【弁護士が解説】大麻取締法等の改正内容と最新動向
2023年12月6日、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案が国会で可決・成立し、12月13日に公布されました。施行日は、公布日から1年を超えない範囲内(大麻草栽培の免許規制の一部については、公布日から2年を超えない範囲内)で今後政令により定められることとされております。本記事では、ヘルスケア領域における事業展開にご関心をお持ちの方々の参考のために、直近の大麻取締法等の改正内容や対策を、同領域に精通した弁護士が解説いたします。
目次
大麻取締法等の改正趣旨
改正の趣旨は、大麻草の医療や産業における適正な利用を図るとともに、その濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するためとされており、今般の法改正により、大麻草から抽出した成分を含む医薬品等が使用可能になるとともに、医薬品の原料として大麻草を採取する目的で大麻草を栽培することが認められる等、製薬企業やCBD関連事業者にとって重要な改正といえます。
本記事では、現時点で施行されている大麻取締法を「現行法」といい、今回成立した法律を「改正法」として、改正内容をご紹介します。
大麻取締法等の主な改正内容
規制枠組
大麻草には、特有の化合物としてカンナビノイドと呼ばれる一群の化合物が含まれ、約 120 種類が報告されていますが、主なカンナビノイド成分として、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)、カンナビジオール(CBD)等が存在しています。
大麻の有害作用を引き起こす主な成分はTHCであり、このTHC が脳内のカンナビノイド受容体に結合し、神経回路を調整することにより、神経作用が発現し、健康被害を与えることとされています。他方、CBDは幻覚作用を有さず、抗てんかん作用や抗不安作用等を有するとされており、海外の一部の国においては後述のとおり抗てんかん薬として使用されています。
①現行法
現行法第1条は、「大麻とは,大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。」と規定しており、成熟した茎や趣旨を除く花穂や葉及びそこから抽出された製品を違法としていました。(部位規制)
つまり、規制部位以外、すなわち大麻草の成熟した茎か種子から抽出したCBD製品であれば現行法の規制対象とはなりません。ただし、実態としては、規制部位か否かを判断する際、THCの検出に着目して取り締まりがなされていました。(例えば、厚生労働省HP「大麻成分THCを含有する製品について」参照。)しかし、THCの検出基準値は公表されておらず、CBD関連事業者は信頼できる検査機関でTHC検査を行う等の対応を迫られてきました。
そして、有害成分であるΔ9-THC等については、化学合成されたものに限り、麻薬として指定されており、麻向法の規制の対象とされていました。
②改正法
しかし、改正法ではこの部位規制の枠組が改正され、有害成分に着目して規制を行う成分規制に転換することになりました。
改正法第2条第2項は、「この法律で「大麻」とは、大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。」と規定され、大麻草としての形状を有しない製品については大麻取締法の対象外となりました。
そして、THC(Δ9-THC、Δ8-THC)等及び政令で定める量以上のTHCを含む製品は麻向法において規制されることとなりました。(麻向法第2条2号、別表第42号、43号、78号ロハ)
すなわち、CBD関連製品については、抽出された部位にかかわらず、政令で定めるTHCの基準値を超えない、(かつ大麻草の形状を有しない)製品も新たに改正法、改正麻向法に基づき合法とされることになりました。
具体的なTHCの残留限度値については、今後政令で定められることとなります。
大麻から製造された医薬品の施用を可能にする改正
現行法は、大麻草から抽出した成分を含む医薬品の施用を禁止していました(現行法第4条)が、改正法では当該規定は削除されることになりました。
そして、改正麻向法第2条第1号は、麻薬の定義について「別表第一に掲げる物及び大麻をいう」と規定し、大麻を麻薬の一部と位置付けたことにより、他の麻薬と同様、安全性と有効性が確認されたものは使用可能になりました。
大麻栽培に関する免許に関する規制の改正
①現行法
現行法第3条1項は、「大麻取扱者でなければ大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のため使用してはならない。」と規定し、「大麻取扱者」(大麻栽培者及び大麻研究者をいいます。)になるためには都道府県知事の免許が必要でした。(現行法第2条)
