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ドローンビジネスの拡大と法規制

ドローンビジネスの拡大と法規制
STARTUP-LAW
PROFILE
Masataka Ogasawara

Attorney admitted in Japan

Masataka Ogasawara

法律事務所ZeLo代表弁護士。2009年早稲田大学法学部三年次早期卒業、2011年東京大学法科大学院修了。2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2017年法律事務所ZeLo創業。主な取扱分野はブロックチェーン・暗号資産、FinTech、IT・知的財産権、M&A、労働法、事業再生、スタートアップ支援など。

Masayuki Matsunaga

Attorney admitted in Japan

Masayuki Matsunaga

Kohei Kanzawa

Attorney admitted in Japan

Kohei Kanzawa

Hiroto Shimauchi

Attorney admitted in Japan

Hiroto Shimauchi

Graduated from the Faculty of Law at the University of Tokyo (LL.B) in 2017. Passed Japan Bar exam in 2018. Qualified to Practice Law in 2019 (Daini Tokyo Bar Association). Joined ZeLo in 2020. Specializes in providing legal advice in cutting-edge technology fields such as AI, web3, and Fintech, as well as a wide range of corporate matters including M&A involving Cross-border Transactions, Stock Options, Startup Finance, and Litigation/Dispute Resolution.

日本で展開されているドローンビジネス

近年、「空」を新たなフロンティアとしてモノや人や情報を運ぶドローンが飛び交い、ドローンビジネスは、「空の産業革命」と呼ばれています。高齢化が進み担い手が不足し後継に喫緊の課題がある分野等でDaaS(ドローン・アズ・ア・サービス)を展開する新興企業が台頭しています。 インプレス総合研究所の「ドローンビジネス調査報告書2020」の予測では、2019年度の日本国内のドローンビジネスの市場規模は1409億円と推測され、2018年度の931億円から478億円増加しています(前年度比51%増)。2020年度には前年度比37%増の1932億円に拡大し、2025年度には6427億円(2019年度の約4.6倍)に達すると予想されています。 市場の大半がドローンの本体(ハード)ではなくドローンを使ったサービスによるもので、規制緩和が本格化すればさらに伸びることが予想されます。以下では、公表事例をもとにドローンビジネスの具体例を見ていきたいと思います。

国産ドローンスタートアップ初の上場事例

ドローンビジネスの上場事例として、千葉大学発のスタートアップである株式会社自律制御システム研究所が、2018年12月に東証マザーズに上場した事例が存在します。日本においてドローンビジネスを実施するスタートアップの初の上場事例として注目を集めました。同社は、全地球測位システム(GPS)に頼らない自動制御技術を開発し、物流や点検などに特化した機体や運用システムを提供しています。また、楽天株式会社による僻地の消費者に購入商品を配送する実証実験にも機体を提供しているとのことです。

農業用ドローン

農業用ドローンを開発する株式会社ナイルワークスは、世界初のセンチメートル精度でドローンを完全自動飛行する技術開発に成功しています。同社は、その技術を搭載したドローンを作物上空30~50cmの至近距離を飛行させることによって薬剤の飛散量を大幅に抑えるだけでなく、作物の生育状態を1株ごとにリアルタイムで診断し、その診断結果に基づいて最適量の肥料・農薬を散布する技術の開発に取り組んでいるようです。

(3)UTM(無人航空機管制)

従来、ドローンは山間部での測量、工場施設の点検、空撮などに利用されてきましたが、国内では2022年度を目標とした規制緩和により都市部での目視外飛行が実現する可能性が高く、都市部でもドローンの自動配送サービスが実現される可能性が高い状況です。その鍵を握るシステムがUTM(無人航空機管制)といわれています。テラドローン株式会社は2019年8月、東京・丸の内エリアの高層ビルの横で複数のドローンを自律飛行させる実証実験を行ったことが話題になりました。

