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【2024年5月31日公表】「上場審査に関するFAQ集」の概要と留意点について東証出身の弁護士が解説

2024年5月31日、株式会社東京証券取引所上場推進部・上場部および日本取引所自主規制法人上場審査部の連名で「上場審査に関するFAQ集」(以下、「本FAQ集」と言います)が発出されました。本記事では、本FAQ集の概要と留意点について、東京証券取引所上場推進部・上場部及び日本取引所自主規制法人上場審査部にて東証の上場審査業務に深く従事した経験を持つ弁護士が解説します。

【2024年5月31日公表】「上場審査に関するFAQ集」の概要と留意点について東証出身の弁護士が解説
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PROFILE
Yusuke Ito

Attorney admitted in Japan

Yusuke Ito

Graduated from Kumamoto University (B.A., 2005), Chuo Law School (J.D., 2012), passed Japan Bar Exam (Registered in 2013). Experience at Torikai Law Office (2014-2023), seconded to Development Bank of Japan Inc. (2015-), seconded to Tokyo Stock Exchange, Inc. (2017-), and joined ZeLo (2023-). Main practice areas include IPO, IR, M&A, Startup Law, Dispute Resolution, etc.

「上場審査に関するFAQ集」の制度概要と留意点

本FAQ集は、東証が上場準備会社からよく相談を受けるまたは上場審査の取扱いが誤解されているテーマに関して、東証の上場審査における考え方を正しく周知する観点から公表されたものです。本FAQ集の公表によって上場審査の実務の取扱いが変わったものではなく、これまでの審査実務が改めて公に示されたという位置付けの資料となります。

①    赤字上場

①赤字上場
Q)グロース市場でも黒字化しないと上場できないと聞きましたが、本当でしょうか。

A)赤字上場は可能です。 グロース市場において上場までの黒字化を求める制度はありません。主幹事証券会社が高い成長可能性を有すると評価し、赤字であっても投資家に広く受け入れられると判断した結果、赤字上場を⾏った実績がこれまでにも多く存在します。  

(本FAQより引用)

プライム市場およびスタンダード市場の審査基準の「企業の継続性及び収益性」の項目では、「継続的に事業を営み、安定的(かつ優れた)な収益基盤を有していること」が要件となっているのに対して[1]、グロース市場では安定的な収益基盤は要件とはなっておらず、「事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること」として事業計画の合理性が要件となっています[2]

このように、グロース市場では、高い成長可能性があることを前提に、成長途中の企業で足元の業績が赤字であっても事業計画が合理的であれば許容される基準が採用されています。足下の業績が赤字であることだけで直ちに上場を否定されるものではありません。上場準備中に赤字になることを避けるために先行投資を過度に控える必要はないということです。

ただし、ずっと赤字で業績改善の見込みがない場合にも上場できるわけではなく、当然ながら、上場後に大きく成長し、ある程度の段階で黒字に転換できる見込みを要することが前提になっていると言えます。

上場審査において、赤字であることが形式的にNGとなるわけではありませんが、事実上黒字化の蓋然性やその時期は一定程度審査されることになるものと思われます。


[1] 東京証券取引所「上場審査等に関するガイドライン」 (2007年11月1日公開)Ⅱ/Ⅲ  2.

[2] 東京証券取引所「上場審査等に関するガイドライン」 (2007年11月1日公開) Ⅳ  2.

②    上場準備期間のM&A

②上場準備期間のM&A
Q)上場準備中にM&Aを⾏うと上場できないと聞きましたが、 本当でしょうか。

A)上場できます。これまでも上場準備中にM&Aを⾏っている事例が多くあります。上場準備中にM&Aを実施しないことを求める制度はありません。

ただし、上場準備中にM&Aを⾏った場合、その影響を踏まえた事業計画の策定やM&A対象を含むグループ全体の管理体制の整備を適切に⾏っていただく必要があります。また、主幹事証券会社における引受審査や監査法人の会計監査に手戻りが発生すると、上場日程が変わってしまうリスクがあります。IPOの支援を⾏う関係者と、M&Aを実施する場合にどのような対応が必要となるのか、事前に十分なコミュニケーションをとっていただくことが重要です。

(本FAQより引用)

上場準備中にM&Aを行うことを禁止する上場規程やガイドラインはありません。本FAQ集記載のとおり、実際に直前々期、直前期にM&Aを実施した上でIPOを行った事例は2023年にも6件ありました。

