介在価値の大きさがやりがいに繋がる──私がZeLoに転職したワケ
Attorney admitted in Japan
Akihiro Saotome
スタートアップを複数人で共同創業する場合には、創業時において、共同創業者間の株式の取扱いに関し契約を締結することが重要となります。本記事では、スタートアップ創業時のポイントとなる創業株主間契約に関し、その前提となる株式保有割合に触れた上で、退任時の株式譲渡義務をはじめとした主要な条項について解説します。
Ryuichi Ito joined ZeLo in 2022. Before joining ZeLo, he started his career as a lawyer by joining Nishimura & Asahi in 2018. He graduated from the University of Tokyo (LL.B) and passed Japanese Bar Exam in 2017. His main areas of practice include startup law, competition law, public affairs etc.
目次
スタートアップは、一人で創業する場合もありますが、複数人で共同創業することも多いです。複数人で共同創業し、株式を保有し合うこととなった場合、創業株主間で株式の取扱いに関する契約(創業株主間契約)を締結することが重要です。
例えば、以下のケースを考えてみます。
Aは、同志であるBとスタートアップ(X株式会社)を設立した。
AとBは対等な関係を望んだため、それぞれ資本金を50万円ずつ出し合い、各50%の株式を保有することとした。
AとBは学生時代からの親友であり、互いに信頼が厚く、仲違いすること等想像すらしていなかったことから、AB間での株式の取扱いについて契約等を締結していなかった。X社の事業が軌道に乗り始めたころ、事業拡大のため資金調達を行うこととなったが、複数の投資家候補のうち、いずれの投資家から資金調達するかでAB間で対立が生じた。
これがきっかけでAとBの関係が悪化し、BがX社を離れる事態にまで発展した。
AはBに対し「X社を辞めるのであれば設立当初の出資額で株式を渡してほしい」と説得を試みたが、Bは「株式を渡したくない」と主張している。
このケースでは、AはX社の株式の50%しか保有しておらず過半数に満たないため、Bが反対すれば株主総会の普通決議(会社法309条1項)すら行うことができず、X社の意思決定に大きな支障が生じることとなります。
また、AがBの株式に関する取扱いを強制することができないということは、前回の記事でも触れた、スタートアップにおける重大なイベントである資金調達、エグジット(IPOやM&A)ができなくなるおそれがあるということも意味します。
さらに、仮にBが株式を渡す気になったとしても、譲渡価格について速やかに合意できないおそれもあり、例えば、退任のタイミングによっては、X社の急成長による企業価値増大により、創業当初50万円の価値にすぎなかったBの創業株式を、数十億円で買い取らなければならないおそれもあります。
上記のような創業株主間のトラブルはスタートアップ にとって珍しくなく、例えば創業株主間契約を締結していても、ウェブ上で公開されているひな形をそのまま用いて形式的に締結したために、退任時に改めて契約書を検討した際に意図しない内容であったことが発覚したというケースもあります。
会社の意思決定に支障が生じる、資金調達・エグジットができない、退任時の株式の譲渡価格が極めて高額になるといった重大なリスクを回避すべく、創業時には、共同創業者間で株式保有割合を慎重に決定した上で 、創業株主間契約を締結しておくことが重要となります。
まず、創業株主間契約の検討の前提として、共同創業者間の株式保有割合が問題となります。
共同創業者間の株式保有割合は、共同創業者のスタートアップにおける地位・役割、コミットメントや、能力・経験等の要素を総合して決定することとなります。
冒頭のケースでは株式保有割合は50:50です。共同創業者が対等である場合には考えられる選択肢ではあるものの、共同創業者間で対立が起きてしまった際には、双方に決定権がなく、何も決めることができない状態(デッドロック)に陥ること等が懸念事項となります。
そのため、一般的には共同創業者が対等な関係にある場合であっても51:49とする等して、完全な均等配分は避けることが望ましいです。なお、51:49とするような場合であっても、株主総会の特別決議事項についてはデッドロック状態が生じる点にも留意が必要です。
デッドロックを避け円滑な意思決定ができるように、共同創業の場合は、一方(CEO)に株式を集中させるケースが実務上多いです。
ただし、共同創業者間の関係性等の様々な事情があるため、株式保有割合に正解はなく、特定の共同創業者に株式を集中させずに成功したスタートアップもあります。この場合は、契約でデッドロックの際の取扱いを規定して一定のリスクヘッジを行うことが考えられます。
