商標の早期審査とは?利用要件や必要な証拠資料、スタートアップにおける活用法
「サービスのローンチまで3か月。それまでに商標登録を済ませたい」――このような場面で検討したいのが、商標の早期審査です。既に商標を使用している場合だけでなく、サービス開始に向けて具体的に準備を進めている場合でも、一定の要件を満たせば通常より早く審査を受けられます。ただし、スタートアップであることだけを理由に利用できる制度ではなく、希望日までの登録が保証されるものでもありません。本記事では、特許の早期審査との違いを踏まえ、商標の早期審査を利用できるケース、必要な資料、海外展開やライセンスを見据えた活用方法を解説します。
商標の早期審査とは?制度の概要と商標登録までの流れ
商標の早期審査は、通常より早く「最初の審査結果」を受け取るための制度です。利用するためには、出願と同時または出願後に「早期審査に関する事情説明書」の提出が求められます。特許庁への申出手数料はかかりません。
ここで注意したいのは、審査結果が出る=商標登録ではないということです。登録が認められた場合も、その後に登録料を納付し、設定登録されて初めて商標権が発生します。拒絶理由がある場合には、拒絶理由通知への対応も必要です。
そのため、「ローンチまでに商標を取りたい」という場合は、審査期間だけでなく、審査後の手続にかかる時間も含めて逆算する必要があります。
(なお、申請なしで審査を早める「ファストトラック審査」は現在休止中です。)
商標の早期審査を利用できる3つのケース
早期審査を利用するためには、まず日本国内で商標を使用しているか、使用準備が相当程度進んでいることが必要です。海外だけでの使用や、「スタートアップだから」という理由だけでは利用できません。そのうえで、次の「対象1~3」のいずれかに該当する必要があります。以下の「指定商品・指定役務」とは、願書に記載する、商標の保護対象となる商品やサービスのことです。

対象1:使用・使用準備に加え、急いで権利化する事情がある場合
出願人、または使用許諾を受けた人・会社(ライセンシー)が、指定商品・指定役務の一部について商標を使用しているか、使用準備を進めているケースです。そのうえで、次の5つのいずれかに該当する必要があります。
- 第三者が、出願商標や類似する商標を無断で使用している
- 商標の使用について、第三者から警告を受けている
- 他人から使用許諾を求められている、または既に使用許諾をしている
- 出願商標を、外国の特許庁等にも出願している
- 日本の出願を基礎に、申出から6か月以内にマドリッド制度による国際登録出願を予定している
「ローンチが近い」「資金調達を控えている」という事情だけでは、この対象1の要件を満たしません。
対象2:すべての指定商品・指定役務で使用・使用準備している場合
出願人が、指定したすべての商品・サービスについて使用または使用準備を証明できるケースです。対象1のような緊急事情は必要ありません。反対に、まだ使用・準備していない商品やサービスが含まれている場合は、その部分を削除しなければ対象2は利用できません。
対象3:一部で使用・使用準備しており、指定商品・指定役務の記載が基準どおりの場合
出願人が、指定した商品・サービスの少なくとも1つについて使用または使用準備をしているケースです。その代わり、すべての指定商品・指定役務を、商標法施行規則別表、類似商品・役務審査基準、ニース分類に掲載された表現とそのまま同じ表現で記載する必要があります。
複数区分で出願していても、使用・準備の証拠は少なくとも1つの商品・サービスについてあれば足ります。そのため、今後の事業展開も見据えて、ある程度広く権利を取りたいスタートアップでは使いやすい類型です。一方、独自の商品・サービス名を指定したい場合は対象3を利用できないことがあります。その場合は、対象2を利用するか、出願を分けるかを検討します。
指定できる表現は、J-PlatPatの「商品・役務名検索」で確認できます。「基」または「N」の表示が一つの目安になります。
なお、2025年10月1日のガイドライン改訂により、対象2・3は原則として出願人自身による使用・準備が必要となりました。ライセンシーが使用している場合は、使用許諾をしている案件として対象1に該当するかを検討します。
使用・使用準備を示す証拠資料のそろえ方
社内での検討だけでは使用準備と認められない
使用準備として認められるには、商標をいつ、どのように使い始めるのかが、客観的な資料から確認できることが必要です。そのため、社内でロゴ案やウェブサイト案を作成しただけでは、通常は十分ではありません。
例えば、商標を付けたカタログの印刷を外部に発注し、発注・受注の両方を確認できる資料があれば、使用準備を示す資料になり得ます。プレスリリースや公開済みのウェブサイトも、内容によっては利用できます。ただし、ティザーサイトを公開しただけで必ず要件を満たすわけではありません。日本国内の顧客に向けて商標を使用することが確認できるかもポイントです。
使用の証拠に必要な3つの情報
使用の証拠からは、少なくとも次の3点が確認できる必要があります。
- 使用している商標が、出願した商標と同一であること
- 指定した商品・サービスについて使用していること
- 使用者が出願人、または対象1で認められるライセンシーであること
ウェブサイトを証拠にする場合は、商品・サービスのページだけでなく、会社概要や運営者情報など、誰がその商標を使用しているのかが分かるページも添えます。