上場日会社名市場主な事業内容M&A概要
2023/06/21(株)シーユーシーグロース医療機関支援事業、居宅訪問看護事業21/4にメディカルパイロットを子会社化
23/1にネイチャー等を子会社化
2023/07/24(株)トライトグロース人材サービス、デジタルソリューションサービス21/8にHAB&co.を子会社化
22/1にウェルクスを子会社化
2023/07/28(株)GENDAグロースアミューズメント施設の運営22/1に宝島を子会社化
その他事業譲受等を実施
2023/10/04(株)くすりの窓口グロース薬局・医療・介護向けソリューションの提供22/4にエーシーエスを子会社化
2023/11/16Japan Eyewear Holdings(株)スタンダードアイウェアの企画・デザイン・製造・卸及び販売21/8にフォーナインズ等を子会社化
2023/12/27(株)yutoriグロース衣料品及び雑貨等の企画並びに小売・卸売事業22/4にKANDORのファッションブランド事業譲受
22/8にA.Z.Rを子会社化

上場準備期間中に一切M&Aを行うことができないとすると上場準備企業の成長の実現を阻害することになることから、上場準備中のM&Aが禁止されているわけではありませんが、上場審査に影響があることは間違いありません。M&Aを実施するに際しては適切なデューデリジェンス(法務・財務デューデリジェンス等)を行うことが一般的ですが、違法又は不適切な行為(状態)が残存し、上場審査上問題視される事項が生じる場合があるからです。

このため、上場準備期間中にM&Aを行うことはNGではありませんが、上場審査に影響がないよう慎重な対応が必要となります。弊所のクライアント様においても、上場審査を念頭に置いた上で慎重にM&Aを実施したことで、東証や証券からの上場審査において問題視されなかったケースは複数ございます。

③   予算と実績の乖離について

③   予算と実績の乖離について
Q)予算と実績の乖離は上場審査で問題になりますか?

A)乖離だけを問題視することはありません。予算が合理的に作られていれば、その後に予実が乖離したこと自体を問題視することはありません。乖離が生じた後の対応が重要です。

上場審査においては、仮に予算と実績が乖離した場合、適切な時期に、原因分析を踏まえた予算の策定方法等の⾒直しや事業計画の修正を⾏えているかを確認します。

(本FAQより引用)

予算(利益計画等)と実績に乖離があると上場審査上問題となると業界で言われていることについて、本FAQ集では、乖離だけで直ちにNGになることはないということを明らかにしたものです。

とはいえ、常に予算と実績に乖離があると予算の立て方に問題があることになり、計画を立てる意味がなくなることから、乖離が生じた場合には理由の説明が必要です。また、当初立てた予算と着地の見込みに乖離が生じた場合、適切なタイミングで予算を修正する必要があります。仮に自社における修正基準を超える乖離が生じているにも関わらず、合理的な理由なく修正を見送っているような場合は上場審査上問題となる場合があります。

また、修正後の予算が原因分析を踏まえて合理的に策定されているかどうかも重要です。乖離が生じた原因が今後も生じるおそれがあるかを含め、慎重に検討することが必要です。

④  業績予想開示について

④業績予想開示について
Q)上場すると、業績予想は必ず特定値(1本値)で公表しなければならないのでしょうか?

A)特定値以外の開示も可能です。 業績の見通しが立てづらい場合、一定の範囲(レンジ)での開示や非開示とする会社もあります。特定値での開示を求める制度はありません。

なお、上場会社においても、売上・利益等の実績値が期初予算どおりに着地しないことはよく⾒られることであり、公表した業績予想値と今後の見通しに乖離がある都度、予算修正を⾏ったうえでその内容を開示しています。 取引所が重視するのは、「予算が当たるかどうか」ではなく「予算を含む事業計画が合理的に策定されているか」、「その内容が適切に開示され、その後実績が乖離した場合には適時に修正されるか」という点です。

こうした観点は投資家からも重視されており、予算・事業計画が非合理的であったり、開示上の説明や乖離が生じた場合の対応がおろそかになってしまうと、投資家の評価を得ることができません。

(本FAQより引用)

業績予想開示について、必ず具体的な数字を立てなければならないという誤解がありますが、本FAQ集に記載のとおり、一定のレンジで示すことも許容されています。業界環境や地政学リスクなど将来を完璧に見通すことは不可能であることから、当初計画した見込み通りに着地することは重要ではなく、予想と着地見込みに乖離が生じた際には適時適切に修正することが投資家の評価からは重要となります。

このため、具体的根拠に基づいた確度の高い業績予想であることに越したことはありませんが、重要なのはその精度よりも着地見込みに乖離が生じたときに適切に修正し、適時に開示することになります。

IPOの課題整理や改善対応で困ったら専門家にご相談を

スタートアップ企業が上場をするためには、株式会社東京証券取引所および証券会社が行う上場審査において承認を受ける必要があります。しかし、上場審査事項は多岐にわたり、申請を目指す企業での作業量が多いうえに、専門的な知識なども必要なため、難航する企業も少なくありません。万が一体制が不十分だった場合、上場審査が通らないこともあるため、前もって上場審査に備える必要があります。

法律事務所ZeLoでは、株式会社東京証券取引所でのIPO審査実務の経験や、会計士としてIPO準備会社監査業務に従事した経験など、IPO審査について多くの知見を有する弁護士などの専門家が、適切にサポートします。

個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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