5Gと映像配信

2020年から商用化が始まる5G は、ドローンビジネスの追い風になっています。高精度の映像を送受信しやすくなるほか、移動中のドローンの通信も安定するためです。株式会社プロドローンは、KDDI株式会社から出資を受け、インフラ点検や警備で遠隔地からリアルタイムに動画を確認するといった活用を見据え、自社の機体でドローンが撮影した高精細の4K映像を5Gで中継する実験を進めるとの報道がなされています。

ドローンに関連する重要な法規制

ここまでに説明した各社やその他のドローンに関わる会社の取組みにより、ドローンビジネスは拡大している状況にありますが、ドローンの利用には法規制が存在します。ドローンに関連する重要な法規制としては、航空法小型無人機等飛行禁止法が存在するほか、各自治体の条例や、飛行場所に関連した法律の適用も問題になります。以下では、ドローンに関連する法規制の概要を説明していきます。

航空法

2015年4月に官邸屋上でドローンが発見されたことをきっかけに、2015年12月10日に施行された「航空法の一部を改正する法律(平成27年法律第67号)」(2015年改正法)に基づき改正された航空法に、ドローン(無人航空機)の飛行に関する規制が導入されました。その後、2019年9月18日に一部施行された「航空法及び運輸安全委員会設置法の一部を改正する法律(令和元年法律第38号)」(2019年改正法。新旧対象条文はこちら)により無人航空機の飛行に当たっての遵守事項の追加がなされ、本項執筆時点(2020年5月21日)においては、2020年2月28日に閣議決定された、無人航空機の登録制度を創設すること等を定める「無人航空機等の飛行による危害の発生を防止するための航空法及び重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律の一部を改正する法律案」(2020年改正法案。新旧対象条文はこちら)が国会で審議中の状況です。

ア.定義

航空法では、飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船等であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(重量200g以上)を「無人航空機」と定義しており、重量200g以上のドローンは無人航空機に該当します(航空法2条22項、航空法施行規則5条の2)。無人航空機に該当するドローンは、飛行空域飛行方法といった規制の適用を受けるほか、2020年改正法案が成立した場合には、登録制度の対象となります。 一方で、重量が200g未満のドローンは、航空法施行規則上の「模型航空機」と分類され、仮に人や物件に衝突しても被害が限定的であることから無人航空機の飛行に関するルールは適用されず、空港周辺や 一定の高度以上の飛行について国土交通大臣の許可等を必要とする規定 (同法134 条の3、同法施行規則239条の2第4号、239条の3第4号)が適用されます。 以下、(1)で「ドローン」と記載する場合はは無人航空機を意味する用語として使用します。

イ.飛行の禁止空域

航空法は、ドローンの飛行に関する基本的なルールとして、飛行の禁止空域(同法132条)について規定しています。 空港等の周辺の上空の空域(同法132条1号、同法施行規則236条1号から3号)、②地表又は水面から150メートル以上の高さの空域(同法132条1号、同法施行規則236条4号)2015年の国勢調査の結果による人口集中地区の上空の空域(同法132条2号、同法施行規則236条の2)が飛行の禁止空域に該当します。 なお、2019年改正法の一部施行日である2019年9月18日に施行された「航空法施行規則の一部を改正する省令(令和元年国土交通省令第29号)」(2019年改正省令)及び「無人航空機の飛行禁止区域等を定める告示(令和元年国土交通省告示第461号)」により、①に関連して一部の空港について禁止空域が拡大されました。一部の空港には、新千歳空港・成田国際空港・東京国際空港・中部国際空港・関西国際空港・大阪国際空港・福岡空港・那覇空港が該当し、進入表面若しくは転移表面の下の空域又は空港の敷地の上空の空域も飛行禁止空域となりました。

国土交通省HPより引用)

 飛行の禁止空域においてドローンを飛行させる場合には、国土交通大臣の許可が必要であり、許可なく飛行させたときは、50万円以下の罰金が科せられることとなります(同法157条の5第1号、159条2号)。 したがって、飛行の禁止空域においてドローンを飛行させる場合には、事前に国土交通大臣の許可を得る必要があること、また、国土交通省によれば、審査に時間を要する場合もあり、飛行開始予定日の10開庁日前からさらに、期間に相当の余裕をもって申請することが要請されているので、留意が必要です。