創業株主間契約は、共同創業者間の関係が良好な創業時に締結しておくべきです。
共同創業者同士の信頼関係が深く、自分たちは絶対に仲違いしないと考えていても、会社の命運がかかった経営判断を行ううちに関係が悪化することは、残念ながらよくあることです。また、関係が悪化しなかったとしても、共同創業者が病気等、様々な事情でスタートアップを離れざるを得ないこともあります。
スタートアップが成長していけばいくほど契約締結のハードルが上がってしまうのが実情であり、何かトラブルが起こってからでは取り返しがつかないため、早めの対応が望ましいです。
創業株主間契約において定めるべき条項は、冒頭のケースでも特にリスクとして指摘した、退任時の保有株式の取扱いに関する条項(下記(1)(2))が最も重要ですが、関連して規定することが想定される条項についても簡単に説明します。
創業株主間契約において、退任時の株式の取扱いが最も基本的かつ重要な条項です。これは、スタートアップを退任した共同創業者(退任創業者)に創業株主としての権利が残存することを避けるため、会社に存続する共同創業者(存続創業者)の請求があった場合には、退任時にその保有している株式を譲渡することを義務付けるものです。
検討すべき主なポイントは、以下の3点です。
① 「退任」の定義
② 譲渡相手方の範囲
③ 譲渡対象株式の範囲
株式の譲渡義務が生ずる効果を生じさせる要件となる「退任」の定義は重要です。
共同創業者がスタートアップを離れざるを得ない原因としては、冒頭のケースのように共同創業者と仲違いした場合だけではなく、共同創業者が健康上の理由で経営を続けられなくなった場合、共同創業者が死亡した場合(下記(3)参照)等、様々考えられます。
また、共同創業者としてのポジション(役員等)は離れるものの、引き続き従業員や外部協力者のかたちでスタートアップのメンバーとして残り続けることもあります。
これらの場合にも「退任」があったとして株式譲渡義務を発生させるべきか、という点が検討事項となります。
退任時の株式譲渡の相手方について、まずは存続創業者とすることが考えられます。存続創業者が複数いる場合には、その全員を相手方とするか、譲渡株式数は持株比率に応じて按分するかといった点を検討します。
ただし、譲渡価格との関係で、企業価値の増加によっては存続創業者個人の資金力の乏しさから、株式の取得に応じることが困難となるおそれがある点に注意が必要です。
また、会社を譲渡相手方とすることも考えられます。
しかし、会社による自己株式の取得の際の対価は分配可能額を超えてはいけないとされているところ(分配可能額規制。会社法461条1項3号)、スタートアップは一定期間赤字であることが多いため、実際には株式の取得に応じることができないおそれがあります。
以上の懸念点に一定の対処をする趣旨で、存続創業者が指定する第三者(例えば、創業者以外の主要な役職員等を想定)を譲渡相手方とできるようにする規定を設けることも実務上一般的です。
退任時に退任創業者が譲渡義務を負う株式の範囲は、保有株式の全部とするのが実務上一般的です。
これは、冒頭に記した退任創業者に創業株主としての権利が残存することによるトラブルを避けるという点に加え、退任後のスタートアップの企業価値増加分の利益まで退任創業者に与える必要はないと考えられること等の観点によると思われます。また、裏を返せば、全部の譲渡義務を負うと定めることで、共同創業者間において退任をしないインセンティブとなるという効果もあります。
他方で、いわゆるベスティング(リバースべスティング)条項を設けることもあります。
ベスティング条項とは、会社に一定期間在任し、その成長に貢献した退任創業者に対して、退任創業者が譲渡義務を負う株式の割合を一部または0にする(≒保有できる株式を確定させる)ことを内容とする条項です。
共同創業のかたちは十人十色であり、例えば、スタートアップを成功させるべく、シリアルアントレプレナー(連続起業家)や関連ビジネスのプロ経営者を共同創業者として招聘したいケースにおいては、永続的に共同創業者として残り続けることが現実的でない場合もあります。
また、このような場合には、退任後の企業価値増加分を一部還元することが適当であるともいえます。そこで、退任によりキャピタルゲインが得られなくなるリスクを抑えることで招聘したアントレプレナーやプロ経営者に自社への参画を促し、かつ一定期間スタートアップに注力するインセンティブを付与できる、ベスティング条項が活用されます。
具体的に規定する際は、在任期間の長さ(べスティング期間の起算点・終点)、ベスティング期間内での譲渡義務の割合(≒確定する株式の保有割合)がポイントとなります。例えば、創業から1年経過日以降、1年毎に株式譲渡義務が10%ずつ低減し、5年経過後は50%の範囲で保有し続けることができる旨等を定めます。
これらは、共同創業者間の関係性・力関係や、当該共同創業者となる者の地位・役割、株式保有割合、コミットが可能な期間やスタートアップ側としてのコミットが必要な期間等の事情を総合して決定することとなります。
