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降格処分の裁判例を一覧で解説!企業が行う降格・降給の要件と検討すべきポイント

企業を経営する上で、時に従業員の降格処分を検討する場面が生じます。従業員が就業規則に違反した場合、あるいは能力や成果が与えられたポジションに見合わず処遇の変更をする必要がある場合など、降格の検討が必要になることは珍しいことではありません。降格には給与の減額措置である降給を伴う場合も多いですが、従業員が会社の処分に納得できず紛争化する可能性も十分にあるため、慎重に進める必要があります。本記事では、企業が行う降格・降給について整理し、法的な観点からの注意点を解説します。

降格処分の裁判例を一覧で解説!企業が行う降格・降給の要件と検討すべきポイント
LABOR-EMPLOYMENT
PROFILE
Toyohiro Fujita

Attorney admitted in Japan

Toyohiro Fujita

Graduated from Hitotsubashi University (LL.B, 2010), Hitotsubashi University School of Law (J.D., 2012), and passed Japan Bar Exam in 2012. Experience at Okamoto Masaaki Law office, Rays Consulting Law Office (2014-2022), and joined ZeLo(2022-). Main areas of practice include human resources and labor issues, litigation and disputes, general corporate governance, startup law, M&A・corporate restructuring, IPO, risk management, data protection, business rehabilitation, and bankruptcy.

降格処分の種類

「降格処分」とは役職または職務上の資格や等級を下げることを指し、人事権行使による降格と、懲戒処分としての降格に二分されます。

人事権行使による降格は、人事権(企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する決定権限)を基礎にしたものです。

一方、懲戒処分としての降格は、規律違反行為(例えば、セクハラ、パワハラ、服務規律への違反など)を行った従業員に対し、就業規則上の懲戒規定を根拠に、制裁として降格を課す処分で、企業の懲戒権(規律違反に対して制裁を科す権限)に基づき降格処分を行います。懲戒処分としての降格は、懲戒処分のルールを遵守する必要があるため、より慎重に行わなければならない面があります。

本記事では、主に人事権行使による降格について、詳しく解説します。

人事権行使による降格について

人事権行使による降格は、①職能資格・等級等の降格と、②役職の降格の2パターンがあります。

この2つは1度の処分で同時に行われることも多いですが、その要件を検討する際には、基本的には区別して考えるべきです。

職能資格・等級等の降格について

職能資格・等級等の降格の要件

職能資格や等級の降格やそれに伴う降給を適法に行うには、雇用契約上の根拠が必要であると考えられています。

具体的には、下記の点を満たす必要があると考えることができます。

①人事制度・賃金制度が雇用契約上有効に制度化されていること、
②具体的な降格・降給措置が、
     a①の契約内容に沿って行われ、かつ
     b権利濫用などの強行法規違反にならない態様で行われていること

具体的にこれらの要件を満たさない場合を考えてみましょう。

①の要件を満たさない場合とは、降格・降給の前提となる人事制度・賃金制度等が従業員に周知されておらず、雇用契約の内容になっているとは言い難い場合や、会社が人事制度の変更を行ったものの、合理的な就業規則変更と認められず(労働契約法第10条)、新人事制度が雇用契約になっていない場合などがあり得ます。

②aの要件を満たさない場合とは、人事制度に含まれている評価制度の手続を遵守せずに評価をして降格させた場合、等級制度と賃金表が連動していないにもかかわらず等級の降格に伴い自動的に賃金の降給も行った場合などがあり得ます。

②bの要件を満たさない場合とは、労働組合員であることを理由に低い評価をした結果の降格・降給である場合(労働組合法第7条違反)、妊娠や出産したことを理由に低い評価をした結果の降格・降給である場合(男女雇用機会均等法第9条3項違反)などがあり得ます。

職能資格制度上で資格や等級の降格を行う場合の留意点

一方、「職能資格制度」を採用している場合は、職能資格・等級の降格の際に注意が必要です。

職能資格制度とは、従事する仕事の性質や種類により、職務を遂行するのに必要な能力(=職能)を判定し、規定された賃金表に基づき賃金を支給する給与制度です。職能資格制度が提唱された当初は、職務遂行能力は、勤続によって蓄積されていく性質(保有能力)であることが前提だったため、降格は想定されていませんでした。

しかし、職務遂行能力は評価対象となり、時間の経過とともに下がる可能性もある発揮能力(あるいは顕在能力)ともなり得るため、降格・降給も考慮に入れた職能資格制度を設計する必要があります。

例えば、いわゆるマナック事件(広島高判H13.5.23労判811号21頁)では、裁判所は、会社内で職能資格制度が年功的に運用されていないことを確認し、会社が行った職能資格制度における等級の降格を有効と判断しています。これは、職能資格制度が年功的に運用されていない=下がることも想定されている職務遂行能力を前提とした制度であることを確認したものと評価することができます。

