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弁護士 松田大輝によるおすすめ本7選

はじめまして、弁護士の松田です。天野弁護士よりバトンを受け継いで、本のご紹介をさせていただきます!天野弁護士に謎のレッテルを貼られてしまいましたが、ご要望に沿うような形で(?)かなり思想寄りの本の紹介となってしまいました(笑)実際、あまり多読・速読できるタイプではないので、普段読む本の系統・分野は偏りがちです。「ブックカバーチャレンジ」を見るにつけ、もっといろんな本を読まないとと思う今日この頃です。それでは、少しだけお付き合いください!

弁護士 松田大輝によるおすすめ本7選

法学の基礎/団藤重光

著者は、戦後の刑事法学の大家であり、最高裁判所の裁判官も務めた人物。
本書は、著者が最高裁判事を退任した後に書いた一冊です。
当初は『法学入門』というタイトルで書かれたものの、「入門書ではなく出門書だ」と揶揄され、第2版でタイトルを改めたという逸話も。もっとも、(法学を学ぶにあたってまず読む本として適切かには疑問があるものの)平易な文章であくまで「入門書」として書かれているので、身構える必要はないとは思います。
哲学をはじめとする人文学・社会科学に対する理解を背景とした、著者の法学に対する深い洞察に触れることができます。何よりも、著者の法学に対する希望を感じることができる書です。

法学の基礎 第2版

法学の基礎 第2版

団藤 重光
出版
有斐閣
発売日
2007年5月

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください/井上達夫

井上達夫は、東大の法哲学の教授で(今年3月に退官)、現在の日本の法哲学における第一人者といって間違いありません。学部時代に井上教授のゼミに入っていたこともあり、個人的にもかなり影響を受けた人物です。
主には正義論の分野に業績があり、「正義とは何か」、「法の支配とは何か」といったともすれば地に足のつかない不毛な議論となりがちな問題群をしっかりと捉え、明晰な分析と論理を展開してきました。そのほかにも、立憲主義や民主主義など根本的なテーマを広く扱い、憲法9条等の問題に対する積極的な発言でも知られます。

井上達夫の著作を紹介するのであれば、主著の『法という企て』をおすすめしたいところではありますが、学術書における書きぐせ(?)として緻密で無駄のない議論を展開するあまり、ついていくのが大変なきらいがあり、一般向けに書かれたこちらを選出しました。
一般向けとはいっても、その正義論のエッセンスが盛り込まれており、入門書としては十二分の内容です。また、リベラルの現状に対する痛烈な批判や「9条削除論」・「徴兵制」の提言など、「闘う法哲学者」としての井上達夫の側面にも触れることができます。これらの提言は、かなり「過激」なものですが、首尾一貫しており、反論することは意外に難しいことにも気づくはずです。読み手として、これにどのように応答するのかが問われているといえます。

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門

井上 達夫
出版
毎日新聞出版
発売日
2015年6月

モラル・エコノミー/サミュエル・ボウルズ

法学の本が続いてしまったので、少し気分を変えて、経済学の領域から最近読んで面白かった本をご紹介します。

原著のサブタイトルは、「Why Good Incentives Are No Substitute For Good Citizens」(なぜ良いインセンティブは善き市民の代替とならないのか)。政策を作るとき、経済学的見地からは、(自発的に公益に適った行動を取ってくれる)モラルのある「善き市民」を想定するのではなく、モラルの低い市民を前提に、経済的インセンティブで誘導しようとするのが通常です。しかし、経済的インセンティブを設定することによって、モラルのある市民に悪影響が生じ(モラルが下がり)、政策目標の実現からかえって遠ざかることがある、というのが本書の中心的なテーマです。
例えば、ある保育園では、子供の迎えに遅刻する親が多かったことから、遅刻に対して罰金を設けたところ、「お金を払えば遅刻していい」という発想となったのか、遅刻率がむしろ上昇し、罰金を取り止めた後も元には戻らなかったといいます。
本書は、様々な実例や実験結果を交えながら議論が展開され、経済学の面白さを大いに感じることができます。

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

サミュエル・ボウルズ
出版
NTT出版
発売日
2017年3月

ロボットと生きる社会:法とAIはどう向き合う?/角田&工藤

ロボット・AIと法律をテーマにした本は最近いくつも出ていますが、その中でも異色の一冊をご紹介します。

本書は、法学の専門家とロボット工学の専門家の著者二人がタッグを組んで、ロボット・AIに関わっている8人の専門家に話を聞きに行く、という内容です。著者二人がそれぞれの見地からゲストに対して質問を投げかけ、議論を盛り上げていきます。
ゲストの専門領域・業界も、数学・論理学、労働経済学、情報法、金融など様々です。AIで東大合格を目指すプロジェクト「東大ロボ」で有名な新井紀子氏や劇作家の平田オリザ氏も名を連ねます。
ロボット・AIに対する新しい見方がきっと得られると思います。

ロボットと生きる社会―法はAIとどう付き合う?

ロボットと生きる社会―法はAIとどう付き合う?

