専門性を強みとして働く。幅広い専門性を掛け合わせた労務のスペシャリストとして
特定社会保険労務士
安藤 幾郎
社会保険労務士
河野 千怜
こんにちは、法律事務所ZeLo・外国法共同事業です。 連載「ZeLo Lawyer's Story」では、ZeLoのメンバーがどんな想いをもってZeLoにジョインしたのか、どんな未来を描いているのかをお伝えしていきます。 松田大輝弁護士は新卒でZeLoにジョインし、キャリアをスタートしました。入所から約8か月経った今、自身のキャリアに対する考えのほか、企業からのルール形成というアプローチが重要だと考える理由についてお話しします。
目次
僕の場合、紆余曲折を経て、気づいたら弁護士という選択肢が目の前にあった、という感じで、これだという答えはあまりないんです。今でも「弁護士」でいいんだろうかと時々考え込んでしまうくらいで(笑)。なので、どういうバックボーンがあって、どう企業法務につながってきたのか、というところをお話ししたいと思います。
大学入学の頃より、勉強の方向性やキャリアなどを考えるにあたって、いつも二つの軸となる思考がバックボーンになってきました。
一つは、社会の原理や普遍的価値について理論的に考えたいという思いです。別の言い方をすると、実務よりも学術的方向に、それも実証的研究よりも規範的理論に関心の中心がありました。これは、正義や人権などの概念を深く考えたり、それらを踏まえた社会制度のあり方を論じたりする政治哲学や政治理論などの領域と重なりました。
他方で、これとやや矛盾するのですが、キャリアという意味では、単に規範的理論の研究をするのではなく、実務に深く関わりたいという思いがありました。社会を現実にどう変えていくのか、という問題にもコミットしたかったのです。というよりも、規範的理論と実際の社会や実務の関係性をどう調整するかという問題が、自分の中で課題感として大きくなってきたという方が正確かもしれません。規範的理論と実務は、単純に距離が近ければ良いというものでもなく、なかなか難しいところです。ただ、強く感じたのが、社会の中での規範的議論の地位の低さ、普遍的価値への信頼の揺らぎのようなものへの危機感でした。
東大は、政治学部というものがなく、法学部の中に政治コースがあるので、政治哲学・政治理論への関心から後期課程は法学部に進むことになりました。これが結果的には法学へと傾く転機になりました。曲がりなりにも法律を勉強するようになったこと、井上達夫教授の法哲学のゼミに入ったことなどが相まって、「法」という観点から物事を考えるようになっていったのです。
法哲学は、例えば、「法とは何か」、「正義とは何か」、「法の支配とは何か」といった問題から、違憲審査制のあり方などの制度的問題やヘイトスピーチを規制すべきかなどの具体的な政策論まで幅広いトピックを扱います。抽象的議論と実社会の具体的な問題が複雑につながっている中で、両者の議論を行き来する法哲学は、とても魅力的に映りました。そしてここに、先の二軸を上手く調和させるヒントがあるようにも感じました。
こうして気がつくと、法学の世界にどっぷりと浸かっていました。
キャリアに関する思考の過程を順に追っていくと冗長になってしまうので、紆余曲折を経た結果として行き着いた考えを中心にお話ししたいと思います。
まず、法哲学の多くのテーマの中で、最も強く惹かれたのが、「法の支配」という問題でした。「法の支配」という言葉は広く使われており、一般的には「人の支配」に対置されると言われます。しかし、法律も結局人が作るわけですから、「法の支配」(もしくはそこでいう「法」)とは何であって、どのような価値があるのかという問題は極めて難しいものです。これは、規範的理論・概念が現実の社会のあり方にどのように関わり得るのかという問題にもつながり、自分の問題関心に合致するものでした。
「法の支配」や「法」の内実は容易に答えの出るものではありませんが、法が発展していく「プロセス」に一つのヒントがあると感じています。法は、決して静的なものではなく、変わりゆく現実や顕在化する問題に合わせて、法改正から解釈変更まで様々な形により絶えず変化していくべきものであり、また変化していける力を秘めています。
そして、このような変化を要求する法の内在的論理・潜在的可能性にこそ「法」の価値があるのではないか。だとしたら、「法」の潜在力を引き出し、法の形成・発展するプロセスを活性化していくことにコミットするべきではないかと考えるようになりました。
法の形成プロセスの現場としてまず思い浮かぶのは、立法を行う国会や行政であり、また判例を形成する裁判所です。ただ、(少しひねくれた考えをしがちなこともあり、)今あるプロセスに加わるだけでは真に活性化させることはできないのではないか、現在のシステムが引き起こしている停滞があるとすれば、外部から違ったアプローチを取った方がいいのではないかと思いました。