職能資格制度上での資格や等級の降格・降給を実施する場合には、前提として、上記の要件に加えて、当該職能資格制度が、事実上年功的に(降格しないものとして)運用されていないか、他の従業員の前例なども踏まえて確認する必要があると考えられます。

職務・役割等級制における等級やグレードの引下げの場合

年功的に運用されている職能資格制度を、成果主義的な役割等級制度等に刷新し、その上で、従業員の能力や行動又は成果を評価した結果、降格・降給を検討するケースがあります。

この場合、まずは、新人事制度が従業員との間で雇用契約上有効に制度化されていることが必要です(要件①)。従業員の自由意思により人事制度変更への同意を得る、または合理的な就業規則の変更として新人事制度を従業員との雇用契約上有効化する必要があります。

その上で、要件②の「降給の仕組み自体の合理性と公正さ」を担保する必要があります。

実際に、エーシーニールセン・コーポレーション事件(東京地判H16.3.31労判873号33頁)では、各期の従業員の目標設定に合理性があるかという点や、評価過程において上司が評価を行った後に、本人へのフィードバックと同時に人事や更なる上位者に評価内容が共有されるような公正な仕組みを要するべきだという点が指摘されました。成果主義的な要素を含む制度において、降格・降給を実施する場合には、評価制度を含む人事制度の設計の合理性と公正さを備えているかも踏まえておく必要があるといえます。

役職を下げる、または外す降格の場合

役職を低下させるのみの降格の場合は、上記で解説した職能資格・等級等の降格の場合よりも緩やかに認められることが多いです。役職の降格の場合は、会社の労働力配置の権限を踏まえて、必ずしも就業規則等による明文の根拠も必要ないと考えられています。

ただし、会社の労働力配置の権限は当然無制限のものではなく、職務適性の欠如や成績不良など、業務を遂行する上でそのような措置が必要だといえるだけの根拠は要ります。また、法律上禁止された差別・不利益扱いや権利濫用に該当する場合には、違法・無効の評価を受けることがあります。

加えて、役職を下げるのみの降格とは言え、一度に数段階の降格をする場合には、従業員にとって給与減額の影響が大きい場合もあり、一部または全部が無効になるケースもあります。

降格処分に伴う降給の限度額

降格処分に伴う降給の限度額について、どの程度の減額幅であれば許容されるのでしょうか。

法律上には、明確な規定はありません。

労働基準法第91条で減給の限度額の基準が設けられており、これを参考にして10%であれば許されるのではないか、という考え方と唱える方もいるようです。しかし、これは懲戒処分における減給処分の場合の基準であり、降格処分の場合には適用されません。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

労働基準法第91条

人事権の行使としての降格は、上記の通り要件を満たす必要があり、降給の限度額は要件には当たりません。

しかし、減額幅が大きいほど従業員への不利益が多いため、たとえ人事制度に忠実に運用した結果だとしても、例えば給与を50%にしてしまうような降格・降給処分は、それに見合う高度の必要性がない限りは、権利濫用として無効になる可能性が高いといえます。

結局、減額についてどのように裁判所が評価するかは、裁判例を個別に見ていくほかありません。しかし、傾向としては、役職の降格に伴うものや、年俸制など業績を評価する制度による降給は相対的に減額が認められやすいのに対し、資格や等級の降格による降給は、相対的に大幅な減額は認められにくいという傾向はありそうです。

具体的な降給幅と裁判所の評価については下記の表をご参照ください。
なお、会社(法人)による処分について、
・〇は裁判所が適法・有効としたもの
・✕は裁判所が違法・無効としたもの
・△は裁判所が一部適法・有効としたもの になります。

弁護士とともに、裁判例などを押さえた降格処分の検討を

降格処分は、従業員にとって大きな影響があります。それゆえに労務トラブルになり易い類型の処分であり、その対応一つで企業が不利益を被ることもあり、訴訟などに発展した場合は、企業のレピュテーションや上場の可能性にも関わる大きな問題になりかねません。降格処分を検討する際には、複数の裁判例などを参照するほか、専門家のアドバイスのもと慎重に進めることが大切です。

法律事務所ZeLoでは、人事労務を専門に取り扱う弁護士・パラリーガルを含めたチーム体制で、企業の皆様のお悩みに対応しています。特に、役割等級制度における適切な降格・降給プロセスに関するアドバイスをはじめとした人事制度設計サポートや、就業規則等の人事労務関連の社内規定の策定、賃金制度・労務管理に関するアドバイスなど、企業の労務環境整備に関して多数支援実績があります。スタートアップやベンチャー企業における人事労務制度構築についても法的側面からアドバイスさせていただきます。

加えて、法律事務所ZeLoの法律顧問サービスLPOサービス(Legal Process Outsourcing Service)では、企業法務全般の法務パートナーとして、日常的な法律相談、法改正対応、人事制度の設計、就業規則・労使協定等を含む社内規程の整備に関する法的助言等、幅広く対応が可能です。お困りの方はぜひお気軽にご相談下さい。

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