ウ.飛行方法の規制

飛行の禁止空域に関するルールと並んで、飛行方法の規制(航空法132条の2)もドローンの飛行に関する基本的なルールとして挙げられます。 2015年改正法に基づく航空法においては、下図の⑤から⑩(同法132条の2第5号から第10号)の飛行方法を遵守することが規定されていました。それに加えて、2019年改正法及び2019年改正省令により、2019年9月18日付で、以下(及び下図)の①から④の飛行方法を遵守することも追加されました(同法132条の2第1号から4号、同法施行規則236条の4及び236条の5)。 ①アルコール又は薬物等の影響下で飛行させないこと ②飛行前確認を行うこと ③航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること ④他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと

国土交通省HPより引用)

 ①に違反してドローンを飛行させた場合、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金を科されます(同法157条の4)。また、②から④に違反してドローンを飛行させた場合には、50万円以下の罰金を科せられることになります(同法157条の5第2号・第3号、同法159条2号)。 ⑤から⑩の方法については、その方法によらずにドローンを飛行させようとする場合、国土交通大臣(地方航空局長)の承認を受ける必要があります(航空法132条の2但書、同法施行規則236条の8)。 たとえば、⑤の方法に関しては夜間の飛行を行う場合、⑥の方法に関しては自分の目の届かない範囲でドローンを飛行させる場合などが該当します。承認を受けずにこれらの方法に反した飛行を行った場合には、50万円以下の罰金を科せられることとなります(航空法157条の5第2号、第4号、及び第5号、159条2号)。 自分が行おうとしているドローンの飛行方法が、完全に禁止されている方法に該当しないか(①~④)、承認を受ける必要のある態様で行うことにならないか(⑤~⑩)を事前に確認し、適切な方法でドローンを飛行させる必要があります。

エ.無人航空機の登録制度の創設

近年、ドローンの利活用が進む一方で、ドローンに関連した航空法違反の事案や事故が頻発し、所有者が分からず原因究明や安全確保のための措置を講じさせることができないという課題が生じています。そのため、所有者や機体の情報を国に登録することを義務付け、無登録での飛行を禁止することを目的として、2020年2月28日に、2020年改正法案が閣議決定されました。2020年改正法案の内容で法律が制定された場合、無人航空機の登録に関して航空法に131条の3から131条の14の規定が追加されることになります。 予定されている無人航空機の登録制度が創設された場合、原則として、無人航空機登録原簿に登録を受けていないドローンを飛行させることはできないことになります(改正航空法案131条の4)。登録を受けるためには、ドローンの所有者が、種類、型式、製造者、製造番号、所有者の情報等を申請する必要があり(同法案131条の6第1項)、また、その航空により航空機の航行の安全等が著しく損なわれるおそれがある場合には登録を受けることができないとされています(同法案131条の5)。登録を受けずにドローンを飛行させた場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることも予定されています(同法案157条の4) 本稿執筆時点においては国会で審議中の法律案になりますが、成立した場合には、ドローンの所有者は登録を行う必要があるという負担が増えることになるため、今後の改正動向を注視する必要があります。

小型無人機等飛行禁止法

国会議事堂、内閣総理大臣官邸等の国の重要な施設、外国公館、原子力事業所および防衛関係施設等の周辺地域の上空ではドローンの飛行が「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」(小型無人機等飛行禁止法)によって禁止されています。ドローンの飛行を規制するという点は航空法と同じですが、国政の中枢機能や公共の安全確保を目的としていることが、航空法と異なっています。 小型無人機等飛行禁止法は、国会議事堂などの国の重要な施設、外国公館、防衛関係施設、原子力事業所を対象施設と定めており(同法2条1項)、対象施設の敷地・区域の上空(レッド・ゾーン)周囲おおむね300mの対象施設周辺地域(同法2条2項)の上空(イエロー・ゾーン)における小型無人機の飛行を禁止しています(同法9条1項)。ドローンは、小型無人機に該当するため、対象施設や対象周辺地域の上空を飛行させることができないことになります。 警察官等は、違反者に対して、機器の退去その他の必要な措置をとることを命令することができ、 やむを得ない限度において、小型無人機等の飛行の妨害、機器の破損その他の必要な措置をとることができます(同法10条1項、2項)。警察官等の命令に違反した場合は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(なお、レッドゾーンの飛行は命令の有無を問わず罰則が適用されます)。

