前人未到のWeb3領域。共に開拓し、挑戦し続ける「戦友」-株式会社Ginco
弁護士
長野 友法
弁護士、パブリック・アフェアーズ部門統括
官澤 康平
2018年12月21日、金融庁は仮想通貨等に関する法制度を幅広く検討・提言している「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書」(以下「本報告書」)を公表しました。本記事では、報告書にてメインで取り上げられている仮想通貨交換業に関する規制の見直し、新規通貨公開を意味するICOに関する規制の導入、仮想通貨のウォレット業務に関する規制の導入を中心に、報告書の評価や今後の課題などを解説します。なお仮想通貨交換業規制については、本研究会・報告書と並行する形で見直しが進められています。2019年1月11日に、コインチェック株式会社が仮想通貨交換業に正式登録されると同時に、金融庁から登録審査プロセスの透明化のための指針が出されました。この指針は、具体的な審査プロセスの内容及び時間的目安を示すものであり、登録審査の透明化・迅速化が期待されます。今後の仮想通貨関連規制に関しては、本報告書のみならず、こうした流れについても注視していく必要がありますが、本記事では、特に必要と思われる内容をご紹介しています。
本報告書は、仮想通貨等に関する法制度を幅広く検討・提言するものである。主たる内容としては、仮想通貨交換業に関する規制の見直し、ICOに関する規制の導入及び仮想通貨のウォレット業務に関する規制の導入が挙げられる。
本稿は、本文部分において報告書の内容を整理するとともに、必要に応じて四角枠の中で報告書に対する評価や今後の課題等についてコメントする形式とした。本稿の構成は本報告書に基本的に則ったが、整理の都合上多少の変更を加えている。
なお、仮想通貨交換業規制については、本研究会・報告書と並行する形で見直しが進められている。直近では、2019年1月11日に、コインチェック株式会社が仮想通貨交換業に正式登録されると同時に、金融庁から登録審査プロセスの透明化のための指針が出された。この指針は、具体的な審査プロセスの内容及び時間的目安を示すものであり、登録審査の透明化・迅速化が期待される。今後の仮想通貨関連規制に関しては、本報告書のみならず、こうした流れについても注視していく必要があるといえ、本稿でも、特に必要と思われる内容を四角枠の中で紹介することとした。
目次
仮想通貨交換業者については、2017年4月施行の改正資金決済法により一定の規制がなされたが、その後も受託仮想通貨の流出事案の発生が相次ぎ、また登録業者の内部管理態勢の不備が明らかとなり、業務改善命令が多く出されている。他方で、2018年10月24日には日本仮想通貨交換業協会が仮想通貨に関する自主規制団体に認定されるに至った。
こうした背景の下で、改正資金決済法による規制内容の改善・強化が提案されている。
仮想通貨交換業者には、セキュリティ対策のため、可能な限り受託仮想通貨をコールドウォレット(オフライン)により管理することが求められているが、円滑な取引を可能にするために一定割合をホットウォレット(オンライン)により管理せざるを得ない状況がある。このような中で、受託仮想通貨の流出リスクに対応すべく、以下の施策が提案されている。
※1 弁済原資については、自己財産・顧客財産との分別管理が適当とされている。
顧客財産の流用防止や破綻時における顧客財産の明確化等の観点から、仮想通貨交換業者には自己財産と顧客財産の分別管理をより徹底して求めるべきとされた。
受託仮想通貨・受託金銭の保全に関しては、以下の措置が提案されている。
また、倒産隔離の観点から、受託仮想通貨の信託義務を課すことも考えられるとしている。現在の環境下では全種・全量の受託仮想通貨の信託を義務付けることは困難であるとしつつ、今後、信託銀行等において態勢整備等が図られた場合には、仮想通貨交換業者が可能な範囲で受託仮想通貨の信託を行なっていくことが望ましいとした。
