Eコマース・ビジネス~インドネシアで最も魅力的な投資分野のひとつ
インドネシアの電子商取引分野は、インターネットやスマートフォンの普及、国内総生産の着実な成長の継続などを背景に、国際的な企業も注目する。成長分野だと言われております。2019年11月下旬、インドネシア政府は、同国の電子商取引活動(「Eコマース」)が確実に急成長するため、インドネシアで初の個別的Eコマース規制「電子システムを通じた取引に係る規制2019年80号(「GR 80/2019」)」を公布しました。この規制は、インドネシアにおけるEコマースの実務に関して包括的な指針を提供しようとするものです。免許の要件、Eコマース・サービスの提供者に適用される手続、Eコマース事業の実施、消費者保護、個人データ保護に関するガイドラインなどが含まれています。本記事では、GR 80/2019で特に注目すべき点について解説します。
インドネシアの電子商取引分野は、2019年現在、年間消費額は少なくとも80億米ドルに達し、2021年には34.6%という目覚ましい年平均成長率で拡大すると見込まれています。 特に、オンライン旅行業界は、圧倒的に人気の高いカテゴリーであり、国内電子商取引市場の58.9%を占め( J.P. Morgan 2019 Payments Trends – Global Insights Report: Data has been provided to J.P. Morgan Merchant Services by Edgar, Dunn and Company via Statista & EDC analysis.より)、衣料品・アパレル業が2番目に人気が高く、同市場の14.6%を占めています。( J.P. Morgan 2019 Payments Trends – Global Insights Report: Data has been provided to J.P. Morgan Merchant Services by Edgar, Dunn and Company via Statista & EDC analysis. より)
Lazada、Tokopedia、Bukalapak等の国内のオンライン・プラットフォームは、訪問者数で最も多くのトラフィックを生み出すウェブサイトです。( Aseanup.com, June 2018. ‘Top 10 e-commerce sites in Indonesia 2018.’ (2019年3月アクセス) )このような状況は、国際的企業(特にAmazon、Alibaba、JD.comのようなオンラインショッピングの大手)がインドネシアへの展開を計画しているため、今後は変化していくことが予想されます。( InvestorPlace.com, February 2019. ‘JD.com Stock Set for a Long-Term Boost From Focus on Indonesia.’ (2019年3月アクセス) )
2019年11月下旬、インドネシア政府は、同国の電子商取引活動(「Eコマース」)が確実に急成長するため、インドネシアで初の個別的Eコマース規制「電子システムを通じた取引に係る規制2019年80号(「GR 80/2019」)」を公布しました。長年の議論を経て、GR 80/2019は2019 年11 月25 日に発効されるに至っています。ただし、2 年の移行期間が設けられ、Eコマース・ビジネスの事業者が新たな規制に適応しやすい形にされました。
GR 80/2019は、インドネシアにおけるEコマースの実務に関して包括的な指針を提供しようとするものです。免許の要件、Eコマース・サービスの提供者に適用される手続、Eコマース事業の実施、消費者保護、個人データ保護に関するガイドラインなどが含まれています。以下では、GR 80/2019で特に注目すべき点について検討します。
Eコマースの関係者
GR 80/2019によれば、「事業者」(外国企業を含みます。)、消費者、個人及び政府機関はEコマース事業を実施することができます。ここで事業者とは、以下のものを指します。
商人(販売者)
個人又は事業法人であって、自らの電子システム又はEコマース・オペレーターが提供する電子システムを用いて商品又はサービスを提供するものを指します(インドネシア内外を問いません。)。販売者であっても、商業的な目的を持たずに一時的に商品又はサービスを販売する場合は、GR 80/2019上の商人には該当しません。
Eコマース・オペレーター
