前人未到のWeb3領域。共に開拓し、挑戦し続ける「戦友」-株式会社Ginco
弁護士
長野 友法
弁護士、パブリック・アフェアーズ部門統括
官澤 康平
平成29年8月1日に分裂し、大きなニュースとなったビットコイン。分裂騒動後もなお、チャートは堅調です。本連載では、自ら仮想通貨(ビッドコインを含む)を購入した法律事務所ZeLoの弁護士が、世間を賑わせている「仮想通貨」について法的に分析します。第1回は、仮想通貨とはどのようなものなのか、法的に「お金」と呼べるのか、といった基本的な概略についてお伝えいたします。
目次
平成29年8月1日に分裂し、大きなニュースとなったビットコイン。分裂騒動後もなお、チャートは堅調です。3ヶ月前である同年5月には1コイン=20万円程度であったビットコインも、本記事作成日である同年8月12日にはついに初めて1コイン=40万円を超え、最高値を更新しました。
法律事務所ZeLoの弁護士も自らその技術を体感するために、coincheckにてビットコイン、イーサリアム(Ether:ETH)、リップル(Ripple:XRP)、ゼック(Zcash:ZEC)、ネム(NEM:XEM)等計約150万円程購入しました。購入開始後の現在の総資産額は、約157万円です。
常にチャートから目が離せませんが、同年7月26日より、ビックカメラがビットコインの使用を全店舗で導入するなど、次世代の決済手段として注目されており、ビットコインの市場は伸びていくのだろうと推測されます。 さて、ここまで、世間を賑わせているビットコインを含む「仮想通貨」を数回に分けて法的に分析してみたいと思います。
仮想通貨の起源となるビットコインですが、始まりは、2008年11月1日に遡ります。
Satoshi Nakamotoを名乗る正体不明の人物が、ある暗号学に関するメーリング・リストに“Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System”と題する論文を投稿しました。この論文に基づいて2009年1月に世界初の仮想通貨であるビットコインが誕生しました。
現在では、ビットコイン以外の仮想通貨としてアルトコイン(Alt-coin: Alternative coinの略)も活発に取引されています。他にも、国際的な銀行間の即時グロス決済システムであるリップル(Ripple:XRP)、分散型コンピューティング・プラットフォームとして知られるイーサリアム(Ethereum)において用いられるイーサ(Ether:ETH)が有名です(筆者も、ビットコインのほかに、XRPとETHを購入しています。)。
仮想通貨の仕組みですが、一言で表わせば、P2P(Peer to Peer)ネットワークと呼ばれる分散型ネットワークを用いて管理される経済的価値です。P2Pネットワークというと難しいですが、身近な例でいえば、スカイプにも使われているネットワークシステムで、ネット上で対等関係の端末同士で回覧板を回すように情報交換する通信方式のことを意味しています。ビットコインを始めとする仮想通貨はこのP2Pで、取引データを共有し、取引データの塊であるブロックチェーン(ビットコインの取引記録がすべて記載された台帳のようなものです。ブロックチェーンについての詳細は今後の記事で触れたいと思います。)が世界中のコンピューターに開かれかつ、分散されています。
仮想通貨は、円や、ドル、ユーロといったお金と同等に法的にも扱ってよいものなのでしょうか。
まず「通貨」を定義した法律はありません。ただ、法学において、一般的に、通貨とは、「どこでも、誰でも、何にでも、支払ないし決済の手段として利用できる」ものであり「強制通用力を有する」ものとされています。「強制通用力」とは、貨幣において、額面で表示された価値で決済の最終手段として認められる効力をいい、受け取る相手方がこれを拒否できないことが国家により保証されていることを意味します。
「円」は、まさに、私たちが、北海道であろうが、沖縄であろうが「どこでも」そして、老若男女「誰でも」、ラーメンを食べたり家を買ったりと「何にでも」「支払ないし決済の手段として利用できる」もので、しかも、決済の最終手段として国が認めており「通貨」といえます。
この定義をビットコインを例にとって仮想通貨にあてはめるとどうでしょうか。ビットコインは、ビックカメラなどで使用することができ、「誰でも」「支払ないし決済の手段として利用できる」ものではありますが、「どこでも」「何にでも」使用できるわけではなく、決済の最終手段として、国家が保証しているものでもありません。
これより、法学的には、仮想通貨を「通貨」と定義することはできません。 通貨と仮想通貨の相違点を整理すると以下のようになり、このことからも、仮想通貨が通貨として法的には整理できないものと考えられることがわかります。
通貨 | 仮想通貨 | |
---|---|---|
発行量のコントロール | 中央銀行が行う | 自動的に生成される仕組みで発行量の上限が定められている |
「どこでも、誰でも、何にでも、支払ないし決済の手段として利用できる」 | ○ | ☓ |
発行者 | 中央銀行 | 特定の発行者は存在しない |
管理 | 物により管理 | P2P(Peer to Peer)ネットワークと呼ばれる分散型ネットワーク |
強制通用力 | ○ | ☓ |
価格の安定性 | ○ | ☓ |
取引データの脆弱性 | 中央銀行のメインコンピュータがハッキングされた場合には、取引データが偽造されてしまうおそれ。 | 拠点がなく、取引履歴のすべてが世界中に分散しているため、破壊することは困難。 |
上記のとおり、仮想通貨は、「通貨」ではない一方で、通貨と類似の機能も果たすことが期待されていることから、平成29年4月1日施行の改正資金決済法にて、新しく仮想通貨及び仮想通貨交換業の概念が新設され、仮想通貨交換業に登録制が導入されました。関連する法律の一部は以下に抜粋したとおりです。 改正資金決済法は、仮想通貨を扱う事業者を規制するものではありますが、これは、仮想通貨が現実社会において広く認知され、新たな決済手段として市民権を得つつあることを示唆しています。
以上のとおり、仮想通貨は、「通貨」ではないものの、平成29年4月1日施行の改正資金決済法上において、新たに法的に定義を与えられた存在ということができます。 次回からは、仮想通貨の定義を前提に、仮想通貨に関するさらなる法的分析を加えていこうと思います。
資金決済に関する法律 (定義)
第二条 5 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。 一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの 二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移することができるもの 7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。 一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換 二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理 三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。 8 この法律において「仮想通貨交換業者」とは、第六十三条の二の登録を受けた者をいう。(仮想通貨交換業者の登録) 第六十三条の二 仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。第百七条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。 二 不正の手段により第七条、第三十七条又は第六十三条の二の登録を受けた者 五 第六十三条の二の登録を受けないで仮想通貨交換業を行った者 六 第六十三条の七の規定に違反して、他人に仮想通貨交換業を行わせた者