介在価値の大きさがやりがいに繋がる──私がZeLoに転職したワケ
Attorney admitted in Japan
Akihiro Saotome
近年、日本では国を挙げたスタートアップ創出の取組みが強化されています。スタートアップはイノベーションを創出し、短期間での急成長を実現するためにも、法務の役割が欠かせません。本記事では、スタートアップにおける法務の役割として、①「攻め」の法務と、②VCからの資金調達(スタートアップファイナンス)等の専門領域における法務とし、その役割を解説します。加えて、日本のスタートアップの資金調達環境や、成長フェーズ毎のスタートアップ法務の概観・主な法務課題なども合わせて解説します。
目次
近年、「スタートアップ」が日本経済を牽引する重要な存在として、社会に浸透してきています。2022年には岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」を公表し、「新しい資本主義」の実現に向けた方針を示しました。
2023年3月には、経済産業省がスタートアップの支援施策について分かりやすく解説した資料「スタートアップ育成に向けた政府の取組~スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」を公表したり、同年6月には「日本スタートアップ大賞2023」の表彰式が行われたりと、スタートアップを盛り上げる取組みが続いています。
「スタートアップ」とは、一義的な定義があるわけではありませんが、①イノベーションの創出と、②短期間での急成長が主な要素であると考えられています[1]。
そのため、スタートアップにおける法務の役割は、①イノベーションを加速させる「攻め」の法務と、②急成長に必要な資金調達(スタートアップファイナンス)等の専門領域における法務にあるといえます。
スタートアップは、常に新しい技術や製品・サービス、ビジネスモデルを生むために挑戦を続ける組織であり、スタートアップの法務部門は特に「攻め」の役割が求められています。
従来、法務は、企業の管理部門であり、企業が違法な方向に進まないようにブレーキをかけることが求められてきました。そのため、法務の中心的な役割は「守り」にありました。
しかし近年では、日本経済・企業をとりまく環境変化(ビジネスのグローバル化、イノベーションの加速、コンプライアンス強化の要請等)により、スタートアップに限らず、これからの日本企業の法務機能には、「攻め」の役割が求められているといえます[2]。具体的には、リーガルリスクを評価・分析してリスク判断・リスクテイクの現実的な手法などを提案すること(ナビゲーション機能)や、既存の規制を超えてビジネスを実現するためのルールメイキング(クリエーション機能)などが挙げられます。
特にスタートアップにおいては、新しい技術や製品・サービス、ビジネスモデルを生みイノベーションを創出させる存在であることの裏返しとして、未知の法的課題に対峙する宿命にあるといえるでしょう。その際には正に、リーガルリスクの分析・判断やルールメイキングなど、「攻め」の役割が求められます。
また、スタートアップは、急成長に伴い1年単位で組織が大きく様変わりするといっても過言ではなく、成長フェーズ毎に攻めの姿勢を持ちつつ、柔軟に、バランス感覚を持って組織をコントロールしていかなければなりません。たとえば、創業フェーズに労務体制をすべて整備することは不可能である一方で、就業規則の策定、36協定の締結・届出等、最低限遵守しなければならない制度・手続を経る必要があるといった対応が、日々組織のあちこちで行われます。スタートアップの成長フェーズ(シード、アーリー、ミドル、レイター)の各段階において、法的課題や資金調達対応の内容が異なりますが、それぞれにおいて、エグジット(M&A・IPO)を意識しつつその後の成長を見据えた適切な法務対応が必要です。
スタートアップにおいては、スタートアップファイナンスなどの専門分野における法務対応も不可欠です。
スタートアップにおける重要なステークホルダーとして、ベンチャーキャピタル(VC)が挙げられます。
スタートアップは、短期間での急成長が要素であると述べましたが、創業当初はプロダクト等もなく赤字となることが通常で、当分の間は急成長のために必要な人件費・開発改善コストも多額となるため、自己資金のみでこれを実現することは極めて困難といえ、資金調達は不可欠であるといえます。
他方で、VCは、投資先企業の少数の成功事例により巨額のリターンを得る(=ハイリスク・ハイリターンの投資姿勢)という仕組みで成り立っている存在であるため、短期間での急成長が見込まれるスタートアップが必然的に投資先候補となります。
つまり、スタートアップとは、VCから資金調達(エクイティファイナンス)を受ける企業であるといっても過言ではありません。
また、VCファンドには運用期間(約10年間)が定められており、期間経過後には出資者に対し分配を行う必要があるため、投資先に対しては、運用期間内でのエグジット(IPOやM&A)を求めなければなりません。
そのため、スタートアップにおいては、資金調達・エクイティファイナンスに関する対応や、M&A、IPO対応が必然的に求められ、これらの専門分野における法務対応が不可欠となります。
上記「スタートアップファイナンスなどの専門領域への対応」に関連して、日本のスタートアップの資金調達環境は、世界経済・情勢等の影響や個々の状況により多少のブレがあるものの、以前と比べ大幅に充実してきているといえます。
10年前(2013年)と近年を比較すると、日本のスタートアップ資金調達(※)の実施企業は1300社強→2500社前後と2倍程度、資金調達額は約877億円→約8774億円と約10倍増加しています[3]。
また、個々のスタートアップへの資金調達額も大型化しています。以前は数十億円規模のエクイティファイナンスの事例も稀であり、例えば株式会社メルカリ(2018年6月上場)が2016年3月に実施した調達ラウンドも総額約84億円程度でしたが、近年では、スタートアップへの100億円超の資金調達事例も複数みられる状況です[4]。
