【2026年12月11日施行】早期事業再生法による新たな私的整理制度の流れと注意点(後編)~利用方法と実務上の注意点~
弁護士
松永 昌之
弁護士
荒牧 孝洋
2026年5月25日に施行予定の事業性融資の推進等に関する法律(以下「法」といいます。)により創設される「企業価値担保権」とは、会社の総財産(有形・無形資産及び将来のキャッシュフロー)を一体として担保の目的とする、新たな担保権です。「【2026年5月施行】企業価値担保権とは?事業性融資推進法による新担保制度の概要と実務ポイント」(以下「前回記事」といいます。)では、その概要を解説しました。本制度は単に新しい担保権を設定すれば従前困難であった資金調達ができるというものではなく、その本質は、情報開示と対話を通じた貸し手と借り手のパートナーシップにあります。本記事では、本制度の活用が想定される事業会社、融資を行う金融機関、スキームの要となる受託会社(信託会社)の各当事者が、実務上どのような対応が必要となるかを深掘りします。また、具体的な設定手続・契約実務や、事業再生局面(プレDIPファイナンス・DIPファイナンス)において想定される活用法についても解説します。
2009年早稲田大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了。2013年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2018年2月法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ジェネラルコーポレート、スタートアップ支援、FinTech、訴訟対応、倒産・事業再生など。著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)など。
2013年東京大学文学部卒業、2014年公認会計士試験合格。2015年より有限責任監査法人トーマツで勤務し、ベンチャー支援に軸足を置く旧トータルサービス事業部に所属。2021年2月まで上場会社監査、IPO準備会社監査、国内籍・海外籍を含むファンド監査等に従事。並行して司法試験予備試験・司法試験に合格。2022年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、同年法律事務所ZeLo参画。法務分野では、IPO、コーポレート・ファイナンス、開示規制(金商法・上場規程)、ベンチャー/スタートアップ法務、ジェネラルコーポレート、M&A、税務、訴訟/紛争解決など。会計分野では、IPOを前提とした収益認識会計基準の導入サポートを含む会計基準の適用に関するコンサルティング業務、価値算定業務、上場会社における開示書類作成サポートを実施。
有形資産に乏しいスタートアップや、経営者保証に依存せずに借入を行いたい事業会社にとって、本制度の活用は有力な資金調達の選択肢となります。一方で、平時の業務運営において相応の制約も生じます。
企業価値担保権を第1順位で設定した場合、「将来において会社の財産に属する」ものも含む「会社の総財産」が担保対象となるため(法7条1項)、他の金融機関からの後順位での借入や無担保融資の獲得は実質的に困難になる可能性があります。
結果として、事業を深く理解するメインバンクによる「一行取引」への集約、または信託の仕組みを利用した協調融資(シンジケート・ローン)への移行が求められるなど、取引金融機関の構成(いわゆるバンキング・フォーメーション)が大きく変わる可能性があります。
もっとも、金融庁は、事業者のニーズに応じて複数の貸し手から同順位等で企業価値担保権付きの借入れを行うことも可能であるとの整理を示しており(金融庁「企業価値担保権に関するFAQ」)、必ずしも一行取引が強制されるものではありません。
融資を受ける事業会社としては、会社の状況に応じてデットリストラクチャリングが可能なように、将来のリファイナンスの柔軟性の確保等も見据えた借入ストラクチャーの構築および契約交渉が不可欠です。
この点、債務者は、いつでも特定被担保債権の元本の確定を請求することができ(法28条1項)、元本の確定後に特定被担保債権の全部が消滅したときは企業価値担保権も消滅するため(法30条)、借換えによる取引金融機関の変更も制度上予定されています。法務局からは企業価値担保権の抹消の登記の申請書様式も公表されており、リファイナンスを見据えた条件交渉が重要となります。
融資を受けた事業会社は、融資実行後も、融資契約上の義務(コベナンツ)として貸し手である金融機関に対する継続的な事業計画の進捗報告が求められます(なお、企業価値担保権においては経営者保証の履行請求は原則として禁止されますが(法12条1項)、かかる報告義務に違反して虚偽の報告(粉飾等)をした場合には、例外的に保証債務の履行を求められることになります(法12条4項))。
