【1月19日最新情報反映】レンタカー等を運転するドライバーのマッチングサービスに係る適法性解釈の動向を解説
弁護士
真下 敬太
2024年3月29日、国土交通省から「自家用車活用事業」(いわゆる「日本型ライドシェア」)の制度を創設し、ライドシェアを限定的に解禁するための新たな通達が発出されました。本記事では、日本型ライドシェア制度の概要と留意点について、国土交通省自動車局(現「物流・自動車局」)旅客課にてバス・タクシー等の旅客運送に関するルール策定等に従事した経験を持つ弁護士が解説します。
目次
「自家用車活用事業」(いわゆる「日本型ライドシェア」。以下「本制度」といいます。)とは、道路運送法78条3号に基づき、タクシー事業者の管理の下で地域の自家用車や一般ドライバーによって有償で運送サービスを提供することを可能とする制度です[1]。
本制度は、昨年12月にデジタル行財政改革会議において決定された「デジタル行財政改革会議の中間とりまとめ」(2023年12月20日)[2][3]を踏まえて創設されました。
本制度の概要と留意点は以下のとおりです。[4]
【留意点①】
- 大前提として、本制度は、あくまでタクシーの不足を補おうとするものであるため、実施可能な地域・時間帯はタクシーが不足する地域・時間帯に限られる。
- 具体的な地域・時間帯について、特別区・武三交通圏(東京)、京浜交通圏、名古屋交通圏、京都市交通圏は、別添「東京特別区等の不足車両数」のとおり公表済み。
- 今後、4月中に、札幌交通圏 、仙台市、県南中央交通圏(埼玉)、千葉交通圏 、大阪市域交通圏 、神戸市域交通圏、広島交通圏、福岡交通圏について不足車両数が公表され、5月以降 、タクシー事業者に実施意向のある地域で順次実施予定。
- 上記以外の地域については、以下の簡便な方法により暫定的に不足車両数を算出し、4月以降順次実施可能(データの収集及び不足車両数の検証を行った上で、暫定的な不足車両数を適宜見直し)
- 金曜日・土曜日の16時台から翌5時台をタクシーが不足する曜日及び時間帯とし、当該営業区域内のタクシー車両数の5%を不足車両数とみなす。
- 上記①に限らず、営業区域内の自治体が、特定の曜日及び時間帯における不足車両数を運輸支局へ申し出た場合は、その内容を不足車両数とみなす。
【留意点②】
- 実施できる事業者はタクシー事業者に限られている。
- 他方で、「デジタル行財政改革会議の中間とりまとめ」(2023年12月20日)においては、「タクシー事業者以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度について、2024年6月に向けて議論を進めていく。」とされており、現在も規制改革推進会議・地域産業活性化ワーキング・グループで議論が継続中。今後の動向を注視する必要がある。
【留意点③】
- 管理運営体制については、概ねタクシー事業に準じた体制が求められているが、ドライバーに対する指導等の体制等、求められる水準が必ずしも明らかでない点も存在するため、今後の明確化が期待される。
- また、タクシー事業にはない体制として、自家用車ドライバーの他業での勤務時間を把握することが求められる。
- 他方、昨年来集中的に議論が行われていた[5]、事業者と自家用車ドライバーとの間の契約関係が雇用契約に限られるか否かについては特段の言及がない。この点については、継続議論されているものと推察されるが、今後の明確化が期待される。
【留意点④】
- 使用する自家用車数については、上記「留意点①」記載の制限に加えて、各営業所のタクシー車両数の範囲内である必要がある。
- ただし、「許可対象地域の営業所の車両数が著しく少ないなど、地方運輸局長等が必要と認める場合」については例外とされている。この点は、パブリックコメントにおいて、「タクシー営業所ごとの最低車両数(従来は5台)を昨秋緩和した影響等により、地方部において、タクシー不足車両数が営業区域内のタクシー車両数を超える時間帯等もあり得るとの指摘」があったことを踏まえて追加されたものである[6]。
【留意点⑤】
- 遠隔点呼・自動点呼を実施する場合は、タクシー事業と同様の規制を遵守する必要がある。
- 特に、ドライバーが自ら保有する自家用車を持ち込む形態の場合には、遠隔点呼・自動点呼を活用することが想定されるため、その規制の内容を十分に確認しておく必要がある。
- なお、遠隔点呼・自動点呼については、「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示」(令和5年国土交通省告示第266号)が改正され(2024年4月1日施行)、ドライバーが宿泊施設や休憩施設、車内等に所在する場合であっても遠隔点呼の実施が可能となる等、一部実施要件が緩和されたため、活用の幅が広がっている。
