「調停による国際的な紛争解決契約に関する国連条約(シンガポール条約)」クロスボーダー紛争解決の新しいツール
弁護士・ニューヨーク州弁護士、国際法務部門統括
野村 諭
外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)
ジョエル グリアー
法律事務所ZeLo・外国法共同事業のジョエル・グリアー外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)は、2022年7月に、一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻・グローバルビジネスロー(GBL)プログラムにおける3ヶ月間の国際紛争解決に関する講義を終えました。グリアー弁護士が、同プログラムの教鞭をとるのは、これで3度目です。グリアー弁護士に、プログラムを終えての想いを伺いました。
2000年イェール・ロー・スクール卒業(J.D.)。2001年米国マサチューセッツ州弁護士登録。2007年外国法事務弁護士登録。2019年9月、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画。主な取扱分野はジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争対応、宇宙法など。The Legal 500、Chambers Asia Pacific、Chambers Globalと多くの受賞歴があり、執筆も数多く手掛けている。
2009年慶應義塾大学法学部卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2013年外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所に入所し、国内・クロスボーダーのM&A /コーポレート/競争法案件等に従事。2019年Columbia Law School LL.M.修了、米国ニューヨーク州司法試験合格(2022年登録)。2019年より外務省国際法局経済条約課勤務(〜2021年、任期付職員)。2022年法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、M&A、競争法、危機管理・コンプライアンス、ルールメイキング/パブリック・アフェアーズ、不動産、規制法対応など。国内案件のほか、海外案件・英文契約の案件などにも多数従事。
今年の7月、私は一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻・グローバルビジネスロー(GBL)プログラムにおける国際紛争解決に関する3ヶ月間の講義を終えました。このプログラムの教鞭をとるのは、今回で3度目です。最初の2019年の秋の際には、一橋大学の千代田キャンパスで対面での講義を行いました。翌2020年はコロナの影響で、全講義をリモートで実施することとなりました。今回は、ゴールデンウィークの直前までリモートでの講義を行い、その後は対面での講義を行うというハイブリッドの形式となりました。こうしたさまざまな形式の講義に対応するために、技術的な課題などにうまく対応してくれたビジネスロー専攻のスタッフに敬意を表します。
GBLの講義は英語で行われ、民間企業や公的機関で働きながら、国際ビジネス法の知識を深めるために法学修士号の取得を目指している専門職が主な対象です。講義は夜間と週末に行われ、一定の条件を満たすことで国際ビジネス法の修了証を取得することができます。(GBLプログラムについての詳細は、https://www.law.hit-u.ac.jp/bl/を参照ください)。前回は、私が担当した紛争解決の講義に加え、契約書作成・データプライバシー・証券・法律英語などのGBLクラスが開講されました。
私が教鞭をとったコースは、国際商事仲裁をメインに、国際調停にも触れており、これらは、私が長いあいだ専門としてきた領域です。受講生は、実際に仲裁に関わった経験はほとんどないものの(そのような紛争を経験せずに済んでいるというのは幸運なことです) 、見聞きをしたことはあり、国境をまたいだ商事紛争の解決方法を学ぶことに高い関心を持っていました。(国際仲裁について詳しく知りたい方は、 下記に掲載されている記事を参照ください)。
概観すれば、本コースは国際仲裁の「原則」と「実務」に関する入門講座です。コースの前半では、主に仲裁に関する国際条約や国内法の枠組み、仲裁規則・手続・機関に関する資料を読んで、議論しました。また、仲裁条項の作成や、仲裁判断の承認と執行といった問題についても検討しました。私は自分が一方的に講義をすることはあまり好まないので、受講される方々にできるだけクラスの議論に参加してもらっています。
コースの後半では、日本企業と外国企業の間での模擬的な商事契約に係る紛争のシナリオを想定して、各事実に基づいて、実際に仲裁に参加してもらうことで実務の一端を感じてもらいました。日本における契約法上の原則と、日本商事仲裁協会の規則を参考に、申立人側と被申立人側のグループに分かれ、それぞれのケースと主張を記した提出書面の作成、書面要求の準備、そして短い口頭審理を行いました。これらの課題は、受講生が法的分析力と弁護能力を養い、仲裁プロセスへの理解を深めることを狙いとしたものです。
さらに、受講生が仲裁関連で関心を有しているテーマのリサーチを行い、最後の講義で全体に向けて20分間のプレゼンテーションをしてもらいました。受講生は、あらかじめ準備されたリストからテーマを選択することもできますし、希望があれば、独自のテーマを設定して発表してもらうようにしました。
全体として、私の本コースでの目的は、国際仲裁の研究における「概念」的な側面と「応用」的な側面を織り交ぜて受講生たちに紹介することでした。私にとっても非常に楽しい経験となり、本コースを受講した、様々な分野の専門家と知り合うことができたのは、たいへん素晴らしい経験でした。
本記事は、当事務所のジョエル・グリアー外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)による英語記事“ Teaching International Dispute Resolution to Japanese Professionals at Hitotsubashi University Graduate School of Law ”の和訳記事です。英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。