また、担保目的財産の処分は「通常の事業活動の範囲内」であれば自由に行えますが(法20条1項)、重要な財産の処分、事業の全部または重要な一部の譲渡など、通常の事業活動の範囲を超える取引には、事前に企業価値担保権者の同意が必要となります(法20条2項)。
ただし、「通常の事業活動の範囲」の解釈基準は、2026年5月25日の施行後も確立したものはなく、なお個別の判断に委ねられています。
例えば、同意が必要とされる「重要な財産の処分」(法20条2項1号)については、類似する会社法上の「重要な財産の処分」の基準(会社法362条4項1号)を参考にしつつ、計画している財産処分や新規投資が枠外取引に該当するかどうかを個別判断する必要があります。
本制度を利用して融資を受ける場合には、事業会社において「重要な財産の処分」の基準や「通常の事業活動の範囲」を判断する基準を明確化するとともに、企業価値担保権者との間で認識に相違が生じないよう企業価値担保権信託契約において当該基準を明記しておくことが有用です。
なお、金融庁は、法20条について、事業者が「将来性に基づく融資判断の前提(事業計画等)を超える財産処分(事業譲渡等)」をする際に企業価値担保権者との事前のコミュニケーション・同意を求める趣旨のものと説明しており(金融庁「制度の概要」)、融資判断の前提となった事業計画との関係を踏まえて基準を設定することが考えられます。
企業価値担保権の設定自体が、直ちに融資を受ける事業会社の労働者の労働条件を変更するものではありません。しかし、伴走支援を通じた事業の継続や成長には、労働者からの労務提供と協力が不可欠です。
法的に設定時の労働者等への通知義務は課されていませんが、労使間の紛争を予防し自発的な協力を得るため、担保設定時に、労働組合等に対して事業環境や経営課題について情報共有や意見交換を図ることが推奨されています。
この点は、金融庁「事業性融資の推進等に関する法律等に関する留意事項について(事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン)」(令和7年(2025年)5月30日制定、令和8年(2026年)1月20日改正)においても明示されており、事業者が置かれている環境や経営課題・資金調達の方法等(担保権が設定される場合にはその内容を含みます。)について、事業者の状況に応じて労働者と意見交換を図ることが望ましいとされています。あわせて、同ガイドラインは、企業価値担保権の設定そのものにより労働契約や労働条件に変更が生じるものではなく、企業価値担保権者等が労働条件等を決定する権限を有するものでもないことを明らかにしています。労働組合等への説明にあたっては、これらの点を正確に伝えることが、紛争予防の観点から有用です。
金融機関が事業性融資を推進するうえで、実務的ハードルとなりうるのが、資産査定・貸倒引当金の実務的取り扱いと伴走支援・モニタリング体制の構築です。
企業価値担保権の対象となる財産は先述のとおり、「将来において会社の財産に属する」(法7条1項括弧書)財産も含まれ、「のれん」や「将来キャッシュフロー」といった企業価値も企業価値担保権の対象となります。
「のれん」や「将来キャッシュフロー」は将来見通し等に大きく依存するため、「一般担保」(不動産のように客観的な処分可能性が認められ、担保権の実行に支障がないと認められる担保)として扱うことは困難です。しかし、無担保融資と全く同じ扱いをするのも合理的ではありません。
もっとも、担保目的財産の中に不動産や債権など従来の一般担保の要件を満たす財産がある場合には、個別の担保設定の有無にかかわらず、その価値を従来どおり回収見込額の算定等において考慮することができるとされています(金融庁「企業価値担保権に関するFAQ」)。
金融庁が2025年7月2日に公表した「企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方について」(2025年4月28日に公表された案を、パブリックコメントを経て確定したもの)によれば、金融機関は、過去の財務情報だけでなく、事業の実態や将来のキャッシュフロー創出能力といった定性情報・将来情報を明示的に考慮し、「みなし債務者区分」の引き上げや、予想損失率を低減する引当の枠組みを自己査定基準等に落とし込むことを検討する必要があります。
さらに金融庁は、2026年5月に「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」を公表し、企業価値担保権の活用を通じた将来の業況悪化回避の可能性を債務者区分等に織り込むこと、赤字・債務超過などの過去の指標や事業清算時の評価に囚われずに将来情報・定性情報を考慮して債務者区分・格付を付与することも合理的な判断となり得ることを示しています(ただし、事業者支援や事業計画等の継続的なフォロー及び必要な見直し等の態勢整備が前提とされています。)。