仮想通貨の価格形成メカニズムは必ずしも明らかとなっておらず、価格が大きく変動するリスクもあることから、顧客が妥当でない価格で取引を行うおそれが存在する。また、仮想通貨交換業者は、顧客間取引を仲介するのみならず、自らが取引の相手方となったり、「顧客間取引のマッチングの場」に参加したりすることがある。こうした中において、取引価格の透明性確保や仮想通貨交換業者による利益相反行為の防止を図ることが重要であり、仮想通貨交換業者に対して以下のような対応を求めることが考えられるとしている。
顧客によりリスク誤認や投機的取引の助長を抑止する観点から、仮想通貨交換業者に対して以下のような行為を行わないように求めるべきとしている。
なお、いわゆるアフィリエイト広告については、従来の「勧誘」とは性質を異にする側面もあることに鑑み、今後横断的な検討が必要であるとされた。
仮想通貨の分野では、技術革新によりサービス内容等が急速に変化する可能性があり、行政当局による監督権限の行使を可能とする法令に基づく規制と、環境変化に応じて柔軟かつ機動的な対応を行い得る認定協会の自主規制規則の連携が重要であるとする。
その上で、認定協会への加入を促すとともに、未加入の仮想通貨交換業者に対しても自主規制規則に準じた体制整備を求める観点から、仮想通貨交換業者の登録拒否・取消要件を新たに設け、未加入の事業者であって認定協会の自主規制に準ずる内容の社内規則を作成しない者等については登録の拒否・取消しを行えるようにすることが適当であるとした。
多種多様な仮想通貨の中には、移転記録が公開されず、マネーロンダリング等に利用されるおそれが高い追跡困難なものや、移転記録の維持・更新に脆弱性を有するものが存在し、仮想通貨交換業者において、利用者保護や業務の適正・確実な遂行の確保の観点から問題がある仮想通貨を取り扱わないための措置を講じる必要があるとする。
もっとも、仮想通貨の安全性は仕様の変更等により変動する可能性があり、また技術革新で想定外の問題が生じることもあり得るため、問題がある仮想通貨をあらかじめ法令等で明確に特定することは困難であり、行政当局と認定協会が連携し、柔軟・機動的な対応を図っていくことが重要であるとしている。
【事業者視点から見た仮想通貨交換業規制の課題】
改正資金決済法の施行後、様々な問題や当初の想定と現実とのの乖離が生じており、本報告書の示す方向性での仮想通貨交換業規制の見直しは当然の流れである。他方で、施行後の情勢の変化によって過剰規制や運用の混乱も生じており、仮想通貨ビジネスにとっての障壁となっている。
仮想通貨交換業規制の見直しに際しては、これに対する対応も合わせて実施すべきであろう。例えば、発行主体のいないビットコインが主たる念頭に置かれていた現在の仮想通貨交換業規制は、仮想通貨の発行行為を適切に取り扱っているとは言い難い。事業者による仮想通貨の発行に際しては、発行者において顧客資産を預かることが想定されない場合にも、売買の仲介業者等と同一の規制(資本金額、社内体制の整備等)が課されており、業登録の実際上の難しさも相まって、仮想通貨の国内での発行行為は困難となっている。後に見るように、本報告書はICO規制に関してはある程度段階的な業規制も検討しており、仮想通貨交換業規制においても、対象業者の機能・責任に応じた段階的な仕組みを検討すべきである。また、法令上の「仮想通貨」(特に「2号仮想通貨」)の範囲についても、不明確な部分が多い。例えば、不特定の者を相手方として1号仮想通貨と相互交換できるものは2号仮想通貨に該当するとされているが、該当性判断においては将来の流通性等も勘案されるとされ、実際上の境界は曖昧である。
特に、既存の仮想通貨の価格のボラティリティが極めて高かったこともあり、現状ステーブルコインの利用に関する議論が本格的に進んでいるが、ステーブルコインの法的位置付けについてもさらなる議論が必要である。
トークンは多様化しており、ICO規制の導入後にはセキュリティ・トークンの登場も予想され、仮想通貨の範囲の明確化が望まれる。
【仮想通貨交換業者の登録審査の透明化・迅速化】
仮想通貨交換業の登録審査にかかる期間は、2ヶ月以内が標準処理期間とされている。しかし、実際には申請を出す前の「事前相談」の段階に多大な労力・時間がかかり、審査プロセスの不透明さや予測不可能性、期間の長期化が問題となっている。