東京都内でのドローンの飛行

下図の通り、東京都23区は全域が、東京都内のそれ以外の地域もほとんどが人口集中地区にあたり飛行禁止空域となっているため、東京都内ではドローンを飛行させることができる範囲は限られています(航空法132条2号、同法施行規則236条の2)。

国土地理院HP:人口集中地区H27年(総務省統計局)より引用)

 また、ドローンを飛行させることができる範囲であっても、東京都は、ドローンの使用は安全性が確認された行為とはいえないとし、東京都立公園条例16条10号「都市公園の管理に支障がある行為」を根拠として、都立公園・庭園におけるドローンの飛行を禁じており、違反した場合は5万円以下の過料が科される(同条例25条)ため注意が必要です。さらに、前記(2)小型無人機等飛行禁止法の規制にも留意する必要があります。

その他の規制

ア.私有地での飛行

航空法等の規制法を遵守していたとしても、第三者の私有地上でドローンを飛行させる行為が、当該第三者の土地所有権を侵害するものとして、所有権に基づく妨害排除請求の対象となったり、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となるのでしょうか。 民法207条は、「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」と規定しています。航空法上の国土交通大臣の許可が「法令の制限」に該当し、この文言を根拠に土地所有権の範囲を制限することができるかが問題となります。 この点、航空法の許可は地上の人や物件の安全を確保するための技術的見地から行われるのであって、土地の所有権を制限する根拠とはなりえないと考えられます。 もっとも、所有する土地の上空にドローンを飛ばされたとしても、どこまでの権利侵害がなされたといえるかは不明です。そのため、実際上は、ドローン飛行の行為態様がどの程度土地所有者の土地の利用を妨げたかという観点で侵害の有無が判断されることになると考えられます

イ.道路での飛行

道路交通法77条第1項第4号に規定する「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたもの」には、道路交通法77条1項の「道路の使用の許可」が必要です。 この点、警察庁「国家戦略特区等提案検討要請回答」(提案管理番号062040)では、「道路における危険を生じさせ、交通の円滑を阻害するおそれがある工事・作業をする場合や道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような撮影等を行おうとする場合は、ドローンを利用するか否かにかかわらず、道路使用許可を要するが、これらに当たらない形態で、単にドローンを利用して道路上空から撮影を行おうとする場合は、現行制度上、道路使用許可を要しない。」と明示されています(提案管理番号079060でも同趣旨の記載があります。)。

ウ.河川での飛行

河川や河川敷におけるドローンの飛行も、航空法の規制に服するため、「人口集中地区」(同法132条第2号、同法施行規則236条の2)に該当する場合には、前記の通り、事前に国土交通大臣の許可を得なければなりません。 人口集中地区に該当しない場合であっても、私有地や地元自治体などが許可を受けて施設を設置・整備した公園や広場等は、施設管理者への確認が必要です。また、ドローンの飛行が河川法24条の「河川区域内の土地を占有」する場合には、河川管理者の許可が必要であるため、ドローンの飛行が「占有」といえるかが問題になります。 「占有」とは、河川敷を整備(工作物の設置や、芝刈りなど)したり、排他的・継続的に河川敷を使用する態様をいうため、ドローンの飛行のように一時的かつ非排他的な使用態様は「占有」には当たらないと考えられます

エ.電波法

電波法は、同法4条柱書で「無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。」と規定しています。 無線局とは、「無線設備」および「無線設備の操作を行う者」の総体をいい(同法2条5号)、「無線設備」には電波を送りまたは受けるための電気的設備をいいますが、受信のみを目的とするものは含まれません(同号但書)。 ドローン操縦のためのRC用送信機原則として「無線局」にあたり総務大臣の免許が必要となりますが、ドローン本体の方もカメラで撮影した映像等の情報をRC用送信機等に送信する機能等を有する場合には、ドローン自体が「無線設備」となり、総務大臣の免許が必要です。 ただし、下図の「技術基準適合証明」を受けた製品(同法38条の7第1項)を使用する場合には、総務大臣の免許は不要です。

