
ドローンビジネスの拡大と法規制

法律事務所ZeLo代表弁護士。2009年早稲田大学法学部三年次早期卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2017年法律事務所ZeLo創業。主な取扱分野はブロックチェーン・暗号資産、FinTech、IT・知的財産権、M&A、労働法、事業再生、スタートアップ支援など。
2009年早稲田大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了。2013年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2018年2月法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ジェネラル・コーポレート、スタートアップ支援、FinTech、訴訟対応、倒産・事業再生など。著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)など。
2011年東京大学法学部卒業、2013年東京大学法科大学院修了、同年司法試験合格。2014年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、同年長島・大野・常松法律事務所入所。2019年8月法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、M&A、ルールメイキング/パブリック・アフェアーズ、ジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争、危機管理・コンプライアンスなど。執筆に「総会IT化を可能とするシステム・技術への理解」(ビジネス法務2020年12月号)、『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務)、『実践 ゼロから法務!―立ち上げから組織づくりまで―』(中央経済社)など。
2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験予備試験合格。2018年司法試験合格。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。クロスボーダー取引を含むM&A、ストック・オプション、スタートアップ・ファイナンスなどコーポレート業務全般を手掛けるほか、訴訟/紛争案件も担当。また、AI、web3、フィンテックなどの先端技術分野への法的アドバイスを強みとする。主な論文に「ステーブルコイン・DeFiとCBDC」(金融・商事判例1611号、2021年)、「スタートアップの株主間契約における実務上の論点と対応指針」(NBL 1242(2023.5.15)号)など。
目次
日本で展開されているドローンビジネス
近年、「空」を新たなフロンティアとしてモノや人や情報を運ぶドローンが飛び交い、ドローンビジネスは、「空の産業革命」と呼ばれています。高齢化が進み担い手が不足し後継に喫緊の課題がある分野等でDaaS(ドローン・アズ・ア・サービス)を展開する新興企業が台頭しています。 インプレス総合研究所の「ドローンビジネス調査報告書2020」の予測では、2019年度の日本国内のドローンビジネスの市場規模は1409億円と推測され、2018年度の931億円から478億円増加しています(前年度比51%増)。2020年度には前年度比37%増の1932億円に拡大し、2025年度には6427億円(2019年度の約4.6倍)に達すると予想されています。 市場の大半がドローンの本体(ハード)ではなくドローンを使ったサービスによるもので、規制緩和が本格化すればさらに伸びることが予想されます。以下では、公表事例をもとにドローンビジネスの具体例を見ていきたいと思います。国産ドローンスタートアップ初の上場事例
ドローンビジネスの上場事例として、千葉大学発のスタートアップである株式会社自律制御システム研究所が、2018年12月に東証マザーズに上場した事例が存在します。日本においてドローンビジネスを実施するスタートアップの初の上場事例として注目を集めました。同社は、全地球測位システム(GPS)に頼らない自動制御技術を開発し、物流や点検などに特化した機体や運用システムを提供しています。また、楽天株式会社による僻地の消費者に購入商品を配送する実証実験にも機体を提供しているとのことです。農業用ドローン
農業用ドローンを開発する株式会社ナイルワークスは、世界初のセンチメートル精度でドローンを完全自動飛行する技術開発に成功しています。同社は、その技術を搭載したドローンを作物上空30~50cmの至近距離を飛行させることによって薬剤の飛散量を大幅に抑えるだけでなく、作物の生育状態を1株ごとにリアルタイムで診断し、その診断結果に基づいて最適量の肥料・農薬を散布する技術の開発に取り組んでいるようです。(3)UTM(無人航空機管制)