こうした中で、金融庁は2018年10月に登録審査の主なプロセスと事前相談等で用いる質問票等を公表したほか、2019年1月11日には「仮想通貨交換業者の新規登録申請の審査プロセス及び時間的な目安[1]」という指針を公にした。同指針は、審査プロセスの内容の明確化にとどまらず、事前相談から登録可否の判断までの合計期間(約6カ月)を示した点で画期的である。今後は、実際の個別審査プロセスにおいて、審査の透明化・迅速化を進めていくことが期待される。現在、仮想通貨交換業への登録を希望する事業者は多数に上っており、審査の迅速化とともに多種多様な事業者の登録が進むことが予想される。登録業者の数・種類が多くなれば、金融庁による個別的な監督を前提とした規制には自ずと限界が生じてくるため、本報告書でも指摘されている通り、自主規制団体等との連携が今後ますます重要となってくると考えられる
現状のICOについては、詐欺的な事案や事業計画の杜撰な事案が多く利用者保護が不十分である、トークン保有者の権利内容に曖昧な点が多い等の問題点が指摘された。また、ICOで発行されるトークンについては、以下の三つに分類できるとしている。
①発行者が将来的な事業収益等を分配する債務を負っているとされるもの(投資型/いわゆる「セキュリティ・トークン」に相当)
②発行者が将来的に物・サービス等を提供するなど、①以外の債務を負っているとされるもの(その他権利型/いわゆる「ユーティリティ・トークン」に相当)
③発行者が何ら債務を負っていないとされるもの(無権利型)
ICOの規制の方向性としては、投資商品の販売と認められるものについては投資に関する金融規制を、支払・決済手段の販売と認められるものについては決済に関する規制を参考にすべきとしている。特に本報告書においては、セキュリティ・トークンについて、金融商品取引法(「金商法」)の適用を前提に、ICOの性質に応じて現状の金商法規制の修正を行う方向性が示された。
従来、セキュリティ・トークンに関しては、実質的に金融商品と同等の性質を有する場合であっても、トークンが仮想通貨で購入されるときは必ずしも規制対象にならないと解されていた。これに対して、本報告書では、仮想通貨で購入される場合全般を金商法による規制対象とすべきとした。
また、セキュリティ・トークンには、①事実上の流通性が高い、②発行者と投資家との間の情報の非対称性が大きい、③投資家が詐欺的な事案等を判別しづらいといった特徴があるとし、それに対応した仕組みが必要であるとされた。
(a)トークンの金商法上の位置付けと、それに伴う業規制・開示規制
金商法において、有価証券は流通性の高い1項有価証券と流通性の低い2項有価証券に分けて定義され、前者についてより厳格な規制が適用されることとなっている。本報告書では、トークンの 表章する権利(以下「トークン表示権利」)は事実上多数の者に流通する可能性が高いことに照らし、1項有価証券と同様に整理することが適当であるとされた。これは、現行法で2項有価証券に分類される集団投資スキーム持分等の権利を表章するトークンについても同様とする趣旨であると解され、今後のICO規制の方向性を示すものとして極めて重要である。
セキュリティ・トークンが1項有価証券に該当すると整理されることに伴い、トークンの売買やその仲介等を行うには、第一種金融商品取引業の登録取得が必要になるとされている。トークンの自己募集に関しても発行者を登録主体とした業規制を導入するという方向性は示されているが[1]、いかなる種類・内容の業規制を受けるのかに関しては本報告書では必ずしも明らかにされているとは言えない。なお、自己募集について業規制が導入された場合でも、セキュリティ・トークンの取扱いに関して登録を受けた第三者に委託して発行する形とすれば、発行者自身は業登録を受けずともトークン発行をすることができると考えられる。
また、有価証券の発行主体に対しては、一定の要件の下、財務状況等に関する開示規制が課されているところ、セキュリティ・トークンの発行にあたっては、1項有価証券と同様の発行開示(有価証券届出書による)や継続開示(有価証券報告書による)が課されることとなる。ただし、従来の有価証券規制と同様、転売制限等の措置を講じる場合には、開示規制の対象外と整理することが適当であるとされた。[1] 本報告書p.25参照
(b)第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み
