インドネシア進出における法務の基礎と全体像
インドネシア法弁護士
フィエスタ ヴィクトリア
弁護士
室井 剣太
インドネシア進出を検討・推進する日本企業にとって、KBLI(Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia)番号は、OSS(Online Single Submission)システムによるライセンス取得やPMA(Penanaman Modal Asing:外資投資法人)設立、外資規制の適用可否を左右する重要な要素です。そのKBLI番号が2025年12月に改正され、デジタル、AI、環境分野などを中心に事業分類が見直されました。これにより、従来付与されたKBLI番号の再検討を迫られるケースも想定されます。連載の第2回となる本記事では、KBLI番号の基本構造から2025年改正のポイント、実務への影響と対応策までを整理し、インドネシア進出における留意点を解説します。
2006年ペリタ・ハラパン大学卒業。2019年法律事務所ZeLo参画。 主な取扱分野はM&A、ジェネラルコーポレート、人事労務、フィンテックなど。 インドネシア統一弁護士会PERADIのプロフェッショナル会員であり、執筆も数多く手掛けている。ALB Women in Law Awards 2021 - Business Development Lawyer of the Year を受賞。
目次
インドネシアでの事業展開を検討・推進する際、OSSシステムでのライセンス手続やPMA設立の議論の中で必ず登場するのが「KBLI番号」です。
KBLI番号は、事業活動を分類するコードであると同時に、ライセンス要件や外資規制の適用関係にも結び付くため、「どのKBLIを選ぶか」が、その後の手続やスキーム設計を左右することがあります。
そのKBLI番号が、2025年12月18日に改正されました。デジタルプラットフォーム、AI関連サービス、環境ビジネスなど、新しい産業の広がりに合わせて分類が精緻化され、従来は一括りだった活動が分割・再分類されるケースも見込まれます。
この改正により、これまで問題なく運用できていたOSSシステム登録やライセンスが、改正後の分類の下でその前提の確認を要する場面も出てくることが想定されます。
本記事では、KBLI番号の基本から2025年改正の主な変更点、そして企業実務への影響と対応策までを、できるだけ平易に整理します。特に、外資規制や投資要件に影響が波及し得る論点については、誤解されやすいポイントも含めて注意点をまとめます。
インドネシア標準産業分類(Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia:KBLI)は、インドネシアにおける事業ライセンス、税務、統計報告および経済政策の基盤を成す制度です。
また、KBLI番号は、このような行政・統計上の機能にとどまらず、インドネシアの投資制度の下で、特定の事業分野が外国投資家に開放されているか否かを判断するうえでも、極めて重要な役割を果たしています。
実務上、KBLI番号は、外国投資の可否や外資持分比率の上限といった点を含むインドネシアの外資規制(投資規制)と密接に関連しているほか、各業種特有のライセンスや許認可要件とも強く結びついています。
そのため、KBLI番号の分類は、インドネシアにおける事業活動の法的な実現可能性や事業スキームの設計に直接的な影響を及ぼします。
インドネシアの事業ライセンス制度は、原則としてOSSシステムを通じて運用されているため、企業はライセンスや許認可を申請する際に、該当するKBLI番号をOSSシステム上で選択・入力する必要があります。
さらに、PMAを設立してインドネシアで事業を行う場合、採用するKBLI番号の分類は、実務上、最低投資額要件とも密接に関連付けられます。
近年、特にデジタルサービス、先端技術、サステナビリティ関連産業を中心にビジネスモデルが急速に進化していることから、産業分類制度についても、定期的なアップデートが不可欠となっています。
従前の2020年版KBLI(KBLI 2000)では新興産業や非伝統的なビジネスモデルを十分に反映できなくなっていた点を踏まえ、2025年12月18日にKBLI番号の改正内容が施行されました(改正後のKBLI番号を以降「KBLI 2025」と呼びます。)。
新しい枠組みでは、分類カテゴリーが従来の21から22へと拡張され、経済活動の多様化および技術革新の進展が反映されています。
また、ISIC(国際標準産業分類)第5版を採用することにより、インドネシアは、急速に変化するグローバル経済の中で自国の実情に即した制度を維持しつつ、経済データの国際比較可能性を一層高めています。
この改正により、投資政策や業種別規制についても、実際の経済活動との整合性が確保されることになります。
KBLI 2025の主な変更点は以下のとおりです。
KBLI 2000とKBLI 2025との主な差異は以下のとおりです。
| テーマ | KBLI 2020の取扱い | KBLI 2025の取扱い | 変更の内容 |
|---|---|---|---|
| デジタル仲介サービス | 基礎となるサービス内容にかかわらず、単一のデジタルポータル/プラットフォームとして分類 | 仲介対象となる経済活動(例:医療、商取引、教育等)ごとに分類 | 分割/再分類 |
| オンライン・マーケットプレイス | IT/ポータルサービスとして扱われる | 機能に応じて、商取引またはサービスの仲介として分類 | 分割/再分類 |
| オンライン健康相談プラットフォーム | デジタルプラットフォームサービスとして扱われる | 医療サービス仲介として明示的に分類 | 分割/再分類 |
| ファクトリーレス製造業(FGP) | 主に商社または流通業として分類 | 知的財産を保有し製造を外注する「製造者」として、製品別に分類 | 新たなビジネスモデルとして分類 |
| カーボン回収 | 一般的な環境修復・廃棄物処理に含まれる | カーボン回収として独立した活動に分類 | コード拡張/活動分割 |
| カーボン貯蔵 | 他の環境修復活動と区別されない | カーボン貯蔵として独立した活動に分類 | コード拡張/活動分割 |
