Accelerating Overseas Expansion Through Both Offensive and Defensive Legal Strategies: The Legal Strategy of a Japan-Based Startup Expanding into Indonesia – Cquick Inc.

インドネシア法弁護士
フィエスタ ヴィクトリア

弁護士
室井 剣太

インサイドセールス領域に特化した営業支援コンサルティング事業を展開する株式会社Cquick。2024年にインドネシアに進出し、海外法務の要素も加わったことで、複雑化した法務課題への対応も急務となりました。限られたリソースの中でどのように課題解決を図っているのか、同社の代表取締役社長の荒井祥平さんに、法律事務所ZeLoのサービスを導入されたきっかけや現在の活用状況、今後の事業展開とともに協業のあり方などについてお話を伺いました。聞き手を務めるのは、同社をサポートするFiesta Victoriaインドネシア法弁護士(日本では未登録)と室井剣太弁護士です。
2006年ペリタ・ハラパン大学卒業。2019年法律事務所ZeLo参画。 主な取扱分野はM&A、ジェネラルコーポレート、人事労務、フィンテックなど。 インドネシア統一弁護士会PERADIのプロフェッショナル会員であり、執筆も数多く手掛けている。ALB Women in Law Awards 2021 - Business Development Lawyer of the Year を受賞。
業界:サービス業
従業員数:10名(業務委託含む)
目次
室井:本日はありがとうございます。あらためて、貴社の事業についてお聞かせいただけますか。
荒井:弊社、株式会社Cquickは、もともと日本でインサイドセールスの代行を行っていた会社です。1年前にインドネシア進出 を決め、初めてのプロジェクトを受注 しました。現在取り組んでいる事業領域の一つとして、日本からインドネシアに進出する企業、その中でもBtoBに特化して営業支援をしており、販売促進を含め、日本のプロダクトをインドネシアにどう普及させていくかといった点を中心に展開しております。
室井:幅広いお取組みですね。インドネシアへの進出の場合、外資規制による現地法人設立のハードルがあると思いますが、どのようにご提案されているのですか?
荒井:日本企業が現地法人を設立しようとすると、資本金として最低でも100億ルピア(日本円で約9,140万円)が必要となり、それが大きなハードルになります。弊社は、その点を踏まえてのご提案や、現地法人を設立しない形での展開もご提案しています。
室井:ありがとうございます。弊所を選んでいただいたきっかけや最初のご依頼についても教えていただけますか。
荒井:最初にZeLoさんにご依頼したのは、インドネシアのプロジェクトに関する契約書でした。取引先から提示された雛型であり内容も不明だったのですが、ZeLoさんにご相談したところ、その契約の準拠法をインドネシア法からシンガポール法に変更した方が良いという提案をいただきました。インドネシアでは解釈が分かれる部分があり、トラブルが発生した場合にシンガポール法の方が適しているとの指摘でした。
そうしたご提案は非常に助かりましたし、お客様と契約を無事に締結することができました。対応も非常にスピーディーで、大きなメリットを感じました。
Fiesta:ありがとうございます。インドネシアの法令は、明確に規定されていないことも多く、法律を読むだけでは分からないこともあるかと思います。実際にビジネスをされていて、そう感じられることも多いでしょうか。
荒井:そうですね。インドネシアに関しては法的な知識が乏しく、また弊社としても初めての海外進出だったため、リスクはできる限り回避したいと考えていました。特に債権回収やトラブル時の対応などです。そういった中で、最初の契約時に、ZeLoさんから先ほどのようなご提案をいただき、先方にも提示できたことで、安心して契約を締結することができたのは非常に大きかったです。
Fiesta:貴社と、インドネシアで競合する企業はいますか?
