【社会保険労務士が解説】IPO準備での適切な管理監督者の範囲設定について
Labor and Social Security Attorney
Ikuro Ando
Labor and Social Security Attorney
Chisato Kono
IPO準備では、過去に未払賃金があればそれを清算する必要があります。現在、賃金請求権の時効は3年です。3年遡って未払賃金の有無を精査して、必要に応じてその未払賃金を清算することになります。本連載では、労務デューディリジェンス(労務DD)で明らかになることが多い労務の課題とその注意点を解説していきます。第4弾となる今回は、IPO準備での未払賃金の把握と清算について解説します。
Graduated from Chuo University, Faculty of Economics in 2001, registered as a Labor and Social Security Attorney in 2004 and qualified as a Judicial Scrivener in 2023. Exerience at the Human Resources Department at Seven-Eleven Japan Co., Ltd. and representative partner at Mirai Consulting Labor and Social Security Attorney Firm, and joined ZeLo in 2024. Main areas of practices are providing expertises in labor management for major corporations, conducted labor inspections for IPO approval of startups and venture companies, carried out labor inspections for M&A, and advised financial institutions, such as securities companies, on labor laws and regulations.
目次
未払賃金の主な発生原因は次の通りです。いずれも例ですが、これらの原因は労務デューディリジェンス(労務DD)で明らかになることがほとんどです。早めに労務DDを実行して、未払賃金清算の準備にとりかかるとIPO
準備もスムーズです。
1 労働時間管理の不備
- 労働時間の端数切捨て
(1) 15分や30分などの単位で労働時間を切り捨てている
(2) 承認していない残業時間がある- 労働時間の把握不備
(1) 手待時間を労働時間にしていない
(2) 始業時刻前の朝礼、終業時刻後の定例会議を労働時間にしていない2 割増賃金計算の誤り
- 単価算定基礎に入れていない手当がある
- 月平均所定労働時間を一定の時間で固定している
- 割増率が法定を下回っている
- 固定残業代を超えた分の残業代を支払っていない
3 労働時間制度運用の不備(裁量労働制、変形労働時間制など)
- 制度の対象業務に該当しない労働者に適用している
- 労使協定の法定記載項目不備
4 管理監督者性
- 労務管理上の権限が不足している
- 報酬が一般労働者と逆転している
- その他の要素不備
これらのような発生原因をもとに未払賃金額を算出することになります。実際には、例えば、次のような手順で未払賃金を清算することになります。
- 未払賃金額の算出
- 労働者への説明
- 合意書、確認書などの文書締結
- 労働者の口座への振り込み
発生原因の整理の他、算出方法や清算対象者、合意文書の内容など、判断が困難なことが多く発生しますので、IPO準備に精通した社労士や弁護士のアドバイスをもとに清算処理を進めることをお勧めします。特に、合意文書の内容や後にトラブルにならないような合意の仕方などは法律専門家である弁護士の力を借りながら決めると効果的だといえます。
IPO審査の時に求められる主な質問は次の通りです。発生原因の特定から清算までの顛末を説明することになります。上記のように対応し、これらの質問に答えます。
(新規上場申請のための有価証券報告書(IIの部))
最近1年間及び申請事業年度における従業員に対する賃金未払いの発生状況(発生時期、期間、件数、金額)及びその後の顛末について記載してください。
(新規上場申請者に係る各種説明資料)※上記と同じ
最近1年間及び申請事業年度における従業員に対する賃金未払いの発生状況(発生時期、期間、件数、金額)及びその後の顛末
スタートアップ企業が上場をするためには、証券取引所および証券会社が行う上場審査において承認を受ける必要があります。しかし、上場審査事項は多岐にわたり、申請を目指す企業での作業量が多いうえに、専門的な知識なども必要なため、難航する企業も少なくありません。万が一体制が不十分だった場合、上場審査が通らないこともあるため、前もって上場審査に備える必要があります。
社会保険労務士事務所ZeLo・法律事務所ZeLoでは、上場会社の労務管理、スタートアップ・ベンチャー企業のIPO審査に向けた労務DDの経験など、IPO審査について多くの知見を有する社会保険労務士・弁護士などの専門家が、適切にサポートします。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
法律事務所ZeLoでは、IPOを見据えているベンチャー・スタートアップ企業の皆様に向けた、人事労務のシリーズ勉強会「IPOを実現するための人事労務勉強会(全5回)」を定期開催してまいります。
本記事のテーマでのウェビナーは以下の日時で開催いたします。
第4回目:2025年5月13日(火)14:00~「【社会保険労務士が解説】IPO準備での未払賃金の把握と清算について」