従来、ドローンは山間部での測量、工場施設の点検、空撮などに利用されてきましたが、国内では2022年度を目標とした規制緩和により都市部での目視外飛行が実現する可能性が高く、都市部でもドローンの自動配送サービスが実現される可能性が高い状況です。その鍵を握るシステムがUTM(無人航空機管制)といわれています。テラドローン株式会社は2019年8月、東京・丸の内エリアの高層ビルの横で複数のドローンを自律飛行させる実証実験を行ったことが話題になりました。5Gと映像配信
2020年から商用化が始まる5G は、ドローンビジネスの追い風になっています。高精度の映像を送受信しやすくなるほか、移動中のドローンの通信も安定するためです。株式会社プロドローンは、KDDI株式会社から出資を受け、インフラ点検や警備で遠隔地からリアルタイムに動画を確認するといった活用を見据え、自社の機体でドローンが撮影した高精細の4K映像を5Gで中継する実験を進めるとの報道がなされています。ドローンに関連する重要な法規制
ここまでに説明した各社やその他のドローンに関わる会社の取組みにより、ドローンビジネスは拡大している状況にありますが、ドローンの利用には法規制が存在します。ドローンに関連する重要な法規制としては、航空法、小型無人機等飛行禁止法が存在するほか、各自治体の条例や、飛行場所に関連した法律の適用も問題になります。以下では、ドローンに関連する法規制の概要を説明していきます。航空法
2015年4月に官邸屋上でドローンが発見されたことをきっかけに、2015年12月10日に施行された「航空法の一部を改正する法律(平成27年法律第67号)」(2015年改正法)に基づき改正された航空法に、ドローン(無人航空機)の飛行に関する規制が導入されました。その後、2019年9月18日に一部施行された「航空法及び運輸安全委員会設置法の一部を改正する法律(令和元年法律第38号)」(2019年改正法。新旧対象条文はこちら)により無人航空機の飛行に当たっての遵守事項の追加がなされ、本項執筆時点(2020年5月21日)においては、2020年2月28日に閣議決定された、無人航空機の登録制度を創設すること等を定める「無人航空機等の飛行による危害の発生を防止するための航空法及び重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律の一部を改正する法律案」(2020年改正法案。新旧対象条文はこちら)が国会で審議中の状況です。ア.定義
航空法では、飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船等であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(重量200g以上)を「無人航空機」と定義しており、重量200g以上のドローンは無人航空機に該当します(航空法2条22項、航空法施行規則5条の2)。無人航空機に該当するドローンは、飛行空域、飛行方法といった規制の適用を受けるほか、2020年改正法案が成立した場合には、登録制度の対象となります。 一方で、重量が200g未満のドローンは、航空法施行規則上の「模型航空機」と分類され、仮に人や物件に衝突しても被害が限定的であることから無人航空機の飛行に関するルールは適用されず、空港周辺や 一定の高度以上の飛行について国土交通大臣の許可等を必要とする規定 (同法134 条の3、同法施行規則239条の2第4号、239条の3第4号)が適用されます。 以下、(1)で「ドローン」と記載する場合はは無人航空機を意味する用語として使用します。イ.飛行の禁止空域
航空法は、ドローンの飛行に関する基本的なルールとして、飛行の禁止空域(同法132条)について規定しています。 ①空港等の周辺の上空の空域(同法132条1号、同法施行規則236条1号から3号)、②地表又は水面から150メートル以上の高さの空域(同法132条1号、同法施行規則236条4号)、③2015年の国勢調査の結果による人口集中地区の上空の空域(同法132条2号、同法施行規則236条の2)が飛行の禁止空域に該当します。 なお、2019年改正法の一部施行日である2019年9月18日に施行された「航空法施行規則の一部を改正する省令(令和元年国土交通省令第29号)」(2019年改正省令)及び「無人航空機の飛行禁止区域等を定める告示(令和元年国土交通省告示第461号)」により、①に関連して一部の空港について禁止空域が拡大されました。一部の空港には、新千歳空港・成田国際空港・東京国際空港・中部国際空港・関西国際空港・大阪国際空港・福岡空港・那覇空港が該当し、進入表面若しくは転移表面の下の空域又は空港の敷地の上空の空域も飛行禁止空域となりました。
(国土交通省HPより引用)
飛行の禁止空域においてドローンを飛行させる場合には、国土交通大臣の許可が必要であり、許可なく飛行させたときは、50万円以下の罰金が科せられることとなります(同法157条の5第1号、159条2号)。 したがって、飛行の禁止空域においてドローンを飛行させる場合には、事前に国土交通大臣の許可を得る必要があること、また、国土交通省によれば、審査に時間を要する場合もあり、飛行開始予定日の10開庁日前からさらに、期間に相当の余裕をもって申請することが要請されているので、留意が必要です。ウ.飛行方法の規制