これらの定性情報・将来情報を適切に考慮するには、借入人の事業の将来性を適切に評価する必要があり、そのためには借入人の事業計画を理解することが不可欠です。事業計画を理解するにあたっては、借入人の規模や業種別の特性、経営者の資質等を踏まえることが必要となります。なお、金融庁が「業種別支援の着眼点」を公表しており、業種別の特性を理解するにあたって参考となります。
「業種別支援の着眼点」は、10業種について、決算書、ビジネスモデル、経営資源の観点から業種理解に必要な基礎的事項を整理したもので、顧客訪問前・訪問時・訪問後という対話の各段階に即したユースケースが示されており、各金融機関が自らの地域や取引先の特性に応じてカスタマイズして用いることが想定されています。
事業の将来性を適切に評価するため、キャッシュフローレンディングの実務を参考に、EBITDA等の指標を用いた財務コベナンツを設定し、定期的な事業計画の検証プロセスを構築することが不可欠となります。
また、コベナンツへの抵触は、直ちにデフォルト事由として扱うのではなく、借入人と事業運営について対話を始める機会(早期警戒シグナル)として位置付ける柔軟な運用も想定されます。
この点、金融庁「事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方」も、初期の審査時・平時・悪化兆候確認時・窮境時という局面ごとに、事業計画等をベースとした将来見通しの認識共有を図り、コベナンツを「対話の契機」として位置付ける運用のイメージを示しています。実務上の課題は、保証や担保による保全の有無を先に確認し、事業性評価を後から補完的に行うという従来の行動パターンからの転換にあります。投資実務においては、担当者が訪問前に試算表を入手して分析し、訪問時に疑問点を確認して事業計画遂行上の課題を共有し、訪問後にチームで支援策を協議するというサイクルの積み重ねによって回収の極大化を図っており、こうした手法は企業価値担保権付き融資の期中モニタリングにおいても参考となります。
業況悪化時における経営改善支援において、金融機関が債務者に代わって経営判断を行ったり、過度に経営に介入していると捉えられたりしないよう注意(優越的地位濫用の防止)が必要です。あくまで経営者の自主性を尊重したコンサルティング・伴走支援であるというスタンスを明確にする必要があります。
借り手に対して取引上の優越的な地位を不当に利用し、取引の条件又は実施について不利益を与える行為は、企業価値担保権が設定されている場合に限らず銀行法令上禁止されており(銀行法13条の3第4号、同法施行規則14条の11の3第3号)、事業性融資推進法等ガイドラインもこの点を確認しています。また、同ガイドラインは、通常、企業価値担保権を設定すること又は与信を提供することのみをもって企業価値担保権者や特定被担保債権者が労働組合法上の使用者に該当するとはいえないとしつつ、基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にある場合には使用者性を有する可能性があることを指摘しており、伴走支援の在り方を検討するにあたって留意が必要です。
他方で、伴走支援が萎縮しすぎることも本制度の趣旨に沿わないと考えられます。事業計画との乖離が生じつつある場合には、問題が深刻化する前に早期に検知し、対応策を議論して経営改善につなげることも必要となります。
前回記事で解説したとおり、本制度では免許を受けた信託会社等を受託者とする「セキュリティ・トラスト(担保権信託)」の仕組みが必須となります。受託会社は実行時、一般債権者保護のために換価代金から一定割合(カーブアウト)を取り置く義務を負います(法8条2項、62条1項4号等)。
受託者となる企業価値担保権信託会社については、2026年5月25日から適用される「信託会社等に関する総合的な監督指針」に「13 企業価値担保権信託会社」が新設され、免許審査や業務運営に係る着眼点が示されています。もっとも、銀行等は所定の届出等により同免許を受けたものとみなされるため(法33条1項・2項)、金融庁の「企業価値担保権信託会社免許一覧」には2026年9月7日現在で196機関が掲載されており、貸し手が自ら受託者を兼ねる形が一般的な構成となっています。
受託者は、信託設定時に委託者(債務者)に対して信託の目的や制度概要を適切に説明する義務を負います(法40条1項等)。この際の留意点は、担保権実行時における一般債権者(不特定被担保債権者)の保護義務です。
