【2026年12月11日施行】早期事業再生法による新たな私的整理制度の流れと注意点(前編)~概要とポイント~
弁護士
松永 昌之
弁護士
荒牧 孝洋
2025年6月に成立した「早期事業再生法」は、金融機関等の債権者を対象に、債務の権利関係を調整できる新たな私的整理制度です。前編の記事「【2026年施行予定】早期事業再生法による新たな私的整理制度の流れと注意点(前編)~概要とポイント~」では、早期事業再生法の概要や他の事業再生手続との違いについて解説しました。今回の後編では、手続の流れや活用事案についてわかりやすく紹介します。
2009年早稲田大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了。2013年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2018年2月法律事務所ZeLoに参画。弁護士としての主な取扱分野は、ジェネラルコーポレート、スタートアップ支援、FinTech、訴訟対応、倒産・事業再生など。著書に『ルールメイキングの戦略と実務』(商事法務、2021年)など。
早期事業再生法に基づく事業再生手続(以下「本手続」といいます。)の大まかな流れは、以下の図のとおりです。

まず、経済的に窮境に陥るおそれのある事業者が、対象債権者集会の決議により対象債権の権利変更をしようとする場合に、経済産業大臣が指定する公正な第三者機関である「指定確認調査機関」に手続の利用を申請します。申請にあたっては、所定の申請書に、対象債権者の権利変更に関する概要を記載した書面(権利変更概要書)、対象債権の一覧表(貸付債権等一覧表)等を添付して提出します。
実務上は、申請に先立って指定確認調査機関との事前相談を行うことが想定されています。また、貸付債権等一覧表に記載すべき金融機関等や貸付債権等に漏れがあった場合には、原則として変更の確認を受け直す必要が生じ得るため(4条1項本文、施行規則9条1項)、前編で述べたファイナンス・リース債権や外国金融機関等を含め、対象債権の洗い出しを漏れなく行うことが重要です。
指定確認調査機関は、提出された書面等に基づき、債務調整の必要性、対象債権者集会の決議成立の見込み、対象債権者一般の利益(清算価値保障)への適合見込みなどを確認します。この確認は、事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務の弁済が困難となるおそれがあること、権利変更議案の可決の見込みがないことが明らかでないこと、権利変更方針が対象債権者の一般の利益に適合する見込みがあること、倒産手続が係属していないことなど、法定の要件(3条1項各号)の全てを充足する必要があります。
このうち、「権利変更議案の可決の見込みがないことが明らかでない」という要件(3条1項3号)については、施行規則により、貸付債権等一覧表に記載のある貸付債権等の総額の5分の1以上の貸付債権等を有する金融機関等が、確認を受けることについて異議を述べていないこと、という具体的な基準が定められました(施行規則8条1項)。手続を開始するに当たっては、主要な取引金融機関等から一定の理解を得ておくことが前提となります。
なお、この確認や後述の調査を実際に行うのは、指定確認調査機関が事案ごとに選任する「確認調査員」です(3条6項、15条2項、52条)。確認調査員の要件は施行規則35条に定められており、事業再生ADRの手続実施者と比較して、経験案件数の加重や、労働関係に関する事項を含む研修の受講が求められています。
指定確認調査機関は、この確認をしたときは、対象債権者に個別に通知します(3条7項)。この確認により、本手続が開始し、対象債権者や対象債権の範囲や金額等の基準時点となります(2条3項、4項)。
指定確認調査機関は、上記の確認後、速やかに全ての対象債権者に対し、対象債権の回収等の債権者としての権利の行使をしないことを要請(一時停止要請)しなければならず、一時停止要請をした旨を事業者に通知しなければなりません(6条1項)。事業者は、一時停止要請の通知があった時から、対象債権に係る債務の弁済が制限されます(6条2項)。