飛行の禁止空域に関するルールと並んで、飛行方法の規制(航空法132条の2)もドローンの飛行に関する基本的なルールとして挙げられます。 2015年改正法に基づく航空法においては、下図の⑤から⑩(同法132条の2第5号から第10号)の飛行方法を遵守することが規定されていました。それに加えて、2019年改正法及び2019年改正省令により、2019年9月18日付で、以下(及び下図)の①から④の飛行方法を遵守することも追加されました(同法132条の2第1号から4号、同法施行規則236条の4及び236条の5)。 ①アルコール又は薬物等の影響下で飛行させないこと ②飛行前確認を行うこと ③航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること ④他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと
(国土交通省HPより引用)
①に違反してドローンを飛行させた場合、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金を科されます(同法157条の4)。また、②から④に違反してドローンを飛行させた場合には、50万円以下の罰金を科せられることになります(同法157条の5第2号・第3号、同法159条2号)。 ⑤から⑩の方法については、その方法によらずにドローンを飛行させようとする場合、国土交通大臣(地方航空局長)の承認を受ける必要があります(航空法132条の2但書、同法施行規則236条の8)。 たとえば、⑤の方法に関しては夜間の飛行を行う場合、⑥の方法に関しては自分の目の届かない範囲でドローンを飛行させる場合などが該当します。承認を受けずにこれらの方法に反した飛行を行った場合には、50万円以下の罰金を科せられることとなります(航空法157条の5第2号、第4号、及び第5号、159条2号)。 自分が行おうとしているドローンの飛行方法が、完全に禁止されている方法に該当しないか(①~④)、承認を受ける必要のある態様で行うことにならないか(⑤~⑩)を事前に確認し、適切な方法でドローンを飛行させる必要があります。エ.無人航空機の登録制度の創設
近年、ドローンの利活用が進む一方で、ドローンに関連した航空法違反の事案や事故が頻発し、所有者が分からず原因究明や安全確保のための措置を講じさせることができないという課題が生じています。そのため、所有者や機体の情報を国に登録することを義務付け、無登録での飛行を禁止することを目的として、2020年2月28日に、2020年改正法案が閣議決定されました。2020年改正法案の内容で法律が制定された場合、無人航空機の登録に関して航空法に131条の3から131条の14の規定が追加されることになります。 予定されている無人航空機の登録制度が創設された場合、原則として、無人航空機登録原簿に登録を受けていないドローンを飛行させることはできないことになります(改正航空法案131条の4)。登録を受けるためには、ドローンの所有者が、種類、型式、製造者、製造番号、所有者の情報等を申請する必要があり(同法案131条の6第1項)、また、その航空により航空機の航行の安全等が著しく損なわれるおそれがある場合には登録を受けることができないとされています(同法案131条の5)。登録を受けずにドローンを飛行させた場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることも予定されています(同法案157条の4) 本稿執筆時点においては国会で審議中の法律案になりますが、成立した場合には、ドローンの所有者は登録を行う必要があるという負担が増えることになるため、今後の改正動向を注視する必要があります。小型無人機等飛行禁止法
国会議事堂、内閣総理大臣官邸等の国の重要な施設、外国公館、原子力事業所および防衛関係施設等の周辺地域の上空ではドローンの飛行が「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」(小型無人機等飛行禁止法)によって禁止されています。ドローンの飛行を規制するという点は航空法と同じですが、国政の中枢機能や公共の安全確保を目的としていることが、航空法と異なっています。 小型無人機等飛行禁止法は、国会議事堂などの国の重要な施設、外国公館、防衛関係施設、原子力事業所を対象施設と定めており(同法2条1項)、対象施設の敷地・区域の上空(レッド・ゾーン)、周囲おおむね300mの対象施設周辺地域(同法2条2項)の上空(イエロー・ゾーン)における小型無人機の飛行を禁止しています(同法9条1項)。ドローンは、小型無人機に該当するため、対象施設や対象周辺地域の上空を飛行させることができないことになります。 警察官等は、違反者に対して、機器の退去その他の必要な措置をとることを命令することができ、 やむを得ない限度において、小型無人機等の飛行の妨害、機器の破損その他の必要な措置をとることができます(同法10条1項、2項)。警察官等の命令に違反した場合は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(なお、レッドゾーンの飛行は命令の有無を問わず罰則が適用されます)。東京都内でのドローンの飛行