典型的なドローン ビジネス上の留意点

石油精製、化学工業等のプラントの設備点検

近年、路、橋梁等の公共インフラ、また石油精製、化学工業のプラント等の産業インフラの設備点検においてドローンの活用が具体化され始めています。例えば、KDDI株式会社は、2020年2月に、JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)と協力し、ドローンを活用した鉄道線路設備点検の効率化に関する実証実験を実施しました。設備点検におけるドローンの活用により、人間の目視による場合は足場を組む等の対応が必要な高所の点検も容易になるなどし、設備点検の安全性や効率性の向上が見込まれています。 ドローンを設備点検に活用するに際しての法的留意点は、点検対象となる設備の種類によって異なりますが、以下では、2020年3月に総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省によるガイドラインである「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドラインVer2.0」が公表され、ドローンの具体的活用が進められている分野である、石油精製、化学工業等のプラントの設備点検における法令上の留意点について解説します。なお、航空法小型無人機等飛行禁止法等のドローンの飛行自体に関する法規制は、前記2.ドローンに関連する重要な法規制のとおりです。

ア.労働安全衛生法令

石油精製、化学工業等のプラントの設備点検における特有の法的規制としてまず挙げられるのは、防爆を目的とした労働安全衛生法令の規制です。労働安全衛生規則280条1項により、いわゆる「危険箇所」(「引火性の物の蒸気又は可燃性ガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所」)において、「電気機械器具」を使用する場合には、防爆性能を有する「防爆構造電気機械器具」でなければ使用してはならないとされています。 ドローンは「電気機械器具」にあたるものの、現行の製品は基本的に防爆性能を有しません。したがって、プラントのうち「危険箇所」にあたるエリアではドローンを使用してはならないことになります。なお、「危険箇所」の詳細な分類・定義は、電気機械器具防爆構造規格1条 15 号から 17号、及び「工場電気設備防爆指針(ガス蒸気防爆2006)」(産業安全研究所技術指針 NIISTR-NO.39 (2006))1410~1413において示されており、参考にすることができます。

イ.火器の取扱いの制限

また、石油精製、化学工業等のプラントのドローンによる設備点検に際しては、火気の取扱いを制限する法令に留意する必要があります。 高圧ガス保安法37条1項所定の場所では、火気の取扱い及び発火しやすい物を携帯しての立ち入りが禁止されています(高圧ガス保安法37条1項、同条2項)。ドローンの使用は、通常は発火しやすい物を携帯しての立ち入りに該当するため、高圧ガス保安法37条1項規定の場所でドローンを使用してはならないこととなります。また、消防法令によっても、一定の危険な区域における、ドローンの使用が制限されています(危険物の規制に関する政令24条1項13号)。 そのため、石油精製、化学工業等のプラントの設備点検においてドローンを活用する場合、使用が制限されているエリアを明確に判別し、当該エリアでドローンを使用しないようにするという対応が必要になります。使用が制限されているエリアの判別にあたっては、経済産業省が公表した「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」を参考にすることができます。

ウ.高圧ガス保安法

また、危険な区域におけるドローンの使用制限という観点とは別に、高圧ガス保安法に基づく保安検査基準である高圧ガス保安協会の保安検査基準(KHKS 0850シリーズ)により、保安検査において目視検査が義務付けられていないか注意する必要があります。現在のところ、目視検査を直接目視でなく工業用カメラ等の検査器具で行うことが認められているのは一部の設備にとどまり、多くの設備の検査においては直接目視が義務付けられているため、これら設備の保安検査においてはドローンを活用できません。この点について、総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省は、目視検査をドローンにより代替する可能性を検討するための実証実験を行った上で、今後、ドローンによる目視検査の代替に向けた制度改正を進めていく旨を示しており、今後の動向が注目されます。