一時停止要請の対象となる権利行使の範囲は施行規則で具体化されており、対象債権の回収のほか、担保の提供の受入れ、破産手続開始・再生手続開始・更生手続開始・特別清算開始の申立てが含まれます(施行規則11条1項)。さらに「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律に関するQ&A」(以下「Q&A」といいます。)では、「回収」には、一時停止通知の到達時における与信残高の減額、弁済の請求・受領、相殺権の行使等の債務消滅に関する行為、担保の実行・強制執行・仮差押え等が含まれること(Q&A67、68)、一時停止要請は原則として「支払の停止」には該当しないこと(Q&A69)、一時停止要請は当然には期限の利益喪失事由に該当せず、要請の発出を契機とする期限の利益喪失通知は行わないことが求められること(Q&A70)、一時停止要請を理由として預金を拘束しないことが求められること(Q&A71)が明らかにされています。
他方、弁済禁止には例外が設けられており、全ての対象債権者の同意を得た対象債権や、①利息の請求権(利息の請求権を有する全ての対象債権者に弁済をする場合に限ります。)、②担保権によって保全されている部分(早期の弁済が事業の再生に支障を及ぼさない場合に限ります。)、③先行する準則型私的整理手続の期間中に実行され、当該手続において債権者全員から優先的な取扱いについて同意を得ていたプレDIPファイナンスに係る債権、④少額の対象債権(早期に弁済することにより手続を円滑に進行することができ、かつ事業の再生に支障を及ぼさないものとして指定確認調査機関の確認を受けたもの)については、例外的に弁済をすることが認められています(6条2項但書、施行規則11条3項)。ファイナンス・リース債権についても、これらの例外に該当する限り、手続中も約定弁済を継続することが可能と整理されています。
一時停止要請には法的拘束力はありませんが、対象債権者は、事業者や指定確認調査機関から要請があった場合には、手続の円滑な実施に協力するよう努力義務が課されています(6条3項)。
仮に、対象債権者が一時停止要請に従わずに対象債権の回収等を行おうとした場合には、事業者又は対象債権者は、裁判所による強制執行等の中止命令(7条)、担保権の実行手続の中止命令(8条)の申立てを行うことができます。また、一部の対象債権者が一時停止要請に反して回収等をした場合、当該対象債権者の対象債権について権利変更議案において別段の定めをすることにより(13条但書)、対象債権者間の衡平を確保することができます。
施行規則により、権利変更議案を決議する対象債権者集会に先立ち、事業者は、原則として2回の対象債権者会議を開催しなければならないこととされました(施行規則12条1項)。第1回の対象債権者会議は、一時停止の要請の日から2週間以内に開催し、権利変更概要書の内容並びに事業者の資産及び負債の状況について対象債権者に説明します。第2回の対象債権者会議は、指定確認調査機関による調査結果の報告の日から対象債権者集会の招集の日までの間に開催し、権利変更議案、早期事業再生計画及び資産評定の内容並びに調査の結果について説明します。
もっとも、指定確認調査機関の確認前に行われた準則型私的整理手続において、権利変更議案及び早期事業再生計画に相当する事業の再生の計画について債権者と協議をしていた場合には、対象債権者会議の開催は不要とされています(施行規則12条4項)。事業再生ADRや中小企業活性化協議会のスキーム等から本手続に移行する場面では、実務上重要な規律といえます。
事業者が、合併、会社分割若しくは事業の譲渡、事業の縮小又は事業所の廃止に伴う従業員数の減少又は賃金の減額の見込みがある旨を早期事業再生計画に記載する場合には、早期事業再生計画を提出しようとする日の2週間前までに、労働組合等(従業員の過半数で組織する労働組合、これがない場合には従業員の過半数を代表する者)に対し、所定の事項を通知しなければなりません(施行規則13条)。この通知を要する場合に通知を怠ったときは確認の取消事由となり得るため(5条1項2号)、注意が必要です。
また、事業者は、労働組合等との協議その他これに準ずる方法によって、従業員の理解と協力を得るよう努めなければならないとされ(施行規則14条)、協議を行う予定の時期を早期事業再生計画に記載したときは、協議後にその旨及び内容を指定確認調査機関に報告する必要があります(施行規則16条)。従前の私的整理の実務にはなかった手続であり、特にスポンサーへの事業承継を伴う事案では、承継後の労働条件が未確定の段階で通知の要否・内容を検討する必要が生じ得るため、スケジュール設計上の留意点となります。
事業者は、上記の指定確認調査機関の確認後、原則として6か月以内(一定のやむを得ない事由がある場合は6か月以内に限り延長可能)に、権利変更概要書等に基づき、早期での事業再生に関する計画(早期事業再生計画)及び対象債権の権利変更に関する議案(権利変更議案)を作成し、指定確認調査機関に提出しなければなりません。