特に注意したいのが、商標の同一性です。文字や図形の構成は、原則として出願した商標と一致している必要があります。例えば、標準文字で出願していても、実際にはデザインされたロゴしか使用していない場合、同一の商標とは認められないことがあります。ロゴでの使用が中心であれば、文字商標とロゴをそれぞれ出願し、実際に使用しているロゴの出願について早期審査を申し出る方法も考えられます。
スタートアップにおける早期審査の活用場面
海外展開(マドリッド制度による国際登録出願)を進めるとき
日本の出願・登録を基礎に、マドリッド制度による国際登録出願をする場合、国際登録は、国際登録日から5年間、日本の基礎出願・登録の影響を受けます。例えば、日本の基礎出願が拒絶されると、国際登録も全部または一部が取り消されることがあります。
そのため、日本での登録可能性を早めに確認したい場合に、早期審査が役立ちます。
対象1を利用する場合は、外国出願の書類の写しや、6か月以内に国際登録出願を予定していることを示す宣誓書などに加え、日本国内での使用・使用準備の証拠も必要です。
なお、日本で登録されても、国際登録日から5年間、日本の基礎出願・登録の影響を受ける点は変わりません。
第三者による無断使用や警告に対応するとき
第三者に商標を無断使用されている場合や、第三者から警告を受けている場合は、対象1を利用できる可能性があります。商標権に基づく差止請求は、原則として設定登録後に行います。出願後の一定の使用について金銭を請求できる制度もありますが、実際に請求できるのは設定登録後です。早く審査結果を得ることで、その後の対応方針を早めに判断しやすくなります。
ライセンス・OEM・フランチャイズでブランドを他社に使用させるとき
ライセンス、OEM、フランチャイズなどでは、商標が登録されているかどうかが、契約条件やリスク分担に影響することがあります。使用許諾の依頼書や締結済みの契約書などがあれば、対象1に該当する可能性があります。グループ会社への使用許諾も、要件を満たせば対象になり得ます。
EC出店や資金調達を控えているとき
ECの権利者保護プログラムや、投資家による知的財産デュー・デリジェンスでは、商標が「出願中」か「登録済み」かによって取扱いが異なることがあります。まずは、登録が必要になる時期を確認しましょう。対象1に当たる事情がなくても、対象3などの要件を満たせば、早期審査を利用できる場合があります。知的財産デュー・デリジェンスについては、IPO・M&Aを見据えたスタートアップの知的財産デュー・デリジェンスもご参照ください。
商標の早期審査を利用する前に確認すべき注意点
早期審査でも出願日は早まらない
早期審査を申し出ても、出願日が早まるわけではありません。他社が先に出願していれば、その先願を追い越すことはできません。そのため、名称を決める段階で先行商標を調査し、名称が決まったら早めに出願することが基本です。
また、早期審査は登録を保証する制度ではありません。拒絶理由通知が出た場合、原則として国内の出願人は40日、在外者は3か月以内に対応する必要があります。ローンチ準備と重なることもあるため、その後の対応まで見込んでおきましょう。
早期審査の申出自体も、出願後なるべく早く行うことが推奨されています。
提出する証拠の開示範囲に注意する
早期審査では、発注書やライセンス契約書などを証拠として提出することがあります。そこに未公表の事業計画や取引条件が含まれている場合は注意が必要です。営業秘密など、第三者に知られたくない部分はマスキングできます。ただし、商標、商品・サービス、使用者など、要件の確認に必要な情報まで隠すことはできません。提出前に、どこまで開示するかを整理しておきましょう。
早期審査の対象外となる出願
すべての商標出願で早期審査を利用できるわけではありません。例えば、日本を指定した国際商標登録出願、防護標章登録出願、コンセント制度の適用を主張する出願は対象外です。また、動き、ホログラム、色彩のみ、音、位置といった新しいタイプの商標や、立体商標も対象になりません。
拒絶査定後は拒絶査定不服審判の早期審理を検討する
拒絶査定を受けた後も、審判手続を早められる場合があります。
拒絶査定に不服がある場合は、査定の謄本が届いてから3か月以内に拒絶査定不服審判を請求できます。そのうえで、所定の要件を満たせば「早期審理」を利用できます。早期審理は、審判請求後に事情説明書を提出して申し出ます。申出手数料はかかりません。特許庁の目安では、審理が可能になってから平均3~4か月程度で審決が発送されます。
ただし、拒絶の根拠となった登録商標について別の審判が係属している場合など、早期審理の対象にならないこともあります。
まとめ:商標の早期審査を活用するためのポイント
商標の早期審査を利用するには、まず、日本国内での使用や具体的な使用準備を示せるかを確認する必要があります。そのうえで、海外展開やライセンスなどの事情があれば対象1、すべての指定商品・指定役務で使用等があれば対象2、指定の表現が所定の基準に沿っていれば対象3を検討します。
一見シンプルに見える制度ですが、どの類型を使うか、どの資料を証拠として提出するか、指定商品・指定役務をどう整理するかによって、早期審査の対象になるかが変わることがあります。
サービスのローンチや海外展開の予定が見えた段階で、先行商標調査、出願、証拠の準備を早めに進めておくことが重要です。
法律事務所ZeLoでは、スタートアップの商標出願や早期審査の申出を多数取り扱っています。できるだけ早く商標登録を目指したい場合や、早期審査を利用できるか判断に迷う場合は、お気軽にご相談ください。