飲食店の無人化・省人化に関する施設基準の見直し―全自動調理機を巡る食品衛生法施行規則改正とルールメイキングの実践
人手不足への対応や新たな店舗形態の検討を背景に、飲食店の無人化・省人化に関する法制度が動いています。2025年7月2日に飲食店営業の無人化・省人化に関する改正省令(食品衛生法施行規則の改正。以下「本改正」)が公布され、2026年4月1日から施行されました。本改正により、従業者が常駐せず、全自動調理機によって調理された食品を販売する営業について、追加された施設基準を満たすことを前提に、既存の施設基準の一部が適用されないこととなりました。本記事では、食品衛生法および施設基準の基本を整理した上で、規制のサンドボックス制度を活用したルールメイキングの実践を含め、本改正に至った経緯と改正内容、実務的に注視すべきポイントを解説します。
食品衛生法の営業許可と施設基準
食品衛生法とは
「食品衛生法」(以下「法」)は、飲食による健康被害の発生を防止するための法律です。食品や添加物、器具、容器包装等に係る禁止規定や基準の設定、禁止規定・基準等の遵守についての監視指導に関する規定が定められています。
営業許可と許可業種の整理
身近なところでよく耳にする規制としては、飲食店営業許可など、営業をするための「許可」が必要というものもあります。
具体的には、公衆衛生に与える影響が著しい営業であって、食品衛生法施行令(以下「政令」)で定める32業種(以下「許可業種」)のいずれかの営業を営もうとする場合、許可が必要となります。たとえば、レストランや居酒屋を営もうとする場合には、「飲食店営業」の許可を取得しています。

食品衛生法令における参酌基準と施設基準
事業者が許可業種の営業を行うためには、都道府県知事の許可を受ける必要があります。都道府県知事は、営業の施設が「施設基準」に合うと認めるときは、許可をしなければなりません(食品衛生法55条1項・2項)。
そして、施設基準は、都道府県が条例で定めますが、食品衛生法施行規則(以下「施行規則」)で定める基準を参酌して定める必要があります(食品衛生法54条、施行規則66条の7・別表19~21)。

この施行規則で定める基準を「参酌基準」といいます。
「参酌基準」とは、条例制定にあたり、十分に参照しなければならない法令上の基準を指します。参酌基準を十分に参酌した結果であれば、地域の実情に異なる内容を定めることは許容されます。
もっとも、筆者が認識する限りは、基本的に参酌基準どおりに施設基準を条例で定めている自治体が多いと思います。
食品衛生法施行規則改正の経緯
従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業
本改正は、この施行規則で定める参酌基準の一部を改正したものになります。改正内容の詳細は後述しますが、概要としては、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業について、追加された施設基準を満たすことを前提に、既存の施設基準の一部が見直されたというものです。
科学技術の発展と無人店舗の制度上の位置づけ
近年の科学技術の発展等を背景として、飲食店営業の施設において、飲料の調理等を自動で行う機器を導入した営業形態が可能となっています。
また、2018 年6月 13 日に公布された食品衛生法等の一部を改正する法律に関連して、同年8月31日に作成された「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」の問28では、無人店舗の衛生管理について触れられています。
具体的には、従業者が常駐しない無人店舗での営業について「食品衛生責任者が……巡回することなどにより衛生管理に当たることが可能」と記載されており、本改正以前も無人店舗という形態での飲食店営業は認められる余地がありました。
ルールメイキングの実践―規制のサンドボックス制度による実証と特例要望
もっとも、無人店舗の展開は進んでいませんでした。
許可を出す自治体において具体的な衛生管理のイメージが掴みづらいことや、無人店舗の場合も有人店舗と同様の施設基準が求められ、事業者にとってコストが大きいことなどが理由として考えられます。
そのような中で、2021年6月3日に、規制のサンドボックス制度を用いた「ロボットを用いた無人カフェの営業の実証」が行われました。なお、この実証の支援にはZeLoも関わっていました。
規制のサンドボックス制度については、以下の記事をご参照ください。
この実証は、食品衛生責任者または従事者が常駐していない場合であっても、機械による品質管理機能による常時の管理、遠隔監視及び定期的な人の手によるメンテナンスの体制が確保されていれば、一般的な衛生管理が確保でき、飲食店営業の無人店舗として、食品衛生法の保護法益が損なわれないことを確認することなどを目的としたものです。

実証を踏まえた検討を経て、2023年12月8日に開催された新技術等効果評価委員会では、実証を行った事業者から、無人店舗の場合の施設基準の見直しに関する要望が提出されました。
食品の営業規制の平準化に関する検討会と省令改正の流れ
事業者からの要望を受けた後、厚生労働省は、2024年に「食品の営業規制の平準化に関する検討会」を2回開催し、従業者が常駐しない施設に対する施設基準についての議論が進められました。
具体的には、同年7月30日に無人店舗での飲食店営業に係る営業規制について事業者へのヒアリングが実施され、同年10月30日に、従業者が常駐しない施設に対する施設基準の適用について議論がされ(令和6年10月30日第8回食品の営業規制の平準化に関する検討会資料1「従業者が常駐しない施設に対する施設基準の適用について」(以下「検討会資料」)参照)、施設基準の見直しを進める方針が確認されるに至りました。
その後、食品衛生法施行規則の一部を改正する省令案について(概要)のパブリックコメントを経て、2025年7月2日に本改正が公布され、2026年4月1日から施行されました。