| 残留汚染除去関連活動 | カーボン関連活動と混在 | カーボン関連活動を分離し、残留汚染除去関連活動を独立 | コード拡張/活動分割 |
| デジタルコンテンツ制作(ポッドキャスト、VOD等) | 明示的な規定なし/不明確 | 音声・動画ポッドキャスト、オンデマンド配信を明確に規定 | 新たに明示的に定義 |
| デジタルコンテンツ配信 | 放送・メディアとして包括的に扱われる | 制作と配信・ストリーミングを明確に区別 | 新たに明示的に定義 |
| 発電事業 | エネルギー源を問わない単一コード | 再生可能/非再生可能、排出量別に分類 | コード拡張/活動分割 |
| 再生可能エネルギー | 明確な区別なし | 再生可能エネルギー発電として明示的に分類 | 新たに明示的に定義 |
| 新たな工業製品 | 多くが未記載 | 人工芝、電子タバコ用リキッド、人工呼吸器、ドローン等を明示 | 製品レベルでの拡張 |
| 無人航空機(ドローン) | 明確な規定なし | 産業用/娯楽用を明確に区別 | 新たに明示的に定義 |
| 暗号資産取引(自己勘定) | 明示的な規定なし | 暗号資産取引として明示 | 新たな金融活動コードとして定義 |
| カーボンユニット取引 | 規定なし | カーボン取引として明示 | 新たな金融活動コードとして定義 |
| 暗号資産発行 | 規定なし | 負債を伴う暗号資産発行として明示 | 新たな金融活動コードとして定義 |
| 経済特区(SEZ)運営 | 明確な区別なし | SEZ運営と工業団地運営に分離 | 範囲拡張/機能分離 |
| 倉庫・セルフストレージ賃貸 | 不動産賃貸に包括 | 倉庫/セルフストレージ賃貸として独立 | 運営の別により明確化 |
KBLI 2025は、OSSシステムによるライセンス制度に直接影響を及ぼします。
企業は、自社の中核的な事業活動を正確に反映するKBLI番号を選択してOSSシステムに入力する必要があります。KBLI 2020の下で事業を行っている企業については、継続的な事業運営の適法性を確保するため、KBLI番号の見直しが必要となる可能性があります。
特に重要なのは、KBLI番号が、インドネシアのポジティブリスト(旧ネガティブリスト)に基づく外資規制の適用可否を左右する点です。
KBLI分類が変更されることにより、以下のような影響が生じ得ます。
このように、正確なKBLI分類の選定・維持は、単なる事務的対応にとどまらず、外資投資戦略およびコンプライアンス上の重要な要素となります。
すべての事業者および納税者は、KBLI 2025の施行日(2025年12月18日)から6か月以内に、新分類へ移行する必要があります。
既存企業の場合、多くは実質的な事業内容の変更を伴わない、行政上の記録更新にとどまると考えられます。ただし、KBLI番号の変更が外資規制の適用に影響することも想定されるため、KBLI 2025への変更の効果については慎重に検討する必要があります。
上記から、企業には以下の対応が推奨されます。
新規事業、特にデジタルサービス、AI、環境関連事業、知財主導型産業においては、KBLI 2025により規制上の位置付けが明確化された一方で、外国からの出資を伴う場合には、KBLI番号の整理に応じてポジティブリストへの適合性を改めて検証する必要があります。
KBLI 2025は、インドネシアの産業分類制度を現代化する重要な改正です。
KBLI 2020に代わる新制度として、企業は自社のKBLI分類を積極的に見直し、法令遵守、ライセンスの正確性、投資制度との整合性を確保することが求められます。
KBLI 2025は、直ちにポジティブリストを改正するものではありませんが、将来のポジティブリスト改正においてKBLI 2025が参照される可能性や、一部の事業活動について、外資規制が緩和・強化・条件付きとなる可能性は十分に考えられます。
KBLI番号の変更は、たとえ実際の事業内容そのものに実質的な変更がない場合であっても、当初想定していた以上に広範な法務・規制上の影響を及ぼす可能性があります。
現時点での暫定的な見解としては、単にKBLI番号のみが変更され、事業内容の実態に変更がない場合であっても、会社の定款(Articles of Association)の変更手続が必要となる可能性があります。
加えて、さらに主要なNIB(Nomor Induk Berusaha:事業基本番号)や、当該KBLI分類を明示的に参照している各種事業ライセンスについても、更新・修正手続が求められることがあり得ます。
また、より複雑な論点が生じる場面として、従来は単一のKBLI番号で整理されていた一つの事業活動が、改正により複数のKBLI番号へと再分類され、それぞれが異なる区分にまたがるケースが挙げられます。このような場合、当該再分類は単なる技術的・事務的な変更としては取り扱われない可能性があります。
インドネシアでは、KBLI番号ごとに最低投資額規制が設けられているため、当局の解釈次第では、投資区分の再評価が必要となり、状況によっては、求められる最低投資額の積み増しが必要になる可能性も否定できません。
もっとも、これらの影響については、現時点では当局の今後の運用および執行実務の動向に依存する部分が大きく、最終的な取扱いはなお流動的であり、いわば未確定の段階にあると理解するのが適切です。
このように、KBLI番号の改正は、一見すると形式的・技術的な調整に過ぎないように見えるものの、実務上は、会社の基本規程、ライセンスの有効性、さらには投資ストラクチャー全体に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、経営陣および法務担当者においては、関連する規制動向や当局の実務運用を継続的に注視する必要があります。
さらに、具体的にどのような追加手続が必要となるのか、必要になるとしてどの程度までの対応が求められるのかについては、インドネシアの会社法・投資規制に精通した専門家に確認を行いながら慎重に検討することが重要です。
法律事務所ZeLoでは、日本企業のインドネシア進出や、外国企業の日本市場参入を支援するリーガルサービスを提供しています。本件に関しご質問やご支援が必要な場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。