延長が認められる「やむを得ない事由」(14条2項)は施行規則で具体化されており、①対象債権者の数が20以上である場合、②外国に本店又は主たる営業所若しくは事務所を有する対象債権者がある場合、③事業上の重要な資産又は取引の維持に係る調整が整わない場合、④事業の継続に欠くことができない資金の調達に係る調整が整わない場合、⑤事業者の財産に係る権利関係が複雑であるときその他特別の事情がある場合が定められています(施行規則15条2項)。スポンサーの選定・交渉が難航している場合等は③④に該当し得ると考えられます。
早期事業再生計画に記載すべき事項は以下のとおりです(14条3項)。
また、事業者は、事業者の資産及び負債に関し、これらの価額を経済産業省令で定める基準に従い評定した結果(資産評定の結果)を添付しなければなりません。
この評定の基準は告示(「円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律施行規則第十五条第五項の資産評定に関する基準」)で定められており、債務の減免を伴う場合には原則として時価によることとされる一方、リスケジュールにとどまる場合には一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した評定も認められています。また、早期事業再生計画の提出に当たっては、事業者を清算したものとした場合における貸借対照表を添付する必要があります(施行規則15条1項)。
権利変更議案に記載すべき事項は以下のとおりです(12条)。
指定確認調査機関は、提出された権利変更議案、早期事業再生計画及び資産評定の結果の内容が以下の要件に該当するものであることについて調査を行います(15条1項)。事業者は指定確認調査機関が行う調査に協力する義務を負います(同条3項)。
上記5.の「経済産業省令で定める基準」として、施行規則は、㋐14条3項各号に掲げる事項が記載されていること、㋑対象債権者の議決権の行使の許否及びその額が19条に適合すること、㋒早期事業再生計画が遂行される見込みがないことが明らかでないこと、㋓債務超過の状態にある場合には権利変更決議の効力が生ずる日後最初に到来する事業年度開始の日から原則として3年以内に債務超過の状態にないこと及び経常損失が生じている場合には同様に原則として3年以内に黒字になること、㋔6か月に1回以上、早期事業再生計画の実施状況を対象債権者及び指定確認調査機関に報告することとされていること、㋕債務の減免の一般的基準を定める場合には、2以上の金融機関等(又は1以上の政府関係金融機関等)による減免であること、株主の権利の全部又は一部の消滅(株主責任)、役員の退任(経営責任)及び過剰設備・遊休資産の処分等の自助努力が定められていることを掲げています(施行規則17条)。数値基準や株主責任・経営責任に関する考え方は、事業再生ADRの実務を踏まえたものといえます。
指定確認調査機関は、調査の結果を事業者に報告しなければならず(15条4項)、事業者は、この調査報告書を、後の対象債権者集会での議決権行使の参考書類として、対象債権者に交付しなければなりません(17条1項)。
事業者は、指定確認調査機関から調査結果の報告を受けたときは、遅滞なく、権利変更議案を決議するために対象債権者集会を招集し(16条1項、2項)、権利変更議案について対象債権者による決議を求めます。
対象債権者集会を招集する場合、事業者は、対象債権者集会の日時、目的事項、対象債権者集会に出席しない債権者が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときはその旨、その他経済産業省令で定める事項を定める必要があります(16条3項)。加えて、経済産業省令で定める日数前までに、対象債権者及び指定確認調査機関に対して、経済産業省令で定めるところにより、これらの事項を記載した書面で通知を行う必要があります(同条4項、6項)。また、招集通知に際しては、経済産業省令で定めるところにより、権利変更議案、早期事業再生計画、指定確認調査機関の調査報告書及び対象債権者が議決権を行使するための書面(議決権行使書)を交付します(17条1項)。
なお、書面又は電磁的方法による議決権行使の期限は、対象債権者集会の日時以前であり、かつ、招集通知を発した日から2週間を経過した日以後の時とされているため(施行規則18条、22条、23条)、招集通知は、遅くとも対象債権者集会の日の2週間以上前に発する必要があります。
