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【社会保険労務士が解説】IPO準備での36協定上限時間管理と長時間労働防止策の重要性について

36協定の上限時間管理と長時間労働の防止はIPO準備において重要な論点の1つです。36協定で定めた時間を超えて法定時間外労働をさせることはできず、もし超えて労働させた場合には、労働基準法32条違反になります。一方、長時間労働は過労死などの重大な事故の原因になりうるため、IPO準備においても、事故が発生しないように、残業時間の管理を徹底するなどの長時間労働防止措置をとることが重要です。連載最終回となる今回は、IPO準備での36協定上限時間管理と長時間労働防止策の重要性について解説します。

【社会保険労務士が解説】IPO準備での36協定上限時間管理と長時間労働防止策の重要性について
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PROFILE
Ikuro Ando

Labor and Social Security Attorney

Ikuro Ando

Graduated from Chuo University Faculty of Economics in 2001, registered as a Labor and Social Security Attorney in 2004, and obtained the Judicial Scrivener qualification in 2023. After working in the Human Resources Department of Seven-Eleven Japan Co., Ltd. and serving as a Managing Partner at Mirai Consulting Certified Social Insurance and Labor Consultant Corporation, joined ZeLo in 2024. Primarily engaged in labor and employment management for listed companies, employment practice audits for startups and venture companies preparing for IPOs, and employment practice audits in M&A transactions.

36協定の上限時間管理

36協定の上限時間、特別条項の概要

【原則】
 月45時間、年360時間
【特別条項】
 時間外労働が年720時間以内
 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
 時間外労働と休日労働の合計について2カ月~6カ月が全て1カ月あたり80時間以内
 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月が限度

36協定の上限時間を超える労働は労働基準法違反になります。労働時間管理を適切に行い、残業時間が36協定で定めた時間を超えないようにしなければなりません。IPO準備においては、例えば、次のような措置をとることが重要です。

  • 36協定の上限時間管理フローの策定

上限時間を超えそうなタイミングで労働者に通知する等

  • 特別条項の発動ルールの策定
  • 上限時間を超えた労働者がいた場合には、その原因を追究し、再発を防止すること

長時間労働防止の重要性

長時間労働は健康障害を引き起こし、労働災害をはじめ、様々な事故の原因になると考えられます。

(ア) 労災認定の基準

【長期間の過重業務】
 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間な いし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合
 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮
【短期間の過重業務】
 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合
 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮
【異常な出来事】
 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態、 急激で著しい身体的負荷を強いられる事態、急激で著しい作業環境の変化

【参考】厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定

(イ) 産業医の面談等

【長時間労働を対象とする面接指導】
 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く労働者)
 上記に加えて、月100時間超の時間外・休日労働を行った者(研究開発従事者)
 1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について月100時間を超えて行った者(高度プロフェッショナル制度適用者)

【高ストレス者を対象とする面接指導】
 ストレスチェックの結果、高ストレスであり、面接指導が必要であるとストレスチェックの実施者が判断した者

【参考】厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

IPO準備では、長時間労働の発生を防止するために、例えば、次のような措置をとることが重要といえます。

  • 日々の労働時間管理の徹底
  • 勤怠打刻ルール、残業申請ルールの策定と適切な運用の現場への浸透
  • 産業医などの医療専門家との面談フローの策定
  • 必要に応じて、現場オペレーションの見直し等

IPO審査時に求められる主な質問

IPO審査の時に求められる主な質問は次の通りです。上記のような措置が、36協定違反や長時間労働の防止につながります。早めに対策を講じて、しっかりと質問に応えられるように万全な労務管理体制を整えていきましょう。

▪新規上場申請のための有価証券報告書(IIの部)

(36協定違反の状況)
最近1年間及び申請事業年度において36協定(特別条項を締結している場合には当該条項の内容)に違反している従業員が存在する場合、違反事由別に事業年度及びセグメント・職種ごとの延べの違反人数、発生原因を記載してください。
(長時間労働の防止)
長時間労働の防止のための取組みについて記載してください。e(筆者:上記、36協定違反の状況)で違反事象を記載した場合は、その原因分析を踏まえた再発防止策にも言及してください。

▪新規上場申請者に係る各種説明資料

  • 最近1年間及び申請事業年度において、36協定(特別条項を締結している場合には当該条項の内容)に違反している従業員が存在する場合、当該従業員の時間外労働の状況
  • 長時間労働の防止のための取組み

IPO準備における36協定上限時間管理と長時間労働防止策については専門家とともにご対応を

スタートアップ企業が上場をするためには、証券取引所および証券会社が行う上場審査において承認を受ける必要があります。しかし、上場審査事項は多岐にわたり、申請を目指す企業での作業量が多いうえに、専門的な知識なども必要なため、難航する企業も少なくありません。万が一体制が不十分だった場合、上場審査が通らないこともあるため、前もって上場審査に備える必要があります。
社会保険労務士事務所ZeLo・法律事務所ZeLoでは、上場会社の労務管理、スタートアップ・ベンチャー企業のIPO審査に向けた労務DDの経験など、IPO審査について多くの知見を有する社会保険労務士・弁護士などの専門家が、適切にサポートします。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

シリーズ「IPOを実現するための人事労務勉強会」のご案内

法律事務所ZeLoでは、IPOを見据えているベンチャー・スタートアップ企業の皆様に向けた、人事労務のシリーズ勉強会「IPOを実現するための人事労務勉強会(全5回)」を定期開催してまいりました。

最終回となる今回は以下の日時で開催いたします。

第5回目(最終回):2025年5月27日(火)14:00~「【社会保険労務士が解説】】IPO準備における労務デューデリジェンス総まとめ&最新動向を踏まえたエグジット戦略とは?

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