【弁理士が解説】自分でできる特許調査の進め方―データベースの選び方と検索範囲の絞り方
弁理士
足立 俊彦
2026年(令和8年)は、PCT規則の改正、商標制度のニース分類改訂、特許庁のオンライン発送制度見直し、著作権法の新裁定制度施行、不正競争防止法の全面施行など、知的財産分野において多岐にわたる制度変更が実施されます。本記事では、各改正の概要と実務上の対応ポイントを紹介します。
「企業の知財業務のアウトソーシング化」をコンセプトに、弁理士や特許・商標を担当するパラリーガルなどを含めたチーム体制で、知的財産サービスを提供する。国内外の特許・意匠・商標などに関する出願や調査、紛争だけでなく、知的財産デューデリジェンス・IPO支援、規程類の整備・運用、知財ポートフォリオ管理など、幅広く企業をサポート。
目次
発効日:2026年1月1日
従来の「書面・文献のみ」から「あらゆる開示」へと対象が拡大されます。
| 改正前 | 書面・文献による開示のみが対象 |
| 改正後 | 口頭発表(学会・ピッチ)、使用(サービス・実運用)、展示(展示会・デモ)も対象 |
これにより、スライド発表・デモ動画・β版公開なども「先行技術」として認定され得ます。なお、適用タイミングは出願日ではなく、国際調査報告または第17条宣言が作成される段階が基準となる点に注意が必要です。
調査対象資料が特許文献のみから実用新案文献(国際事務局公表リストベース)にも拡大されます。中国・韓国等の実用新案が引例として引用されやすくなり、サーチ範囲が全体的に拡張されます。
国際調査機関(ISA)・国際予備審査機関(IPEA)が保有すべき資料・能力の最小要件が更新され、サーチの質が底上げされます。
今回のPCT規則改正により、論文に限らず公開された情報全般が先行技術として評価され得ることが明確化されました。
本件について、推奨される対応は以下のとおりです。
- 「世の中に出す前に出願」を徹底し、最低限でも仮出願・早期出願を推奨
- 学会発表・デモ前の出願スケジュールを見直す
- 中国・韓国実用新案を含めたクリアランス調査を検討する
適用開始:2026年1月1日~
類似商品・役務審査基準がニース分類第13版に対応し、商品・役務の区分・内容が大幅に見直されます。国際分類との整合強化のため、記載の統一・整理が行われます。
| 眼鏡 | 第9類(IT・機器系)→ 第10類(医療機器系)に区分変更 |
| スマートグラス・ウェアラブル機器 | 複数区分への分類検討が必須 |
旧分類で取得済みの商標でも、新分類では権利範囲外となるケースが生じ得ます。また、スマートグラスやウェアラブル等、新技術製品は複数区分での出願検討が必須です。
ニース分類の改訂により、同一の表示でも指定商品・役務の区分が変わる可能性があり、結果として商標の権利範囲に影響が生じ得ます。
本件について、推奨される対応は以下のとおりです。
- 既存商標の棚卸し(区分チェック)を実施する
- カバー漏れが生じる場合は追加出願を検討する
- 新規事業の商標設計は複数区分での出願も検討する
開始日:2026年4月1日
2026年4月1日以降、オンライン発送された特定通知等(拒絶理由通知・査定・登録証等)は、インターネット出願ソフトで受取可能となった日の翌日から10日経過した時点で「到達」とみなされます。
特に、自社において、オンライン出願ソフトで特許庁とやり取りをしている場合は注意が必要です。
| 書面郵送への切替 | 10日以内にダウンロードしない場合でも、紙での郵送は原則廃止 |
| 登録(特許)証 | オンライン受領が対象。紙が必要な場合は再交付手続が必要 |
| 届出 | オンライン発送を利用するには「特定通知等を受ける旨の届出」が必要 |
重要なポイントとして、実際に開封していなくても、インターネット出願ソフトで受取可能となった日の翌日から10日経過で到達扱いとなり、拒絶理由通知等の応答期限が進行することが挙げられます。
特許庁は少なくとも10開庁日に1回以上(可能であれば週1回程度)の確認を推奨しています。
本件について、推奨される対応は以下のとおりです。
- インターネット出願ソフトの確認ルールを整備する
- 担当者不在時の代替確認体制を整備する
- 特許証・登録証の紙受領前提の運用を見直す
施行日:2026年4月
著作権者が不明、または連絡が取れない「未管理公表著作物等」を円滑に利用するための新たな裁定制度がスタートします。
公表されており、かつ著作権等管理事業者により管理されておらず、権利者の利用意思が確認できない著作物等が対象となります。連絡先不明のSNS投稿コンテンツや、返答のない権利者への対応を念頭に置いた制度です。
| STEP 1 | 利用希望者が「登録確認機関」へ申請(手数料:1件13,800円) |