荒井:システムインテグレーターという業種でみれば、多くの競合がいます。ただ、日本からインドネシアへのマーケティング支援、特にBtoB企業向けの支援という領域では、我々だけがやっているのではないかと思います。弊社は、すでにインドネシアでのクライアントがいますので、エンドユーザーと直接対話し、ニーズを把握することができます。営業実行力を備えているところは、弊社のユニークな強みだと思います。
Fiesta:現地の法律事務所や日系事務所と連携している現地事務所もあるかと思いますが、弊所をご利用いただいている中でどういった印象をお持ちでしょうか。
荒井:Fiesta先生の専門家としての日本でのご経験があるからこそ、日本人が安心するコミュニケーションの仕方を理解してくださっていると感じています。現地の事務所に依頼した場合、「見積もりをお願いしているのにレスポンスがない」といったケースも見られます。仮に現地事務所に依頼しても、「お金を払ったのに反応がない」「対応の質に不安がある」といった懸念が出てしまいます。その点、ZeLoさんには日本でのやり取りからお世話になっているので、非常に安心感があります。
室井:Fiestaがインドネシアの専門性を持ちつつ、日本での知見や文化的理解を備えている点が、貴社のビジネスの成長に貢献できているようでなによりです。
荒井:インドネシアの事業としては、取引相手は日本の大手企業であり、契約書のレビューが必要になる場面も多くあります。その際にはまたZeLoさんにご相談できればと思っています。
Fiesta:インドネシアに進出する日本企業の支援という見地で、貴社と弊所は共通する部分があると思います。昨年9月には、インドネシアにおける電子署名の基本事項と最新動向の解説セミナーを共催させていただきました。弊所としては非常に好評で、クライアントの方にも喜んでいただけました。貴社にとっても、何かメリットはありましたか?
荒井:はい。既存のお客様に加えて、新規のお客様にもリーチできました。インドネシアでは、多くの日系企業が法改正のキャッチアップをできていない状況にあります。そういった中で、ZeLoさんと一緒にセミナーを実施して、当時注目されていた電子署名に関するセミナーを開催できたのは、非常に有益な機会だったと思います。
Fiesta:ありがとうございます。今後もそういった企画は積極的に行っていきたいと考えていますので、ぜひご一緒させてください。
室井:今後、貴社のインドネシア事業をさらに発展させていくにあたって、力を入れたい分野や、重点的に伸ばしたいと考えているポイントはありますか?
荒井:はい。特に、日本企業の人材不足、特にIT分野での課題を解決したいと考えていまして、今まさにその方向で事業を遂行しているところです。
日本の中堅・大手企業を対象に、エンジニアなどの高度人材を提供することを目指しています。インドネシアで人材を育成し、企業から仕事を受けて、日本の人材不足の課題を解決していけたらと考えています。
室井:日本の大企業を含め、どの業界も人材不足にある中で、貴社が意図されているのは、インドネシアでエンジニアなどの人材を確保し、国をまたいでリソースを確保するという形ですね。課題や今後取り組むべきと感じている点があれば、教えていただけますか?
荒井:課題としては「教育」が挙げられます。日本での教育スキームをそのままインドネシアに当てはめようとしても、うまくいかない部分があります。したがって、教育の仕組みを「インドネシアライズ」する必要があると考えています。現在、試行錯誤しており、インドネシアに適したオペレーションを構築すべく、ベストプラクティスを模索しているところです。
室井:弊所としても、Fiestaを中心に、現地に関するご相談もお引き受けできるかと思います。ぜひ、そういったノウハウをさまざまな場面で共有させていただければと思っています。
荒井:ぜひお願いいたします。たとえば、法改正に関する情報について共有していけるようなコミュニティがあると、進出している日系企業にとっても有益かと思います。弊社はITに強みがありますが、法的なコンテンツは作れないため、そこをZeLoさんと一緒にやらせていただけたら非常にありがたいです。
室井:IT×インドネシアという領域に取り組まれていると思いますが、インドネシアのIT業界の将来的な展望などあればお聞かせください。
荒井:少し専門的な話になりますが、インドネシアにはアプリ開発エンジニアが非常に多くいます。一方で、クラウドやセキュリティなどインフラ系のエンジニアはまだ少なく、徐々にそういった人材が増えていく段階と考えています。
アプリ開発については、今後、AIによってコードを書かなくてもプロダクトが作れる時代が到来すると感じています。大多数のエンジニアは、まだ経験が浅く、クライアントワークも未経験なケースが多いため、「ITで求められていることは何か」を理解するソフトスキルも不足しています。これらがアプリ開発系人材の今後の課題だと認識しています。また、インフラ領域については、まだ市場としても発展途上で、これから本格的に伸びていく分野だと見ています。
室井:インドネシアにおけるAIの展開についてどのようにお考えでしょうか?
