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【インドネシアでの国際取引に影響あり】「言語法」に基づくインドネシア語契約書作成義務について

国際取引を行う際に、英語に加えて、現地語での契約書作成が必要かどうかについて、現地の法律で定められていることがあります。日本企業の進出先としても注目を集めるインドネシアでは、インドネシア「言語法」(以下に定義します)の施行規則である、2019年大統領規則第63号(Presidential Regulation No. 63 of 2019)(以下「PR 63/2019」)によって、インドネシア語版の作成が義務付けられていますが、さらに、インドネシア語版と外国語版の内容に、相違や矛盾があった場合の優先言語を、契約当事者が自由に選択できると規定しています。これは実務家の間でも広く採用されている一般的慣行を正式に認めるものです。本記事では、本大統領規則が制定されるに至った背景や、問題点、商取引に与える影響について解説します。

【インドネシアでの国際取引に影響あり】「言語法」に基づくインドネシア語契約書作成義務について
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PROFILE
フィエスタ ヴィクトリア

インドネシア法弁護士

フィエスタ ヴィクトリア

2006年ペリタ・ハラパン大学卒業。2019年法律事務所ZeLo参画。 主な取扱分野はM&A、ジェネラル・コーポレート、人事労務、フィンテックなど。 インドネシア支持者協会PERADIのプロフェッショナル会員であり、執筆も数多く手掛けている。ALB Women in Law Awards 2021 - Business Development Lawyer of the Year を受賞。

インドネシア「言語法」の概要

2009年法律第24号「国旗、言語、紋章及び国歌に関する法律」(以下「言語法」)は、2019年9月30日に制定され、これに続いて、その施行規則として、2010年に2010年第16号大統領規則を制定しました。この大統領規則は、PR63/2019で置き換えられています。

PR 63/2019は、2010年に発布された旧大統領規制を廃止し、インドネシアと国外の当事者との間の国際取引における契約書における言語の選択について、「言語法」の解釈における最大の問題を整理解決する内容となっています。

PR 63/2019では、契約書のインドネシア語版と外国語版に相違・矛盾があった場合に優先すべき言語は、契約当事者が自由に選択できると明確に規定しています。PR 63/2019の26 条4項では、「契約書の外国語版とインドネシア語版との間で解釈が異なる場合に備えて、優先言語を当該契約書において定めておくことができる。」と規定しています。つまり、外国語版を解釈優先言語とすることも認めており、実務家の間で広く採用されている一般的市場慣行を正式に支持するものとなっています。[1]

インドネシア「言語法」制定による契約要件

PR 63/2019が制定される前は、「言語法」が制定されたことにより、論争や議論が盛り上がりを見せました。特に、従前の施行規制によって導入された契約要件として、「インドネシアの当事者がいる契約の契約書にはインドネシア語を使用すること」、また「外国の当事者がいる場合には、当該外国の言語又は英語により契約書を作成すること」が求められており、当該要件について激しい論争が起こりました。[2]

「言語法」31条1項及び2項は、「覚書又は契約書の一方当事者がインドネシア共和国の中央政府機関、地方政府機関、インドネシアの民間法人又はインドネシア市民である場合、当該覚書又は契約書にはインドネシア語を使用しなければならない。」さらに、「外国の当事者が上記覚書又は契約書の他方当事者となる場合、当該外国の言語又は英語によっても当該覚書又は契約書を作成すること」としています。

インドネシア「言語法」制定を受けての国内の裁判所判決

当該要件については十分な説明がなかったため、様々な疑義が指摘されました[3]。優先言語はどちらにできるのか、締結の締結日はいつとして扱われるのか、契約の発効日はいつになるのかといった点です。なかでも最も重要な論点は、当該要件を満たさなかった場合に、その契約は有効であるかという点です。

この点について対応すべく、実務家の一般的市場慣行としては、英語とインドネシア語の両方で契約を締結し、優先言語を定めて、将来において当事者間に紛争が起こる可能性を最小限に抑える努力がなされてきました。