監視・警備目的での使用

日本の警備業界においては、少子高齢化等を背景として人手不足が進んでおり、警備員が含まれる「保安の職種」の2020年3月の有効求人倍率は6.50倍と、全職種平均の1.30倍を大きく上回りました(厚労省公表「一般職業紹介状況(令和2年3月分及び令和元年度分)について」の「職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」参照)。このような警備業界の深刻な人手不足の中で、ドローンを警備に活用することによる、警備の省人化・効率化が期待されています。実際の活用例としては、セコム株式会社が、民間防犯にドローンを活用したサービスを2015年から本格提供しており、また2020年3月19日、KDDI株式会社が、セコム株式会社、テラドローン株式会社と協力し、ドローンによる広域警備の実証実験を行った旨公表しています。 以下では、警備にあたってドローンを活用する際の法令上の留意点を解説します。なお、ドローンを警備に活用する際における個人の容ぼう・姿態を明瞭に撮影することに関する法令上の留意点は、後記(5)で説明します。

ア.飛行空域の規制

ドローンを警備に活用する際は、飛行空域に関する規制に留意する必要があります。既に説明したとおり、航空法上の規制として、航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある空域(同法132条1号、同法施行規則236条)や人又は家屋の密集している地域の上空(同条2号、同法施行規則236条の2)で飛行させるには国土交通大臣の許可を受ける必要があります(航空法132条但書)。

イ.飛行方法の規制

同じく航空法の規制になりますが、飛行方法の規制についても留意する必要があります。 ドローンを警備に活用する際には、操縦者の目視の範囲外で飛行させることが想定されますが、これは前述した航空法の規制のうち、「当該無人航空機及びその周囲の状況を目視により常時監視して飛行させること。」(航空法132条の2第6号)に該当しないため、あらかじめ国土交通大臣の承認を受ける必要があります(同条但書)。ドローンを夜間に飛行させる場合も同様です(同条5号)。また、ドローンを警備に活用する際、ドローンが人や物に接近することが想定されます。地上・水上の人・物件との間に30m以上の距離を保たない飛行は、「当該無人航空機と地上又は水上の人又は物件との間に国土交通省令で定める距離を保つて飛行させること。」(同条7号、同法施行規則236条の4)に該当せず、あらかじめ国土交通大臣の承認を受ける必要があります。

ウ.小型無人機等飛行禁止法の規制

また、小型無人機等飛行禁止法上の規制には、ドローンを警備に活用する際に特に留意する必要があります。ドローンの警備への活用場面としては、スポーツの試合や音楽のライブイベント等のイベント会場における警備も想定されますが、神宮外苑や日本武道館、日比谷公園といった著名なイベント会場が、赤坂御用地等の「対象施設」から300m以内に存することにより、小型無人機等飛行禁止法により飛行が禁止される「対象施設周辺地域」に該当するため、原則としてドローンの使用ができません(同法9条1項)。例外的にドローンを使用する場合は、対象施設の管理者の同意や、土地の所有者もしくは占有者の同意を得ることが必要になります(同法9条2項1号・2号)。

災害対策のための活用

ドローンは、設備点検や警備などといった経済活動への導入のみならず、地震、台風、噴火等の自然災害への対策にも活用され始めています。 具体的活用方法としては、例えば、災害時の被災状況の調査におけるドローンの使用が挙げられます。2017年7月九州北部豪雨の際は、ドローンによって道路の損壊状況や流木の流出範囲、土砂の崩壊状況が確認されました。他には、山間部や水難救助における要救助者の捜索や、火災対応での活用事例もあります。消防庁は「消防防災分野における無人航空機の活用の手引き」を公表し、災害分野へのドローンの活用における留意事項等をまとめています。

