【2024年3月29日公表】4月開始!「日本型ライドシェア」の概要と留意点について弁護士が解説
弁護士
真下 敬太
2024年1月19日、利用者に代わってレンタカー等を運転するドライバーの情報を提供するサービス(以下「ドライバーマッチングサービス」といいます。)の適法性について、「グレーゾーン解消制度」を通じて新たな回答が示され、国土交通省による解釈の柔軟化傾向が明らかになりました。本記事では、今回の最新動向を踏まえ、ドライバーマッチングサービスの適法性について、国土交通省自動車局旅客課にてバス・タクシー等の旅客運送に関するルール策定等に従事した経験を持つ弁護士が解説します。
目次
ドライバーマッチングサービスの適法性については、2016年10月27日に「グレーゾーン解消制度」における国土交通省の回答(以下「2016年グレーゾーン回答」といいます。)を通じて初めて解釈が明確化されました。同回答は、沖縄でレンタカーを利用する観光客にドライバーを紹介するサービス(「ジャスタビ」)の適法性に係る照会を受けて示されたものです。
2016年グレーゾーン回答の内容(抜粋)は以下のとおりです。ドライバーマッチングサービスの適法性については「ドライバーと自動車が実質的に一体として提供」されているか否か(以下「一体提供性」といいます。)がポイントであり、一体提供性が認められる場合には、ドライバーマッチング事業者、ドライバー、レンタカー事業者のいずれかの行為が道路運送法に抵触することとされています。
1.「グレーゾーン解消制度」の活用結果 今般、事業者より、旅行者に対し、ウェブサイトを介して、旅行者に代わってレンタカーを運転するドライバーの情報を提供するサービスを実施する場合に、①事業者によるドライバーマッチング及び②ドライバーによる運転役務の提供が道路運送法第2条第3項に規定する「旅客自動車運送事業」に該当するか、また③レンタカー事業者の事業活動がレンタカー業の許可に付される条件に抵触するかについて照会がありました。 経済産業省と国土交通省が検討を行った結果、以下の回答を行いました。 ・利用者に対し、ドライバーと自動車が実質的に一体として提供される場合には、少なくとも①事業者、②ドライバー又は③レンタカー事業者のいずれかの者の行為が、道路運送法(第2条第3項、第4条第1項、第80条の趣旨)に抵触する。 ・照会書の内容を前提とすれば、①事業者及び②ドライバーの行為は、直ちには「旅客自動車運送事業」に該当せず、③レンタカー事業者の行為は、直ちには貸渡しに付随した運転者の労務供給(運転者の紹介及びあっせんを含む。)の禁止に抵触しない。 ・ただし、例えば以下の場合には、ドライバーと自動車が実質的に一体として提供されていると判断され、ドライバー及びレンタカー事業者の行為は道路運送法に抵触する。 ⅰ 事業者又はレンタカー事業者が自社ウェブサイト等に相手方の広告やウェブサイトへのリンクを掲載する等、事業者とレンタカー事業者に業務上の関係があると判断される場合 ⅱ 第三者が業として事業者とレンタカー事業者の双方を紹介する場合 ⅲ レンタカー事業者の親会社と事業者との間に資本・人的関係があるときに、当該関係を解消しても、実態として事業者への事実上の影響力が解消されていない場合 また、上記のように、ドライバー及びレンタカー事業者の行為が道路運送法に抵触する場合には、事業者はこれを共同又は幇助するものとして、同法に抵触するおそれがある。 ※なお、レンタカー契約の名義が利用者であっても、ドライバーがレンタカー代金を支払う等主体的に自動車を提供している場合や、事業者を通じて行うか否かを問わず、ドライバーが利用者に対しレンタカー事業者の紹介・あっせんを行う場合についても、ドライバーの行為は「旅客自動車運送事業」に該当する。 出典:経済産業省「ドライバーマッチングサービスに係る 道路運送法の取扱いが明確になりました ~産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用~」(2016年10月27日)、太字下線は筆者による
この点、2018年4月12日にも、牧山ひろえ議員から、上記のようなドライバーマッチングサービスが旅客自動車運送事業に該当しない理由について質問主意書が提出されているところ、これに対しても同趣旨の答弁がなされています。
政府による答弁書の内容(抜粋)は以下のとおりです。
