弁護士 島内洋人によるおすすめ本7選
弁護士の島内です。言語哲学、社会科学からヒップホップ、サッカー漫画まで、剛柔織り交ぜてお気に入りの本を紹介します。ZeLo Lawyer's Story vol.1での私とは違う一面をお見せできたらうれしいです!
目次
ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀/エリック・A・ポズナー, E・グレン・ワイル
所有権は何故あるのだろう?本当に社会的に効率的な制度なのだろうか?と考えたことはありますか?
本書は、私有財産は本質的には独占であるとし、私有財産制度により市場による配分効率性が歪められていると主張します。
私有財産制度に慣れ切った現代の私たちには、あまりに荒唐無稽な主張に映ります。しかし、代替案として提示されている共同所有自己申告税(COST)は、非常に巧妙に設計されており、確かに上手く機能するのではないかと思わせます。制度の詳細は省きますが、インセンティブ設計が緻密で、よくこんな仕組みを考えるなと著者の独創性を感じます。
本書では他にも、ボイスクレジットによる投票(票数の2乗分の仮想クレジットを支払って複数の票を購入し、関心のある問題に多くの票をさせる)や、データ労働など、大胆かつ巧妙なアイディアが複数提示され、とにかく読んでいて面白い本です。
ラップ・イヤー・ブック イラスト図解 ヒップホップの歴史を変えたこの年この曲/ シェイ・セラーノ他
私は音楽が好きで、特に洋楽のソウル、R&B、ヒップホップをよく聴きます。
本書は、1979年以降の各年のヒップホップの名盤を、おしゃれなイラストと豊富な図解、ユーモアあふれる筆致で紹介してくれ、ヒップホップを聴くことが10倍楽しくなること請け合いです。
特に、ヒップホップ界の2人の超スーパースター、NasとJay Zのラップ・バトルの解説は、豊富な小ネタが散りばめられていて必見です。
また、Kanye Westの「Gold Digger」の紹介では、「IS YOUR GIRL A GOLD DIGGER?」というバカなフローチャートがあって笑えたりします。
ラップ・イヤー・ブック イラスト図解 ヒップホップの歴史を変えたこの年この曲
- 著
- シェイ・セラーノ他
- 出版
- DU BOOKS
- 発売日
- 2017年1月
言語哲学大全Ⅰ~Ⅳ/飯田隆
大学2年生のとき、論理とは何か、自然言語と論理はどのような関係にあるかという問いが頭から離れなくなってしまい、一人で悶々と考え苦しかった時期がありました。
その時の救いになったのがこの言語哲学大全シリーズです。
量化という概念がどのような問題意識から持ち出されたのか?という述語論理のあらましから始まり、言語哲学の考え方が明晰な筆致で解説されます。
Ⅲ巻のクワインによる様相論理の批判や、クリプキの可能世界意味論あたりまではなんとなく付いていけていたのですが、Ⅳ巻のデヴィッドソンの意味論の下りが全く理解できず、あれ、周りのみんなは楽しそうに大学生活送ってるのに、そもそも何でおれは意味がどうとかに頭を悩ませてるんだろう?と我に返ることができ、それから分析哲学の世界にあまり興味がなくなりました。本自体はとてもいい本です。
アオアシ/小林有吾
個人的に今最も熱いマンガが、スピリッツ連載のアオアシです。
田舎から東京のユースチームに加わったサッカーバカの少年が、真剣にプロを目指して厳しい競争環境で必死にもがく姿が描かれています。
「プロになる」という本当に高い目標を達成するために、主人公やユースのチームメイトが、自分に向き合い、考え、発見し、改善し、成長していきます。何かの達成を心の底から渇望し、そのために必要なことを常に考え続ける姿に読んでいて心が熱くなります。
また、私は中高大とサッカーをやっていて、欧州サッカー観戦が趣味なのですが、サッカー好きにとっては5レーンなどの最新戦術が登場する点も見逃せません。
社会はなぜ左と右にわかれるのか/ジョナサン・ハイト
なぜ人々は政治や宗教を巡って対立するのか?という問いに対し、道徳心理学の立場からアプローチする本で、私の宗教観や政治観を大きく変えた一冊です。
道徳心理学に留まらず多分野の科学的知見に基づき、道徳をケア、公正、忠誠、権威、神聖、自由という6つの構成要素に分解し、このうちケア、公正、自由を特に重視するのがリベラルであり、すべてを重視するのが保守であるとする主張は、明快かつ説得的で、この他にも最新の研究成果を引用しながら、政治や宗教対立の根本にある人間の道徳システムが科学的に記述されます。