ア.航空法上の特例

ドローンを災害に活用する際に、法的に重要なのは航空法上の捜索、救助等のための特例です。 捜索、救助等のための特例(航空法132条の3、同法施行規則236条の9、236条の10)により、事故の発生時に、国若しくは地方公共団体又はこれらの者の依頼を受けた者が、捜索又は救助を目的としてドローンを飛行させる場合は、同法132条の飛行の禁止空域の規定や、同法132条の2の飛行の方法の規定は適用対象外となります。すなわち、この特例が適用される場合には、承認又は許可を得ることなく、禁止空域での飛行や、夜間の飛行その他の禁じられた方法での飛行を行うことができることになります。

イ.特例において注意すべき要件

事業者が災害対策にドローンを活用する場合に、この特例の要件のうち注意すべきは、国又は地方公共団体の依頼を受けた者でなければならないという点です。事業者が、国又は地方公共団体からの依頼を受けず独自にドローンを災害対策に活用する場合には、原則通り航空法132条及び132条の2の規定を遵守し、承認又は許可を得る必要があります。なお、国土交通省はこの点につき、「事故発生時等の無人航空機の使用に支障のないよう、数カ月から一年といった一定の期間内の飛行や、複数の箇所や地域における飛行について包括的に許可を行うなどの運用も考えています。 」(国土交通省航空局「無人航空機(ドローン、ラジコン等)の飛行に関するQ&A」Q16-2)としており、災害対策の重要性に配慮した対応を行う可能性が示されています

ウ.ガイドライン

この特例の適用を受けてドローンを飛行させる場合は、航空法132条、132条の2は適用されないものの、国土交通省航空局が定めている「航空法第 132 条の3の適用を受け無人航空機を飛行させる場合の運用ガイドライン」に留意する必要があります。同ガイドラインでは、特例の適用を受けてドローンを飛行させる場合の安全確保の方法として、以下の内容が定められています。 ① 航空情報の発行手続  空港等周辺及び地上又は水上から150m以上の高さ(航空法 132 条1号の空域)において無人航空機を飛行させる場合に、空港等の管理者又は空域を管轄する関係機関と調整した後、当該空域の場所を管轄する空港事務所に以下の情報を電話した上で電子メール又はファクシミリにより、飛行目的、飛行範囲等の飛行に関するガイドライン所定の情報を通知することが求められています。 ② 航空機の航空の安全確保 災害時には捜索又は救助を目的とした複数の航空機が飛行することが想定されるため、飛行空域を監視し、他の航空機の飛行を確認した場合には当該航空機の飛行の安全が阻害されないように十分な距離を取る等の対応を行うことが求められています。 ③ 飛行マニュアルの作成 捜索、救助等の目的に応じたドローンの運用方法をマニュアルに定め、当該マニュアルに基づき安全な飛行を行うことが望ましいものとされています。 ④ 大規模災害時の飛行調整 大規模災害時には捜索又は救助を目的とした多数の航空機が飛行することが想定されるため、ドローンを飛行させるにあたっては、現地災害対策本部等を通じてドローンの飛行の方法を調整することが望ましいものとされています。

物流とドローン

ドローンは空を飛行して目的地までスピーディに移動することができるため、物流への活用にも期待されています。国土交通省では、ドローンの目視外飛行における安全な自動離着陸が可能で、かつ安価に設置できる物流用ドローンポートシステムの研究開発を行うため、2016年から「物流用ドローンポート連絡会」が開催されています。日本国内では、現時点でドローンによる物流の実用化はされていませんが、日本郵便株式会社がドローンによる郵便物の配送の実証実験を行ったり、楽天株式会社がドローンによる配送サービスの実証実験を行っています。物流に関して重要な規制は航空法、小型無人機等飛行禁止法であるため、前記2.ドローンに関連する重要な法規制をご参照ください。 なお、現時点では、ドローンによる配送は、貨物自動車運送事業(貨物自動車運送事業法2条)、道路運送事業(道路運送法2条1項)、航空運送事業(航空法2条18項)のいずれにも該当せず、ドローンによる運送事業について特定の業法に基づく許認可は不要であると考えられます

