【令和6年10月施行】登記における代表取締役等住所非表示対応の概要と企業がおさえておくべき留意事項

司法書士部門統括
山田 裕介

企業経営のガバナンス強化や法的安定性の確保において、「役員の任期管理」は重要課題のひとつです。一方で、任期の起算日や満了日に関する認識違いや、誤解を招きやすい登記簿謄本上の日付など、実務現場では思わぬ落とし穴が存在します。本記事では、皆様が日々対応されている「役員の任期」について、会社法上の基礎知識から、計算時の注意点や実務上の留意点までわかりやすく解説します。適切な任期管理は、会社の健全な運営を支えると同時に、法的リスクの未然防止にもつながる重要業務です。ぜひ最後までお読みいただき、実務の一助としてご活用ください。
会社を運営する上で不可欠な役員には、それぞれ法令で定められた任期があります。この任期を適切に理解し、管理することは、ガバナンス強化や将来的なトラブル回避のために極めて重要です。
株式会社においては、取締役、監査役、会計監査人等の役員が置かれ、それぞれに任期が定められています。これらの任期については、会社法の規定および定款の定めに基づき決定されます。
まず、取締役の任期は、会社法第332条第1項により、原則として「選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされており、定款によりその任期を短縮または(非公開会社に限り)最長10年まで延長することが可能です。
次に、監査役の任期は、会社法第336条第1項により、原則として「選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされています。監査役の任期については、定款により短縮することは原則として認められておらず、延長については一定の範囲内で可能とされています。
さらに、会計監査人の任期については、会社法第337条第1項により、「選任後1年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされています。また、同条第2項においては、定時株主総会において別段の決議がされなかった場合には、当該会計監査人は同総会において再任されたものとみなされる旨が規定されており、他の役員(取締役・監査役)とは異なる特徴を有します。
上で述べたとおり、会社法の原則では、取締役の任期を2年、監査役の任期を4年と定めています。しかし、多くの会社では、定款で別途の定めがあり、任期はこれと異なっています。
例えば、公開会社でない株式会社の場合、役員改選や登記手続きの手間を減らすために、取締役の任期は定款で最大10年まで伸長することが認められています。一方で、任期が長すぎると経営環境の変化に対応しにくい等の理由で、取締役の任期を1年に短縮している株式会社もあります。
貴社の定款を改めてご確認いただき、役員の任期がどのように定められているか、そしてそれが現在の貴社の経営実態に合っているかを検討されることをお勧めします。
役員の任期は、選任された日の翌日(初日不算入の原則。)を起算日として計算されます。そして、その任期は、法令または定款で定められた期間内に終了する事業年度のうち最終の定時株主総会が終結する時に満了します。
任期の起算日は、「就任した日」ではなく、「選任された日」という点に注意が必要です。これは非常に重要なポイントです。役員の任期は「選任された日」を起算点としますが、登記簿には「就任した日」が記載されます。そこで、登記簿に記載された日付を起算日として任期計算してしまうと、再任の時期を見誤ってしまう恐れがあります。
それでは、上記ポイントを考慮し、取締役の任期計算について、具体例に考えていきましょう。
以下の共通条件を設定します。
まずは、任期の起算日(「選任された日」)を、登記簿に記載されている「就任した日」と認識しても問題のない例です。
取締役A氏が、2025年4月1日に臨時株主総会で選任され、同日に就任した。
任期計算:
次は、任期の起算日(「選任された日」)を、登記簿に記載されている「就任した日」と認識してしまうと問題が生じてしまう例です。
取締役B氏が、2025年3月15日に臨時株主総会で選任され、2025年4月1日に就任した。
この具体例②の場合、任期の起算日を、登記簿に記載されている「就任した日」と認識してしまうと任期計算は以下のとおりとなってしまいます。
任期計算(ア):
一方で、任期の起算日を、登記簿に記載されている「就任した日」ではなく、正しく「選任された日」として認識できると任期計算は以下のとおりとなります。
任期計算(イ):
任期計算(ア)と(イ)の6.結論を比べるとわかるとおり、具体例②の場合、安易に登記簿に記載されている日を任期の起算日として認識して任期計算をしてしまうと、取締役B氏の任期について誤った任期計算をしてしまい、後に「実は1年前に任期が切れていた。」ということになるためご注意ください。
役員任期が満了するのは、定時株主総会の終結による場合だけではありません。
次に、定時株主総会の終結以外の役員任期満了する主な具体例をいくつか見ていきましょう。
①事業年度や役員の任期の変更による任期満了
事業年度や役員の任期の変更は、役員の現在の任期に直接的な影響を及ぼします。例えば、事業年度の終了日を変更した場合、それに伴い選任後〇年以内に終了する最終の事業年度が変わり、結果として役員の任期満了日が早まる可能性があります。
事業年度を変更する際は、役員の現在の任期にどのような影響があるかを事前に確認し、必要に応じて役員改選の準備を計画的に進めることが重要です。
②株式の譲渡制限の廃止による任期満了
非公開会社が、IPO等により、株式の譲渡制限の廃止によって公開会社となった場合には、当該時点で取締役の任期が満了します(会社法第332条第7項第3号、第336条第4項第4号)。IPO等の際にも、速やかに再任・退任等の対応を検討する必要があります。
③監査役の権限拡大による任期満了
これまで監査役の監査範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定め(いわゆる「会計限定監査役」の定め)を設けていた場合、この限定を廃止し、監査役の権限を本来の業務監査も含む広範なものに拡大するような定款変更を行った際も、監査役の任期が満了します(会社法第336条第4項第3号)。
監査役の職責が変更された場合に、既存の監査役の任期を一旦終了させた上で、再度適切な監査役を選任し直すことが求められているからです。
④定款に定められる補欠又は増員規定による任期満了
実務では、取締役の任期が個別に満了することによる役員構成のバラつきを避けるため、定款に次のような規定を設けることがあります:
なお、監査役についても補欠監査役の任期について同様の規定を設けることが可能ですが(会社法第336条第3項)、その独立性の観点から、「増員規定」を設けることはできません。
役員の任期管理は、一見するとルーティン業務のように思えるかもしれません。しかし、その背後には会社の法的安定性やガバナンスの維持という重要な側面が隠されています。今回ご説明した任期の起算日と満了日の計算、そして選任懈怠がもたらすリスクを正しく理解し、計画的に対応することが、貴社の持続的な成長を支える基盤となります。
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