この本を読んでから、政治の議論の対立を、異なる道徳マトリクスを持つ者の間の対立として、より立体的に捉えることができるようになりました。
「知」の欺瞞――ポストモダン思想における科学の濫用/アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン
1995年、ニューヨーク大学の物理学教授だったアラン・ソーカルが、「境界線を侵犯すること――量子引力の変形解釈学へ 向けて――」という、ポストモダン思想家の文体を真似て難解な数式や物理学用語を散りばめた、内容的には全くナンセンスの論文を投稿するという悪戯を行ったところ、ポストモダン思想専門の学術誌に掲載されてしまった、という事件がありました。
本書は、この事件の張本人ソーカルの著書です。ボードリヤールやドゥルーズ、ガダリといった高名なポストモダンの思想家の文章において、難解な数式や物理学等の科学用語がふんだんに用いられているものの、いかにそれが意味をなさず、でたらめで、読者に神聖性や深遠さを見せかけるための道具として濫用されているかを告発していきます。
高名な思想家の文章が如何にナンセンスであるかを、ソーカルが一部の隙もない形で論証していく過程は痛快であり、またあまりに筆致がねちねちとしているのでとても笑えます。弁護士としては、ソーカルの論証のねちっこさ、隙のなさは訴訟の相手方準備書面への反論などでぜひ取り入れたいところです笑。
すばらしい新世界 /オルダス・ハクスリー
副作用がない麻薬が開発されれば、全人類の完璧な幸福が達成されるのではないか?という疑問は誰しも一度は考えたことがあるのでは(?)と思いますが、本書は、副作用がない麻薬「ソーマ」が開発され、人類が快楽絶対主義的思想の下で中央政府に管理されて「幸福に」暮らす社会を舞台にしたディストピアSFです。
この社会体制を嫌い、都市から離れた蛮人保存地区で暮らし、シェークスピアを諳んじる男ジョンの「僕は不幸になる権利を要求しているんです。」というセリフはずっと心に残っています。社会への鋭い洞察に満ちていて、未来の社会の在り方を考える上でも参考になる一冊だと思っています。
すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)
- 著
- オルダス・ハクスリー
- 出版
- 早川書房
- 発売日
- 2017年1月
以上、島内による7冊のご紹介でした。手に取ったことのある本はありましたでしょうか?
次回、「おすすめ本7選」最終回を飾るのはパラリーガルの林奈々さんです。休憩中にもよく本を読んでいる事務所随一の読書家である林さんにバトンをつなぎます!
島内洋人弁護士のプロフィール
弁護士、AI Practice Group統括
2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験予備試験合格。2018年司法試験合格。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。クロスボーダー取引を含むM&A、ストック・オプション、スタートアップ・ファイナンスなどコーポレート業務全般を手掛けるほか、訴訟/紛争案件も担当。また、AI、web3、フィンテックなどの先端技術分野への法的アドバイスを強みとする。主な論文に「ステーブルコイン・DeFiとCBDC」(金融・商事判例1611号、2021年)、「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。
2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験予備試験合格。2018年司法試験合格。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。クロスボーダー取引を含むM&A、ストック・オプション、スタートアップ・ファイナンスなどコーポレート業務全般を手掛けるほか、訴訟/紛争案件も担当。また、AI、web3、フィンテックなどの先端技術分野への法的アドバイスを強みとする。主な論文に「ステーブルコイン・DeFiとCBDC」(金融・商事判例1611号、2021年)、「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。
▼メールマガジン配信しています。(無料)
▼法律事務所ZeLo・外国法共同事業 公式Twitter