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知財活用は経営のコアコンピタンス。「ひらかれた医療」の実現に向けて、戦略立案から社内体制構築まで支援 – アイリス株式会社

病院や医師向けの人工知能技術(AI)関連医療機器を開発している、アイリス株式会社。同社は、法律事務所ZeLo・外国法共同事業の知的財産顧問サービスを活用し、弁理士と連携しながら、中長期的な知財戦略を立て、自社の知的財産を活用しています。今回は、知財業務を担当している髙橋渉さん、木野内敬さんに、自社の知的財産の考え方や、ZeLoとの連携方法を聞きました。聞き手を務めるのは、同社をサポートする青木孝博弁理士、田中美穂弁理士です。

知財活用は経営のコアコンピタンス。「ひらかれた医療」の実現に向けて、戦略立案から社内体制構築まで支援 – アイリス株式会社
PROFILE

Patent Attorney

Takahiro Aoki

Miho Tanaka

Patent Attorney

Miho Tanaka

Graduated from the School of Political Science and Economics at Waseda University in 2010. After working at a patent law firm in Tokyo, registered as a patent attorney in 2021. She joined ZeLo in 2023 and she handles numerous domestic and international trademark and design rights acquisitions for clients ranging from startups to major corporations.

業界:AI医療・医療機器・ヘルスケア
従業員数:約70名(2023年7月時点)

医療機器を開発するスタートアップ。法規制が多い分野に法務・知財が一貫して対応

青木本日はよろしくお願いいたします。改めて、貴社の事業内容について教えていただけますか。

髙橋私たちは、「みんなで共創できる、ひらかれた医療をつくる。」をミッションに、AI医療機器を開発しています。第一弾となるプロダクトは、口腔内カメラとクラウドAIで構成されたAI医療機器で、医師による感染症診断に用いられます。口腔内カメラで撮影した咽頭画像と問診情報などをAIが解析し、その結果を受けて医師が感染症診断を行います。口腔内カメラも、AIも、自社で開発を行っています。

青木カメラで咽頭を撮影するのみであれば、患者の負担も少ないのでしょうか。体調不良で朦朧としている時に身体に負担のかかる検査を受けるのはつらいですよね。

髙橋治験における痛みの評価では、平均スコアが10段階で0.8と、痛みが少ないという結果が出ています。また、数秒から10数秒で判定結果を得られるため、「一旦待合室に戻って、結果が出たらまた診察室に戻って…」といったフローも短縮することができ、患者にとっては負担が軽減され、病院にとっても感染リスクを下げつつ病院の回転率を上げられるという点で、双方にメリットがある製品です。

青木そのようなハードウェアのカメラに加え、クラウド上のAIやソフトウェアも扱われており、ハード・ソフト両面から知的財産についてはアプローチされていますよね。特許・意匠・商標いずれもサポートさせていただいております。

主に、実務では、髙橋さん、木野内さんとやりとりさせていただくことが多いですが、社内の知財体制はどのようなかたちでしょうか?

髙橋医療機器は開発・販売にあたり様々な法規制をクリアする必要があるため、法務部門が知財を所轄し、法務・知財で一貫して対応しています。その中で、知財業務には技術の観点も必須なので、我々のようなエンジニアも業務に関与する体制を取っています。

例えば、プレスリリースや医師向けの資料など、他部門が対外的に発表する資料についても、法規制がカバーできているか、公表前に法務・知財・そして薬事が連携してレビューしています。

アイリスの知財チームに在籍する、髙橋渉さん(写真右)と木野内敬さん(写真左)。髙橋さんは、2020年10月にアイリスに入社し、AIエンジニア業務と特許と意匠を中心とした知財業務を兼任。木野内さんは、2020年9月にアイリスに入社し、プロダクトマネジメント業務に従事しながら、商標に関する業務にも対応。

先の先まで見据えた知財戦略。スタートアップにとっての知財の役割

青木先ほども話題に出ましたが、髙橋さんも木野内さんも、エンジニア業務を行いながら知財業務を担当していらっしゃるんですよね。

髙橋はい。エンジニア業務に軸足をおきつつ、技術の観点から知財業務にも関与しています。主に私が特許と意匠、木野内が商標を担当しています。

私は前職も別の医療機器の会社の研究所に在籍し、50件の特許出願も行っていました。当時もAI技術の特許を出願していましたが、その時はまだ特許庁からガイドラインなども出ていなかったので、知的財産部と連携して試行錯誤しながら対応していました。その経験もあり、現在も主に特許について対応しています。