角田 美穂子
出版
弘文堂
発売日
2018年1月

ブレザレン:アメリカ最高裁の男たち/ウッドワード&アームストロング

本書は、司法修習生時代に、お世話になった刑事裁判官に紹介してもらったものです。著者のウッドワードは、かのウォーターゲート事件の取材報道で知られます。その著者が、ウォーレン長官の退任後のバーガー長官時代の連保最高裁(ニクソン政権時代と重なる)の内幕を、徹底的な取材によって克明に描いています。
ロー対ウェイド事件(妊娠中絶の判例)や最近映画にもなった「ペンタゴン・ペーパーズ」の事件(報道の自由が問われたもの)をはじめ、最高裁判所において事件がどのように議論され、判決が形成されていったのかが信じられないほど詳細に明らかにしています。また、裁判所内での右派と左派のせめぎ合いや、その中で中道派が主導権を握っていく様子が描かれます。判事の人となりや判事同士の人間関係にも大きなスポットを当てており、数や論理だけではない裁判所のありようを窺い知ることもできます。
本書は、そのあまりの暴露ぶりに、出版当時にはかなりの反響があったそうです。上述の刑事裁判官も言っていましたが、本書自体が報道の自由を象徴しています。ちなみに、後に明らかになったところでは、本書の取材は、バーガーに批判的であった最高裁判事の協力に負っているところが大きかったようですが、それ以外にも他の判事や最高裁判所職員、ロークラークにも多数取材したといいます。

なお、現在本書は絶版となっており、中古でしか入手できない状況ですが、本書の後(バーガー後)のレンクイスト長官時代の最高裁を描いた類書として、『ザ・ナイン』があります。こちらはブッシュ(子)政権時代と重なり、保守派が政治的に最高裁の主導権を取りに行こうとする動きなど、裁判所の外の動静にもページを割いており、非常に興味深い一冊です。

ブレザレン―アメリカ最高裁の男たち (1981年)

ブレザレン―アメリカ最高裁の男たち (1981年)

スコット・アームストロング
出版
ティビーエス・ブリタニカ
発売日
1981年3月
ザ・ナイン ---アメリカ連邦最高裁の素顔

ザ・ナイン ---アメリカ連邦最高裁の素顔

ジェフリー・トゥービン
出版
河出書房新社
発売日
2013年6月

法の力/ジャック・デリダ

デリダの著作は、あまり多くは読んでいないのですが、これまででもっとも影響を受けた思想家の一人です。特にこの本に出会っていなければ、法学の道に本格的に進むこともなかったかもしれません。

デリダは、ポストモダンを代表するフランスの哲学者で、「脱構築」などの概念の提唱で知られます。「脱構築」とは何かをここで説明するのは、能力の限界を超えますが、ざっくりと言えば、(西洋)哲学の伝統や概念、それに関わる様々な言説を支えている二項対立等の構造を、内側から解体しようとする営みです。(興味がある方はぜひ調べてみてください。本では、高橋哲哉『脱構築と正義』がおすすめです。)
このように西洋哲学の「解体」を行おうとしたデリダは、様々に批判を受ける中で、「正義についてどう考えるのか」という問いに答えることを迫られました。その一つの応答が本書です。
本書は、タイトルからも分かるとおり、法と正義がテーマになっています。法/正義の抱えるパラドックスを明らかにしていき、「脱構築こそが正義である」と宣言するに至ります。
デリダの著作の中では、議論の流れを追いやすく(二部構成のうち第二部はやや難解ですが)、デリダの思想に触れてみたいという人には最良の一冊です。また、法学を学ぶ人や法律実務家にもきっと示唆があるはずです。

法の力 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

法の力 〈新装版〉 (叢書・ウニベルシタス)

ジャック・デリダ
出版
法政大学出版局
発売日
2011年4月

プラトンに関する十一章/アラン

哲学ファンとして、一人哲学者を挙げろと言われれば、間違いなくプラトンを挙げます。平易な語り口で様々な問題を掘り下げていく対話篇の数々は、まさに哲学の原点であり核心です。多くの場合、プラトン(ソクラテス)は答えははっきりと提示しないままですが、代わりに一生考えるに値するような問いを置いていきます。答えを提示しない(できない)というのは、ある意味では当然とも言えるかもしれません。
ただ、プラトンから一冊をというと、これは非常に難しいところです。やはり『国家』が最も重要な著作であるのは間違いないですが、独学でいきなり読むと迷子になること必至です(そもそも謎の多い著作です笑)。とすると、『国家』と同様に「正義とは何か」というテーマを扱っている『ゴルギアス』や、「知識とは何か」をテーマに相対主義などを厳しく批判する『テアイテトス』などが候補に挙がります(『テアイテトス』は、最近、光文社の古典新訳文庫からも訳が出たようです)。

ここでは、変化球として、プラトンに関するエッセイをご紹介したいと思います。著者のアランは、20世紀前半のフランスの哲学者で、『幸福論』という作品で知られています。本書は、そのアランが、自由な筆致と美しい文章で(良い翻訳のおかげでもありますが)、プラトンの真髄に迫っていく作品となっています。学術的な評価は分かりませんが、個人的にはプラトン論としても納得のいく内容です。また同時に、プラトンに投影されたアランの人生哲学にも、強烈に惹き付けられること間違いありません。

(いかにも入門書的なテンションで紹介してしまいましたが、改めて開いてみたら意外に難しかったので一応ご注意ください(笑))

プラトンに関する十一章 (ちくま学芸文庫)

プラトンに関する十一章 (ちくま学芸文庫)

アラン
出版
筑摩書房
発売日
2010年12月

以上、「弁護士 松田大輝によるおすすめ本7選」 でした。気になる本がありましたら、ぜひ手に取ってみてください!

松田大輝弁護士のプロフィール

松田 大輝

松田 大輝

弁護士

2018年東京大学法学部卒業。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。主な取扱い分野は、スタートアップ・ファイナンス、M&A、パブリック・アフェアーズ、フィンテック、web3(ブロックチェーン/暗号資産/NFTなど)、ベンチャー・スタートアップ法務、ジェネラル・コーポレートなど。主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、論文に「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。

2018年東京大学法学部卒業。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。主な取扱い分野は、スタートアップ・ファイナンス、M&A、パブリック・アフェアーズ、フィンテック、web3(ブロックチェーン/暗号資産/NFTなど)、ベンチャー・スタートアップ法務、ジェネラル・コーポレートなど。主な著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)、論文に「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。

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