【留意点⑥】
- 日本型ライドシェアについて配車アプリ等を導入する場合には、上記の運送形態・態様を満たすような仕様とする必要がある。
- 運送可能地域については、タクシー事業と同様に、事業者が許可を受けている営業区域内に発地又は着地のいずれかが存在する必要がある(いわゆる「片足主義」)。ただし、「地域の旅客輸送需要に応じた運送サービスの提供を十分に確保することが困難であると認められる場合」には隣接営業区域のタクシー事業者が例外的に運送を行うことが可能となっている。この点は、パブリックコメントにおいて、「タクシーが不足する地域、時期、時間帯が確認されたにも関わらず、タクシー事業者から不足車両数を満たすだけの自家用車活用事業の許可申請が出てこない場合が生じ得るとの指摘」があったことを踏まえて追加されたものである[8]。
上記のとおり、「日本型ライドシェア」を含む旅客運送分野は、法令に加えて多数かつ複雑な通達によって法規制が構成されており、法的リスク・論点を正確に把握することが難しい分野となっています。
法律事務所ZeLoは、訴訟/紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3やAI、パブリック・アフェアーズなどの最先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。特に、自動車/モビリティ分野については、国土交通省自動車局(現「物流・自動車局」)への出向経験を有し、自動車/モビリティ関連規制に深く精通した弁護士による専門的なアドバイスを提供しています。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
[1]「ライドシェア」の基礎的な概念や法規制の概要については「【弁護士が解説】「ライドシェア」に関わる法規制とは?政府動向と合わせて解説」をご参照ください。
[2]https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/chukan_honbun.pdf
[3]具体的には、「デジタル行財政改革会議の中間とりまとめ」(2023年12月20日)・4-5頁において「現状のタクシー事業では不足している移動の足を、地域の自家用車や一般ドライバーを活かしたライドシェアにより補うこととし、すみやかにタクシー事業者の運行管理の下での新たな仕組みを創設する。具体的には、都市部を含め、タクシーの配車アプリにより客観指標化されたデータに基づき、タクシーが不足する地域・時期・時間帯の特定を行う。そして、これに基づき、タクシー事業者が運送主体となり、地域の自家用車・ドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から提供する(道路運送法第78条第3号に基づく制度の創設)。」とされています。
[4]国土交通省報道発表資料「自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。」(2024年3月29日)(別添1)「自家用車活用事業の進め方」、「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱いについて」(国自安第181号、国自旅第431号 国自整、第282号令和6年3月29日)、「自家用車活用事業における運行管理について」(国自安第182号令和6年3月29日)、「自家用車活用事業における自家用車の車両整備管理について」(国自整第283号 令和6年3月29日)を参考に筆者にて作成
[5]「デジタル行財政改革会議の中間とりまとめ」(2023年12月20日)・4頁では、日本型ライドシェアについて、「この制度の創設に向け、ドライバーの働き方について、安全の確保を前提に、雇用契約に限らずに検討を進める。」とされていた。
[6]国土交通省交通政策審議会・令和5年度第3回自動車部会「【資料3】自家用車活用事業のパブリックコメントの状況及び制度案」・3頁。
[7]「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」(平成14年1月30日、国自総第446号、国自旅第161号、国自安第149号)、「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示」(令和5年国土交通省告示第266号)
[8]前掲注6参照