道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第八十条第一項の規定による国土交通大臣の許可を受けて業として自家用自動車の有償貸渡しを行う者により、有償で貸し渡された自動車(以下「レンタカー」という。)については、借り受けた者と運転する者が同一であることは同法上求められていない。 また、他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業(以下「旅客自動車運送事業」という。)については、同法第四条第一項又は第四十三条第一項の規定により国土交通大臣の許可が必要とされているとともに、レンタカーに関する事業に係る国土交通大臣の同法第八十条第一項の許可は、同条第二項の規定により自家用自動車の貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合には行わないこととされている。加えて、当該許可に当たっては、貸渡しに付随した運転者の労務供給(運転者の紹介及びあっせんを含む。)を行わないことを条件としている。 以上を踏まえると、レンタカーを借り受ける者に対して運転者を紹介する事業者が存在する場合について、レンタカーを借り受けた者以外の者が運転を行うことや、そのような運転者を仲介することは、運転者とレンタカーが実質的に一体として提供されていると評価されるときには、同法に抵触することとなる。 このような趣旨を、レンタカーを利用する旅行者に運転者を手配するウェブサイトを介して株式会社ジャスタビが行おうとするドライバーマッチングサービス(以下「当該サービス」という。)に関する産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)第九条第一項の規定に基づく確認の求めに対し、回答したものである。 出典:第196回国会(常会)答弁書第71号、太字下線は筆者による
以上を踏まえると、ドライバーマッチングサービスについて「一体提供性が認められる場合には道路運送法に抵触する」という解釈は確立したものといえそうです。
では、どのような場合に一体提供性が認められるのでしょうか。この点、2016年グレーゾーン回答では、一体提供性が認められる具体例として、以下の3つの例が示されています。
これらを見ると、2016年グレーゾーン回答時点においては、一体提供性を否定するためには、レンタカー事業者とドライバーマッチング事業者との間に極めて厳格な独立性が求められていたことがわかります。
2023年12月27日、いわゆる「ライドシェア」の議論が盛り上がる最中、「規制のサンドボックス制度」において、「キャンピングカー相乗りマッチングサービスに関する実証」と題したプロジェクト(以下「本プロジェクト」といいます。)が認定されました。
本プロジェクトの概要は以下のとおりです。
本プロジェクトにおいては、ドライバーに対する「謝礼の支払い」が道路運送法に抵触しないか、という点に着目された申請がなされています。この点も非常に重要な論点ではありますが、それとは別にドライバーマッチングサービスの適法性の論点が生じると考えられます。
すなわち、申請者であるCarstay株式会社は、キャンピングカーを提供するレンタカー事業者・個人とキャンピングカーに乗りたい個人とのマッチングサービスを提供する事業者であるところ、本プロジェクトでは、かかる事業者がドライバーマッチングサービスも提供することとなっているため、一体提供性が認められるのではないか、という点が問題になります。
この点、2016年グレーゾーン回答に照らすと、ドライバーマッチング事業者であるCarstay株式会社とレンタカー事業者等との間に業務上の関係性があり、一体提供性が認められるようにも思えます。しかし、本プロジェクトは、冒頭記載のとおり国土交通省による認定を受けています。認定要件の中には「関係法令に違反するものではないこと」(産業競争力強化法第8条の2第4項第3号)という要件がありますから、国土交通省は本プロジェクトの内容が道路運送法に違反しないことを認めたことになります。
このようにしてみると、国土交通省はドライバーマッチングサービスの適法性に係る解釈を、2016年グレーゾーン回答当時から柔軟化させているようにもみえます。もっとも、本プロジェクトは、ドライバーマッチングサービスの適法性が論点として明示的に取りあげられたものではなく、国土交通省の解釈は依然として不明確な状態でした。
そのような中、2024年1月19日、「グレーゾーン解消制度」における国土交通省の回答(以下「2024年グレーゾーン回答」といいます。)により、ドライバーマッチングサービスの適法性に係る解釈の柔軟化がより直接的に示されました。