このように、日本のスタートアップの資金調達環境は充実・拡大しており、スタートアップにおいて、資金調達というイベントは今後も重要な位置付けとなることは間違いないでしょう。
これまで、スタートアップにおいては成長フェーズ毎に必要な法的課題が変化すると記しましたが、具体的なイメージとして、一般的なITスタートアップ(ソフトウェア開発等)を想定した、4段階の成長フェーズ(※)における法的課題・資金調達の概要を、以下の表のとおり示します。
(※)成長フェーズについては一義ではなく論者により異なるものの、便宜的な分類として表1記載のイメージとしています。
【表1:各成長フェーズのイメージ】
フェーズ | プロダクト・ビジネス状況 | バリュエーション(時価総額) |
---|---|---|
シード | ・構想段階・研究開発中であるが、プロダクトは未完成 | ~5億円程度 |
アーリー | ・プロダクトが一旦完成し、ユーザーが存在 ・プロダクトマーケットフィット(PMF)があるか、明確でない状態 | 5~30億円程度 |
ミドル | ・プロダクトはPMFし、拡大フェーズにある ・メイン事業と別の新規事業の可能性を模索 | 30億~300億円程度 |
レイター | ・プロダクトは安定成長 ・メイン事業と別の新規事業の開始運用 ・海外マーケットの進出・拡充 | 300億円以上 |
【表2:成長フェーズ毎の主な法的課題】
フェーズ | 主な法的課題 |
---|---|
シード | ① 株式会社設立(定款作成、創業時資本政策を含む) ②(共同創業の場合)創業者間株主契約の締結 ③ プロダクト・ビジネスモデルの適法性検討 ④(規制業種の場合)許認可の取得・レギュレーション対応 ⑤ 基本的なリーガルドキュメント(利用規約・プライバシーポリシー・契約書等)の作成検討 ⑥ 基本的な特許・商標の調査・取得・登録検討 |
アーリー | ⑦ コーポレート業務(契約書レビュー等)体制整備 ⑧ 営業資料・広告の適法性等チェック体制整備 ⑨ 知財戦略立案、知的財産権管理 ⑩ 役職員に対するインセンティブプラン(ストックオプション等)設計 ⑪ 労務体制整備 ⑫ 情報管理体制(個人情報・秘密情報等)整備 |
ミドル | ⑬ 新規事業(プロダクト・ビジネスモデル)の適法性検討 ⑭ IPO準備 ⑮ M&A検討 |
レイター | ⑯ 海外の法規制のリサーチ・対応等 |
【表3:成長フェーズ毎の資金調達(スタートアップファイナンス)の概要】
フェーズ | 主な資金調達スキーム | 主な資金調達先 | 調達総額・ バリュエーション |
---|---|---|---|
シード | ※創業融資 ・普通株式(みなし優先株式) ・コンバーティブルエクイティ(J-KISS等) | ※日本政策金融公庫等 ・エンジェル投資家 ・VC | ・数千万円 ・~5億円程度 |
アーリー | ・優先株式(シリーズA) ・CB・転換社債 | ・エンジェル投資家 ・VC ・CVC ・事業会社 | ・数億円 ・5~30億円程度 |
ミドル | ・優先株式(シリーズB~C) | ・VC(海外系含む) ・CVC ・事業会社 ・PEファンド ・IPO | ・数十億円 ・30~300億円程度 |
レイター | ・優先株式(シリーズD~) | ・VC(海外系含む) ・CVC(特に金融機関系) ・事業会社 ・PEファンド ・IPO | ・数十億円(後半)~数百億円 ・300億円以上 |
各法的課題や資金調達の詳細については今後解説していくことを予定していますが、今回記したように、各法的課題の対応に当たっては、スタートアップ法務の専門性を前提として、「攻め」の法務としての機能を発揮していくことが必要となっていきます。
解説のとおり、スタートアップにとって、法務は重要な役割の一つである一方で、即戦力となる法務人材の採用が難しく、十分な対応が追い付いていないというケースも多いかもしれません。
法律事務所ZeLoは、創業当初からリーガルテックを用いて多くのスタートアップ支援を行ってまいりました。
特に、株式会社LegalForce(現株式会社LegalOn Technologies)と同時期に創業した経緯・経験から、各ステージに寄り添った法務・知財アドバイスを提供しています。
訴訟・紛争解決などの伝統的な企業法務領域はもちろんのこと、web3・AI・Fintechなどの先端領域や、新しいビジネスモデルに関する支援に強みを持っています。また、現行の法規制がビジネスの障壁となるようなケースにおいて、ルールメイキング・規制緩和の働きかけなどをサポートしています。
法律事務所ZeLoには、様々な専門領域を持つ弁護士に加え、外国弁護士・ 弁理士・司法書士・行政書士が所属しているほか、公認会計士が在籍するグループファーム「ZeLo FAS株式会社」や「税理士法人ZeLo」とも連携し、法務・知財・登記・会計・税務まで、ワンストップにサービスを提供しています。
個社のニーズやビジネスモデルに応じて、アドバイスを提供していますので、ぜひお気軽にお問合せください。
[1] 以下を参考としています。
[2]この点に関しては、以下の経済産業省の報告書に詳しく整理されています。
[3] 参照:INITIAL「2022年 Japan Startup Finance - 国内スタートアップ資金調達動向決定版 -」(2023.1.31公表、2023.6.20閲覧)
※ここでいう「資金調達」とは資本の増加(エクイティファイナンス)を指し、買収・子会社化や株式の移動、事業証券化、債券発行などによるキャッシュの増加、負債による調達(デットファイナンス)は対象には含まれないとされています。
[4] STARTUP DB「国内スタートアップ資金調達金額ランキング(2022年1月-12月)」(2023.1.19公表、2023.6.20閲覧)