既存の資金調達手法においては、IPOに伴う元引受けでは主幹事証券会社が、投資型クラウドファンディングでは仲介業者が、それぞれ事業計画等に関する法令上の審査義務を負っており、事業・財務状況等について客観的に確認する体制が整っている。本報告書では、ICOにおいても、詐欺的な事案の抑止や曖昧な権利内容のトークン発行の防止といった観点から、第三者が発行者の事業・財務状況を審査する仕組みの構築が必要であるとしている。
具体的には、ICOにおけるトークン表示権利を取り扱う業者(上述の通り第一種金融商品取引業者として整理)に対し、発行者の事業・財務状況の審査を適切に実施することを求めるべきであるとしている。
他方で、自己募集の場合には、集団投資スキーム持分等と同様、発行者に業登録を求め、広告・勧誘規制や説明義務等の行為規制を課すことで投資家保護を図ることが適当であると述べるにとどまっている。
(c)公正な取引を実現するための仕組み
本報告書では、トークン表示権利の不公正な取引についても規制する必要があると指摘された。もっとも、インサイダー取引規制については、現時点では何が投資家の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実に該当するか明らかであるとは言えず、事例の蓄積や適時開示の充実等が図られた後に改めて検討するのが適当であるとしている。
(d)トークンの流通の範囲に差を設ける仕組み
本報告書では、非公開株詐欺の社会問題化を背景に、非上場株式について自主規制規則で一般投資家への勧誘が制限されていること等にも鑑み、詐欺的な案件が多いとされるICOについても流通範囲に一定の制約を設けるべきとの提言がなされている。具体的には、第三者による適切な審査を経ているなどの利用者保護のための特段の措置が講じられていない限り、トークン表示権利の勧誘につき非上場株式同様の制限をかけ、一般投資家への流通を抑止することが考えられるとした。かかる勧誘の規制は、自己募集の場合にも同様に及ぼすべきとしている。
【セキュリティ・トークンにかかる規制の注目点】
[1] 報告書p.25
① トークンの自己募集に対する規制のあり方
本報告書は、トークンの自己募集について、禁止するのではなく、適切に規制の対象としていくのが望ましいとの立場を取っている[1]。その規制内容は、必ずしも明確化されたとは言い難いが、トークンの自己募集に関しては、発行者以外によるトークンの売買やその仲介等(以下「売買等」)と一応区別して検討されていることに留意が必要である[2]。
[2] 資金決済法上の仮想通貨交換業の定義では、仮想通貨の売買と自己募集は区別されていないのに対し、金商法上の金融商品取引業の定義では、有価証券の売買と自己募集が区別されている(例えば、株式の売買は第一種金融商品取引業に該当するが、自己募集は業規制の対象とならない。一方で、集団投資スキーム持分については、売買・自己募集ともに業規制の対象とされている)。セキュリティ・トークンについては、一応後者と同様に区別がなされるのではないかと思料される。
現実の規制の必要性としても、トークンの自己募集の場合には、資金調達目的でトークンを発行し、トークンの発行対価たる金銭等を自己の事業等に投資することが想定されており、発行者以外による売買等の業務にかかる規制(資本金規制、内部監査体制等)と同一の規制はなじまない。自己募集と発行者以外による売買等とに同一の規制を及ぼせば、自己募集が事実上不可能となるだろう[1]。本報告書においては、自己募集について業登録を求め、発行者に対して行為規制や指導監督等を及ぼすという方向性のみが示されており、その具体的内容や追加的規制の有無は明らかでない。業登録等のハードルが高ければ、トークンの自己募集は投資ファンド等の形態において専ら用いられ、事業者が自己の一事業のために自己募集をすることは難しくなると考えられる。この場合には、本文でも指摘した通り、業登録を有する第三者に発行委託する形を取ることとなると思われる(この場合には、第三者がスクリーニングの機能を果たすこととなる)。