前職で特許権の侵害回避に非常に苦労したため、特許権の重要性は身をもって体感しています。その中で、我々のようなスタートアップは、他社の模倣や侵害から身を守るディフェンシブな観点だけでなく、技術力の高さをアピールすることで資金調達や大企業との連携がしやすくなるオフェンシブな観点を踏まえた知財戦略を組み、そのうえで知的財産を管理していく必要があると考えています。

特に弊社は、製品を全国のクリニックに広めていきたい一方で、全国規模の販売体制は持っておりません。そのため他企業との連携も将来的には見据え、特許権などの知的財産権は、他企業と協業するうえで非常に重要だと考えています。

協業案件は準備時間が少ないこともありますが、弊社の事情も踏まえ、特許出願などを、タイムリーに対応いただいたこともあり、大変助かっています。

青木ありがとうございます。おっしゃる通りで、私も、スタートアップにとって、知的財産は「協業相手と付き合う上で活用していくもの」という側面が大切だと考えています。

大企業などは、一般的に特許権や商標権などの知的財産権を他社に権利行使する目的で取ることが多いです。一方で、スタートアップなどの場合、権利行使を目的とすると必要以上に管理コストがかかり、実務に即していないことが散見されます。知的財産権は交渉力の強化にもなるので、その観点で戦略を立てていくことが重要ですね。

アイリスさんにはその視点を持っていただけているので、とてもありがたいです。

木野内:特に弊社では、髙橋が前職の経験も活かして、先の先まで見据えて知財戦略を立てています。スタートアップ特有の「まずはやってみよう」というチャレンジ精神を大切にしつつ、知的財産は守るという考えは、経営陣もコアコンピタンスとして大切にしています。私も前職でも知財業務を行いましたが、髙橋と会い、「開発者でここまでしっかりした知財戦略を考えているのか…」とかなり驚いたことを覚えています。

青木スタートアップだと、なかなか中長期を見越して知財戦略を考えるところまで手が回らないことも多いため、アイリスさんのスタンスにはこちらも非常に刺激を受けるところが多いです。

商標はどのように対応されていますか?

木野内:商標は、早期の出願が鍵を握るため、可能な限り早めに動き出すことを意識しています。現状は、方針が固まり切ったタイミングまで待つのではなく、中長期的なロードマップに沿って先回りで出願できるよう動いています。

田中商標はスピード感も大切ですが、同じくらいネーミングも重要ですよね。医療業界特有の事情があるとは思いますが、造語でありつつも、製品のイメージが浮かびやすい名前にするのが良いですね。

髙橋おっしゃるとおりです。医療機器としては、虚偽または誇大と思われる名称、医療機器以外のものと誤解されるおそれのある名称などはふさわしくないとされており、医療機器ならではの難しさがありますね。

青木孝博弁理士(写真)は、権利化業務や紛争対応に加えて、スタートアップなどを対象とした知的財産デューデリジェンス案件や、知財戦略立案を多数担当し、スタートアップ向けの知財業務に関するセミナーなども定期的に行っている。田中美穂弁理士は、スタートアップから大手企業まで、国内外の商標・意匠に関する権利化業務を多数担当し、アイリスも商標面からサポートしている。

社内ブレストから書類の共同管理まで。クラウドを活用し効率よく連携

青木その中で、ZeLoの知財顧問を活用いただき、特許出願・商標登録出願のみならず、知財戦略の策定なども行わせていただいていますよね。

髙橋ZeLoさんには、他のエンジニアなどと行う社内のブレインストーミング段階から入っていただき、そこで出たアイデアを整理・拡張して、明細書の作成から出願まで一貫して対応してもらっています。

そのほか、クラウド上でアイリスとZeLoで共有フォルダを作り、知財に関する書類を一緒に管理しています。知財に関する書類は様々あり、また期限管理も多いので、効率的な管理方法・フォルダ構成方法などのノウハウも共有いただけて助かっています。大企業などだと、自社専用の知財管理ソフトがあるところもありますが、弊社にはないため、このようなかたちで伴走いただけるのは非常にありがたいですね。

クラウドなのでいつでも・どこからでも閲覧編集でき、オンライン上で複数人で同時編集できる点も、リモートワークが主流の弊社と非常にマッチし、業務効率が上がっています。

木野内:ZeLoさんとは、我々のクラウドを活用する文化を壊すことなく、むしろ管理能力を強化するかたちでできているので非常にありがたいと感じています。コミュニケーションもSlackなど社内で使用しているチャットツールを活用しているため、スピード感をもって、気軽に様々なことをお伺いさせていただいています。

