広告表示規制の動向と企業に求められる対応策―違反リスクと実務対応(後編)
弁護士、ヘルスケア部門統括
早乙女 明弘
兼子 愛理
広告表示規制は、インターネット広告やSNSの普及、消費者被害の状況などを踏まえて、景品表示法をはじめとする関係法令の改正が定期的に行われる分野です。特に近年は、どのような広告表示内容が行政処分や指導の対象となりやすいかといった、摘発リスクのトレンドを把握することが、企業の広告・マーケティング実務において重要となっています。本記事では、No.1表示とステルスマーケティングについて、近年の広告表示規制の動向を整理したうえで、企業が押さえるべき実務上の対応策や留意点について解説します。
景品表示法は、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」表示、いわゆる優良誤認表示を禁止しています(景品表示法第5条第1号)。
優良誤認表示の一例として、「売上No.1」「顧客満足度No.1」といった、いわゆる「No.1表示」が挙げられます。これらは商品やサービスの優位性をアピールする上で効果的な手法ですが、その根拠が不明確であったり、調査方法が不適切であったりする場合、優良誤認表示に該当するリスクが高い表示類型です。
近年、No.1表示の中でも、「第三者の主観的評価」に基づくNo.1表示に関する行政処分が増加傾向にあります。第三者の主観的評価とは、「売上No.1」などの客観的な数値等に基づく評価ではなく、例えば、「顧客満足度」や「コスパが良いと思う」といった顧客等の主観的な評価のことをいいます。
行政処分が増加している背景には、調査手法や調査対象者等を恣意的に操作すること等、合理的な根拠に乏しい方法により「No.1」の結果を得られる調査サービスが横行し、自社だけが当該表示を行わないことによる競争上の不利を回避するために、他社に追随する形で多くの事業者がこれを利用した結果、客観的根拠に乏しい表示が市場に氾濫したことにあります。
こうした状況を踏まえ、消費者庁は令和6年9月、「No.1表示に関する実態調査報告書」(以下「No.1報告書」といいます。)を公表しました。
No.1報告書によれば、No.1 表示が合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、実際のものまたは競争事業者のものよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認され、不当表示として問題となるとしたうえで、適切なNo.1表示のためには、以下の事項をすべて満たすことが必要としています。
| 遵守すべき事項 | 問題となる事例 |
|---|---|
| 比較する商品等が適切に選定されていること | 「○○サービス 満足度No.1」等と表示する場合に、○○に属する同種商品等のうち市場における主要なものの一部又は全部を比較対象に含めずに調査を行っている場合 |
| 調査対象者が適切に選定されていること –調査対象者は、無作為に抽出された者である必要 –表示が、特定の属性を有する者に調査したかのような印象を与える場合には、実際の調査においても、当該特定の属性を有する者を対象としている必要 | ・対象商品等を利用したことがない者を調査対象者とする場合 ・利用経験の有無を確認することなく調査対象者を選定している場合 ※「サイトイメージ調査」といった、実際の利用者を調査対象としたものではないことを示す注記(いわゆる打消し表示)は無効 |
| 調査が公平な方法で実施されていること | ・複数の商品等の中から「おすすめしたい」商品等を選択して回答させる場合に、自社の商品等を、選択肢の最上位に固定する場合 ・自社の商品等が1位になるまで調査を繰り返すなど、結論ありきの調査が行われている場合 |
| 表示内容と調査結果が適切に対応していること | - |
また、No.1報告書においては、「高評価率表示」についても言及されています。
高評価率表示は、他者からの好意的な評価を多数獲得している(○%も高評価を得ている、など)商品等であることを示す表示であり、商品等の内容の優良性を示す場合があることから、No.1表示と同様、高評価率表示が、合理的な根拠に基づかず、事実と異なる場合には、不当表示として景品表示法上問題となる、とされています。
No.1報告書で挙げられている例として、「医師の90%が推奨する」といった表示があります。このような表示について、実際に行われた調査が例えば次のようなものであった場合には、当該表示との関係で合理的な根拠があるとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがあります。
近時、No.1表示に関して措置命令及び課徴金納付命令(以下併せて「措置命令等」といいます。)がなされた事案の一例は、以下のとおりです。
いずれもNo.1報告書の公表以前に措置命令がなされており、報告書の公表以降は、公表前と比して摘発件数自体は落ち着いたように見えます。これは各社がNo.1報告書の公表をきっかけに広告表示を見直したためである可能性があり、引き続き注意が必要といえます。