他方で、業登録等のハードルを低くする場合には、どのような規制枠組みによってプロジェクトのスクリーニングを実施し、投資家保護を図るかが問題となってくる。自己募集に際して、第三者に事業・財務状況の審査を実施させる仕組みも考えられるであろう[2]。
② 業規制・開示規制にかかる特例措置
[1] 現に仮想通貨交換業規制においては、事業者による仮想通貨の有償発行行為が困難となっている。
金商法では、投資家保護の要請と多様な資金調達手法を認めるべきという政策的考慮との衡量の下、有価証券の流通性や資金調達の規模を基準とする業規制・開示規制の特例措置を設けている。例えば、勧誘対象者が少ない場合の開示規制の免除(少人数私募)や少額資金を集める投資型クラウドファンディングの取扱いについての業規制の緩和などが挙げられる。
これらの特例措置を受けられるのであれば、金商法の適用の下でも、セキュリティ・トークン・オファリングの活用に大いに活路が見出せると考えられる。トークンは通常流通性が高いなど異なる考慮が必要な部分はあるものの[3]、特例措置の趣旨は基本的にはセキュリティ・トークンにも同様に当てはまると言える。今後のICO規制の具体化の中で、現行の金商法上の特例措置と同趣旨の制度導入の検討が望まれる。
[2] この点に関しては、第三者による適切な審査を経ている等の利用者保護のための特段の措置が講じられていない限り、トークン表示権利の一般投資家に対する勧誘を制限することも考えられるとする本報告書の提言にも留意する必要がある。(本報告書p.27/本稿本文の(d)参照)
[3] もっとも、トークンの設計次第では流通性を制限することも可能と考えられる。一般論として、トークン全般について流通性を前提とした規制を課すことについては慎重な姿勢が求められるだろう。③ トークンの流通の範囲に差を設ける仕組み
本報告書では、一般投資家へのトークンの流通を抑止する仕組みの導入が提案されている。しかし、ICOのメリットの一つは、一般投資家を含む幅広い投資家層への訴求力にあり、一般投資家への流通を厳しく制限すれば、ICOの魅力を削ぐことになる。トークン流通市場への参加制限による一般投資家保護は、ICOの利用価値とのトレードオフとなる。もっとも、本報告書では、第三者による適切な審査を経ている等の利用者保護のための特段の措置が講じられている場合には、流通制限が例外的に緩和ないし不適用となる可能性が示唆されている。
そのほか、トークンの設計や資金調達額等によって特例措置を設けることも考えられよう。こうした特例措置を検討するには、さらに二次流通をどの程度認めるのかといった観点も問題となってくる。トークンの二次流通の方法や二次流通の程度によっては、セキュリティ・トークンを1項有価証券に相当するものとして一律に規制を及ぼすということが過剰規制になる可能性がある点については慎重な議論が必要である。
トークンの流通範囲に関する規制については、今後の議論を注視していく必要がある
本報告書では、利用者保護や問題のあるトークンを取り扱わないことを徹底するため、仮想通貨に該当するトークンを含め、発行者が存在する仮想通貨については、仮想通貨交換業者に対して以下の措置を求めることが適当であるとされた。
資金決済法による仮想通貨交換業の定義の下では、仮想通貨の売買等は行わず、顧客の仮想通貨の管理・移転業務(カストディ業務/ウォレット業務)のみを行う場合、当該業務は「仮想通貨交換業」に該当せず、業規制を受けない。
本報告書では、仮想通貨のウォレット業務も、顧客の支払・決済手段を管理・移転させる行為を行う者である以上、決済に関連するサービスとして一定の規制を設ける必要があるとしている。規制を整備すべき必要性として、具体的には以下の事由が挙げられている。
本報告書は、以上を踏まえて、ウォレット業者についても業規制(登録制)を導入し、顧客の仮想通貨の管理について仮想通貨交換業者に求められる以下のような対応と同様の対応を、ウォレット業者に対しても求めることが考えられるとしている。
【ウォレット業務規制に関する課題】
国際的な動向やウォレット業者の機能に鑑み、ウォレット業者について業規制を導入するという方向性は全体として妥当なものであろう。