| STEP 2 | 登録確認機関が要件確認・使用料算定 |
| STEP 3 | 文化庁長官が裁定・補償金額決定 |
| STEP 4 | 利用者が指定補償金管理機関へ支払い → 申請範囲内で適法利用可 |
| 従来制度 | 権利者不明・所在不明の救済制度 |
| 新制度 | 権利者の利用意思が確認できない著作物を、より現実的に使えるようにする制度 |
| 両制度の関係 | 2026年4月以降も併存 |
新制度は、許諾を取ることができないから使用できないという停滞を減らし、権利者には補償金を還元する制度となります。実務上は以下のような活用場面が想定されます。
- 過去の写真・動画・イラスト・文章の教育、研究、展示、アーカイブ等での再活用
- ネット上の一般投稿コンテンツの適法利用(裁定・補償金・利用条件の枠内)
- 地域資料・文化財のデジタルアーカイブ化
全面施行:2026年4月予定
| 2024年4月(施行済) | 「電気通信回線を通じた提供」が追加。アバター・スキン・NFT・デジタル商品のデッドコピーが明確に違法化 |
| 2026年4月(今回) | 手続・執行面の強化。オンライン送達制度見直し、手続のデジタル化、海外事業者への対応環境整備 |
デジタル空間における模倣行為について、「2026年からアバターやスキンの模倣が違法になる」といった理解が見られます。しかし、この認識は正確ではありません。
実際には、アバターやスキン、NFTなどのデジタル商品のデッドコピーについては、2024年の制度改正によりすでに違法と位置づけられています。2026年の制度変更は、新たに違法化するものではなく、権利行使や執行をより実効的に行えるようにするための整備といえます。
つまり、ルール自体はすでに整っており、2026年はそれを「実際に使いやすくする」フェーズに入るという位置づけになります。
このような制度の流れを踏まえると、企業としては「違法かどうか」だけでなく、実際に権利を行使できる状態を整えているかが重要になります。
特にデジタル商品やAI生成物を取り扱う場合、後から権利を主張できるよう、事前の準備が実務上のポイントとなります。
本件について、推奨される対応は以下のとおりです。
- デジタル商品・AI生成物について現時点でのリスク評価を実施する
- デザインは意匠・著作権で保護し、販売日・制作過程の証拠化を行う
- データは契約+営業秘密管理を整備する
- 2026年施行を見据えた権利行使前提の体制を構築する
現在検討・議論中(正式施行時期は未定)
メタバース・仮想空間の市場拡大と生成AIによるデザイン大量生成を背景に、従来の「物品中心の意匠制度」の見直しが議論されています。
| 方向性 | 登録対象の拡張(物品・建築物・画像以外へ) |
| 有力案 | 「画像意匠の拡張」により仮想オブジェクト(アバター・3Dアイテム等)を保護可能に |
| 実務インパクト | メタバース内のデザインが「登録できる資産」に変わる可能性 |
| 現在の整理 | AI生成でも人が実質的に関与すれば「意匠」該当し得る |
| 重要論点 | 誰が「創作者」か、AI生成物の新規性判断、学習データとの関係 |
| 実務リスク | AIにより類似デザインが即生成され、新規性確保が難化するリスク |
このような制度見直しの議論を踏まえると、デザイン実務においてはリスクの構造自体が変化しつつあります。特に以下の点は、今後の重要な論点となり得ます。
これからは、デザインを「作る時代」から「守り切る設計をする時代」への変化が想定されます。
本件について推奨される対応は以下のとおりです。
- 公開前の早期意匠出願を推奨(タイミングがこれまで以上に重要)
- AI利用時は人の関与を証明できる記録管理を整備する
- UI/UX・アバター・空間デザインも含めた権利設計を検討する
- 短期的には不競法、中長期的には意匠権での保護戦略を立案する
施行:2026年
中国でもAI・ビッグデータ発明に関する審査基準が明確化される方向で専利審査指南の改正が進められています。
本改正では、特にAI発明の成立要件や説明のあり方が整理される見込みです。
| 改正内容 | AI・ビッグデータ発明の審査基準を明確化 |
| 実務ポイント | AI発明の説明構造において「人の創作部分」の明示が重要に(日本と同様の方向性) |
法律事務所ZeLoでは、国内外の特許・意匠・商標などに関する出願や調査、紛争だけでなく、知的財産デューデリジェンス・IPO支援、規程類の整備・運用、知財ポートフォリオ管理など、知的財産権全般について総合的なサポートを提供しています。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。