【令和6年10月施行】登記における代表取締役等住所非表示対応の概要と企業がおさえておくべき留意事項
2024年10月1日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)が施行されます。これにより、登記事項証明書などにおいて、代表取締役等の住所を一部非表示にすることが可能になります。本制度については、以前から望まれる声も多かったためか、当事務所にも既に何件も問い合わせをいただいております。そこで、代表取締役等住所非表示対応措置をご希望される法人様向けに、現時点(2024年5月16日現在)での最新情報をふまえて、本制度の概要と企業がおさえておくべき留意事項について、法律事務所ZeLoの司法書士が解説します。
目次
代表取締役等住所非表示措置の概要と施行に至った背景
代表取締役等住所非表示措置とは、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます。)に表示しないこととする措置を指します。
会社は、会社代表者の住所を登記する義務があり、現在は、誰でも登記事項証明書を取得、または登記情報提供サービスにより登記情報を閲覧することで、代表者の住所を知ることができます。しかし、プライバシーや個人情報保護の観点から、現状の制度を見直すべきとの議論があり、2024年4月16日に公布された商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)により、代表取締役等住所非表示措置の制度が創設され、2024年10月1日より施行されることとなりました。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合の登記事項の表示について
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、登記事項証明書等において、代表取締役等の住所は最小行政区画までしか記載されないこととなります。イメージは以下のとおりです。
【現行】
役員に関する事項 | 取締役 甲野太郎 |
東京都江東区豊洲三丁目2番24号 代表取締役 甲野太郎 |
【代表取締役等住所非表示措置後】
役員に関する事項 | 取締役 甲野太郎 |
東京都江東区 代表取締役 甲野太郎 |
代表取締役等住所非表示措置に伴う予想されるデメリット
プライバシーや個人情報保護が重視される昨今において、代表取締役等住所非表示措置は画期的な取り組みである一方、予想されるデメリットも一定生じます。
法務省のウェブサイトでも、本制度を概要するページにて、以下のとおり注意喚起されています。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」より引用
そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な御検討をお願いいたします。
上記の注意喚起をふまえ、登記業務における企業側に生じうるデメリットの具体的な内容は以下の通りです。
デメリット①金融機関からの融資が難しくなる
金融機関から融資を受ける際、代表取締役の住所は重要な審査基準のひとつとなります。そのため、住所非表示制度を利用することで、金融機関側は代表取締役の資産状況や信用性を確認することができず、融資が受けにくくなる可能性があります。この点については、新規事業に取り組む企業や創業まもないスタートアップ企業にとって、影響が大きい点といえます。
デメリット②取引先との信頼関係が損なわれる
取引先との契約や商談においても、代表取締役の住所は重要な情報となります。そのため、住所非表示制度を利用することで、取引先側企業からすると、相手企業の情報がわからないことで信頼関係が損なわれ、新規取引の獲得や既存取引の継続が難しくなる恐れがあります。
デメリット③法務手続きの煩雑化
企業における各種法務手続きにおいても、代表取締役の住所の証明書が必要になる場面が多くあります。そのため、住所非表示制度を利用することで、これらの手続きが煩雑化し、追加の証明書等が必要になるなど、時間とコストがかさむ可能性があります。
登記申請手続における代表取締役等住所非表示措置について
登記申請手続きについては、以下のとおりとされています。
- 代表取締役等の就任、住所変更等の登記申請をする場合に限り、当該申請と併せて、必要書類を添付し、代表取締役等住所非表示措置の申し出を行うことになります。非表示措置のみを目的とした単独の登記申請はできません。
- 登記の添付書類については、まだ詳細はわからないものの、以下のとおりとなるようです。
(1) 上場会社である株式会社の場合
株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面(2) 上場会社以外の株式会社の場合
①株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等
②代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書
③株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
※株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、③の添付は不要です。
- 詳細な添付書類の情報については、後日通達により明らかにされる予定です。
代表取締役等住所非表示措置に関するその他の留意事項
改正案に対する意見公募(パブリックコメント)から読み取ることができる留意事項としては、以下が挙げられます。
・代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。
・住所の非表示は、申し出と併せての登記の申請によって記録される住所に限って講じられるものであって、過去の住所について一部非表示の措置はなされません。(これまでの登記から住所を推察される可能性があります。)
・代表取締役等住所非表示措置がなされると、当該措置の終了がなされるまでは、代表取締役等の住所を表示した登記事項証明書等の交付はなされません。(代表取締役の住所の表示・非表示を選択することはできません。)
・住所一部非表示の予定されている法人形態は株式会社のみ(合同会社の職務執行者は対象外)また、住所一部非表示の予定されている者は代表取締役、代表執行役又は代表清算人のみ(支配人は対象外)です。
・パブリックコメントをうけ、施行時期は、当初予定されていた2024年6月3日から2024年10月1日に変更されました。
出典:法務省「『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」より一部加工して引用
登記業務における代表取締役等住所非表示措置のご相談は司法書士にご相談を
上記の通り、本制度は代表取締役のプライバシーや個人情報を保護するというメリットがある一方で、企業に影響をもたらしうるデメリットも複数あります。利用の検討や本制度利用に伴う登記関連の対応については、専門家の意見も取り入れながら進めていくことをおすすめします。
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