社外取締役や監査役を窓口および責任者とすることも考えられます。
社内窓口のみを置く企業もあるものの、広くコンプライアンスに関わる事象を把握するという目的からすれば、法律事務所など社外窓口を併用することも考えられます。
公益通報者保護法上は、労働者、労働者であった者(退職後1年以内)、派遣労働者、派遣労働者であった者(派遣労働に係る役務終了後1年以内)、または役員という限定が付されています。
ただし、広くコンプライアンスに関わる事象を把握するという目的からすれば、公益通報者保護法の対象となる者、退職後1年以内の者という限定を外して広く対象とすることも考えられます。
通報対象となる事実について、公益通報者保護法上は、公益通報者保護法及び国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律(別表に掲げる法律及びその命令を含む。以下同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実などに限定されています。
ただし、広くコンプライアンスに関わる事象を把握するという目的からすれば、より広い範囲でのコンプライアンス違反またはそのおそれのある事実と設定することも考えられます。
上記の項目に加え、通報の方法、通報対応に関する従事者の義務(情報の範囲外共有の禁止など)、調査を行う際のフロー、通報者へのフィードバックのフローなど、法的指針において求められる事項について規程に落とし込んで定めることとなります。
その他、通報受付や調査実施の際のルールをまとめたマニュアルを作成することも考えられます。
ここまでの項目について整備したうえで、内部公益通報対応体制について、労働者等に教育・周知を行うこととなります。
その際、内部通報制度の利用を促進するために、通報をしたことによる不利益取扱いをしないことや不正を許さない方針をトップが明確に示すことが重要です。
加えて、研修の実施や従業員にわかりやすいパンフレットを作成することなども、内部通報制度の利用促進のポイントになってきます。
よくある運用上の課題とその対応例としては、以下のようなものがあります。
考えられる対応の例:社内通知、イントラネット、パンフレットの作成、パンフレットに窓口担当者の顔写真や似顔絵などを記載する、社内研修を継続的に実施する など
※過去に内部通報を行った従業員に対して不利益取り扱いがなされた など
考えられる対応の例:経営トップから継続的にメッセージを発信する(企業防衛の視点からも有益な制度であること、見て見ぬふりをしてはいけないこと、不利益取扱いは一切行わず、他の従業員は通報者の探索をしてはいけないことなど)、社内アンケートを実施する など
考えられる対応の例:従業員間のコミュニケーションを改善する(面談(1on1など)の制度化、行動憲章・行動指針の策定など)、経営陣・従業員間のコミュニケーションを改善する(トップとの意見交換会の実施、全体会議の実施など)
法定指針上、内部通報制度の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて改善を行う必要があると定められています。
定期的な評価のためには、前提として、内部通報があった際の件数とその内容、調査結果、是正措置の内容などを記録化し、保管しておくことが必要です。
評価・点検の方法としては、内部通報制度の周知の状況に関するアンケートを実施することが考えられます。また、制度の対象になるような事象を見聞きした・当事者となったといった情報や、もし見聞き等したのであればその内容についてヒアリングするためのアンケートを実施することも想定されます。
その他、整備・運用・教育周知の状況や、法定指針およびその解説に準拠した対応ができているかについて、内部監査部門を通じた監査、弁護士等の外部の専門家から意見を得るという対応も考えられます。
公益通報者保護法上、内部通報の窓口として社外の窓口を設置することが必須とされているわけではありません。
しかし、公益通報者保護法の2025年の改正の経緯として、以下が挙げられています。
- 上司や同僚などに身元が特定され、不利益な取扱いを受ける懸念、公益通報をしても、利益相反のない独立した立場で適切な調査が行われない懸念があることなどから公益通報を躊躇又は断念するケースが存在すること(消費者庁「公益通報者保護制度検討会報告書」(令和6年12月27日)4頁)
- 通報者を特定しようとする探索行為といった、通報を妨げる行為をすべきでないことが事業者に十分理解されていない懸念等の存在(上記報告書11頁)
加えて、内部通報制度が十分機能していないことが不祥事発生の原因となっているとの指摘も多くあります。
内部通報制度をより従業員にとって使いやすいものとするという観点から、外部の専門家窓口として設定することで、上記のような懸念を従業員が抱きにくくすることが考えられます。
また、弁護士を外部の窓口とすることで、企業自身で通報内容に関する調査が困難な場合や、高度な法的評価が必要となる場合、懲戒処分が必要な場合の検討などもスムーズに行うことができます。
以上のとおり、内部通報制度は、企業がコンプライアンスを遵守し、従業員がよりよく働くことができる環境を提供するために重要な制度です。
本記事が、内部通報制度導入にあたっての検討の入口として参考となれば幸いです。
法律事務所ZeLoでは、外部窓口としての対応だけでなく、内部通報制度の設計支援、通報に関する調査対応までワンストップで対応しています。お気軽にご相談ください。
[1] 繁忙期のみ一時的に雇い入れるような場合は該当せず、「使用する」とは、各事業者と指揮命令関係がある場合であり、「労働者」とは、労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者に該当する者を指す(内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置に関するQ&A | 消費者庁)。