組織課題を解決できる伴走者を目指して。弁護士と社会保険労務士でスタートアップ企業の支援を
弁護士、人事労務部門統括
藤田 豊大
特定社会保険労務士
髙谷 琴水
社会保険労務士
河野 千怜
スイス弁護士(日本での登録未了)の資格を持つジャンジャック・誠・ジャッカーが、2022年2月、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画しました。スイスと日本をバックグラウンドに持ち、10年近く、スイス・ヨーロッパと日本を繋ぐビジネスの支援を行っています。そんなジャッカー先生に、スイスの法律事務所での経験や、法律事務所ZeLoのチームで対応している領域について聞きました。
2009年ジュネーブ大学法学部卒業。2012年ジュネーブ州弁護士資格取得(スイス法)。2013年スイス法律事務所の日本支部に入所。2019年より合併したKellerhals Carrard法律事務所ジュネーブに2年間転籍。2021年Kellerhals Carrard法律事務所東京支部パートナーに昇格。2022年法律事務所ZeLoに参画。同年DPO(Data Protection Officer) Certificate, Data Protection Institute Brussels取得。 主な取扱分野は欧州・日本間のインバウンド・アウトバウンド取引(M&A、デューデリジェンス、マーケットエントリー)、データ保護、フィンテックなど。母国語はフランス語・日本語であり、日本を知る弁護士として様々なフランス語のラジオ番組にも参加。
目次
ーージャッカー先生は普段、日本語や英語でお話しされている印象があります。
スイス人の父と日本人の母のもとで育ったため、母語はフランス語と日本語です。ZeLoにジョインしてからは業務では日本語で話す機会が多く、ドイツ語もたまに使用しています。
私が生まれたのは、ルクセンブルクという、フランスとドイツ、ベルギーに挟まれた小さな国です。その後パリで育ち、7歳でスイスのローザンヌに引っ越しました。国際オリンピック委員会の本部もある、インターナショナルな都市です。ローザンヌでは、周りにスイスと別の国のミックスの方や、移住した2世・3世の方がいるなど、2つ以上の言語を話すのが当たり前の環境でした。
ーー法律の道を目指したきっかけを教えてください。
当初は仕事で日本語を使いたくて、国際・開発研究大学院で、外交官や国連職員、NPO職員などを目指す人たちとともに、国際公法、政治経済学、政治学、外交史について幅広く学びました。大学3年の時に、法学部に通っていた先輩から「国際関係の勉強も良いが、法律を専門的に勉強したほうが、日本のバックグラウンドをより生かせるよ」とアドバイスを受けました。「スイスでは法学部への入学や進学はとても厳しく、難しそうだけど、憧れるし挑戦してみたい」と思い、ジュネーブ大学の法学部でスイス弁護士の資格取得を目指しました。
法学部在籍中、週3日はプライベートバンクで働き、夜はイベントやバーでタバコのプロモーションをし、自力で生活費を捻出していました。スイスは物価が高く、仕事をしなければ生活できなかったんです。勉強もしなければ卒業が危うくなるというプレッシャーがあるなか、短時間で効率良く知識を吸収する方法が身についたと思います。
ーーそれからスイス弁護士の資格を取得するまでに、どのような経験をされたのでしょうか。
当時の司法試験は、法学部で4年学び、卒業後に1年半のインターンシップを経て、受験資格が得られるという仕組みでした。インターンシップ先を探していた時、サインプレートにフランス語、ドイツ語、英語、日本語の4ヵ国語で「法律事務所」と書かれていた事務所を見つけました。不思議に思って調べたら、スイス国内で唯一、東京に支部を置く大手事務所だったんです。「いつか僕もこの事務所で働くぞ」という夢が大きなモチベーションとなり、法学部を卒業できました。
いざ、憧れの法律事務所のインターンシップ選考に臨んだら、面接担当者に「うちみたいに大きな法律事務所だと、一つの分野に特化した専門家が多くて、業務が細分化されている。まずは小規模の法律事務所で、色々な案件に携わって、未経験の領域にどう対応するのかを知ったうえで、弁護士の基本となる思考力や課題解決力を身につけることが大事だ」と勧められたんです。
そこで、小規模の法律事務所のインターンシップに参加し、日本に関わる案件をメインに取り組みました。同時に、スイス独自の制度を目的に移住してくる富裕層を対象に、文化・芸術発展を目的とした財団法人の設立支援、ビザ取得や税金関連の対応や専門機関との交渉・調整などを経験しました。
ーーインターンシップ後、無事スイス弁護士の資格を取得されましたね。その後はどういったキャリアを歩んだのでしょうか。
当初、インターンシップで志望していた大手事務所にもう一度連絡したところ、東京オフィスの先生を紹介いただき、日本支部で働くことに決まりました。ずっと夢見ていた法律事務所で働けて、うれしかったのを覚えています。東京オフィスはスイス弁護士が2名、スタッフ含めて計15名の小さな支部でした。
5年半在籍し、個人向けの税金・相続、GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)、日本市場への参入(マーケットエントリー)、スイス・イタリア・アメリカ・ブラジルなどの海外企業が、日本企業を買収する国際的なM&Aなどを経験しました。新市場参入後のフォローアップや、親会社・子会社のサポートなども含めて、長期的にクライアントを支援していました。