「言語法」に関する問題が深刻化したのは、2013年に西ジャカルタのインドネシア地方裁判所が、インドネシア企業と外国の貸し手との間で締結された融資契約について、「言語法」を遵守していないため無効であるとの判決(2013年6月20日付け西ジャカルタ地方裁判所判決No. 451/Pdt.G/2012/PN.Jkt.Bar)がなされたことによります。

同裁判所は、当該契約の契約書は、英語のみで作成されており、インドネシア語版が存在しないため、「言語法」の規定に違反していると判断したのです。その結果、当該契約は無効とされ、そもそも存在しなかったものとして取り扱われることとなりました。同裁判所は、両当事者に対し、契約締結以前の状態に戻すよう原状回復を命じました。

同判決は、ジャカルタ高等裁判所[4] (2014年5月7日付けジャカルタ高等裁判所判決No.48/PDT/2014/PT.DKI)及び最高裁判所(2015年10月23日付け最高裁判所判決No.1572 K/Pdt/2015)により維持され、確定しています。[5]

国内裁判所判決を受けた実務への影響

インドネシアは制定法主義を採用しており、裁判所は必ずしも判例によって法的に拘束されないことには留意すべきです。別の地方裁判所では同じ事案であったとしても、全く異なる判断がなされる可能性もあります。しかし、もちろん判例は参照され、また当該判例の事案と類似の事案について判決を行う裁判官に影響を与える可能性があることも、合わせて念頭に置いておく必要があります。。

前述のように、インドネシアの「言語法」のもとで、契約書は、インドネシアの当事者と外国の当事者とが関わる場合、両国の言語で作成・締結されなければなりません。しかし、PR 63/2019の興味深い点は、「外国の当事者の言語で作成された文書は、①当該文書のインドネシア語版に相当するもの、又は②当該文書のインドネシア語版の翻訳として使用されるものとする」とも規定していることです。当該規定は、インドネシア語版を原本としているようにも読めるため、原本としてのインドネシア語版の締結時点で契約が成立する趣旨と解釈することができます。一方で、やはり両国の言語で契約書が作成された時点で契約が締結されると解釈すべきとも思えます。このため、一部の実務家の間では、契約の締結時期がいつになるのかという点について論争が始まっています。

PR 63/2019や「言語法」はともに、遵守しなかった場合について規定を欠いており、インドネシア語を使用する義務を遵守しなかった場合の制裁規定もありません。また、前述した一連の判決には賛否両論があり、かつ、同判決で明らかになったのは、インドネシアの裁判所による判決や判断は、予測不可能であり、今後の動向を注視する必要があります。

専門家とともに現地の最新動向をふまえた対応を

以上のことから、インドネシアの当事者が関わる場合には、必ず契約書をインドネシア語で作成し、外国の当事者も関わるときは、当該外国当事者の言語又は英語での契約書も作成し、2言語バージョンを作成して、同時に締結することを強くお勧めします。契約書の準拠法条項や法選択条項にどのような記載をしたとしても、それだけでは不十分であり、「言語法」の要求する言語を使用しなければ、契約が無効になるリスクを負うことになります。

私は、インドネシア法弁護士(日本での登録未了)として、14年以上、M&Aやジェネラル・コーポレートに従事し、企業のインドネシア進出などをサポートしています。世界最大のイスラム国家であり、2億7,000万人超えという世界4位(2022年時点)の人口を抱える巨大マーケットを持つことでも知られ、日本企業の進出先としても注目を集めるインドネシア。東南アジアなどへの事業展開を検討している方や、既に関わりのある方など、ぜひ一度ご相談ください。

また、法律事務所ZeLoでは、インドネシアのほかに米国やスイスの専門家が所属しており、日本法弁護士とチームを編成して対応するほか、現地法律事務所とも緊密に連携し、世界の法域を問わずリーガルサービスを提供しています。支援実績も、スタートアップから中小・上場企業まで多岐にわたり、企業規模やビジネススキームに合わせた、迅速かつ質の高いサービスを提供いたします。本記事のように、現地の最新動向をふまえた対応がとくに必要になる場合は、ぜひ一度ご相談ください。