空撮目的での使用

ドローンは、上空からの撮影やヘリコプター等による撮影では撮影することができなかった高度からの撮影、人が入ることができない場所での撮影等、従来の人の手による撮影では不可能であった撮影が可能であることから、既に空撮における活用がなされています。今やドローンで撮影したと思われる映像がテレビ番組で放映されることも珍しくなく、また、動画投稿サイトのYoutube等においてもドローンで撮影された映像が日々投稿されています。 航空法や小型無人機等飛行禁止法等のドローンの飛行自体に関する法規制に留意すべきほか、プライバシー、肖像権、個人情報の観点から特に留意すべきであるといえます。また、ドローンによる撮影映像等のインターネット上での取扱いについては、総務省が、「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」を定めているため、このガイドラインの内容も押さえておく必要があります。

ア.プライバシー権との関係

ドローンにより空撮を行う場合、プライバシー権の侵害の問題が生じ得ます。 プライバシー権とは、憲法13条の幸福追求権を根拠に判例上認められている権利であり、「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」とされています(「宴のあと」事件・東京地方裁判所昭和39年9月28日判決・下民集15巻9号2317頁)。そして、プライバシー権の侵害に該当するかどうかは、当該行為によって得られる利益と失われる利益とを比較衡量して後者が前者を上回る場合にはプライバシー権を侵害するものとして違法とされています(最高裁判所平成15年3月14日判決・民集57巻3号229頁)。プライバシー権を侵害する場合、当該プライバシー権の主体からの不法行為に基づく損害賠償請求の対象となり得ます(民法709条、710条)。 ドローンによる撮影の場合、例えば、屋外の様子や人が多く集まる場所において人の様子を撮影するのみであればプライバシー権の侵害とされる可能性は高くはないと考えられますが、人の住居内を撮影する場合や一定の入館制限のある屋内において人の様子を撮影する等の場合にはプライバシー権の侵害とされる可能性が相当程度あります。さらに、このような人の住居内等を撮影した映像等を公開する場合には、プライバシー権の侵害とされる可能性が高いと考えられます。

イ.肖像権との関係

人の容貌等を撮影する場合には、肖像権の侵害の問題も生じ得ます。 肖像権とは、プライバシー権と同様に憲法13条の幸福追求権を根拠に判例上認められている権利であり(ただし、最高裁判例において明示的に肖像権という権利として認めているわけではありません。)、「みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」とされています(京都府学連事件・最高裁判所昭和44年12月24日判決・刑集23巻12号1625頁)。そして、「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」とされています(毒物混入カレー事件・最高裁判所平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁)。 ドローンによる撮影の場合、例えば、承諾なく屋内の特定の他人の容貌を撮影する場合その映像を公開する場合には肖像権の侵害とされる可能性が高いと考えられます。

ウ.個人情報との関係

また、ドローンにより個人の容貌や姿態を撮影した場合、その画像等により個人を識別することができるため、個人情報の保護に関する法律上の「個人情報」(同法2条1項1号)に該当します。そして、個人情報データベース等を事業のように供している者は、「個人情報取扱事業者」(同条5項)に該当し、利用目的の特定(同法15条)、取得に際しての利用目的の通知・公表(同法18条)、安全管理措置の実施(同法20条)などの種々の対応が必要となります

エ.建築物等の撮影

ドローンにより著名な建築物等を撮影する場合、建築物等が著作物に該当する場合であっても、著作権法上、美術の著作物で屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は一定の例外を除き利用することができるため(著作権法46条)、原則として撮影や撮影した映像等を公開するにあたって著作者の承諾を得る必要はありません。

まとめ

本稿で見てきたとおり、ドローンビジネスは拡大を辿る一方で、様々な法規制の適用を受けるため、ドローンを活用した新規ビジネスを行う場合にはその適法性について検討することが必要となります。また、ドローンに関する法規制、特に航空法の改正は今後も想定されるところであるため、改正法が自社ビジネスにどのような影響を与えるのかもフォローしていく必要があります。2022年度における有人地帯の目視外飛行(レベル4)の実現が目指されている状況で、今後のドローンビジネスの発展やドローンを巡る法規制の動向からはますます目が離せません。 (執筆協力:鄭 歩美)
ドローンビジネスの拡大と法規制

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