また、別の観点では、究極的には法というのは一個人・一企業でも異議申立てをし、変えられるものでなければなりません。その可能性は「法の支配」の根本にあると考え、民間(特に企業)からのルール形成というアプローチに惹かれました。例えば、ロビイングであったり、「パブリックアフェアーズ」と呼ばれる活動であったりします。(ようやく企業法務とかろうじて繋がりました(笑))
企業に目を向けた理由には、企業自身“による”ルール形成(ソフトローやアーキテクチャと呼ばれるものの形成)への関心もありました。この場で詳しく話すのは控えようと思いますが、民間企業は、国際的にも国内的にも、ルールの形成主体となりつつあり、そのような「法」のあり方・形成過程をより良くしていくことが、これからの「法の支配」の喫緊の課題であると考えたのです。
このような考えを抱くに至り、気がつくと企業法務の弁護士というキャリアが現実的な選択肢となっていました。(なお、文脈は少し変わりますが、このような考えを温めている中で、大手法律事務所の弁護士の方々にお会いして様々なお話を伺う機会に恵まれ、弁護士の可能性を実感したことも非常に大きかったです。)
企業によるルール形成ということを考えた時に、そういった場面は革新的な技術・ビジネスモデルを展開するスタートアップ企業の周辺にこそあるのではないかと思いました。そこで、司法試験後にスタートアップ法務を掲げる法律事務所でインターンのようなことができないか探していたところ、ZeLoのインターン募集ページを見つけました。先輩が短期インターンをして良かったと聞いていた事務所であったことも分かり、長期インターンに応募しました。(後から知ったのですが、HPを管理していなかっただけで実際には募集していなかったそうです(笑))
ZeLoで約半年間インターンとして働く中で、「リーガルイノベーションを起こす」という事務所の理念に共感するとともに、風通しの良いフラットな組織や個性の強いメンバーに惹かれていきました。業務としても、ちょうど偶然も重なってZeLoとしてルールメイキングや「パブリックアフェアーズ」の領域に力を入れ始めたタイミングでした。また、これに限らず、スタートアップ法務全般の面白さ・やりがいも実感することができました。
ZeLoに入所することを決めた一番の理由となったのは、ZeLoが全員で「新しい法律事務所」を模索し、創っていこうとしていることでした。今のZeLoはまだ規模は小さいですし、組織としても足りないところだらけです。これまでお話ししてきたような、僕個人としてのやりたいこと/やるべきことが全てできる環境にあるわけでもありません。
しかし、結局のところ、現在の社会のシステムを変えていこうとするのであれば、ゼロから一つずつ積み上げていくしかありません。アジェンダを定義して広く訴えていくこと、社会的に意義のあることをビジネスとして成立させてスケールさせていくこと、そして何よりそれを実行できるチーム・組織を創っていくこと。このように言うと聞こえは良いですが、実際には地道で骨の折れるプロセスとなるはずです。それでも、いずれ通らなければいけない道であれば、今から取り組む方がいいだろうと思いました。
そして、「自分の理想に近い法律事務所はどこか」という問いから、「理想の法律事務所を創っていけるのはどこか」という問いに目を移したときに、これはZeLoしかないと確信している自分がいました。ZeLoがまさに法律事務所を創っていこうとするフェーズであったということもありますが、それ以上に事務所のカルチャーや個々のメンバーの熱量にポテンシャルを感じ、ここに自分も参画したいと思えたのです。
弁護士としてZeLoで働き始めて8か月近くが経ちました。この間、想像以上に多種多様な案件に関わり、日々勉強することばかりです。まずは弁護士としてジェネラルに知識・能力を付けていきたいと思っています。
他方で、ZeLoでの仕事自体にはようやく慣れてきたので、そろそろ今日お話ししてきたようなことを本格的に進めていこうと考えています。これまでも下準備を進めてきたところではあるので、ぜひ今後のZeLoに注目していただければと思います。パブリックアフェアーズの領域におけるZeLoのビジョンをしっかりと打ち出し、それを実現できる体制を作っていくことが次の1年の目標です。
個人的には、法教育など企業法務とは別枠で取り組みたいと思っていることもあり、このあたりも実行に移していければと思っています。
※記事の内容は掲載当時のものです(掲載日:2020年8月25日)