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宇宙開発と利用でイノベーションを促進する、規制や環境を整備する日本の歩み

現在、日本では宇宙関連の事業に多くのスタートアップ企業が進出しています。本記事では、日本政府が民間企業の宇宙関連イノベーションを促進するためにどのような取り組みを行っているのか、また、それを受けてどのような企業が実際に活躍しているのか解説します。

宇宙開発と利用でイノベーションを促進する、規制や環境を整備する日本の歩み
STARTUP-LAW
PROFILE
ジョエル グリアー

外国法事務弁護士(原資格国:米国コロンビア特別区)

ジョエル グリアー

2000年イェール・ロー・スクール卒業(J.D.)。2001年米国マサチューセッツ州弁護士登録。2007年外国法事務弁護士登録。2019年9月、法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画。主な取扱分野はジェネラル・コーポレート、訴訟・紛争対応、宇宙法など。The Legal 500、Chambers Asia Pacific、Chambers Globalと多くの受賞歴があり、執筆も数多く手掛けている。

宇宙開発・宇宙利用は、一見するとスタートアップ企業が関連する分野ではないように思えます。しかし、当時の安倍晋三首相は2019年末に「日本では、新たな宇宙ビジネスの開発に挑戦するスタートアップ企業などが増えていると述べています。さらに安倍氏は、日本政府に対し「それを具体化するために必要な制度の整備を加速するなど、新たな宇宙ビジネスを育成する環境づくりを進めること」を要請しています宇宙開発戦略本部

安倍氏は、近年、日本の宇宙ベンチャー企業が数多く誕生していることを正しく指摘しました。これらのベンチャー企業は、以下のように多様な宇宙関連活動を行っています。

  • ロケット開発・打ち上げサービス  (: インターステラテクノロジズ株式会社)
  • スペースロボット (例: GITAI Japan株式会社)
  • 宇宙資源探査 (例: 株式会社ispace)
  • 宇宙ごみの回収 (例: 株式会社アストロスケールホールディングス)
  • 宇宙旅行と輸送 (例: PDエアロスペース株式会社、 株式会社SPACE WALKER)
  • スペースエンターテイメント(例: 株式会社ALE)
  • 衛星地上局共有 (例: 株式会社インフォステラ)
  • 農業リモートセンシング(例: サグリ株式会社)

このリストは、日本の宇宙ベンチャー企業のほんの一例です。

安倍氏が日本政府に要請した「新たな宇宙ビジネスを育成する環境づくり」は、以前から行われてきたこの方向性への取り組みを継続することを意味しています。

例えば、日本では2008年に国内初の宇宙関連の法律である「宇宙基本法(平成20年法律第43号)」が成立しました。宇宙基本法では、宇宙の商業的可能性を認め、その可能性を追求する民間企業の努力を政府が支援することを宣言しています。

さらに、2016年には重要な宇宙法「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)」「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律施行規則(平成29年内閣府令第41号)」が制定されました。

大まかに言うと、この2つの法律は、日本で宇宙関連の活動を行う民間企業に対する規制体制を確立するもので、1つ目の法律は、衛星の打ち上げと運用を規制し、これらの活動に対する責任規定を設けるものです。2つ目の法律は、衛星リモートセンシング装置の運用と、これらの装置からのデータの取得を規制するものです。

日本の宇宙法研究の第一人者である慶應義塾大学の青木節子教授によれば、両法律は、‘小型ロケットの開発やリモートセンシング衛星の運用を行うベンチャー企業などに対して、許可申請先の政府機関を特定し、許可条件や監督手続きを明確にする制度を設けること’を通し、国が商業宇宙関連活動を支援するというコミットメントを反映しているとのことです。

また、日本政府は、2020年に最新の宇宙基本計画を策定し、宇宙開発・宇宙利用を支援する包括的かつ調整された国家政策を打ち出しています。

宇宙基本計画では、政府によるスタートアップ企業を含む民間企業からの宇宙関連調達を拡大し、スタートアップ企業などの宇宙産業への参入を促進するためのさまざまな取り組みを推進することを目標としています。

例えば、日本の宇宙開発の最高機関である宇宙航空研究開発機構(JAXAは、企業や学術機関との連携を含め、宇宙探査技術の研究・開発を行うため、 2015年に「宇宙航空研究開発機構宇宙探査イノベーションハブ」を設立しました。センター長は、「現在の宇宙開発は、多くの研究活動と政府の支援によって支えられていますが、今後は産業界の役割が非常に重要になってきます。企業が宇宙活動に参入し、新しいビジネスを始めることができなければ、持続可能な宇宙開発は望めません」と述べています。

また、JAXA2018年に「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC」というプログラムを開始しました。J-SPARCは「民間企業とJAXAの連携により、宇宙関連ビジネスの新しいアイデアを創出する」ことを目的としており、このプログラムでは約20のプロジェクトを支援しています。

このような日本政府の取り組みには、日本政府が2018年に開始したオンラインプラットフォーム「宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S-Matching)」も含まれており、宇宙分野の起業家と投資家の結びつきを支援することでビジネスイノベーションを促進しています。

さらに2017年からは、政府が主催する宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」が開催され、スタートアップ企業などから宇宙に関する新鮮なアイデアを募り、資金援助や専門家の指導、ビジネスマッチングの機会などを競い合っています。

以上のように、日本は、スタートアップ企業を含む民間企業の宇宙関連イノベーションを促進するための規制や商業環境の整備を大きく進めてきました。冒頭で紹介した宇宙活動を行う日本企業の例が示すように、こうした努力が実を結んでいます。

本記事は、当事務所外国法事務弁護士のJoel Greerによる英語記事’Promoting Business Innovation in the Space Sector’の和訳記事です。英語版と日本語版に何らかの齟齬があった場合、英語版が優先するものといたします。

この記事で提供されている情報は、法律上のアドバイスを構成するものではなく、一般的な情報提供のみを目的としています。特定の法的問題に関してアドバイスを求める場合は、弁護士にお問い合わせください。

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