【社会保険労務士が解説】IPO準備での適切な管理監督者の範囲設定について
特定社会保険労務士
安藤 幾郎
社会保険労務士
河野 千怜
企業運営をしていると、ハラスメントを行う・不正行為を行う・会社の指示に従わないなど、トラブルを起こす「問題社員(モンスター社員)」に遭遇することがあります。 このような社員への対応としては、個別での注意・指導などの軽微なものから、解雇といった重い処分まで、個別の事案や状況、問題社員のタイプに応じて、あらゆる手段を検討する必要があります。問題社員を放置したり、対応が不十分・不適切だった場合、他の従業員の業務効率やモチベーションを低下させて被害が拡大するのみならず、紛争に発展すれば企業のレピュテーションに大きな影響を及ぼす事態になりかねません。 本記事では、問題社員の類型や、対応を放置した場合のリスク、実際にすべき対応について、弁護士・社会保険労務士が解説します。
2010年一橋大学法学部卒業、2012年一橋大学法科大学院修了。2013年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年岡本政明法律事務所入所。2014年弁護士法人レイズ・コンサルティング法律事務所入所。2022年法律事務所ZeLoに参画。主な取扱分野は人事労務、訴訟/紛争解決、ジェネラル・コーポレート、ベンチャー/スタートアップ法務、M&A、IPO、危機管理、データ保護、事業再生/倒産など。
目次
問題社員とは、モンスター社員とも呼ばれ、ハラスメントを行う、不正行為を行う、会社の指示に従わない等、トラブルを起こす社員のことを指します。
問題社員には様々な類型がありますが、一般的には以下4類型が挙げられます。
周囲の者の、人格的利益を侵害する行為を行う社員です。
ハラスメントにも種類があり、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等があります。ハラスメントの場合、被害者がいることがほとんどなので、被害者のケアを含めた慎重な対応が必要です。
横領、背任、会社備品の不正利用等により、会社に直接的に損害を与える社員です。
これらの行為については、裁判所は厳しい判断を下す傾向があります。場合によっては刑事告訴も検討します。しかし、懲戒処分や解雇等の前に、事実関係の調査を行い、証拠を集めることが重要です。
業務上の指示・命令に従わない社員です。
業務上の指示・命令には、就業についての上司の指示・命令等を典型として、残業命令、出張命令、配転命令、出向命令が含まれます。これらの命令について、労働契約上会社が権利を有しているか、命令に従わないやむを得ない理由がないかを検討します。
また、注意指導を重ねる等、慎重な対応が必要です。
本来期待していた能力発揮や成果貢献ができない社員です。
配置転換、降格、退職勧奨、解雇等の対応が考えられますが、職種限定や指導の有無、就業規則の規定等多方面からの検討が必要です。
問題社員が存在し続けると、企業経営に悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば、ハラスメント社員の存在は、その程度によって被害者の退職、精神疾患の発症、自殺等痛ましい事態を引き起こす可能性があります。場合によっては、ハラスメント社員と会社は多額の損害賠償責任を課されます。実際に、執拗なパワハラを受けた新入社員がうつ病に罹患し、自殺した事案で、当該上司と会社に約7,200万円の賠償が命じられるような事案もあります(福井地裁判決平成26年11月28日)。
類型にもよりますが、問題社員への対応手段としては、主に懲戒、退職勧奨や解雇が検討されます。退職勧奨は、会社と従業員における合意による退職を勧める行為です。
会社が退職勧奨を行うこと自体は法律上規制されていませんが、手段・方法によっては違法なものとして、慰謝料等の損害賠償請求の対象となるほか、退職合意が無効になることがあります。
また、解雇についても、日本の労働法制上厳しく規制されており、慎重な対応が必要です。実際に、業務命令に従わない問題社員に対する解雇を無効とした事例もあります(東京高裁判決30年1月25日)。解雇や退職勧奨についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
さらに、ハラスメントの場合は、被害者や被害者家族より、安全配慮義務違反及び使用者責任を理由とした訴訟を提起される可能性があります。上述の裁判例のほか、長時間労働及び上司によるパワハラを原因に飲食店の店長が自殺した事案につき、約5,800万円(遅延損害金を除く)の賠償が命じられたものもあります。(平成26年11月4日東京地裁判決)。
いずれの場合でも、紛争に発展すると、労力的にも金銭的にも負担が大きくなりますので、問題を放置する前に慎重に対応することが必要です。
転職者向けの口コミサイトやSNSが発展した昨今では、このような行為や会社の不適切な対応はすぐに広まり、会社の評判に影響します。
また、周囲の従業員への影響も大きいものです。例えば、他の従業員の面前で怒号を浴びせる問題社員がいた場合、それを聞いた従業員の士気も下がり、生産性の低下を招きます。
上述のとおり、問題社員には類型があり、類型ごとに取るべき対応は様々ですが、後日紛争になる場合を見据えて、日ごろから業務指導や注意指導を行い、その記録を取っておくことが重要です。この記録が、紛争になったときに客観的証拠として会社の主張を補強する資料となります。
例えば、会社の指示に従わない問題社員の場合、その内容にもよりますが、まずは上司が口頭で注意・指導をすることが考えられます。
それでも従わない場合は、総務や人事等コーポレート部門より書面により注意書を交付することが考えられます。
口頭、書面に関わらず、指導の内容のほか、注意の対象となった具体的行為、当該行為によって会社に与えた悪影響、本人の反応等をできるだけ具体的に記録しておきます。
それでも従わない場合は、懲戒処分を検討することになります。
度重なる注意・指導や懲戒処分にもかかわらず、改善がなされない場合には、解雇を検討していくことになります。
以上のように、問題社員への対応方法は、類型ごとに異なり、また、紛争等の労務トラブルに発展する可能性もあるため、慎重に進める必要性があります。
特に、以下の観点で、弁護士や社会保険労務士に相談するのが安心です。
問題社員への対応によっては、後日、会社の行為を不当として訴訟等の法的手続きを起こされる可能性があります。
法的手続きへの対応には多大な労力と時間を費やすことにもなります。
例えば、解雇が違法・無効と判断されると、解雇時に遡及した賃金のほか、慰謝料等の支払いが必要となる場合があります。
また、ハラスメントの場合、被害者及び被害者家族から、安全配慮義務違反及び使用者責任を理由とした損害賠償請求がなされる可能性があります。
したがって、問題社員への対応を検討する際は、紛争化の可能性を見越した対応が必要です。
問題社員への対応として、配置転換、降格、懲戒処分、退職勧奨、解雇等の処分を行う中で、自社のルールや就業規則の定めに問題、不備があることが発覚することは少なくありません。
こういった問題に対処し得る社内規程をあらかじめ準備しておくことで、問題社員に出会った時に、有効な処分を行える可能性が高まります。
また、万が一、訴訟等を提起された場合であっても、会社の処分の正当性を主張する要素の一つにもなり得ます。
したがって、問題社員対応へのリスクを下げるために、適切な就業規則を策定しておくことが重要です。
以上の通り、問題社員の対応は慎重に行うことが必要で、弁護士・社労士のサポートが欠かせません。
法律事務所ZeLoでは、企業の労務環境整備に関して多数の支援実績がある弁護士・社会保険労務士が在籍し、問題社員の態様に合わせた支援をしています。
例えば以下のような案件実績があり、各社の状況に合わせ、迅速かつ円滑な解決に向けて、具体的な対応策の立案、各種書面作成・交渉代理、当該社員の処分などに関するリーガルアドバイスの提供のほか、紛争発生時の訴訟対応、労働審判対応まで、ワンストップに対応いたします。
問題社員の対応でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。