下図の通り、東京都23区は全域が、東京都内のそれ以外の地域もほとんどが人口集中地区にあたり飛行禁止空域となっているため、東京都内ではドローンを飛行させることができる範囲は限られています(航空法132条2号、同法施行規則236条の2)。
(国土地理院HP:人口集中地区H27年(総務省統計局)より引用)
また、ドローンを飛行させることができる範囲であっても、東京都は、ドローンの使用は安全性が確認された行為とはいえないとし、東京都立公園条例16条10号「都市公園の管理に支障がある行為」を根拠として、都立公園・庭園におけるドローンの飛行を禁じており、違反した場合は5万円以下の過料が科される(同条例25条)ため注意が必要です。さらに、前記(2)小型無人機等飛行禁止法の規制にも留意する必要があります。その他の規制
ア.私有地での飛行
航空法等の規制法を遵守していたとしても、第三者の私有地上でドローンを飛行させる行為が、当該第三者の土地所有権を侵害するものとして、所有権に基づく妨害排除請求の対象となったり、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となるのでしょうか。 民法207条は、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」と規定しています。航空法上の国土交通大臣の許可が「法令の制限」に該当し、この文言を根拠に土地所有権の範囲を制限することができるかが問題となります。 この点、航空法の許可は地上の人や物件の安全を確保するための技術的見地から行われるのであって、土地の所有権を制限する根拠とはなりえないと考えられます。 もっとも、所有する土地の上空にドローンを飛ばされたとしても、どこまでの権利侵害がなされたといえるかは不明です。そのため、実際上は、ドローン飛行の行為態様がどの程度土地所有者の土地の利用を妨げたかという観点で侵害の有無が判断されることになると考えられます。イ.道路での飛行
道路交通法77条第1項第4号に規定する「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたもの」には、道路交通法77条1項の「道路の使用の許可」が必要です。 この点、警察庁「国家戦略特区等提案検討要請回答」(提案管理番号062040)では、「道路における危険を生じさせ、交通の円滑を阻害するおそれがある工事・作業をする場合や道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような撮影等を行おうとする場合は、ドローンを利用するか否かにかかわらず、道路使用許可を要するが、これらに当たらない形態で、単にドローンを利用して道路上空から撮影を行おうとする場合は、現行制度上、道路使用許可を要しない。」と明示されています(提案管理番号079060でも同趣旨の記載があります。)。ウ.河川での飛行
河川や河川敷におけるドローンの飛行も、航空法の規制に服するため、「人口集中地区」(同法132条第2号、同法施行規則236条の2)に該当する場合には、前記の通り、事前に国土交通大臣の許可を得なければなりません。 人口集中地区に該当しない場合であっても、私有地や地元自治体などが許可を受けて施設を設置・整備した公園や広場等は、施設管理者への確認が必要です。また、ドローンの飛行が河川法24条の「河川区域内の土地を占有」する場合には、河川管理者の許可が必要であるため、ドローンの飛行が「占有」といえるかが問題になります。 「占有」とは、河川敷を整備(工作物の設置や、芝刈りなど)したり、排他的・継続的に河川敷を使用する態様をいうため、ドローンの飛行のように一時的かつ非排他的な使用態様は「占有」には当たらないと考えられます。エ.電波法
電波法は、同法4条柱書で「無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。」と規定しています。 無線局とは、「無線設備」および「無線設備の操作を行う者」の総体をいい(同法2条5号)、「無線設備」には電波を送りまたは受けるための電気的設備をいいますが、受信のみを目的とするものは含まれません(同号但書)。 ドローン操縦のためのRC用送信機は原則として「無線局」にあたり総務大臣の免許が必要となりますが、ドローン本体の方もカメラで撮影した映像等の情報をRC用送信機等に送信する機能等を有する場合には、ドローン自体が「無線設備」となり、総務大臣の免許が必要です。 ただし、下図の「技術基準適合証明」を受けた製品(同法38条の7第1項)を使用する場合には、総務大臣の免許は不要です。