[1] 10年前に成立した2009年法律第24号「国旗、言語、紋章及び国歌に関する法律(通称「言語法」)」に関してジョコ・ウィドド大統領は2019年9月30日、インドネシア語の使用に係る施行規制「2019年大統領規制第63号(Presidential Regulation No. 63 of 2019)」(以下「PR 63/2019」という。)に署名しました。

[2] PR 63/2019は、遡及的に2019年9月30から発効することとされ、2010年に発布された旧大統領規制を廃止するものです。また、インドネシアの当事者と外国の当事者との間の国際取引における言語選択に関して、言語法における最大の問題を解決する内容となっています。PR 63/2019は、契約書のインドネシア語版と外国語版に相違・矛盾があった場合に優先すべき言語を当事者が自由に選択できると明確に規定しました。(PR 63/2019の第26 条第4項は、「契約書の外国語版とインドネシア語版との間で解釈が異なる場合に備えて、優先言語を当該契約書において定めておくことができる。」と規定している)つまり、実務家の間で広く採用されている一般的市場慣行を正式に支持することとしたのです。

[3] 今回のPR 63/2019が発出される前は、言語法が発布されたことにより、論争や議論が盛り上がりを見せました。特に、従前の施行規制によって導入された契約要件として、インドネシアの当事者がいる契約にはインドネシア語を使用すること、及び外国の当事者がいる場合には当該外国の言語又は英語により契約書を作成することが規定されており、当該要件について激しい論争が巻き起こりました。(言語法第31条第1項及び第2項 「覚書又は契約書の一方当事者がインドネシア共和国の中央政府機関、地方政府機関、インドネシアの民間法人又はインドネシア市民である場合、当該覚書又は契約書にはインドネシア語を使用しなければならない。」さらに、「外国の当事者が上記覚書又は契約書の他方当事者となる場合、当該外国の言語又は英語によっても当該覚書又は契約書を作成すること」が必要とされる。)

[4] 当該要件については十分な説明がなかったため、様々な疑義が指摘されました。優先言語は何か、締結日はいつか、発効日はいつかといった点です。なかでも最重要論点は、当該要件を満たさなかった場合に契約は有効であるのかということです。実務家の一般的市場慣行としては、英語とインドネシア語の両方で契約を締結し、優先言語を定めて、将来において当事者間に紛争が起こる可能性を最小限に抑える努力がなされてきました。

[5] 言語法に関する問題が深刻化したのは2013年、西ジャカルタのインドネシア地方裁判所がインドネシア企業と外国の貸し手との間で締結された融資契約について、言語法を遵守していないため無効であるとの判決(2013年6月20日付け西ジャカルタ地方裁判所判決No. 451/Pdt.G/2012/PN.Jkt.Bar)を下した時のことです。同裁判所は、当該契約は英語のみで作成されており、インドネシア語版が存在しないため、言語法の規定に違反していると判断したのです。その結果、当該契約は無効とされ、そもそも存在しなかったものとして取り扱われることとなりました。同裁判所は、両当事者に対し、契約締結以前の状態に戻すよう原状回復を命じました。同判決は、ジャカルタ高等裁判所(2014年5月7日付けジャカルタ高等裁判所判決No.48/PDT/2014/PT.DKI)及び最高裁判所(2015年10月23日付け最高裁判所判決No.1572 K/Pdt/2015)により維持されました。

本記事は、原文であるこちらの記事の翻訳であり、英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。

本記事の情報は、法的助言を構成するものではなく、そのような助言をする意図もないものであって、一般的な情報提供のみを目的とするものです。読者におかれましては、特定の法的事項に関して助言を得たい場合、弁護士にご連絡をお願い申し上げます。

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