青木スタートアップのお客さまだと、Slack、Chatwork、LINE、Messengerなどを使っていらっしゃるお客さまもいらっしゃいます。我々のような外部の事務所とやり取りをするために、別のコミュニケーションツールに切り替えるのはコストが大きいと感じ、可能な限り、お客さまが使用するツールに沿えるような体制を整えています。

また、特にスタートアップの方のお話を伺っていると、特許庁・特許事務所から送られてくる書類の対応方法がわからず、メールに添付されたままの状態で放ってしまっていたというケースも多く見受けられます。各書類の管理も、我々の管理ノウハウを用いて、共有しながら行わせて頂けるのは、ZeLo側のオペレーションとしてもありがたいなと思っています。

髙橋月に1度、ZeLoの先生方と定例会議を設けさせていただいているのも助かっています。

特許に関しては、基本的に私が他部門のブレインストーミングに参加するなど、他部門と定期的にコンタクトを取り、出願可能性を見つけています。ただ、我々はエンジニア業務も兼業しているので、特に製品発売前などはエンジニア業務に注力していることもあります。そのような時でも、定例会議があることによって、定期的に知財業務へのコミットができたり、申請を逃さないように相談したりと、連携することができています。

木野内:また、弊社は、知財顧問のほかに、法律顧問でもZeLoさんにお世話になっているので、法務・知財を一貫して相談できる体制を整えています。法規制が多い分野のため、一貫して依頼できるのも魅力ですね。

青木ありがとうございます。ZeLoでは、弁護士と弁理士が連携したシームレスなサービスを強みとしているので、今後もぜひ積極的にご活用いただきたいです。

「今後は、発明者自身から自立的に特許出願ができる体制を整えたいので、研修などもぜひしていただきたいなと考えています」と髙橋さん。法律事務所ZeLoでは、法務・知財両面において、社内研修なども多数行っている。

事業拡大フェーズに向けて。法務・海外対応まで一気通貫でサポート

青木今後、ZeLoとやっていきたいことなどはございますか?

髙橋弊社の事業拡大フェーズを、ぜひ色々な側面から伴走していただけたらと考えています。

例えば、IPOを見据えた社内規程周りの整備などが大きなミッションのひとつです。法務・知財両面で様々な規程があるので、一貫して進めていきたいです。

また、海外進出を見据えたFTO調査なども自分たちだけでは難しいため、外国の特許事務所などとの連携や、海外の規制のキャッチアップなども一緒にできればと思います。

青木弁護士チームには、薬事に強い弁護士や、米国(ニューヨーク州・コロンビア州)・インドネシア・スイスの弁護士資格を有する専門家もいるので、ぜひご活用いただけたらなと思います。

海外進出でいうと、外国での出願・権利化が必要となりますね。

髙橋より多くの方に使ってもらうべく、人口の多い国などにも特許出願をしていきたいなと考えています。今まであまり出願したことがない国もありますし、国によってルールも異なるので、ぜひサポートいただきたいなと思います。

青木外国出願の際には、ZeLoがネットワークを持っている現地の代理人などを活用しています。現地代理人を通じて情報提供できるよう、サポートさせていただきます!

木野内:商標の場合は、たとえば中華圏で漢字の当て字をどうするのか、などもぜひアドバイスを貰えると嬉しいなと思います。日本語の漢字だと良い意味だが、中国語の漢字だと意図が反するなどといったケースなどもあるので、ぜひ相談しながら進めていきたいです。

田中出願の前段階のネーミング、ブランドを作る段階からのサポートもぜひさせていただきます!

青木今後、医療業界もよりデジタルに変わっていきそうですよね。

髙橋医療業界はDX化し、遠隔診断なども進んでいくと考えられているため、弊社としてもDX化に貢献していきたいと考えています。場合によっては、現状の法律では想定していない領域へのアプローチも必要になるため、ルールメイキングやパブリック・アフェアーズ領域の実績もあるZeLoさんにサポートいただきたいと思っています。

また、将来的には、アイリスで培ったデータベースを公開して市場をさらに拡大することで、医療に貢献していきたいと考えています。ただ、単に公開すれば良いわけではなく、コントロールしていかないといけないと思うので、ぜひ相談しながら進めていきたいです。

青木「オープン戦略」ですね。おっしゃるとおり、単に技術公開すればいいわけではなく、オープンにしたうえでそれをどうコントロールするかが、健全なマーケット形成に必要です。特に、特許はスタートアップも大手企業も平等であるため、うまく活用することで大企業との連携をスムーズに進められます。ぜひ一緒に戦略を立てて検討していきましょう。

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※掲載内容は取材当時のものです(取材日:2023年3月9日)

(写真:岡戸雅樹、取材・文・編集:渡辺桃、高田侑子)

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