同回答の内容(抜粋)は以下のとおりです。
(1) 旅客自動車運送事業について 「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業」である旅客自動車運送事業を行う場合には許可が必要である(道路運送法第2条第3項、第4条第1項)。「有償で、自動車を使用して旅客を運送する」とは、ドライバーと車両を用いて旅客を運送し、運送の対価を収受することを指す。 本サービスは、プラットフォーム上で利用者、車両オーナー及びドライバーのマッチングを行うものであり、本サービス提供事業者がドライバーと車両を用いて旅客を運送し、運送の対価を収受するものではないから、旅客自動車運送事業に該当しない。 (2) 有償貸渡しについて(レンタカー事業者を除く。) 「自家用自動車は、国土交通大臣の許可を受けなければ、業として、有償で貸し渡してはならない。」(同法第80条本文)とされている。 本サービスは、車両オーナーが自己の車両を使用しない時間帯において、利用者に対して車両の使用を許諾するものである。利用者の支払う費用が、自動車税、自賠責等保険料、車検・点検に係る費用、駐車場代、オイル交換・タイヤ・部品交換費用等の車両の維持に係る費用(当該費用は日割又は時間割で算出することを前提とする)を指す場合には、本サービスは、「業として有償で貸し渡」すことにはならず、道路運送法第80条における有償貸渡しに該当しない。 出典:経済産業省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(2024年1月19日公表)、太字下線は筆者による
照会対象となったサービスは、同一プラットフォーム上で車両オーナー(レンタカー事業者、個人オーナー)及びドライバー(人材派遣事業者、個人ドライバー)の双方を利用者とマッチングさせるものであるところ、2016年グレーゾーン回答に照らすと、ドライバーマッチング事業者と車両オーナー(レンタカー事業者等)との間に業務上の関係性があり、一体提供性が認められるようにも思えます。しかし、2024年グレーゾーン回答では、一体提供性や車両オーナー・ドライバーの行為の適法性に何ら触れることなく、当該サービスが「旅客自動車運送事業」に該当しない旨のみが端的に回答されています。
国土交通省の解釈は必ずしも明確ではありませんが、本プロジェクトの認定や2024年グレーゾーン回答の内容を踏まえると、ドライバーマッチングサービスの適法性に係る解釈については、2016年グレーゾーン回答当時から柔軟化され、「同一事業者がレンタカー事業者等の車両提供者及びドライバー双方のマッチングサービスを提供する場合であっても、一体提供性が直ちに認められるものではない」ことが示唆されていると考えられます。
私見ですが、かかる柔軟化は、ドライバーマッチング事業者はあくまで「マッチング」サービスを提供する主体であり、(2024年グレーゾーン回答にもあるように)自ら「ドライバーと車両を用いて旅客を運送し、運送の対価を収受」しているわけではないという点を重視し、ドライバーマッチング事業者とレンタカー事業者等との間に求められる独立性のハードルを下げたものと思われます。言い換えれば、「マッチング」サービスの体を取っていたとしても、ドライバーマッチング事業者がレンタカー事業者等と実質的に一体となって、いわゆる「運転手付きレンタカー」のサービスを行っていると評価される場合には、無許可の「旅客自動車運送事業」として道路運送法に抵触すると判断される可能性が高いと考えられます[1]。
「ライドシェア」に関する議論が盛り上がる一方で、ドライバーマッチングサービスの適法性に係る解釈についても、上記のような柔軟化傾向にあることは注目に値します。例えば、貨物運送についても上記のようなドライバーマッチングサービスの考え方を適用し得るのか等、今後議論が派生・進展する可能性もあります。
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[1] この点、2024年グレーゾーン回答で照会対象となったサービスにおいては、必ずしも車両・ドライバー双方ではなく、いずれか片方のマッチングを利用することも可能とする等、車両・ドライバーのマッチングがそれぞれ独立していることを確保するための方策を講じているように見受けられますが、これが回答にどこまでの影響を与えたかについては明らかではありません。