本改正の内容
「食品衛生法施行規則の一部を改正する省令」の概要
本改正は、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業については、これまで従業者が行っていた施設内の状況の把握等を、機器の機能等により補完して行うこととなります。
そのため、新たに基準を追加し、また、従業者が常駐しないことにより、必要としないもしくは衛生管理により対応が可能となる基準についての見直しを行ったものです。
その概要について、令和7年8月29日健生発0829第3号「食品衛生法施行規則の一部を改正する省令の公布について」(以下「本件通知」)に記載されています。
全自動調理機の定義と位置づけ
「全自動調理機」とは、政令 34 条の2第2号の調理の機能を有する自動販売機と同等以上の材質、構造、機能等を有する(施行規則別表第19第5号ロ参照)ものを意味します。
本件通知によれば、当面の間、「食品、添加物等の規格基準」(昭和 34 年厚生省告示第 370 号)第1食品Dの清涼飲料水の4の調理基準及び器具及び容器包装Eの6及び7に示す自動販売機の規格基準を満たすものとされています。
この全自動調理機を用いて、従業者が「常駐せず」に調理された食品を販売する営業が対象となります。
追加された基準の内容
追加された基準は、施行規則別表第20第1号ロに規定されています。
下表のとおり、監視設備、全自動調理機の停止機能、調理後の食品に係る保管機能、保管期間経過後の提供しない機能を有することと、連絡先の掲示が必要となります。
これらの基準が必要とされる理由については、検討会資料に記載されています。また、各基準に係る留意点については、本件通知に記載されているものです。

見直された基準の内容
見直された基準は、施行規則別表第19第第5号ニに規定されています。具体的には、営業施設の施設基準の共通基準のうち、手洗設備、排水設備、便所、保管設備、更衣場所、洗浄設備、及び清掃用具の基準を適用しないこととされています(同別表第3号チ、リ、ヲ、ワ、夕及びレ並びに第4号ト)。
これらの基準は、従業者が施設内に滞在する時間は巡回によるメンテナンス時等限られたものであり、水や設備等を外部から持ち込む場合、また隣接する営業施設の便所を借用する場合や巡回用の車内で使い捨ての着衣に交換する場合も考えられることから、必ずしも要しないものとされたものです。
別表第19の条文のうち、従業者が常駐せず、全自動調理機により調理された食品を販売する営業について、適用されないこととされた基準の具体的な条文は、下表のとおりです。

実務的に注視すべきポイント
各自治体における条例改正の状況
本改正によって改正されたのは、参酌基準を定める施行規則です。具体的な施設基準とするためには、各自治体で条例改正が行われる必要があります。
各自治体で、参酌基準に従って改正していくことが想定されますが、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業の実施を検討する際には、実施場所に係る条例が改正されているかの確認が必要です。
なお、本記事執筆時点において、東京都の食品衛生法施行条例は改正されています(令和8年第一回都議会定例会提出第74号議案のとおり可決)。
全自動調理機として認められる範囲
全自動調理機は、清涼飲料水の調理基準を満たすものとされています。
もっとも、清涼飲料水の調理基準を示したのは、全自動調理機の調理による危害の発生防止を目的とした衛生管理の観点で設定したものであり、清涼飲料水に限ったものとはされていません。
規制のサンドボックス制度による実証では、飲料が対象とされていました。今後は、飲料以外を対象とする、全自動調理機を利用した営業が実現することも期待されます。
追加された基準の具体的な運用
また、追加された基準の機能について、具体的にどのようなスペックが必要とされるのかは今後の運用に委ねられているといえます。
そのため、今後、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業の数が増えていくことで、追加された基準の機能として認められる範囲が明確化されていくことが見込まれます。
無人化・省人化の展望と今後の制度改正の可能性
本改正は、従業者が常駐せず全自動調理機により調理された食品を販売する営業についての改正になりますが、自動車において調理する場合が除かれています。たとえば、今後の自動運転技術の発達により、従業者が常駐しない形で自動車において調理する営業のニーズが高まるかもしれません。
また、全自動調理機を用いる場合に限らず、今後の科学技術の発展により、無人化・省人化を実現する新しい形態の店舗が実現できる可能性もあります。
衛生管理や顧客体験などの観点から、従業者が常駐する飲食店営業の意義や必要性は今後も変わらない一方で、人手不足の深刻化もあり、無人化・省人化された飲食店営業の必要性がさらに高まることも予想されます。無人化・省人化された新たな形態の店舗の実現に向けて、食品の安全性の確保や公衆衛生の見地を前提として、適切な規制となるように継続的な見直しが行われていくことが期待されます。
法律事務所ZeLoでは、規制領域や法規制の未整備な分野に挑戦するクライアントに対して、規制対応・ビジネスモデルの設計から、官公庁・業界団体対応、制度活用の支援(グレーゾーン解消制度・規制のサンドボックス制度など)などのルールメイキングまで見据えた、総合的・戦略的なサポートを提供しています。
規制のサンドボックス制度やその他の規制改革に対するアプローチでお悩みの際は、お気軽にご相談ください。