なお、ベスティング条項により退任創業者に株式を一部残すことで生じ得る上記記載のリスクを抑えるために、いわゆる議決権拘束条項(存続創業者に従って議決権を行使する義務を負う旨の条項)や、一定の事由(存続創業者に対する協力義務に違反した場合等)が生じた際の全部譲渡義務等を設けることも考えられます。
冒頭のケースで記したように、退任創業者の株式譲渡の価格をどのようにするかについても、創業株主間契約における重要な条項といえます。
株式譲渡価格については、例えば以下の表のように検討することが考えられます。
価格例 | メリット | デメリット |
---|---|---|
①無償 | ・存続創業者の資金力不足や会社の分配可能額規制の問題を回避できる | ・退任創業者のキャピタルゲインの取得に加え、投下資本の回収を一切否定する ・税務リスク |
②退任創業者の株式取得価格 | ・取得価格が大きくならないため、存続創業者の資金力不足や会社の分配可能額規制の問題を軽減できる | ・退任創業者のキャピタルゲインの取得を否定する ・税務リスク |
③簿価純資産方式による算定額 | ・退任創業者の企業価値増加分を一定評価することとなる ・赤字である等の場合、取得価格を抑えることができる ・税務リスクは限定的 | ・赤字である等の場合、企業価値増加分が十分に反映されないおそれ ・場合によっては取得価格が高額となるおそれ |
④時価純資産額 | ・同上 | ・同上 ・非公開会社における株式の時価の算定方法が問題となり得る |
⑤直近の増資事例または譲渡事例における価格 | ・退任創業者が十分なキャピタルゲインを得られる可能性 ・税務リスクは限定的 | ・取得価格が相当高額となることが想定され、存続創業者の資金力不足や会社の分配可能額規制の問題が生じる |
⑥第三者の鑑定による価格 | ・退任創業者が適切なキャピタルゲインを得られる ・税務リスクは限定的 | ・取得価格が比較的高額となることが想定され、存続創業者の資金力不足や会社の分配可能額規制の問題が生じる ・鑑定を行う第三者を誰が決定するか、鑑定費用の負担等が問題となる |
共同創業者が死亡を理由に退任した場合、原則としてその保有株式は相続人が取得することとなります。そこで、退任創業者の相続人に対しても創業株主間契約の効力を及ぼし、相続人に対しても、存続創業者等に対する株式譲渡義務を規定しておくことが、リスク回避の観点から望ましいといえます。
ドラッグ・アロング・ライトとは一般に、M&A等が行われる場合に、多数の株主(投資家等)の賛成等を条件として、株主(大株主)の請求により、他の株主(少数株主)に対して、その保有株式の売却を義務付け、M&Aへの参加を強制することができる権利のことをいいます。
M&Aは、スタートアップのエグジットの重要な選択肢であり、この規定により、共同創業者の反対があってもM&Aの円滑な実行によりスムーズにエグジットを行うことが可能となります。
株式会社における株式譲渡については会社法所定の手続を経る必要がありますが、退任創業者が退任する際にその保有する株式の譲渡手続に協力しないおそれもあることから、退任創業者の株式の譲渡義務を規定するのみでなく、株式譲渡のための手続に協力すべき旨を規定することが望ましいといえます。
また関連して、スタートアップの主要な株主であるVCとの関係も問題となり得ることから、ベスティング条項により株式を一部保有する退任創業者に対して、資金調達を受ける際に締結する株主間契約等の締結手続に協力すべき旨を規定することもあります。
解説のとおり、スタートアップの初期段階においても、法務は重要な役割の一つである一方で、即戦力となる法務人材の採用が難しく、十分な対応が追い付いていないというケースも多いかもしれません。
法律事務所ZeLoは、創業当初からリーガルテックを用いて多くのスタートアップ支援を行ってまいりました。
特に、株式会社LegalForce(現株式会社LegalOn Technologies)と同時期に創業した経緯・経験から、各ステージに寄り添った法務・知財アドバイスを提供しています。
訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AI・Fintechなどの先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。また、現行の法規制がビジネスの障壁となるようなケースにおいて、ルールメイキング・規制緩和の働きかけなどをサポートしています。
法律事務所ZeLoには、様々な専門領域を持つ弁護士に加え、外国弁護士・ 弁理士・司法書士・行政書士が所属しているほか、公認会計士が在籍するグループファーム「ZeLo FAS株式会社」や「税理士法人ZeLo」とも連携し、法務・知財・登記・会計・税務まで、ワンストップにサービスを提供しています。
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