ーー初めて日本で働いて、スイスでの生活とギャップを感じたことはありましたか。
それまでの30年間、僕はずっと「スイスに住んでいる日本人」だと思って生きてきました。家庭内では日本の厳格なしつけを受けたし、日本語補習校にも通っていたからです。しかし、日本に来たら僕は「ハーフの弁護士」で、まったく日本人として扱われず、ショックを受けました。
自分の立場の中途半端さを感じましたが、「外国の弁護士資格を持つ者として日本で働くためには、言語などのハンデを越えられるくらい、自分の強みを持たねばならない」とあらためて思い、弁護士としての文章の書き方やビジネスにおける日本語などを、実務を通して体得しました。
その後、日本で外国法事務弁護士の登録をするにあたって、実務経験年数などの基準を満たす必要があり、2019年にスイス・ジュネーブの本社に異動しました。当時は、ジュネーブオフィスが合併したため、スイスで3番目に大きい法律事務所になったタイミングでした。
ーージュネーブの本社では、どんな経験をしたのですか。
以前在籍していた日本支部の東京オフィスと比べて、案件の内容やスケールが異なり、かなり大規模なM&Aにも携わりました。秘密保持契約(NDA)の締結、デューデリジェンス(DD)の実施、契約交渉、株式譲渡契約書(SPA)の締結などです。特にDDでは、大量の資料をレビューして、すべてのリスクを分析していく工程に力を入れて取り組みました。
2019年から2年間、ジュネーブの本社で働いたことは、僕のキャリアの転機にもなりました。所内のあらゆる分野に関する専門家と一緒のチームで働いたら、視界が開けたんです。
たとえばクライアントから、特定の分野に関する問い合わせがあっても、所内で確認すればすぐに解決できるという、チームならではの魅力を感じました。メンバーと助け合う一面がありながら、パートナーを目指す競争相手であることも新鮮でしたね。結果的に、ジュネーブで扱った案件の実績が評価され、パートナーに昇格できました。
ーージュネーブの法律事務所でパートナー就任後、どのような理由で、ZeLoへの参画を決めたのですか。
「スイス国内で築いたネットワークを生かして、日本とヨーロッパを繋ぐ仕事がしたい」という想いが強くなったからです。具体的には、 スイスで盛んなスタートアップ支援やブロックチェーンなどの領域を日本にも広めて、イノベーションに繋げていくようなリーガルサポートに携わりたいと考えました。
僕が挑戦したいことを、ZeLoの代表の小笠原匡隆先生や国際部門の先生たちに伝えたら、「面白いですね。きっと目標は達成できるので、ぜひ一緒にやりましょう!」と背中を押してくださったんです。その時、どんなに困難な目標でも、当たり前のようにチームで乗り越えていこうとする強さを感じて、とても惹かれました。
お話しするなかで、クライアントや案件に対して熱心に向き合う姿勢や、ZeLoの創業理念「リーガルサービスを変革する」にも共感し、参画を決意しました。
ーーZeLoに参画してから、注力している分野があれば教えてください。
ZeLoの国際部門の一員として、日本やヨーロッパにおけるクロスボーダー案件の対応経験を生かし、インバウンドとアウトバウンドの両方で活躍したいと考えています。特に、海外に向けてサービスを提供する日本企業のサポートをするにあたって、GDPRに関するアドバイスができることは必要だと感じました。
そのため、2022年7月に、EUのデータ保護における専門知識を有する認定「DPO(Data Protection Officer)Certificate, Data Protection Institute Brussels」を取得しました。世界で最も厳格に定められたデータ保護規則とされるGDPRなどについて、英語やフランス語、日本語で、リーガルリサーチやリーガルアドバイスを提供しています。
また、日本法弁護士とチームを組み、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)、Cookieポリシー、個人情報管理規程その他各種規程類の作成・見直し、情報セキュリティインシデント対応、情報セキュリティに関する社内研修・セミナーの実施などにも携わっています。
ーーそういった案件でクライアントと接する際に、大事にしていることはありますか?
僕は、クライアントのことを深く知ることが一番大事だと思っています。そのうえで、ビジネス上の目標達成を支援できるようにサポートしていきたいです。
法律の専門家としてだけでなく、ひとりの人間としても、クライアントを安心させられるような存在が理想ですね。
ーー最後に、今後法律事務所ZeLoで、どのような存在を目指していきたいですか。
日本やスイスの現地ネットワークを生かして、海外企業が日本へ進出する際のリーガルサポートにも、さらに力を入れていきたいですね。ZeLoであれば、日本と海外を繋ぐ取り組みにも、チームで対応していけると考えています。
いずれは、「ZeLoのジャッカー先生に依頼すれば、起業時だけでなくビジネスが軌道に乗るまで、長期的にリーガルサポートを受けられる」と思っていただけるような専門家を目指したいです。
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※掲載内容は掲載当時のものです(掲載日:2022年12月28日)
(写真:根津 佐和子、取材・文:田中 沙羅、編集: ZeLo LAW SQUARE 編集部)