受託者は、事業譲渡等の換価代金から政令で定める一定割合の額(不特定被担保債権留保額、いわゆるカーブアウト)を取り置き、適切に管理した上で、債務者の清算手続や破産手続が開始した場合に清算人や破産管財人に給付する義務を負います(法62条1項4号、166条3項)。
この一定割合は、配当可能額を区分して、500万円以下の部分は30%、500万円超1,000万円以下の部分は15%、1,000万円超5,000万円以下の部分は5%、5,000万円超1億円以下の部分は1.5%、1億円超5億円以下の部分は0.3%、5億円超の部分は0.05%を乗じて計算した額の合計額(70万円を下回る場合は70万円)とされており(事業性融資の推進等に関する法律施行令2条)、企業価値担保権信託契約においてもその定めを置く必要があります(法8条2項1号ハ)。
受託会社(エージェント行)が貸付人をも兼任する場合、自らの債権回収(貸付人としての利益)と、一般債権者保護のための受託者としての義務との間で利益相反が生じる可能性があります。
そのため、予め社内での適切な利益相反管理体制の構築や信託法理に基づく義務履行についてのルール整備を進めておくことが推奨されます。
本制度を利用するためには、新たな法律の要件を満たした設定手続と各種契約書の整備が求められます。
前回記事で解説したとおり、企業価値担保権の設定にあたっては取締役会決議等の機関決定を経たうえで、信託契約を締結し、商業登記簿に一括登記を行うことで効力が発生します(法8条、10条、15条)。
この登記を行うに際しては、不動産登記法の一部の定めが準用されている(法223条)ことから、登記権利者である企業価値担保権者と登記義務者である企業価値担保権設定者が共同して行うこととなります(不動産登記法60条)。そのため、商業登記としては異例の対応を行う必要がある点について留意が必要です。
登記事務の取扱いについては「企業価値担保権に関する登記の事務の取扱いについて」(令和8年4月3日付け法務省民商第68号通達)等により示されており、法務局からは設定・移転・変更(順位変更等)・消滅の各登記の申請書様式が公表されています。施行時点ではオンライン申請は利用できず書面申請のみとされている点、及び設定登記の登録免許税は被担保債権の額にかかわらず1件につき3万円の定額とされている点にも留意が必要です。
実務上は、法律上の要件を満たした「企業価値担保権信託契約書」のほか、経営者保証の例外事項を定める「条件付保証契約書」、シンジケート・ローンを活用する場合の「シ・ローン契約書」、及び事業性評価に基づく「コベナンツ契約書」等の各種契約書の整備が必要となります。
金融庁が2026年3月11日に公表した「企業価値担保権信託契約等の書式例に関する勉強会 議事概要及び書式例」の書式例等を活用しつつも、融資対象となる企業の事業特性(SaaS企業のMRR、製造業のEBITDAなど)に合わせてカスタマイズし、法的拘束力のある適切なコベナンツとして落とし込む作業は、専門家によるレビューが不可欠です。あわせて、全国銀行協会が2025年9月18日に抜粋を公表した「企業価値担保権の活用に向けたポイント」は、制度の概要、実務上の留意点、想定される活用事例、事業者への説明事項を整理しており、契約実務の検討にあたって参考となります。
中小企業向けの融資では、信用保証協会の保証付き融資と企業価値担保権を併用する場面が想定されます。この点について、金融庁・中小企業庁が2026年5月に公表した「企業価値担保権制度と信用保証制度の利用に関する留意事項」は、①信用保証協会の求償権に係る債務について経営者等が個人保証をし、又は個人所有の不動産等に担保権を設定している場合には、金融機関は代位弁済請求等の権利を行使できなくなるため(法12条1項3号ロ・ハ)、当該信用保証付き債権を特定被担保債権の範囲から除外する(又は信用保証協会の了解を得て個人保証等を解除する)対応が求められること、②無担保が前提とされている信用保証についても同様の対応が求められること、③企業価値担保権の利用後に信用保証を申し込む場合には信用保証協会への「将来性展望シート」の提出が必要となること、④信用保証付きの特定被担保債権に係る代位弁済の請求は原則として実行手続終了後に行うこと等を示しています。
企業価値担保権の設定に際しては、金融機関から信用保証協会への事前の報告・相談が必要となるため、既存の信用保証付き融資の有無と取扱いを早期に確認し、スケジュールに織り込んでおくことが実務上重要です。
企業価値担保権においては、被担保債権に期限の利益の喪失等の実行事由が生じた場合、前回記事で触れたとおり、事業の解体を防ぐため原則として裁判所の許可を得た事業譲渡によって換価が行われます(法157条1項)。