対象債権者集会において決議の対象となるのは、権利変更議案のみであり、早期事業再生計画は決議の対象とはなりません。対象債権者集会において、権利変更議案を可決するには、議決権の総額の4分の3以上の議決権を有する者の同意が必要です(20条1項本文)。ただし、単一の議決権者が議決権の総額の4分の3以上の議決権を有する場合は、さらに、出席した議決権者の過半数(頭数)の同意も必要となります(20条1項但書)。
対象債権者の保有する債権額が議決権となりますが(19条1項)、担保で保全されていない債権の部分(非保全債権)の額に基づいて算定され(同条3項)、また、上記の指定確認調査機関の確認後の利息や損害金は含まれません(19条2項)。
権利変更決議があったとき(権利変更議案につき議決権者の全ての同意を得たときを除きます。)、事業者は、遅滞なく、裁判所に対し、当該権利変更決議の認可の申立てを行わなければならず、当該申立てにあたっては、早期事業再生計画及び指定確認調査機関の調査報告書を裁判所に提出しなければなりません(26条1項)。なお、認可の申立ては、最高裁判所規則で定めるところにより、書面の提出に代えて、ファイルへの記録、記録媒体の提出といった電磁的記録によることも可能です(同条2項)。
裁判所は、認可の申立てがされた場合には、以下のいずれかに該当する場合を除き、権利変更決議の認可の決定を行います(27条1項、2項)。
権利変更決議は、認可の決定の時から効力を生じ、事業者及び全ての対象債権者(権利変更議案に反対した対象債権者を含みます。)に対してその効力を有し、対象債権者の権利は権利変更決議の内容に従い変更されます(28条1項、2項、4項)。なお、権利変更決議は、対象債権者が事業者の保証人その他事業者とともに債務を負担する者に対して有する権利及び提供された担保には影響を及ぼしません(同条3項)。
権利変更議案について、議決権者の全ての同意を得たときは、直ちに効力が生じるため(29条)、裁判所に対する認可の申立ては必要ありません。
本手続の開始(指定確認調査機関の確認)後に行われる資金の借入れ(プレDIPファイナンス)は、確認前の原因に基づいて生じた貸付債権等ではないため「対象債権」に当たらず、一時停止の要請や弁済禁止の対象となりません。加えて、事業者は、当該借入れが事業の継続に欠くことができないものとして所定の基準(事業者の資金繰りのために合理的に必要と認められること。施行規則45条)に適合することについて、指定確認調査機関の確認を求めることができます(69条1項)。その後に再生手続又は更生手続に移行した場合、裁判所は、この確認を受けていたことを考慮した上で債権者間の衡平性を判断するものとされており(70条、71条)、プレDIPファイナンスの実行可能性を高める仕組みが設けられています。
また、償還すべき社債の金額の減額に係る社債権者集会の決議の認可(会社法732条、734条1項)についても、当該減額が事業者の事業再生に欠くことができないものであることについて指定確認調査機関の確認を受けた場合には、裁判所が不認可事由(会社法733条4号)の該当性を判断するに当たりこれを考慮するものとされています(67条、68条、施行規則43条、44条)。
本手続は、権利変更決議の効力が確定的に生じた場合(権利変更議案について対象債権者集会で議決権者の全ての同意を得た場合又は上記の裁判所の認可決定が確定した場合)に終了します。
その他、指定確認調査機関が上記の確認を取り消した場合(5条)、対象債権者集会で権利変更議案が否決された場合、対象債権者集会で権利変更議案が可決されたが、裁判所による不認可決定が確定した場合、裁判所による認可決定が即時抗告等により取り消され、取消しが確定した場合にも終了します。
以下のような事案では、本手続の活用が有効な手段となると考えられます。
以下のような事案では、本手続の活用が有効な手段とならない可能性が高く、他の手続の利用を検討すべきであると考えられます。
以上、早期事業再生法は、日本企業の早期事業再生を促す画期的な制度であり、今後の私的整理実務に大きな影響を与えることが期待されます。
2026年6月3日に公布された政令により施行日が2026年12月11日と定められ、同月30日には施行規則及び告示が公布されるとともにQ&Aも公表されるなど、施行に向けて制度の全容が明らかになりつつあります。もっとも、本記事執筆時点(2026年9月)では、経済産業大臣による指定確認調査機関の指定や同機関の業務規程の制定、中止命令・認可の申立てに関する最高裁判所規則の制定はいずれも行われていません。今後も引き続き、これらの整備状況と、施行後の実際の運用動向を注視していく必要があります。
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