しかし、ウォレット業者と一口に言っても、仮想通貨(顧客のウォレットにかかる秘密鍵)の管理方法は多様な方式が考えられ、それによってウォレット業者の責任を負うべき範囲にも自ずから差異が生じる。例えば、ウォレット業者において顧客仮想通貨の流用等が技術的に困難な場合にも、仮想通貨交換業者と同程度の内部管理体制の整備や財務諸表監査を実施すべきなのかには疑問がある。弁済原資の保持についても、仮想通貨交換業においては、大部分の仮想通貨がコールドウォレットで管理されることを前提に、ホットウォレットでの管理分の仮想通貨を弁済原資として保持すべきとされていたところ[1]、顧客端末でのみ秘密鍵を管理するような「クライアント型ウォレット」の場合などには、弁済原資としての保持を求めるべき範囲の規定は難しい。
以上を踏まえると、ウォレット業者の業務形態等に応じた適正な規制の整備が望まれると言えるであろう[2]。
なお、仮想通貨の現在の法令上の定義はブロックチェーンを必ずしも前提としない抽象的・包括的なものとなっていることもあり、ウォレット業者について、技術的特性を加味した柔軟な規制対応をすることには困難が伴うと予想される。政省令で細目的な規定をすることも一応考えられるが、技術上等の問題に適切に対応するためには、自主規制団体との共同規制も検討すべきと言えよう。[1]本稿Ⅰ1(1)参照
[2]本報告書の脚注29において、「仮想通貨カストディ業務には様々な形態のものが想定されるところ、異なるリスクレベルに応じて適切な規制を課していくためにも、規制対象となる業務の範囲を明確にしていくことが重要との意見があった」との意見紹介がなされている点は注目に値する。
仮想通貨の現物取引をめぐっては、非公表情報を得た者が利益を得たり、仕手グループが価格を吊り上げて売り抜けたりといった事案が発生している。金融商品取引法においては、不正行為、風説の流布、相場操縦、インサイダー取引等の不公正な取引について罰則付きで禁止がなされているが、仮想通貨の現物取引にはこれに相当する規制が存在しない。
本報告書では、仮想通貨の不公正な現物取引についても、その抑止のために一定の対応が必要であるとしている。もっとも、経済活動上の重要性や規制に伴う行政コストに照らし、現時点で、有価証券取引と同様の規制を課し、同等の監督・監視体制を構築する必要性までは認められないとしている。
以上を踏まえて、以下の内容の規制が提案されている。
なお、インサイダー取引規制については、現状では法令上禁止すべき行為を明確に定めることは困難であるとされ、当面は、仮想通貨交換業者に対して未公表情報を適切に管理し、未公表情報を用いた不公正な取引を行わないよう求めることが適当とされた。
仮想通貨デリバティブ取引については、多くの主要国において金融規制の対象となっている中、日本において規制がなされていない状況にある。本報告書は、仮想通貨デリバティブ取引に積極的な社会的意義は見出しがたいとしつつも、禁止するのではなく、適正な自己責任を求めつつ、一定の規制を設けて利用者保護や取引の適正化を図るのが適当であるとした。具体的には、以下のような規制が提案されている。
なお、本報告書では、その経済的機能やリスクの類似性に鑑みて、仮想通貨信用取引についても仮想通貨デリバティブ取引と同様の規制の対象とすることが適当とされた。
本報告書では、国際的な議論において“crypto-asset”の使用が広まっていることや、法定通貨との誤認防止の観点から、法令上、「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが提案されている。
本報告書の概要については、以上のとおりである。コインチェック事件以降議論が進み、議論の収束とともに、コインチェック株式会社に登録がなされた点が印象深い。本報告書については、細部については検討の余地があるものとは考えられるものの、適切な方向へ向かっているものと考えられる。上記でも指摘したとおり、仮想通貨交換業者の段階的規制の必要性、ステーブルコインの法的位置付け、セキュリティ・トークンに対する規制の在り方、仮想通貨交換業者の段階的規制等議論すべきポイントは未だ残されているとは考えられるが、今後も、ブロックチェーン・仮想通貨業界に対する規制が適切に実施され、我が国の業界が適切に発展するよう規制の動向については、慎重に追っていきたい。