管財人はスポンサー選定にあたり、単に譲渡代金の多寡だけで選ぶのではなく、雇用の維持や取引関係の継続など、事業価値の最大化と多様な事情を考慮して最も適切な承継先を選定する義務を負います。
また、管財人は、企業価値担保権者のみならず労働者を含む利害関係人全体に対して善管注意義務を負い(法121条1項)、スポンサー選定の在り方が労働者保護に照らして不適当であり同義務に違反する場合には、利害関係人から裁判所に対して管財人の解任を請求されること(法110条2項)や、利害関係人に対する損害賠償責任を負うこと(法121条2項)もあり得るとされています(事業性融資推進法等ガイドライン)。
したがって、スポンサー候補企業が管財人から事業を譲り受ける場合、入札・選定プロセスの公正性が他の債権者や利害関係人から事後的に争われるリスク、事業譲渡契約に基づく表明保証・補償責任の範囲をめぐる紛争リスク等を適切に管理する必要があります。
入札手続への参加条件・手続の適正性の確認や、事業譲渡契約におけるリスク分担条項(表明保証・補償条項等)の設計については、専門家に事前相談することが推奨されます。
裁判所が事業譲渡の許可を行うにあたり、労働組合等及び配当を受ける債権者から意見を聴取する手続が設けられています(法157条4項)。
また、管財人は、労働組合等に対し、労働者(債務者の使用人その他の従業者)の権利の行使に必要な情報を提供するよう努めなければならないとされています(法122条)。
事業譲渡に伴う特定の従業員の転籍拒否や承継からの排除が、労働組合法上の不当労働行為や解雇権濫用法理などの労働法制上のルールに抵触しないかどうかの判断は極めて専門的です。そのため、弁護士等の専門家に事前相談することが推奨されます。
この点、「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(平成28年(20216年)厚生労働省告示第318号)は、令和8年1月20日、企業価値担保権の創設を踏まえた改正がされています(令和8年厚生労働省告示第11号)。また、事業性融資推進法等ガイドラインも、実行手続における労働契約の承継・終了について、解雇権濫用法理(労働契約法16条)、不当労働行為(労働組合法7条)、法人格否認の法理等の従来の労働法制上のルールが適用されることを確認しており、管財人は労働組合法上の使用者の地位を承継すると解され団体交渉に応じる義務があると考えられる点にも留意が必要です。
企業価値担保権は、平時の資金調達だけでなく、事業再生に向けた「つなぎ融資」の局面でも大いに活用が期待されます。
私的整理における再生協議中の融資(プレDIPファイナンス)は、産業競争力強化法に基づく優先性確認(同法56条)等があるものの、一般的には法的な優先性の裏付けが弱いと考えられるため、融資に相応のハードルがあります。
もっとも、平時から企業価値担保権を設定していれば、事業を深く理解しているメインバンク等から新規融資を受けやすくなる可能性があります。
また、新たに設定する場合でも、既存のABL等に比べて手続コストを低く抑えつつ、総財産を担保にできるため、迅速な再生資金の調達が可能となります。
民事再生手続などの法的整理時においても、当面の資金繰りを繋ぐDIPファイナンスが必要となります。
民事再生手続においては、DIPファイナンスは共益債権(民事再生法119条等)として扱われ得るものの、依然として貸倒れリスクが懸念されます。
しかし、企業価値担保権を活用することで、手続コストを低減しつつ将来の事業キャッシュフロー全体を担保として捉えることができるため、リスクを抑えた資金供給が可能になります。
企業価値担保権は、「平時からのモニタリング」と「早期の経営改善支援」が重要です。本制度は2026年5月25日に施行され、施行初日から地域金融機関等による活用事例が公表されています。各関係者においては、例えば、以下のような準備・態勢整備を進めておくことが考えられます。
【事業会社が準備すべきアクションプラン】
【金融機関が準備すべきアクションプラン】
企業価値担保権制度は、日本の金融実務に大きなパラダイムシフトをもたらす可能性を持っています。施行後の実務の蓄積や当局の考え方の進展を踏まえて態勢整備を進めることが、本制度を有効に活用するための鍵となるでしょう。
法律事務所ZeLoでは、スタートアップ支援、事業再生・倒産対応に豊富な経験を有する弁護士が在籍しています。企業価値担保権をはじめとする新たな担保制度の活用にあたっては、スキーム設計から契約対応、実行局面まで一貫した検討が重要です。
案件に応じて総合的なアドバイス・サポートを提供しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。