大麻栽培者とは、繊維若しくは種子を採取する目的で、大麻草を栽培する者をいい(現行法第2条2項)、都道府県が定めている大麻栽培者免許基準は、目的として「当該地域の伝統文化の継承に資するもの」「栽培行為に対して社会的な有用性が十分認められること」「大麻栽培を必要とする充分な合理性があるものであること」といった要件を要求しておりました。その結果、厚生労働省「大麻草の栽培規制と栽培管理について」によると、令和2年における国内の大麻栽培者数は30人と極めて少なく、主に、神事等の利用を目的とした繊維採取、祭事等の利用を目的としたオガラ採取を目的として栽培を行っている状況にありました。
②改正法
改正法は冒頭に述べた「大麻草の医療や産業における適正な利用を図る」という改正趣旨に基づき、栽培の目的を改正するとともに大麻草採取栽培者の免許を区分しました。具体的には、大麻草から製造される製品の原材料として栽培する場合を第一種大麻草採取栽培者免許とし、都道府県知事による免許制とするとともに、医薬品の原料を採取する目的で栽培する場合を第二種大麻草採取栽培者免許とし、厚生労働大臣によるによる免許制としました。
そして、第一種大麻草採取栽培者については、THCが基準値以下の大麻草から採取した種子等を利用して栽培する必要があるとされています。(改正法第12条の3第1項参照)
その他の大麻取締法等の改正内容
上記(1)のとおり、大麻の有害成分は麻向法によって規制され、上記(3)のとおり、栽培に関する規制が整備されることになったことから、現行法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」と名称が変更されました。
また、薬物関連の法律のうち、麻向法、覚醒剤取締法等にはみだりに所持、施用・使用した場合の罪が規定されている一方、現行法においては使用に関する罰則は規定されておらず、所持に関する罰則しか設けられていませんでした。しかし、改正法において大麻は麻薬の一部という位置付けとなったことにより、大麻を施用した場合、7年以下の懲役が科せられることとなりました。(麻向法第66条の2第1項)
なお、改正法の附則においては、施行後五年を目途として、施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、改正法等の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされております。
ビジネスへの影響と近年の動向
欧米ではCBDを使った難治性てんかん治療薬である「エピディレックス」が既に承認されている一方で、現行法では大麻から製造された医薬品の施用・受施用、規制部位から抽出された大麻製品の輸入を禁止していることから、日本では臨床試験(治験)までしか進んでおらず、医療現場では活用することはできませんでした。改正法施行後は、医療現場でCBDを有効成分とする医薬品を使用することが可能となり、いわゆるドラッグ・ラグ(海外で既に承認されている薬が日本国内での薬事承認を得るまでに長い年月を要するという問題)が解消されることになります。
また、THCの残留限度値が政令で明確にされることになり、そして、附帯決議においても「THCの残留限度値を担保するための検査法や検査体制については明確かつ実効性があり、事業者による対応が可能なものとする」こととされるなど、法的ルールの明確化により、CBD関連事業者にとって追い風となることは間違いなく、コンプライアンス意識が高い大企業も今後CBD事業への参入、拡大を検討しやすくなったものと思われます。
そして、日本国内においても大麻草の栽培が現状より容易になり、医薬品やCBD製品の原料を国内で生産できることになったことも重要な点といえます。ただし、実際の免許基準などは引き続き行政の動向を注視していく必要があります。
他方、最近大麻成分に似た合成化合物「HHCH」が入っているとする「大麻グミ」を販売している食品製造業者が消費者に健康被害を与えたことがニュースになるなど、大麻関連製品が世間を騒がすことは少なくなく、大麻の使用による健康被害が増加していることも事実です。改正法施行後は一層新規参入者が増え、大麻関連製品が増加し、悪質な製品が増加することによる業界へのレピュテーションが懸念されるところです。今後CBD市場の健全な拡大に向けて、事業者自身が取り組んでいくことはもちろんのこと、業界団体等によるルール作りを進めていくことも重要であると考えられます。
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時代背景に伴い、行政による規制も複雑化しています。法令やガイドラインなどの規制を把握しながら、ビジネスを進めていくことが大切です。
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