事業者としては、事業者自身が調査を行う場合はもちろんのこと、マーケティングリサーチ会社を活用する場合は、その調査手法を適切に確認するための体制整備がより重要になるとともに、No.1報告書の記載内容を踏まえた対応が求められることになります。
| 時期 | 事業者 | 行政処分 | 客観的な調査に基づくものではなく、調査結果を正確かつ適正に引用しているものではないとされた表示 |
|---|---|---|---|
| 2024.3.7 | 蓄電池販売会社 | 措置命令 | 「口コミ人気 No.1 蓄電池販売会社」 「アフターフォロー満足度No.1蓄電池販売会社」 「コストパフォーマンス満足度 No.1蓄電池販売会社」 「工事品質満足度 No.1 蓄電池販売会社」 |
| 2025.6.5 | 蓄電池販売会社 | 課徴金納付命令 (措置命令は2024年2月27日) | 「アフターフォローも充実の太陽光発電・ 蓄電池販売」 「安心して導入できる太陽光発電・蓄電池販売」 「知 人に紹介したい蓄電池販売」 |
| 2025.6.30 | サプリ販売会社 | 課徴金納付命令 (措置命令は2023年12月7日) | 「30~60代女性が選ぶダイエットサプリ」 「一番継続しやすいダイエットサプリ」 「コスパが良いと思えるダイエットサプリ」 「お財布にも優しそうなダイエットサプリ」 「栄養もしっかり摂れると思うダイエットサプリ」 「一番効果が期待できそうなダイエットサプリ」 |
「ステルスマーケティング」とは、①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるものをいいます(景品表示法5条3号、令和5年3月28日内閣府告示第19号)。
ステルスマーケティングは、広告である旨を秘匿することで、消費者の自主的かつ合理的な商品選択を歪めるおそれがあるとして、令和5年10月1日から規制対象となっています。
消費者庁が定める「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」によれば、上記要件は以下のとおり説明されています。
これまでに消費者庁による措置命令が出された事例としては、以下が挙げられます。
対象となっているのは大きく2種類の事案です。一つは高評価の口コミを依頼し、その対価として金銭等を提供する事案であり、もう一つはインフルエンサーに依頼した投稿内容の一部を抜粋し、お客様の声として、あたかも顧客の自主的な意思に基づく感想等であるかのように記載する事案です。
| 時期 | 事業者 | 事案の概要 |
|---|---|---|
| 2024.6.7 | 医療法人 | Googleマップ内の口コミ投稿として★5または★4の投稿を条件にインフルエンザワクチン接種費用の割引を実施 |
| 2024.8.9 | トレーニングジム運営会社 | 第三者に対し、対価の提供を条件にInstagramに投稿を依頼したことによって当該第三者が投稿した事業者のサービスに関する表示について、同社が依頼した投稿であることを明らかにせずに「お客様の声」として表示 |
| 2024.11.13 | サプリメント販売会社 | サプリメントの無償提供及び対価の提供を条件にInstagramに投稿を依頼したことなどにより第三者が投稿した表示について、依頼した投稿であることを明らかにせず、一部を抜粋して自社ウェブサイトに表示 |
| 2025.3.18 | 医療法人 | Googleマップ内の口コミ投稿として★5の投稿を条件に5,000円分のQUOカードを提供又は割引を実施 |
| 2025.3.25 | サプリメント販売会社 | モニター募集サイトで第三者にサプリメントを無償提供したうえ投稿依頼したことによって当該第三者が投稿した表示について、依頼した投稿であることを明らかにせず、一部抜粋して自社ウェブサイトに表示 |
ステルスマーケティング告示に違反した場合、措置命令の対象となります。
なお、ステルスマーケティング告示違反は課徴金納付命令の対象とはなっていませんが、表示内容に優良誤認表示または有利誤認表示が含まれる場合は、当該行為が課徴金納付命令の対象となることがあります。
また、措置命令がなされる場合には、ステルスマーケティングを行っていたことが公表されることとなり、レピュテーションリスクへの影響が懸念されますので、事業者としては、自社の従業員の教育・監督のみならず、インフルエンサーやアフィリエイターを含む表示管理体制を整備する必要があります。
さらに、個別の施策が上記ステルスマーケティングの要件の一つである「事業者の表示」に該当するかを判断するにあたっては、第三者との従前の関係性等の様々な事情を考慮する必要があり、微妙な判断が求められるケースがありますので、慎重な検討が求められます。
法律事務所ZeLoでは、消費者庁表示対策課への出向経験がある弁護士をはじめ、表示規制について多くの知見を有する弁護士が所属し、サポートにあたっています。
支援実績もスタートアップから中小・上場企業まで幅広く、企業規模やビジネススキームに合わせた、迅速かつ質の高いサービスを提供いたします。お困りの方はぜひお気軽にご相談下さい。