個人、事業法人又は政府機関であって、電子コミュニケーション設備を提供し、様々なビジネスモデルでEコマース取引を促進するものを指します。ここにいうビジネスモデルには、オンライン・リテーリング、マーケットプレース、オンライン案内広告、及び価格比較プラットフォームが含まれます。Eコマース・オペレーターは認証付き電子システムを用いなければなりません。
仲介サービス・オペレーター
個人又は事業法人であって、サーチエンジン・サービス、永続的な情報保存スペース(ホスティング)サービス、及び一時的情報保存スペース(キャッシング)サービスを提供するものを指します。
外国の関係者
GR 80/2019は、インドネシアのEコマースに積極的に関与している「外国の事業者」にも適用されます。
外国の事業者は、規制において広く定義されており、外国の個人又は設立地・所在地がともにインドネシア国外である事業法人であって、インドネシアでEコマースを実施するものとされています。当該定義により、外国の事業者に係る規制範囲が明確になりました。GR 80/2019が交付されるまでは、国外にあってインドネシアでEコマースを実施する外国の事業者にインドネシアの法令が適用されるかどうか不明確でした。
一定の要件はありますが、インドネシア国内の消費者を相手にEコマースを積極的に実施する外国の事業者は、物理的にインドネシアに所在するものとみなされ、インドネシアにおいて事業活動を行うものとみなされます。一定の要件とは、(1)取引数、(2)取引価格、又は(3)発送回数、(4)トラフィック数又はユーザー数に関するものです。当該要件は、近い将来に公布が予想される主務省令に従って明確化・決定されると考えられます。その結果、外国の事業者は、当該一定の要件に該当する場合、インドネシアの代理人を選任しなければなりません。
Eコマース・スキーム
本規制のもとで可能なEコマース・スキームとしては、(1) 事業者間のスキーム、(2) 事業者と消費者との間で行うスキーム、(3)個人間のスキーム、(4)政府機関と事業者との間で行うスキームが考えられます。
免許要件
Eコマース事業者(外国企業を含みます。)は、特定の免許を取得する必要があります。ただし、次の場合、仲介サービス・オペレーターは免許を取得する必要がありません。
(1)当該仲介サービス・オペレーターがEコマース取引から直接に利益を得ていない場合
(2) 当該仲介サービス・オペレーターがEコマース取引の当事者と契約関係にない場合
興味深いことに、GR 80/2019によれば、事業者は、個人であるか法人であるかを問わず、インドネシアでEコマースを実施する場合、事業免許を取得しなければなりません。これは、個人や零細事業者がインドネシアでEコマースを行いたい場合には問題となりえます。
Eコマースの当事者には、他にも次のような要件が求められます。(1)課税、(2)輸出入に係る規制、(3)国際Eコマース活動に係る電子情報及び取引、及び(4)Eコマース活動が国家安全保障を脅かしうる商品又はサービスである場合、当局による承認(暗号関連の製品及び監視目的の製品等)。
消費者保護義務
Eコマースを行う事業者に対して特に強調されているのが、消費者の権利保護義務です。Eコマースを行う事業者は、消費者苦情対応の体制を整え、本規制の要件を満たさなければなりません。消費者は、Eコマース活動の結果として損害や損失を被った場合はこれを報告することができます。
個人情報保護
個人情報保護に関して、個人から個人情報を取得した事業者は当該個人情報の使用及び保存に責任を有するものとみなされ、EUのGDPR基準及びAPECプライバシー・フレームワーク基準を考慮しなければなりません。
GR 80/2019は個人情報の海外移転をも制限しています。ただし、移転先の国がインドネシア商業大臣によりインドネシアと同等の個人データ基準を有するとみなされる場合はこの限りではありません。
留意点
GR 80/2019の実施については、事業免許の取得や外国の実務家に係る要件等も含めて、GR 80/2019に係る施行規制(implementing regulations)によることとなります。このため、Eコマース事業に携わる事業者としては、今後の展開やマーケットの動向を注視しつつ当該施行規制が出るのを待つべきでしょう。
本記事は、弊所弁護士のFiesta Victoriaによる英語記事“E-COMMERCE BUSINESS: ONE OF THE MOST ATTRACTIVE INVESTMENT SECTORS IN INDONESIA”の和訳記事です。英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。