荒井:AIプロダクトに関しては、まだまだ普及していない印象です。先日、インドネシアのディストリビューターのセールスマネージャーと話した際にも、インドネシアでAIによって収益を上げている企業やプロダクトはまだほとんど存在していないという話が出ました。もちろん、ChatGPTなどBtoC向けのサービスはあり、支援先の企業でも使用している話はよく聞きますが、多くのユーザーが無料で利用しており、AIでの課金モデルはまだ確立されていない印象です。そのため、フリープランのChatGPTなどに顧客データを入力してしまい、「データがどこへ行ったのか分からない」といったリスクが指摘されています。大手企業からも「AIの活用方針」よりも先に「ルール作りをしてほしい」といったご依頼をいただくことが増えています。
室井:その領域については、弊所でも数多く対応している分野です。クロスボーダーでインドネシアを含むと難度は上がると思いますが、弊所としてしっかりとサービス提供していきたいところですね。
荒井:私個人の話になりますが、Cquickのインドネシア事業の一部は切り離し、「AI Network Solution」という新しい法人も設立しました。
私たちは外国人という扱いになるため、ローカル企業との営業活動では、インドネシア人同士のつながりが必要になる場面があります。今後はそこにもっと踏み込んでいきたいと考えています。
また、インドネシアは法改正が非常に多い国と言われており、3か月前に出た情報が今でも有効かどうか分からないこともあります。大統領の一言で変わることもあるため、私たちが行っている活動が合法かどうか、常に気にしています。
室井:政権交代によって運用やルールが変わることも多いと感じていますが、そのあたりは意識されていますか?
荒井:はい、なるべくキャッチアップするよう努めていますが、どうやって情報を追っていくのがベストなのか、まだ最適な方法が見つかっていないというのが現状です。そのため、Fiesta先生をはじめ、現地の最新動向に精通した専門家がいるZeLoさんには、それらを踏まえたご提案をいただけることを期待しています。
室井:弊所は現地の法律事務所や弁護士などとも連携して対応できる体制を構築しています。今後は、そういった体制もご活用いただけそうでしょうか。
荒井:ぜひ活用したいと考えています。例えば、紛争などはなるべく起きてほしくないので、日頃からできる限りリスクを回避するなど予防的な観点でもZeLoさんに期待しています。ただ、実際にはどんな会社が相手になるか分かりませんので、仮にトラブルが発生した場合でも、弊社の事情をよく理解していただいているZeLoさんに相談できると心強いです。
室井:弊所では、貴社のように海外展開している企業に対して、シンガポールでの執務経験がある私のような日本法の弁護士と、インドネシアでの弁護士資格を有するFiestaなどが中心となって対応しています。そのため、日本法にも対応しつつ、現地の最新の法制度や商慣習をふまえたワンストップでの対応ができると考えています。
Fiesta:弊所の強みとして、多くの現地法律事務所やエージェント、公証人などと連携している点や、業務や行政手続を含めてワンストップで提供できる体制があります。また、日系企業に関する日本法の問題にも対応できます。貴社の強みもかなり広いですよね。
荒井:弊社では、現地での営業・マーケティングの実行支援に加えて、インドネシアの現地企業が日本市場へ展開する支援を提供しています。たとえば、観光や消費財といったBtoC企業が日本に進出するには、日本の法制度の理解と市場感覚の両方が必要です。弊社は日本国内の営業リソースもあるため、インドネシア企業の日本進出支援もできます。
そのため、弊社の視点で今後ZeLoさんに期待する役割は大きく二つあります。一つは、インドネシア進出を検討している日系企業への支援と、もう一つは、インドネシア進出にあたっての法的ガイダンスを提供することです。今後は弊社の強みも活かしながらこれらについてもご一緒できればと思います。
室井・Fiesta:ありがとうございます。今後とも貴社の事業支援のみならず、日本から見たアウトバウンドやインバウンドの企業への支援という観点で両社の強みを活かしてご一緒させていただけますと幸いです。本日はありがとうございました。
インドネシア支援の取扱分野ページ( https://zelojapan.com/service/indonesia)
国際法務の取扱分野ページ(https://zelojapan.com/practice/cross-border-practice )
※対談は、日本語・英語・インドネシア語で行われました。
※掲載内容は取材当時のものです(取材日:2025年7月8日)
(写真:根津佐和子、取材・編集:中村渚・阿部あかり)